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「JANNET NEWS LETTER」
(January 2000 第24号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<メンバーズプロジェクト>

ADI(アジア・ディスアビリティー・インスティテート)のアジア太平洋障害者の十年における取り組み

ADI 中西由起子

最近のADIの活動は、アジアの障害者への自立生活(IL)運動の紹介に力が注がれている。タイとフィリピンのDPI (障害者インタ-ナショナショナル、世界的な当事者団体)の会員を対象とした1か月のコ-スは今年で8回を迎えた。
昨年8月にはタイで元研修生に集まってもらう機会があったが、最近の交通アクセスの運動や地方での自助運動の浸 透にその精神が生かされているのがわかった。個別研修も増えているし、専門家の訪問も多くなっているので、東京 以外でも研修に協力してくれる自立生活センタ-を増やすことが急務となっている。
ILの概念もCBR(地域に根ざしたリハビリテ-ション)の延長として紹介したほうが分かりやすい場合(インフラス トラクチャが十分整備されていない場合や、インドなどNGOによるCBR活動が盛んな場合、フィリピンなど地域の障害 者団体が自分たちでCBRを始めている場合)もあるし、クアラルンプ-ルやソウルなど日本に似た都市環境が整いつ つある都市の場合には、ILの概念と合わせて権利擁護活動の重要性を説く場合もある。当然、良く組織化された障害 当事者の自助運動が両者とも前提条件となる。
研修生に関して言えば、やはり重度身体障害者の関心が一番高い。
人によっては電動車椅子に乗ってもらい、実際にアクセスの度合いを体験することが基本となるが、単なる体験学習に 終わらせないように、講義と見学を半々にプログラムを組んでいる。聴覚障害者はある程度の経済的自立を果たすことができても、 社会参加を阻む障壁はいまだ大きく、そのためILの哲学をすんなりと受け入れることができるようである。視覚障害者はIL運動は身体障害者が中 心となるもので自分たちには関係がないと受け止めることが多いが、日本に来て実体験することによって、その本質 を理解するようである。今年はインドネシアの障害者が自分たちで資金集めをして日本での研修を計画している。
CBRは究極的には障害者の自立を発展させるものであることから、その理解を広めることも活動の中心となっている。
ADIのホ-ムペ-ジ;http://www.din.or.jp/~yukin/
では一般的なアジアの障害者問題の他に、常時CBRを扱っている。
ADIの付属機関である「アジア障害者問題研究会」の月例会ではネパ-ル、フィリピンなどのCBRを集中的に取り 上げた。研究会が昨年11月に100 回を迎えたことから、それを記念しWHOのCBRコンサルタントであるパドマニ・メンディス博士を招待し、日本各地での講演会も実施された。 開始から20年を迎えようとするCBRがどのように世界で発展し、受け止められいるのかを、特に途上国で今後CBRを実施していこうとするNGO対象に語ってもらうつもりが、 会場にはそれ以上にCBRに開発プログラムとして興味をもつ若い研究者や開発活動従事者が姿を見せたことは驚きであった。
昨年12月にスリランカで開催されたDPIアジア太平洋指導者養成セミナ-にもパドマニを講師として送った。CBR が専門家中心のリハビリテ-ションであることが最近の傾向であるためCBR嫌いの障害者リ-ダ-が多いが、その誤 解は解かれ、ILの理念に基づいての発展の必要性が確認された。
またCBR活動の実際を研究するために、アジアのCBR実践例として名高いフィリピン・バコロッド市へのスタディ-・ツア-も昨年8月に実施された。同市の障害者団体の協 力で5年前にはアジア自立生活ワ-クショップを開催した関係もあり、それ以降の進展具合に興味があったが、地域 への浸透もある程度果したがために、地域運動としての側面が弱まってきて、制度の充実の方に力点が置かれてきて いるとの印象を受けた。
設立当時からは考えられないほど、アジアの障害問題に対する日本国内での関心は高くなっている。学士、修士の 論文でアジアの障害者問題を扱う例も増加している。同時にアジアの各国でこの5、6年の間に障害関係立法や制度、 サ-ビス、自助団体の活動の面で大きな変化が起きている。インタ-ネット等で山のように送られてくるそれら等の情 報を体系的に処理していき、いかに研究者やNGOに的確に提供していくかが今後の課題であると考える。