音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「JANNET NEWS LETTER」
(January 2000 第24号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<図書紹介>

アジア・アフリカの障害者とエンパワメント

ピーター・コーリッジ著
中西由起子訳 明石書店 1999年

 障害関連のテーマは、従来、専門家中心に論じられていたのだが、最近では次第に先進諸国の障害当事者によって問題提起されるようになってきた。 それに対して、本書はこれまであまり取り上げられていなかった、アジア・アフリカの障害者運動を積極的に展開している障害者自身に聞き取り調査し、 それをていねいに再現している。
本書をまとめたピーター・コーリッジは、英国ox fanの中東地区マネージャーとして障害者の問題に取り組んできているが、本書をまとめるために アフリカ、アジア、中東に足を運び、300人以上にインタビューしている。
内容は4部で構成されているが、その柱は2つで、障害に関する問題点を整理する作業と、5つのプロジェクト(ザンジバル島、ジンバブエ、インド、 ヨルダンと占領地域、レバノン)に関してのケース・スタディである。それを通して、読者は当初、開発途上国の障害者に関する問題として読もうとし 始めるが、直ちにそれが自分たち自身の問題だと気づいていくに違いない。
本書で主題としていることは、障害者のエンパワメントである。たとえ、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)と名づけられるようが、その ”魔法の3文字”に惑わされないよう警告している。専門家主導によって障害者は単に対象者になっていることもあることもあると指摘し、障害者自身が 主要な役割を果たすべきであり、当事者組織がサービスを提供することこそ、本当に「地域に根ざした」ものとなる、と強調している。したがって 、本書はリハビリテーション関係者への警鐘の書でもある。専門家は、自分たちで提供できるものに関係づけて問題を診断する傾向にあり、そうした 内在的態度を問題にしている。また、繰り返し述べられている用語に「社会モデル」がある。これは障害を「個人(医療)モデル」に当てはめ、障害者自身 に問題があるとした考え方から、社会に課題があるという視点に180度転換すべきことを強調するものである。
訳者である中西由起子さんは、かつて国連アジア太平洋地域社会経済委員会会社開発局に勤務し、現在もアジア・ディスアビリティ・インスティテート の代表として各国の障害者をエンパワーする活動に邁進している。(本号の「メンバーズプロジェクト」参照。)日頃より国際会議等での流暢な通訳 も定評がある。しかし、本書で問題にしている「障害」「障害者」等の用語の意味合いを日本語訳で忠実に伝えることの困難さを自ら述べているが、その点は 読者の思慮に期待したい。
最後に、コーリッジが述べている次の一文を引用しておきたい。
「ある人たちが支配的であり、他の人たちが抑圧されるのではなく、全ての人が究極的に利益を得るという社会に関する理想像を、私たちは論じている。」

神奈川総合リハビリテーションセンター 小川喜直