音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ベトナムにおけるCBR


日本理学療法士協会 国際部員 古澤 正道


ベトナムの総人口は7000万人で、国民の7割以上が農業に従事している。理学療法士養成校は2年半制で、北部ハノイ、中部ダナン、南部ホーチミンに3校がある。作業療法士の養成校はない。総人口に対し理学療法士(以下PT)は絶対的に少なく、PTの全国組織がないため全土に何名のPTがいるのか不詳である。PTの組織としてはホーチミン市PT協会があるのみで、周囲の省のPTも含めて約150名が登録されている。その主たる活動内容は卒後教育である。
ホーチミン市内の歓楽街では風俗営業店の看板に「理学療法」とのっているため、理学療法への大きな誤解が社会的に、とくに青年層の中にある。年間国民所得は200ドル、ホーチミン市のそれは810ドルと低いゆえ、貧困と前記の問題が重なり、ホーチミン市のPT養成校では新入学生が毎年定員を割る状況である。
地方行政はハノイ・ハイフォン・ダナン・ホーチミンの4政令都市と、57省の61に分割されている。リハスタッフとくにPTの不足から、中央政府は地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)の導入を1983年に決定した。これに従い行政主導で、医師・PT・保健婦・行政関係者等によりリハ協議会が組織された。最初のプロジェクトには、南部のティエンジャン省内の6地区が選ばれCBRが導入された。このときの資金や技術援助は、スウェーデンの協力によるものであった。
1997年現在、CBRは29省に導入されている。本年1998年には34省で実施される予定である。政府は2005年までに61省内10300地区すべてを網羅するプログラムを立案している。CBRワーカーは省、地区、村の3段階レベルで教育されている。講師にはPTと、PT養成校の教官が務めることが多い。すでにワーカーと、協力者である障害者の家族併せて1万人がCBRについて教育された。ただし各レベルの責任者には、各行政レベルの人民委員会から派遣された行政官がなっている。地域の対象者(児)は、脳卒中後遺症、ポリオ、脳性麻痺、精神障害、ライ、精神発達遅滞、てんかんなどの障害をもっている。ベトナムのCBRの特徴として、ヨード不足による甲状腺障害やビタミンA欠乏症への栄養指導、妊婦への母子保健指導も同時に進められていることがあげられる。
1997年10月、ホーチミン市PT協会々長でPT養成校教官のグェン・ガック・バック・ダオ女史が、日本理学療法士協会の奨学金を得て来日した。女史は近畿のPT養成校・大学5ヶ所、病院・施設5ヶ所を見学し、訪問リハと訪問看護も体験された。女史は4ヶ所でCBRについてスピーチをしてくださった。ベトナム南部はPTが少ないうえに、大小の河川が多い地理的条件のためにリハを享受できぬ障害者(児)、教育をうけられぬ障害児が多い。これに対応するため医科大学ではCBR履修が義務づけられている。さらにPT養成校では、カリキュラムに40時間のCBR実習が義務づけられている。学生はPT教師とともにメコンデルタの省に入り、実習を行っている。
筆者がホーチミン市のPT養成校を訪問したときに見せてくれたものは、学生が竹で作製した松葉杖であった。ベトナム人の器用さに感心したほどの出来栄えであった。脳性麻痺児の両下肢が交叉しているときには、丸太に布を被せたまたがり椅子を工夫している。歩行訓練が必要な場合は、庭に竹で平行棒を設置することを援助している。
筆者は京都に事務局をおく「ベトナムのこどもたちを支援する会(会長:第一びわこ学園々長高谷清医師)」の会員でもある。この会を通じて初めて南部のベンチェ省を訪問した1995年には、ポリオ後遺症で装具や手術が必要な児童は、ホーチミン市まで出かけねばならなかった。予算は自己負担で、金策のできぬ家庭の児童は放置されていた。だが、1996年には南部のカントーにきわめて小規模だが装具製作所ができ、簡易な下肢装具の部分なら周辺の省に供給できるようになった。また下肢の簡単な手術なら各省の省立病院でできるようになりつつある。
これらの施設病院や学校の内容の充実と連携を強めつつCBRは普及されねばならないが、予算不足で、CBRワーカーを養成する講師の不足など課題は大きい。昨年11月に南部ベトナムを強襲したリンダ台風は椰子の葉の家々を吹き飛ばし、漁船を沈没させ漁民を行方不明にし、製塩された塩を流し、エビの養殖場に淡水を流入させ甚大な被害を与えてしまった。ベンチェ省のレー・ヒュン知事はまるでベトナム戦争直後の状態だと語っている。しかしそれでも障害者(児)への施策は乏しい予算の中でも優先すると述べている。
ベトナムのCBR支援のため多面的な側面援助にご協力を訴えるものである。


出典
”JANNET NEWS LETTER” Vol.5 No.1 (通巻17号)

発行者

障害分野NGO連絡会(JANNET)

発行年月

1998年4月

文献に関する問合せ先

(財)日本障害者リハビリテーション協会
162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
Tel 03-5273-0601  Fax 03-5273-1523