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「JANNET NEWS LETTER」
(October 2001 第31号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<研究会に参加して>

JANNET研究会「ICF(WHO国際障害分類改訂版)について」に参加して

日本理学療法士協会国際部 古西勇

 去る6月25日、戸山サンライズにて上田敏先生をお招きし、JANNET研究会が開催された。当日は汗ばむ蒸暑さの中、140名程の参加者があり、国際障害分類の改訂への関心の高さを伺わせた。
しかし、その改訂がそれより1ヶ月少し前の5月22日に国際的に最終決定していたことをその場で初めて知ったのは私だけだったろうか。決定というのは、WHO(世界保健機関)の加盟国の総会である世界保健会議での正式採択をいうのだが、日本のマスコミではニュースとして余り取り上げられなかったような気がする。1980年から20年以上の歴史を有した国際障害分類(ICIDH)だったが、その改訂ということへの世間一般の関心の低さは、障害構造を普遍的なものとして解き明かし障害者を囲む諸問題を解決するのに役立てようといった啓蒙活動がなかったかあっても不発であったとしか思えない。
では、何が悪かったのか。いうまでもなくICIDHは障害に関する最初の国際分類であり、その階層性を持たせた障害構造モデルの発表は大きな意義があった。しかし、それに対する批判が噴出したことも事実である。上田先生ご自身が提唱された「主観的障害の重要さ」を始め、環境の重要さ、障害当事者の参加といった視点が不十分であったことが批判の要点であり、一方、単なる誤解による批判も多くあったとのことである。
その反省点に立ち、改訂過程は随分と慎重な議論と試行を経て来たような印象を受ける。1998年には第8回目の国際改訂会議が東京で開かれているが、その時点での案(ベータ1案)と今回の最終版とを比較しても、用語や枠組みといった点で最後まで決定が揺れ動いたことを推察させる。
さて、上田先生は講演の中で改訂の要点を次のようにまとめて下さった。

  1. 中立的用語の採用:「body functions & structure心身機能・構造」「活動activity」「参加participation」
  2. タイトルの変化:ICIDHからICF(International Classification of Functioning, Disability and Health生活機能・障害・健康の国際分類)へ
  3. 相互作用モデル
  4. 環境因子分類
  5. 活動と参加の共通分類リスト

 また、活動の評価点において、実行状況(performance)と能力(capacity)の両面を評価し、「できる活動(ADL)」と「している活動(ADL)」の両方に対応できるようになったことは、臨床で使えるようにという専門職の意見が反映したように感じさせる。
講演の後半では、上田先生ご自身の見方として、ICFの今後の課題、障害構造論の実践的意義といったお話をされた。最後は、障害論・障害分類は障害のある人の現状を「解釈」するためではなく、よりよい方向に「変える」ためにこそある、という言葉で締めくくられたが、これを座右の銘として、研究・臨床・教育・社会活動などに今後ICFが活かされていくことを期待したい。