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「JANNET NEWS LETTER」
(October 2000 第27号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<国際協力活動>

国際協力事業団(JICA)の障害分野の取り組み-アジア太平洋障害者センター設立に向けて-

国際協力事業団 特別嘱託 伊藤奈緒子

 国際協力事業団(JICA)は、開発途上国の経済開発や福祉の向上を支援する日本の政府開発援助(ODA)事業の一端を担っている。具体的には、ODAの二国間贈与である技術協力を担当しており、開発途上国の国造りの主体となる人材育成事業(研修事業)の他、専門家の派遣事業、関連機材の供与等を実施している。障害分野では、1980年に知的障害者福祉に係る本邦研修を開始してからこれまで開発途上国の要請に応えるかたちで、各種関連研修の実施、医療・職業リハビリテーションに係る技術移転を行う専門家の派遣、技術移転に必要な機材の供与、草の根レベルでのボランティア活動を行う青年海外協力隊の派遣等を実施してきた。
ODAによる障害分野の国際協力事業は、「子ども、障害者、高齢者等社会的弱者に十分配慮する。」ことを謳った『政府開発援助大綱(1992年)』、及び、「わが国のノウハウの移転や障害者施策推進のための経済的支援を行うとともに、各国の障害者や障害者福祉従事者との交流を深め、アジア太平洋地域における国際協力において主導的役割を果たすよう努める」ことを掲げた『障害者プラン(1995年)』等によって、当該分野の日本のODA事業が推進されつつある背景には、国連『障害者の十年(1983-1992年)』及び『アジア太平洋障害者の十年(1993-2002年)』があり、事実、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に加盟する開発途上国においては日本政府への当該分野の協力要請が増えており、JICAはそれらの自助努力を支援するよう努めている。
障害分野の有効な国際協力事業の実施に向けては、相手国のオーナーシップの重視はもとより、最終的な裨益者である開発途上国の障害当事者の主体性を尊重することが不可欠である。また、国民の税金を主財源とするODA事業では、当然のことながらも、障害をもつ日本人がその経験や技術を活かして国際協力事業に参加できるよう環境整備らを行う必要性がある。そして、当該分野での国際協力事業にて長年の実績がある国際機関やNGOと共同していくことも重要である。
JICAは自らの事業評価を通じて、課題を明らかにし、新たな事業において各課題に取り組もうと試みている。例えば、対で実施中の開発福祉支援事業『障害者のコンピュータネットワーク整備事業』ではタイ障害者協議会が企画を行い、コンピュータ操作研修の実施を通じて地方の当事者団体の育成をはかっている。昨年の『特定テーマ評価-タイ障害者支援-』では、当事者の視点からタイにおける過去のJICAの障害者支援事業を評価すべく、自ら車椅子を使用する日本人の国際的有識者を登用した。また、今年3月にはESCAPの協力を得て『障害者と高齢者に優しい街づくり』に係る域内研修(第三国研修)をバンコクで実施し、また、日本のNGOと協力した開発パートナー事業では『ラオス国立医療リハビリテーションセンターにおける車椅子製造支援計画』の実施を予定している。尚、JICAタイ事務所では、エレベーターやスローブ等を備え、事務所のバリアフリー化に努めている。
JICAは、これら一連の障害分野の協力事業を”アジア太平洋地域の障害者のエンパワーメント・プログラム”と位置付け、その中核事業として、障害分野のアジア太平洋地域内関係機関のネットワーク促進を行う”アジア太平洋障害者センター”の設立を検討している。本センター設立を、障害者支援施策や当事者団体の組織化が比較的進み、ESCAP事務局も存在するタイにおいて実現すべく、現在、障害当事者を含む関係者と具体的な調整を進めている。本センター構想は、当該域内の”障害者の完全参加と平等”を上位目標とし、社会開発における障害者の参加促進にむけた障害当事者のエンパワーメントを目的とする。近年の障害分野の国際協力の潮流を考慮し、1)物理的バリアーのないユニバーサル・デザインの建築物、2)障害当事者による主体的な運営と事業実施、3〕障害者のアクセシビリティーを考慮した情報提供、4)関係機関との提携協力とその既存リソースの有効活用、5)障害者の地域社会における自立生活の促進等の特徴をもつセンターが予定されている。本センター自体は、実際には小規模な建物ながらも、タイをはじめとする当該域内の関係機関の協力を受けながら、障害者のエンパワーメントに向けた情報提供、人材育成、技術開発に係る事業を実施していくこととなる
JICAは、本センターが『アジア太平洋障害者の十年』の成果を受け継ぎ、障害分野の関係機関の弛みない努力を側面的に支援していけるよう、今後なお真摯に、障害分野の案件形成及び事業実施に取り組んでいくつもりである。