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図書紹介

「学習障害・学習困難への教育的対応 -日本の学校教育改革を目指して-」山口 薫 編著

文教資料協会 2000年6月 定価3,570円

わが国の「特殊教育」が今変わろうとしている。「特殊教育」はもとより、心身に障害があるからではなく、障害があるために特別な教育的配慮が求められることによって、障害がある児童生徒に対して行われてきたと言え、障害よりもそれ故に生じる特別な教育的ニーズに対応しようとする「特別なニーズ教育」の理念に通底するものであった。しかしながらそうした中で、通常の学級に在籍する学習障害や学習困難など知的発達遅滞がごく軽微な子どもの概念規定や教育的対応について、明確な指針が示されてこなかった。

本書は、文部省に設置された「学習障害及びこれに類する学習上困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」による7年にわたる審議を終え、1999年7月に答申された最終報告書等を解説したものである。協力者会議の主査として編著者は、学習障害やその周辺の学習困難な子どもへの教育的対応は、単に特殊教育のカテゴリーが加わることにとどまらず、特殊教育自体のシステム自体を変え、特殊教育を心身障害児の教育から、障害の有無に係わらず特別な教育的ニーズのある子どもに対する教育(特別教育ニーズ)への変革の契機になるだろうことを強く予感し、インクルージョン教育を基底とする特殊教育改革への具体的な提言を行い、その具現こそ、まさに現在の疲憊した日本の学校教育全体の抜本的な改革に繋がる道であることを強調している。

本書には、また学習障害(LD)の定義(第1章)LDの判断や実態把握のための基準とシステム、及びその目的、構成、役割などが明示された(第2章)。さらに、LDに対する指導は通常の学級における指導が基本であり、学校全体で取り組む必要はあり、そこで学習の困難の程度に応じた指導の形態と場について、事例をあげながら実際的に述べられている(第3章)。

“豊に生きる力を育む”ことが、昨今教育の中で、多く語られるようになった。その深遠な意味を汲み取り、障害の有無に係わらず、そのことを一人ひとりの子どもに自己実現させるためにも、そして教育の原点に立ち返り、現状の教育の荒廃・混沌を打破するためにも、本書は、学校教育関係者ばかりでなく、あらゆる人において熟読されるべきものであろう。

(東京学芸大学附属特殊教育研究施設 教授 清水 直治)