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バングラデシュ・ボグラでの活動

岩本直美(社団法人 日本キリスト教海外医療協力会)

登録する文献の種類:
その他

情報の分野:
社会福祉、医学、保健学

主題:
バングラデシュ・ボグラでの活動

著者名・研究者名:
岩本直美(社団法人 日本キリスト教海外医療協力会)

掲載雑誌名:
JANNET NEWS LETTER

発行者・出版社:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数および頁数:
第11巻 3頁-4頁

発行年月:
1996年10月

キーワード:
1.国際協力
2.地域保健
3.バングラデシュ

要約:
 私達の活動拠点であるハンディキャブセンターは、バングラデシュの北部ボクラ県にある小さなキリスト教病院の一角にある。数十年前、日本キリスト教海外医療協力会からそのパートナー団体であるボグラキリスト教病院へ派遣されていた小児科の医師が、外来診療を通じてたくさんの障害のある子どもと出会ったことに端を発している。およそ8年前に始められたこの活動は現在6名のベンガル人スタッフにより、約75名の障害(脳性まひ、知的障害、ポリオ、内反足、筋疾患、発達遅れ等)を持つ子ども達の家庭訪問を通じて、栄養指導、子どもの抱き方、座らせ方等といった家庭療育を中心に、簡単な自助具・補助具の制作や村の人達への障害理解を促す活動が行われている。

文献に関する問い合わせ先:
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone: 03-5273-0601
Fax: 03-5273-1523

バングラデシュ・ボグラでの活動

岩本直美(社団法人 日本キリスト教海外医療協力会)

 私達の活動拠点であるハンディキャブセンターは、バングラデシュの北部ボクラ県にある小さなキリスト教病院の一角にある。数十年前、日本キリスト教海外医療協力会からそのパートナー団体であるボグラキリスト教病院へ派遣されていた小児科の医師が、外来診療を通じてたくさんの障害のある子どもと出会ったことに端を発している。およそ8年前に始められたこの活動は現在6名のベンガル人スタッフにより、約75名の障害(脳性まひ、知的障害、ポリオ、内反足、筋疾患、発達遅れ等)を持つ子ども達の家庭訪問を通じて、栄養指導、子どもの抱き方、座らせ方等といった家庭療育を中心に、簡単な自助具・補助具の制作や村の人達への障害理解を促す活動が行われている。
7歳になるロニーと3歳のサブリナは共に栄養発達障害と軽い脳性麻痺のある兄妹である。父親に土地は無く、時々の野菜を売り生計を立てているが、月収は不安定で1,500タカ程(約3,700円)。幸いやりくり上手な母親と近くに住む親戚の助けにより何とか子ども達の生活は守られている。この兄妹と私達が初めて出会ったのはおよそ2年前、2人共立つことができないと両親が2時間の道のりを歩いてセンターを訪れ、村の祈祷師から高級油を買いマッサージをしたのにまだ立てないとわめくように聞かされたのが出会いであった。
多くの子ども達が栄養の問題を抱えているように、この兄妹もまず体重測定・栄養指導から始まったが両親の関心は立って歩くことにあり、脳性まひという状態について理解するのは容易でなかった。教育を受ける機会の無かった村に住む多くの親達は、先を見通すことや抽象的な概念の理解が苦手である。また、注射・薬等に対する信頼は信仰的なものがありそれらの不要な治療などというのは、親達に理解が困難という印象があった。加えて子どもをしつける遊ばせるという習慣もあまり無いため数日では変化の見えにくい生活訓練・機能訓練を毎日続けていくことの必要を理解することは難しかった。またその必要をもとめても日々の生活に追われるこの両親に、実際そうできる時間はほとんど無かった。八方ふさがりの中を手探りしつつ村に通ううち、近くに住む母方の関わり方がこの兄妹にとり非常に好ましいことに気づき、この祖母がこの兄妹・家族のキーパーソンとなるよう毎日の関わりのなかに巻き込んでいった。
サブリナは栄養状態の改善と共に半年程前から歩き始め、最近では随分村言葉を話すようになった。ロニーは四つばいと掴まり立ちが精一杯だが、お茶目な性格と相まっていつでも近所の子ども達戸一緒に過ごしているので社会性は抜群である。
バングラデシュでは医療施設の9割近くが都市に集中し、障害分野のNGOも都市のエリート層を中心に多く担われている。また、主要幹線道路以外の村のアクセスも十分ではなく、村に住む障害をもつ多くの人達は適切なサービスが受けられないまま過ごしている。毎日村々を廻る中、障害をもつ子どもの関わりにおいて何の職業的トレーニングも受けたことが無い人から、しかし時にはっとするようなセンスを示されることがある。こうしたセンスは、生まれたばかりの赤ん坊から培われてきたものだろうか。少し配慮の出来る人には障害をもつ者のニーズが見えるのだろう。
ハンディキャップセンターが次に課題とするのはこうした人達を村のフィールドワーカーとして養成し、障害をもつ子どもやその家族が自分達の生活の場に居ながら必要な助言を受けられ、将来的には彼らの社会的な自立の道も共に探っていくことである。