音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「JANNET NEWS LETTER」
(October 2000 第27号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<メンバーズプロジェクト>

財団法人全日本ろうあ連盟の開発途上国を対象とした国際協力事業について

全日本ろうあ連盟(文責 本部事務所長 大杉豊)

 障害者の「完全参加と平等」実現の核となるのは障害者自身の組織とその運動である。全日本ろうあ連盟は、戦後からろう者自身の組織ついで手話通訳者組織などとの共同の運動を通じ国内ろう者の権利擁護、福祉向上に多くの成果を挙げてきた。その経験を踏まえ、「第9回世界ろう者会議」(1991, 東京)を主催し、折からの「アジア太平洋障害者の十年」を契機に世界ろう連盟の一員として責任を果たすべく、アジアを中心とした各国ろう者組織の結成と強化援助に乗り出した。現在実施している主なアジア国際協力事業を以下に紹介する。

  1. 国際協力事業団(JICA)による研修事業の受託実施
    「アジア・大洋州諸国ろう者のためのリーダー研修」という名称で、毎回ろう者の研修生を8名受け入れ、JICA大阪国際センターを拠点に約45日間の研修を行っている。日本のろう者福祉制度、ろう者の運動などをテーマとする講義とあわせて、聴覚障害者情報提供センター、聴覚障害者授産施設、ろう学校、ろう者の職場などの見学や、地域のろう者や手話通訳者などとの交流など、実地の体験をも重視した研修内容を組んでいる。1995年の開始以来、39名の修了生を送り出しており、それぞれの国でのろう者リーダーの養成と当事者としてのろう者組織の強化に貢献している。
  2. 郵政省ボランティア貯金助成による「タイ手話単語集刊行事業」
    手話単語集「わたしたちの手話」刊行によって手話の全国共通化と国民的普及を果たした連盟の経験に注目したタイろう協会の要請に応えた共同事業である。郵政省ボランティア貯金から資金の一部援助を得て、3年計画でタイ版「わたしたちの手話」刊行事業を援助している。現在4巻まで刊行されており、各1万部が全国的に無料配布されている。この事業を通して、タイろう者協会は手話の共通化を進めるための会議運営や、決算報告の事務的な(会計)処理など、書籍出版に関わるさまざまな作業の経験を積み重ねている。
  3. アジアろう者友好基金
    アジアのろう者への支援及び、アジアの実情の国内啓蒙を目的として設けられた連盟独自の基金で、連盟加盟団体のカンパ活動を主な財源としている。現在までにネパールのブルワンチャルろう学校の教室増築に対する資金援助、タイのノンタンブリろう学校、チェンマイろう学校の生徒20名に対する奨学資金援助を行っている。後者は山岳地帯など遠隔地にある貧窮家庭のろう児を特に対象としたものであるが、対象児童選抜と資金管理はタイのろう者協会とろう学校の協力によって行われている。
  4. 世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局への協力
    世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局を全日本ろうあ連盟内に設置し、事務局長を全日本ろうあ連盟として出し、アジア・太平洋地域諸国のろう者組織の結成と強化に努めている。また、世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局代表者会議に対して資金援助を行い、開催国のろう者組織活性化を促進している。代表者会議は各国持ち回りで開催されており、各国の事情といった情報交換や今後の援助のあり方についての意見交換などを精力的に行っている。なお、連盟はこのアジアろう者友好基金キャンペーン強化の方針を決定している。

 上にあげた国際協力事業は基本的にアジア地域での世界ろう連盟加盟国ろう者組織を対象としているが、ネパールやタイなど組織化がある程度進んでいる組織に限られてしまうのが現状である。連盟と対象国組織のコミュニケーションが確立している、あるいは確立できることが援助対象組織となる最低の条件であるからである。しかし、援助対象組織の成長によって、例えばタイろう協会を通して周辺国のろう者組織化を援助するというように、第3国援助の可能性が開けてきたことは大きな収穫のひとつである。