音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

貧困撲滅のための障害者にとっての適正技術

中西由起子(アジア・ディスアビリティ・インスティテュート(ADI))

登録する文献の種類:
その他

情報の分野:
その他

主題:
貧困撲滅のための障害者にとっての適正技術

著者名・研究者名:
中西由起子(アジア・ディスアビリティ・インスティテュート(ADI))

掲載雑誌名:
JANNET NEWS LETTER

発行者・出版社:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数および頁数:
第13巻  1頁-2頁

発行年月:
1997年4月

キーワード:
1.国際協力
2.自立生活運動
3.CBR

要約:
 貧困の撲滅には国の総合的な開発戦略が必要である。しかし急激な経済発展で所得格差の拡大、雇用の需給のアンバランス、環境、ひいては健康の悪化まで引き起こしている。マクロ的な経済発展のみではなく、確固たる社会政策が求められる。

文献に関する問い合わせ先:
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone: 03-5273-0601
Fax: 03-5273-1523

貧困撲滅のための障害者にとっての適正技術

中西由起子(アジア・ディスアビリティ・インスティテュート(ADI))

 1997~2006年は「第1次国連貧困撲滅の十年」である。貧困とは、狭い意味では、生存のための最低限の食事や住居、所得が得られないこと、広くはより社会的意味をこめて、地域社会の一般的な水準を維持するために必要な基本的事項が満たされないことを言う。

 絶対的な貧困状態にあるのは、不利な状況に置かれている人々、社会的弱者である。その大半は子供であり、女性であり、高齢者、そして障害者である。彼らは雇用や所得創出の機会に恵まれず、基本的なサ-ビスへのアクセスも保障されない。

 貧困の撲滅には国の総合的な開発戦略が必要である。しかし急激な経済発展で所得格差の拡大、雇用の需給のアンバランス、環境、ひいては健康の悪化まで引き起こしている。マクロ的な経済発展のみではなく、確固たる社会政策が求められる。先進国はODA(政府開発援助)によってハ-ド面とともに、保健、教育、雇用、社会保障などのサ-ビスの向上を通してのソフト面での貢献に力を入れなければならない。

 障害分野でのNGOにとっては、障害者グル-プを対象として、彼らの特別なニ-ドを満たすことが優先事項となるはずである。地域を基盤としたプロジェクト、技術訓練プログラム、生産手段やロ-ンへのアクセス向上のための支援を行えば、彼らが地域の生産活動、社会活動に参加し、開発に貢献していくことが可能となる。
日本のNGOでもこのため各種のプロジェクトを実施している。アジアに限っても、地域の障害者自助グル-プの手工芸品の製作や販売を援助したり、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を導入してサ-ビスの普及につとめたり、小規模ロ-ンの貸付制度を開始するなどの例がある。
途上国の障害者グル-プは多くの制約要因を抱えている。資金や原料、技術力の不足に加え、勾配の激しい地形や特異な気象条件からくる移動上の障害が、彼らが自助活動を行う上での制約となっている。
訓練する技術は、「適正技術」である。国連では適正技術に、技術的に重要であり、経済的に実行可能であり、文化的に許容され、環境にやさしい、という4条件をつけている。つまり地域で調達可能な資材、人材、技術力、地域社会への貢献の度合いを考慮しなければならない。
簡単に習得できる技術や廉価な技術が、必ずしも適正とは限らない。日本の技術が、カウンタ-パ-トの教育程度が高かったり、用地や人材、需要面からそのまま適用できることもあるが、大半の場合には彼らが開発している技能を基盤として、外から持ち込んだ技術を地域に適合するよう形態や性質を大きく修正する必要がある。
ADIは、障害当事者の活躍を直接支援することを目的に設立された。アジアの障害者に今何が必要かを考えた時に、日本の障害者がアメリカの自立生活運動を取り入れて飛躍的なエンパワメントを遂げたように、アジアに自立生活の概念を導入することであると思い至った。
自立生活運動の基本的な概念である自己決定や自己管理は、レクチャ-だけでは充分に伝えきれない。運営の自己決定、自己管理を行っている障害者の自助団体がイニシアティブをとって、個々の生活の中でその技能を実践していくことで身に付くことである。
第1回目のアジア自立生活ワ-クショップを開催した際には、ヒュ-マンケア協会の自立生活プログラムマニュルを英訳し、自立生活技能訓練のために使用した。特に重要視されたのは、大家族の中で生活することが多いアジアの障害者にとっての家族関係の作り方である。何時までも子供扱いされずに、自分で人生を考えていくことは、社会で自立していく最初のステップである。
彼らはその技能を先ず自分たちの団体の中で磨きあげていく。対等で明確に自分の要求を伝える技術、必要な情報を集める技術を身につけることにより、政府から公園の使用許可を受けて売店を開店したり、自分たちのプロジェクトに対して外国の基金を得るなど、自助活動が経済的にも発展している。彼らが自分に自信をもちながら、着実に生活の質を上げていっているのを見るのは嬉しい。
多くの援助団体がアジアの障害者に目を向けていくとき、モデルとするのは結局普段から目にしている施設中心の日本の施策である。しかしアジアには地域を基盤とした相互扶助組織が存在しているし、地域の学校に通うことを普通と考え統合教育を尊重している。施設がほとんどない、整備されていない、特殊教育のノウハウが不十分であるなどを理由に、安易に特殊教育や収容施設を持ち込んではならない。
自立生活運動は、障害者の自立を阻む施設中心主義に対抗して、人間としての尊厳をもって生きるよう選択をする道を開く。自立生活の技能こそ、彼らにとって貧困から抜け出し生活の質を上げる、今一番必要な適正技術と言えよう。