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「JANNET NEWS LETTER」
(January 2002 第32号)
障害分野NGO連絡会(JANNET)発行

<図書紹介>

「Handbook of Disability Studies」

Gary L. Albrecht, Katherine D. Seelman,Michael Bury編著、Sage Publications(USA)発行、2001年
中西由起子訳 明石書店 1999年

 本書は、Gary L. Albrecht(イリノイ大学公衆衛生・障害・人間発達学教授)、Katherine D. Seelman(ピッツバーグ大学教授・前米国国立障害リハビリテーション研究所長)およびMichael Bury(ロンドン大学医療社会学教授)の3人の編著者を含め、50人以上の主として米・英の研究者などによってまとめられた最新の障害学の一大集成版ともいうべきもので、全体で852頁にも及ぶ。
本書は、3部から構成される。第1部では分野としての障害研究の形成に焦点を当て、「障害の制度史」、「障害統計」、「障害の定義、モデル、分類制度および応用」、「障害の理論化」など12のテーマがとりあげられている。第2部では障害経験をめぐる「分裂した理解―障害の社会的経験」、「家族のマップ化―障害研究と障害への親の反応調査」、「障害と地域社会―社会学的アプローチ」など8つのテーマを中心に、障害が主観的経験と解釈の観点から比較考察されている。そして、第3部では社会的文脈から障害について、「障害文化―同化か包含か」、「同一性(アイデンティティ)政治、障害および文化」、「区別すること―障害、政治および認知」、「障害者の人権、法律および政策」など14のテーマが取り上げられている。
編著者は、まえがき「障害学形成」で、「障害研究は、社会科学、人文科学およびリハビリテーション科学を知的ルーツとする新興分野」と規定するとともに、「本書を通じての課題は、『誰が障害者であり、また誰が彼らを代弁すべきか』ということである。本書は、これらの課題について多角的な視点や多様な意見を取り入れながら、基本的な一致をめざすことを意図」する、と強調している。
世界銀行では、世界的な障害者の増加が、今後途上国、先進国を問わず、各国の経済成長や政治的安定にとって深刻な脅威になりうると予測している。編著者たちは、こうした事態に適切に対処するためにも、障害研究分野の基礎となる歴史、概念、理論、イシューおよび実践についてバランスがとれ、かつ深い理解とともに、未来を見据えた文献を世に問うことが必須と考え、本書のとりまとめを決意したという。
障害研究分野に対する読者の関心を呼び起こし、この分野の理解と実践を前進させることに寄与したい、という編著者たちの思いが、本書全体から強く感じられる。是非一読をおすすめしたい好著といえよう。

北星学園大学 松井 亮輔