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JANNET研究会からの報告

ラオスでの住民参加による農村開発の「試み」

日本国際ボランテイアセンター 磯田厚子

項目 内容
掲載雑誌名: JANNET NEWS LETTER
発行者・出版社: 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Japanese Society for Rehabilitation of Disabled Persons
巻数および頁数: 第4巻3号 2頁ー3頁
Vol.4 No.3 P2-P3
発行年月: 1997年10月
October 1997
文献に関する問い合わせ先: 〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone: 03-5273-0601
Fax: 03-5273-1523

JANNET研究会からの報告

ラオスでの住民参加による農村開発の「試み」

日本国際ボランテイアセンター 磯田厚子

1.はじめに

日本国際ボランティアセンター(JVC)は、1980年にタイで、インドシナ難民救援をきっかけに設立された国際協力を中心とする民間団体(NGO)である。現在はアジア、アフリカ、南米、パレスチナの計8ヵ国に事務所をおいて活動を行っている。活動内容は、当初中心だった難民や被災民への救援型支援から移行し、住民を主体とする農村開発への協力型へ移行している。

本稿では、ラオスにおけるJVCの活動と評価方法を簡単に紹介したい。

2.活動の目的と基本姿勢

東南アジアの内陸国ラオスへは、1987年より事前調査に入り、女性による農村開発、住民による森林保全、伝統織物保存の各プロジェクトを実施している。それぞれの目的を設定しているが、共通認識は以下のようである。

  1. 住民主体:社会的に不利益をこうむりやすい農村地方の住民が、自分達のおかれた状況を構造的に理解し、その解決に向けて、主体的な取り組みを立案実施し、解決できるようになる、
  2. 住民自治:上記の取り組みのために、住民自身が行政への働きかけができるようになる、
  3. 相互学習:住民が互いに経験を伝え合い、協力できるネットワーク等を形成できるようになる、などである。

その活動内容や方法を決めるにあたって優先している点は、第1に、地域の活動は「住民が主役であること」をすべての活動場面に徹底すること。第2に、地元の伝統的な知恵や技術、慣習法を最大限尊重し、住民が積極的にその意義を引き出せるようになること。第3に生活状態は自然環境、社会環境に深く結びついていることから、自然や社会からの影響、それらへの影響を常に活動に取り込んでいくこと。そして第4に、世界全体の市場化や経済開発の大きな流れに巻き込まれて起きる問題をいつも念頭におき、住民への情報提供と、住民がより容易に取り組めるよう行政への働きかけをすることである。

3.活動の変遷と概要

 1988年より「女性生活改善普及員育成プロジェクト」を開始し、合計4県各10人の普及員を2度に分けて育成した。4ヵ月コースで内容は「開発」「普及員の役割」を考える、地域の問題発見調査法(主に聞き取り調査法中心だった)、農業・母子保健・幼児教育などの基礎知識や技術を学ぶものだった。研修後、彼女らは担当村の生活改善に意気込んで取り組んだ。家庭菜園、簡易井戸掘り、簡易トイレ作り、衛生教育など活動は多岐にわたった。しかし、一年ほどするうちに、活動がほとんど行われない村がいくつも出てきた。村長がやりたいと言っていたトイレ作り講習会後も、実習で作った便器すら利用されず放置される村などもあった。

なぜ活動がすすまないのか?村人や普及員と話すなかで、普及員が問題と考える活動に取り組むが、村人の優先問題には応えていないことがわかった。また、導入した方法は研修中に学んだ「適正技術」ではあったが、村人の知識や工夫を引き出す方法ではなく、彼女らが指導する形だった。

この反省から1991年から「住民主体の地域開発」への移行を試みた。普及員主導ではなく、村でまとめ役となる住民ボランティアを育成し、普及員は村人が問題分析や活動計画を立てて実施していくことを支える役割にしていった。結果として活動内容の範囲は類似ではあったが、村で独自にルールを決めたり、事情に応じて取り組み方が異なったりした。すべての村が一様に活発とは言い切れないが、何人もの村人が熱心に活動し始め、活動の継続が見られるようになった。

4.プロジェクト「評価」の変遷

 プロジェクト評価の観点や方法も、この変遷に応じて学びのなかから変遷してきた。

「普及員主導の生活改善」時代は、半年に1度のモニタリング的な評価会議を行っていた。当時の評価の観点は、もっぱら「インプット把握」と「普及員の活動評定」だったといえる。セミナー開催回数や参加者数、井戸掘り本数などが成果として語られ、普及員の報告回数や訪問回数などもあげられた。回数が多い方が高い評価を得たのだった。普及員たちは自分の抱える問題の提起をしにくく、問題解決につながらない不満を抱えたままの評価だった。また、主役である村人の状況がほとんど見えてこない評価であった。

住民主体の地域開発に力点を移してからは、年1度程度のボランティアを中心とした住民も含めてのワークショップをもち、彼ら自身の達成感を確認し、問題点を認識し、改善や今後のための計画提案模索を行うことを評価の主眼とした。活動を深めていくプロセスが、ワークショップを通して住民にもJVCにも把握できるようになった。

その後、1993年から開始した「森林保全プロジェクト」では、ボランティアによって「評価」ワークショップが立案、実施されるようになってきている。

5.地域プロジェクトの評価の実際

現在実施している評価のタイミングは以下の通りである。

  1. ボランティア育成ワークショップ終了時、
  2. 活動別評価(村で取り組んだ活動毎に一定期間後に成果や問題点を把握、解決策立案)、
  3. ボランティアのフォローのための評価、
  4. プロジェクト中間評価、
  5. 終了時評価などである。

内容や方法は、参加者の学びについての振り返り、活動の振り返りや問題発見、解決策立案、今後の計画の見直しなどを行う。

以上の評価は、基本的にはいわゆる「内部評価」「当事者による評価」を中心としている。いずれも村人、ボランティア、カウンターパートである行政担当者、JVCと共同して実施する。評価内容や方法は、現在ではボランティア、行政、JVCとで事前に計画するようになった。場合によっては評価計画立案について1~2日程度のワークショップを行うこともある。

評価方法は、いくつかの村が集まって、数日間のワークショップ形式で行うことが多い。グループに別れて成果や問題点を出し合ったり、原因を考えてみたりする。実際に村を訪れ、見たり話したりもする。

JVC内部では、これら評価ワークショップの成果をふまえて、支援してきた団体として成果や問題点をどう見るか話し合い、支援方法の適切さなどを検討し、内部評価を行う。

6.終わりに-プロジェクト評価について考える事

実際のプロジェクトやその評価を行って感じることは、住民を含めた関係者間で「プロジェクト目的」や「住民主体」の考え方がどこまで共有できているか、が非常に大事であるということだ。もっとも大切なことは、支援した側が満足することではなく住民側がどう判断するかである。そして、全てに満足行くはずないのであるから、NGOも住民も、その経験からできるだけのものを学びとり、次に生かしていくような評価でありたいと願っている。