音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

デビット・ワ-ナ-のCBR

3.CBRにおける専門家の役割

アジア・ディスアビリティ・インスティテ-ト(ADI) 中西由起子

地域ケアの中で最適なサ-ビス提供者は障害者であると主張するデビッド・ワ-ナ-は、専門家に対して厳しい目を向けている。治療中心の病院での訓練は地域社会のニ-ドに対応した技術を育てず、医者は村で働くCBRワ-カ-やヘルス・ワ-カ-を上手に指導できない。また自分の知識がほとんど及ばない分野まで主導権を握る傾向にあり、医学校教育を受けていない人による簡単な診断や手当でさえ危険であると思っている。看護婦に関しては、すばらしい指導者になれる人もいるとしながらも、彼女たちが医師に従順な補助役に徹っしてきたがために、ヘルス・ワ-カ-を指導するときに自分たちがやってきたように質問もせずに黙々と働くことを要求する。(Helping Health Workers Learn, pp.2-12)デビッドは、隔離された病院という施設の中で発展した医療やリハビリテ-ションの技術は、従来から存在した家族を中心としたコミュニティ・ケアとは基本的には相容れないことを示唆しているのである。

彼はその一例としてスリの話を引用している。スリは13才の女の子だが、事故で手を切断した。両親は借金までして義手を町の専門家に作ってもらった。それは手の形はしていたが便利でなく、彼女は使うのをやめてしまった。すんなりと障害者やその義手を受け入れてくれる地域もあるが、身体が完全でない人に恐れや偏見を抱く地域もある。盗みを働いた罰として手を切断する伝統をもつ社会もある。リハビリテ-ション専門家は機能や有益性を強調したがるが、スリが使った義手はかえって彼女の身体的欠陥を目立たせることになった。(Disabled Village Children, pp.531-2)

保健や医療の専門家や役人たちが支配権を手放そうとしないことは、村の人たちが自分たちで健康づくりをすすめようとする際の最大の障壁となる。(Helping Health Worke rs Learn, p.Front-2 )彼らが管理している限りは、人々は既存の制度に依存してやる気を失い、外からやってくる専門家の助手的役割しか果たさず、変革を起こそうとする生気あふれたり-ダ-とはなりえない。村の人々がワ-カ-に協力することもなく、村の人に尊敬されたり、影響を及ぼすことができなくなる。そんな時に専門家は自分たちの責任を棚上げして、草の根主導の活動、地域社会中心の活動はうまくいかないと決めつける。

素人の村の人たちがイニシャティブを取ったメキシコのプロヒモでのCBRは成功した。彼のベストセラ-ともいうべき「障害のある村の子供」はプロヒモから生まれた。その序文で彼は以下のように言っている。

村のワ-カ-や家族のために書かれたほとんどのハンドブックとは異なり、本書は専門家が実地試験をしてできたものではない。かわりに、我々の直面するもっとも共通の問題解決の助けとなる情報を探していたときに、障害をもつ村のヘルス・ワ-カ-のチ-ムの実際的な経験から生まれたものである。(Disabled Village Children, p.A3)

それではより良い地域ケアのために専門家は何をしたよいのであろうか。

医療知識は選ばれた少数者によって守られる秘密ではなく、誰でもが自由に分かち合えるべきである。(Where There Is No Doctor, Introduction)保健専門家はそれ故、自分の知識を分け与え人々、特にワ-カ-の教育を助けることが期待されている。(Helping Health Workers Learn, p.10-1)

[表]

専門家は出来るだけ障害者を正常といわれるレベルに近づけようとしてきた。しかし「ノ-マル」とはなにか。我々の社会ではそれは身勝手、狭い見方、偏見、そして弱い者、違った者に対しての残酷な態度に往々にして結びついていると、彼は言う。貧しい者の犠牲の上に生活している豊かな人々はこの現実世界を受け入れることができても、デビッドを初めとする障害者にとっては、それは不親切な、不公平な、非合理な社会構造にほかならない。彼はそれを「ノ-マライズ」しようと努力するよりむしろ、不公平に扱われてきた他の人々と手を組んでもっと親切で、公平で、正常な新しい社会秩序のために働こうと呼びかけた。(Disabled Village Children, P.A4)ピアクストラのCBRではそれが土地の開放運動につながった。(Newsletter from the Sierra Madre, June 1994, pp.1-11)


出典
”JANNET NEWS LETTER” Vol.4 No.4 (通巻16号)

発行者
障害分野NGO連絡会(JANNET)

発行年月
1998年1月

文献に関する問合せ先
(財)日本障害者リハビリテーション協会
162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
Tel 03-5273-0601  Fax 03-5273-1523