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メンバーズプロジェクツ

発展途上国の理学療法士を招いて7年

社団法人日本理学療法士協会 国際部々員   古澤正道
(所属:ボバース記念病院リハビリテーション部)

社団法人日本理学療法士協会が発展途上国や中進国の理学療法士(以下PT)を、研修のために招いて7年が経過する。1980年代に、日本人PTは国内外で外国人PTとの交流を深めてきた。青年海外協力隊員やアジア理学療法連盟の活動はその代表であった。発展途上国や中進国にてPTとしてリハビリテーション医療の援助活動をし帰国した会員や、諸団体の援助で来日した発展途上国のPTを受け入れた施設や病院で勤務する会員から、1990年代初頭にかけて、当協会独自でも発展途上国のPTの研修に国際貢献すべきではないかという声が高まってきた。

理学療法士協会は1992(平成4)年の総会で、「日本理学療法士協会奨学金」制度を設置することを決定した。趣旨は、教育・研究・臨床における理学療法の向上と発展のため、また社会的に有用なPTを育成するためであり、国内外での理学療法の修学や留学を援助する返還義務の無い奨学金制度と成文化されている。実際の給費生は海外に留学するため修学資金を必要とする当会の若い会員が半数、発展途上国のPTで日本国内で研修を希望する方が半数であった。PT協会はこの費用捻出のために、協会基金の利息などの財産を運用することとした。

とはいっても毎年度100万円を計上できるにすぎない予算の規模である。理事会は少ない奨学金を有効に使うため、理事会のもとに選考委員会を設置し給費生を選ぶことにした。選考委員長には学術担当理事がなり、委員にはその年度の学会長、学会評議員幹事長、卒後教育部長、そして国際部長がなっている。この選考委員会が理事会へ答申をし、理事会が最終的に給費生を決定する。

この7年間の慣例として、予算のおおよそ半額は若い会員が外国で修学するための援助に、3分の1から半額が発展途上国のPTへ支給されている。筆者は日本理学療法士協会の国際部でアジア担当の部員を務めているゆえ、募集が公募されると、アジア理学療法連盟加盟のインドネシア・タイ・マレーシア・フィリピン・台湾・大韓民国、そして傘下外のベトナムなどの各国へ英文で連絡することになる。アジア各国の理学療法士協会を通じて紹介されてくるPTよりは、奨学金の支給額の要望と同時に、研修先の紹介を依頼されることが多い。研修内容に応じて他の国際部々員の協力をえて、研修先を探すことになるのが常である。研修先を明確にして応募でき、選考委員会の確かな審査対象とするためである。この研修受け入れ先を探すのが、正直なところ一苦労である。

これまで多くの会員や、会員が勤務する施設および病院の協力をえて、この7年間に8名の外国人PTが当協会の奨学金をえて我国で研修している。国別に8名の給費生を紹介する。

1993年 大韓民国 (1名)
1994年 大韓民国 (1名)
1995年 パキスタン・大韓民国 (2名)
1996年 タイ (1名)
1997年 ベトナム (1名)
1998年 ベトナム (1名)
1999年 タイ (1名)

  研修内容は、脳性麻痺児への治療の研修が多く、その他PTを養成する大学や養成校での教授内容の視察、脳卒中後遺症者への治療が多く、その他PTを養成する大学や養成校での教授内容の視察、脳卒中後遺症者への治療などであった。研修先は東京、大阪、兵庫、滋賀などの都府県の施設・病院・大学や養成校で実施され、研修期間はほぼ2週間以内であった(写真1)。
研修終了時に提出される報告書から感想を抜粋すると、次のような内容が述べられている。脳性麻痺児への講習会は専門性の高い内容でよかった、PTと作業療法士と言語聴覚士の実際的で良きチームワークを学んだ、理学療法やリハ医療を支える社会福祉制度も学べて参考となった、PTの養成教育を実地見聞でき有用であったなどさまざまなことが報告されている。共通する感想は、研修地の日本側のPTや施設・病院の関係者が暖かく胸襟を開いて迎えていることであった。
今後改善せねばならぬ課題として、3点があげられる。1つは奨学金の総額を増し支給額を高め、より長く滞在でき充実した研修や研究活動を送っていただくことである。2つめはニーズに見合った研修地と指導者を育成し、協力いただくことである。3つめは各種の講習会にも参加するため、通訳としてボランティアに協力してくださる会員を発掘することである。今後もとくにアジアの発展途上国のPTがこの奨学金制度を活用するために、制度の内容のいっそうの充実を図りたい。

 * 写真のキャプション