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「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」の報告

高田英一(世界ろう連盟アジア・太平洋地域 事務局長)

登録する文献の種類:
その他

情報の分野:
その他

主題:
「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」の報告

著者名・研究者名:
高田英一(世界ろう連盟アジア・太平洋地域 事務局長)

掲載雑誌名:
JANNET NEWS LETTER

発行者・出版社:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数および頁数:
第14巻

発行年月:
1997年7月

キーワード:
1.国際連合
2.ベトナム
3.民間団体(NGO)

要約:
 国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)およびベトナム政府の主催により、ベトナムの障害者福祉の底上げを目的として標記の「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」が1996年10月28日から10月31日までの4日間、ベトナムの首都ハノイで開催された。 

文献に関する問い合わせ先:
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone: 03-5273-0601
Fax: 03-5273-1523

「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」の報告

高田英一(世界ろう連盟アジア・太平洋地域 事務局長)

1.集会の概要

 国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)およびベトナム政府の主催により、ベトナムの障害者福祉の底上げを目的として標記の「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」が1996年10月28日から10月31日までの4日間、ベトナムの首都ハノイで開催された。
ESCAPおよびベトナム政府の要請により、私は世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局長として、また英語・手話通訳ボランテイアとして小林昌之氏が参加した。この二人の他にろう者関係ではタイ国ろう協会を代表してクリスチナ・ロンルアさん、手話通訳者プアンペット・リンプスリーさん、アメリカの手話研究者で現在、タイ国ラチャスダ大学教授のジェームズ・ウッドワード氏が参加した。DPI日本代表の中西正司氏、中西由紀子さんその他のボランテイアからなる日本関係者も含め、デンマーク、ノルウエー、インド、マレーシアなど各国NGOの代表およそ20名が参加した。
ベトナムからは、労働・戦傷者・社会省(MOLISA)大臣、次官以下関係部門の責任者、民間から盲人協会代表、ろう者、肢体障害者、障害児教育関係者約60名が参加した。

2.勧告の承認

 10月28日の開会集会では、労働・戦傷者・社会省次官が挨拶、ベトナムの障害児教育、福祉が遅れている状況について率直に述べ、同時にそれを克服するための努力をおこなっていること、1997年の早い時期に障害者に関する法令の作成および公布をすること、特に障害者団体とその代表者の意見は上記法令作成段階で考慮されることを明らかにして、ESCAPおよび各国NGOの協力を要請した。
私も2日目にアジアのろう者の実情について報告し、とりわけ手話通訳の必要性を強調した。次官からは席上ベトナムの民間組織としては盲人協会だけが存在するが、今後ろう者協会の設立に協力するとの発言があった。 午後からは4つの分科会に分かれ、ろう者の分科会は、私のほかタイ国代表、ベトナムのろう者、ろう学校の先生などによって構成された。最初は発言をちゅちょしていたベトナムのろう者もやがて活発な発言を行うようになってろう者組織の結成、学校及び成人教育の充実、ベトナム手話の共通化など幾つかの課題が整理された。
3日目には全体集会で各分科会の報告があり、私はベトナムにかぎらずアジア全体としてろう者が差別されていること、それを具体的に明らかにして克服する必要があること、ろう学校の先生が成人ろう者を監督するといった風潮を改めるべきことなど分科会報告を補足した。これら分科会報告の後、最終日に「ベトナムの障害者が同等の権利、国民としての責任を持ち、国の発展に寄与する権利、義務」が確認された。
「障害者が、障害者自身の経験、知識の交換を図り、問題提起とその解決に向けて行動する障害者団体の設立を全障害者が切望していること」「障害者自身の組織の必要」「ベトナム手話の共通性増進のための諸措置」「手話通訳者の養成」などを盛り込んだ「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」の勧告が承認された。
今後この勧告を参考としてベトナムの障害者・ろう者福祉の進展を期待したい。

3.ベトナム障害者の現状

 MOLISAの1983年の調査結果では全障害者は人口の2.7%に当たる1,485,000人で、そのうち聴覚障害者は165,000人とされている。1992年度の国連開発計画の報告によるとベトナム国民の識字率は88%、平均寿命62.7歳と国民一人当たりの国民総生産高が同程度の国と比較するなら群を抜く高さである。しかし、一方で障害者の就学率はわずか35%と発表され、識字率と就学率は同じものではないがこれは離れ過ぎている。
その理由にはベトナム戦争の後遺症としての障害者の比率の高さ、障害児教育の困難があり、しかもそれに対応する教育機関が少なく福祉施策が立ち遅れていることを指摘しなければならない。
成人障害者の組織は25年前に結成された盲人協会だけで、それ以外の成人障害者組織は1996年現在もない。もっとも障害者組織の概念は日本の自主的なそれでなく、政府などが出資してその組織に何等かの施設や事業を実施させる企業体のようなものを指していると思われる。これは、かってのソ連、現在の中国の障害者組織の傾向と同じようなもので、私たちが考える障害者自助組織と同じものではないように思われる。
1982年から始まったドイモイ(刷新)政策のもと、政府もようやく障害者施策の充実に本腰を入れはじめるようで、それを象徴するのが「ベトナムにおける障害者自助組織の結成促進討論集会」であった。
このベトナムの決意に応えて、全日本ろうあ連盟も1997年の50周年記念大会にベトナムのろう者代表などを招待するなどして、それを励ましたいと考えているが出席の連絡は5月現在まだない。