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「JANNET NEWS LETTER」
(January 2001 第28号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<トピック>

民衆による国際健康会議(People’s Health Assembly, PHA)に参加して
健康・いのちの視点からグローバリゼーションを斬る!

アジア保健研修財団 山崎眞由美

みんなでバングラデシュへ行こう
延べ94カ国から1500人が、首都ダッカから北へ約50kmのシャブールにあるNGO、ゴノシャスタヤ・ケンドラ(通称GK)に集まって、12月3日のプレイベント・PHA街頭行進、4日?8日の会議、9日のまとめと今後に向けた話し合いに参加した。参加者は“主体的参加“をすることが求められ、地域で動きをおこすことの他に、事前にメール発信された、5つのペーパーや「民衆健康憲章」草案に対して積極的に意見を発し、作っていく側への参加の道が整えられていた。インドではチェナイ(マドラス)からPHA列車を繰り出し、カルカッタで大集会を開き総勢5万人を動員した。そのうち150人が陸路でPHAへ。そしてインド版健康憲章を試み、ヘルスに関わる1000地域団体と18全国レベルネットワーク団体を束ねて動きをおこしたインドは喝采を得た。<ヨーロッパやアフリカなどはひとつのリージョン(地域)としてまとまった動きをしていた。また、ロシアや中国のNGOの参加は人目をひいていた。日本からは、NGO、団体、大学などから(在バングラも含め)15名の参加。東京と名古屋で集会・勉強会を持ち、日本のケースを取り上げてワークショップを持った。


健康をめぐる状況----健康は改善されてきたか?
1978年にWHO(世界保健機構)がPHC(プライマリーヘルスケア)戦略を提唱し、“2000年までにすべてのひとが健康に”なることを目標に置いたが(Health for All by 2000)、2000年の現在、所得格差やサービスを受ける機会の格差は国内、国家間で大きく広がり、特に貧しく弱い立場に置かれた人たちの健康は、改善されるどころか悪化しているのが現状である。自由市場主義経済のグローバル化は、国家の役割を小さくし、規制緩和・自由化によってバイオ技術を持つ製薬会社などの多国籍企業の力を増し、医療費の自己負担、民間の医療・健康産業への参入によりヘルスケアは商品化された。人間よりも利潤を優先させるやり方は、環境をも含めた不健康な状況を生み出し、生命循環システムを危うくさせている。真っ先にその犠牲となっているのが貧しい国の貧困層である。役割を小さくされたのは国家だけではなく、WHOも然りである。今や世界銀行がWHOに取って代わり世界の保健政策を牛耳っている。PHAはこの流れを変えようとする者の集まりである。今年5月にワールド・ヘルス・アセンブリー(WHA)が開催されたが、今回のはそれに対抗するピープルズ・ヘルス・アセンブリー(PHA)である。


NGOが力を合わせて実現させた初のヘルスの国際会議
PHA開催を呼びかけたのは、ヘルスの視点から世界大で活動している7つのネットワーク NGO。参加者は、その呼びかけに呼応した、地域に根ざして活動している保健・開発分野のNGOワーカー、活動家、専門家など。車椅子の参加者も少なからずいた。そして特に注意が払われたのがグローバリゼーションの影響をもろに受けている住民と、国の政策レベルで決定権を持つ政治家の参加である。毎日、健康を蝕まれている各国の民衆の証言で会議は始まり、民衆を中心に据えて議論がすすめられた。モザンビーク首相、インドやネパールの政治家、バングラデシュの大臣や野党党首などが出席し、債務を抱える国家の立場からグローバリゼーションを批判。また、国際機関のWHOやユニセフ、WTO、世界銀行などからの参加を強く望んだが、結果的には世界銀行からの参加にとどまった。
会議は、毎日の中心議題が決められており、それに沿って世界5地域から民衆の証言、パネルディスカッション、会場との意見のやりとり、というかたちの全体会が午前。午後は参加者が自主的に地域での取り組みを発表するワークショップの他に、民衆健康憲章草案の詰めや、今後の PHAを話し合うグループに分かれての分科会。毎日が最終日の大団円に向かっての積み上げ方式に仕組まれていた。そして会議の前後に設けられていた参加者による各国カルチャーショウはプロ顔負けの出し物揃いで盛況であった。<議題は、つぎの通りである。

  • 健康を脅かす貧困と不平等
  • 保健システムと健康 - 何を変えなければいけないか
  • 世界銀行 - わたしたちと向き合う
  • 環境といのち
  • WTO - 健康への意味
  • 民衆の健康を前進させるための草の根イニシャティブの成功例
  • 民衆健康憲章- 最終化と採択
  • 民衆健康憲章の活用とPHAの今後に向けての話し合い


会場の熱気は、参加型会議を超えた
主催者には国際保健をリードする著名人が多くいたが、主催者と参加者の壁を取っ払おうという意図が伺えた。全体会では会場から直接意見を出す機会を保証し、分科会からは必ず提案を出すこととし、また常時「意見・コメント」箱がステージの上に用意されていた。翌朝には前日のハイライトをまとめたPHA新聞が配布され(ヒアリングの苦手な者にはとても重宝)、毎日各国別・リージョン別に一日を振り返り話し合う時間が設けられていた。これは、草の根の経験からこそ新たな時代を拓く突破口が生まれるという確信と対等なパートナーシップの思いの現れであり、またこのような仕組みから連帯の絆が一層強められたといえる。
しかしながら、限られた時間に対して意見を表明したい参加者は会場中央に設けられたマイクの前に列をなし、打ち切ろうとする司会者に対して譲らず、一部休憩中も続行する事態になった。また、世界銀行の職員が出席したパネルディスカッションでは、開会前から会場は騒然とし、司会者はどうすることも出来ず、ついには帰れコールとなった。 信望ある主催者のひとりの「話し合いを拒否するなら、拒否する者こそ出ていけ」ということばで開会されたが、世界銀行職員の「世界銀行も人々の健康のために多くの活動をしている」という内容の発言に対して会場からもパネラーからも反論が百出した。参加者の世界銀行への怒りの念の強さは主催者の思いを超えるものであり、全体会の行方をリードした。直接影響を被る、草の根に生き活動する者の肌感覚からくる感情である。このようにして会議の日が重ねられた。これこそ参加して味わえる醍醐味である。国際会議にどんどん出よう!


PHAがめざすこと-- 健康憲章を共通のガイドにして
“すべてのひとが健康に”この壮大なビジョンに、あきらめずに挑むこと、そのためには国家やWHOが役割を果たして民衆の健康を国や世界の政策の中心に据えて包括的プライマリーヘルスケア(PHC)を民衆の権利としてすすめること、経済危機や環境破壊、いのちを脅かすグローバル化の動きに反対し、流れを変えていくこと。参加した1500人が各地域で、そして共通の課題に世界大で取り組めば流れを変えることは可能かもしれない。大切なのは可能だと信じる思いと行動である、ということをPHAは教えてくれた