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「JANNET NEWS LETTER」
(April 2000 第25号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<トピック>

CBR創始者パドマニ・メンディス氏に学ぶリハビリテーションの趨勢

国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 保健医療学専攻
修士課程・作業療法士 林 由美子

 昨年11月5日東京大学医学図書館において「世界に広がるCBR―創始者が語る地域に 根ざしたリハビリテーションの原点」と題して、スリランカのパドマニ・メンディス氏に よる講演が開催された。50名を超える多種多様なバックグラウンドをもつ参加者の中、私 は医療職種のCBR(Community Based Rehabilitation ;地域に根ざしたリハビリテーショ ン)への関わりの可能性と限界を見つけたいとの思いで参加した。
本講演では、CBRは5つの見地(概念的枠組み・成功例・近年の批判・現在の制約・開 発協力のための提案)から語られた。70年代のCBRは、障害者本人のニーズに焦点をあ てる医学モデルに始まったが、現在では社会を巻き込む社会モデル、そして障害者の権利 と責任の保護と促進に焦点をあてるものへとかわってきているという。これは、「国連・障 害者の機会均等化に関する標準規則」における障害者自身の社会変革への参加・社会の責 任の共有・インクルージョンや、世界保健機関(WHO)の国際障害分類改訂版(ICIDH-2) に見られる個人の要因の他に環境の要因が加えられたことからも理解できる社会の潮流で あろう。その一方で、近年の批判には、広がり・展開の遅さ、予想以上のコスト高、障害 者と障害者団体の参加の不十分さ、トップダウンと機能障害中心への傾向をあげている。 それに対する現在の制約としては、適切に訓練された人材の欠如、障害問題に対する不十 分な政府の公約、根強い誤解があるとしていた。
それらを受けての開発協力のための提案は、次の3つに要約されるとのことであった。1つめは、CBRの発展を支援し、照会のニーズを満たすための人材の教育と研修として、保 健分野(PHC; primary health care)と中間レベル技術ワーカーの育成の支援が緊急課題 である。2つめには、障害者と障害者団体の参加の強化として、CBRは障害者をエンパワ ーすること、CBRの計画とモニタリング・評価への参加に寄与するという視野を持ってい ることを障害者は理解する必要がある。3つめとしては、全国および地方レベルでの多分野 にまたがる運営能力の強化として、社会福祉部門1省のみという状況から関連する全ての 省やNGOとの関係を確立すべきとしている。
CBRのみならず、リハビリテーションはもはや個人の心身機能の改善や行動の変化、社 会的適応能力の向上だけを目指すものではなく、障害者の社会への完全参加に向け、環境 を改善していく社会の共同責任であるという言葉の重みと、新しい時代での医療職種のあ り方に混沌とした思いで栃木に戻ってきた。それでも、先進・後進国問わず、リハビリテ ーションのエンドポイントが個人レベルから社会レベルへと確かに変化しているという社 会のその趨勢は、十二分に感じ取れた貴重な学びの機会であった。