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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

印刷物を読むことに障害がある人たちのエンパワメントのためのアクセシブルなマルチメディア

河村宏
国連世界情報通信技術開発同盟 戦略審議会
世界情報社会サミット(WSIS)DAISYコンソーシアム代表
hkawa@attglobal.net

項目 内容
会議名 第7回 情報の貧困に関する世界会議(InfoPoverty World Conference),ニューヨーク 国連
発表年月 2007年4月19日―20日

皆さんこんにちは。
はじめに、今世紀最大の自然災害となった、2004年にインド洋で起きた津波についてお話しさせてください。

この津波で、アジア・アフリカ諸国の少なくとも23万人の命が失われました。その中にはタイを訪れていた2,448人の外国人観光客も入っています注釈1

現在、最先端の情報通信技術(ICT)を駆使した早期津波警報システムの開発が進められていますが、警報は危険に直面している人、一人ひとりに確実に伝えられなければなりません。

2005年にはチュニスで、WSISのイベントの一つとして、障害者の災害への備えに関する会議が開かれました。注釈2

ミレニアム開発目標(MDG)には、障害に関する課題について特に記載されていませんが、障害という観点から見たWSISの最も重要な成果としては、WSISが障害者に関わるデジタルディバイドを重要な課題の一つとしてはっきりと認識したこと、そしてデジタルオポチュニティの実現のために、ユニバーサルデザインの概念を支援技術とともに開発していくことが行動計画の中に明確に規定されたことがあげられます。注釈3

このWSISの精神は、障害者権利条約(略してCRPD)の策定過程にも見事に反映されました。注釈4 CRPDは、国連で採択された今世紀最初の人権条約ですが、その第11条で、自然災害について次のように言及しています。

第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
締約国は、国際法、特に国際人道法及び国際人権法に基づく義務に従い、危険のある状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生の状況を含む。)における障害のある人の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。
(川島聡・長瀬修 仮訳より)

2007年1月11日から12日にかけて、タイのプーケットで、DAISYコンソーシアムとタイの関連機関との共催による、障害者の津波への備えに関する国際会議注釈5が、WSISのフォローアップとして開かれました。

会議では以下の宣言が採択されました。注釈6

障害者の津波への備えに関するプーケット宣言(仮訳)
我々は、2007年1月11日および12日にタイのプーケットにあるロイヤル・ プーケット・シティ・ホテルに集い、津波への備えに関する国際会議の参加者とし て、以下のことを宣言する。
津波災害は次のような条件整備によって防止できる:
  1. 津波などの災害に関する知識と先進事例の共有、
  2. 特に障害者を含むすべての関係者が積極的に責任を分かち合い参加する人命を救 うための貢献、
  3. 防災に関する地域コミュニティに根ざした活動、
  4. タイムリーな災害警報を関係者すべてに伝達することを目的とした、早期津 波警報システムを含むあらゆるレベルでのインフラの構築、
  5. 災害対策のすべての段階における障害者に配慮したアクセシブルなインフラの構 築

知識社会では、福祉機器とユニバーサルデザインの両方を含む情報コミュニケーショ ン技術の開発が、コミュニティにおける障害者および女性、児童、高齢者、文化的な マイノリティ、観光客、その他の弱者を含む、すべての人のさまざまなニーズを満た す災害防止対策の成功に貢献する。

このような情報コミュニケーション技術の開発は、公開され、相互接続性が保障され ており、かつ、アクセシビリティーに関する実績が証明されている国際標準規格に基 づいて実施されなければならない。

2004年にアジアで起こった津波を思い起こし、また、WSIS行動計画、兵庫行動枠 組、およびタンペレ条約を支持し、我々は以下のことを勧告する。

  1. 津波およびその他の災害に関する、防災教育/研修センターを設立する。同セン ターは、物理的なインフラおよび研修教材を含むすべての面で、障害者にとってイン クルーシブかつアクセシブルでなければならない。
  2. すべての関係者は、WSISの基本宣言および国連の障害者権利条約に 沿って、津波およびその他の災害に対する有効な対策を進めなければならない。

プーケット宣言では、デジタルディバイドを克服するために最先端のICTが果たすべき役割が示されています。

日本では、プーケット宣言と障害者の権利条約(CRPD)とに勇気付けられ、実際に津波警報が発令され、その脅威を経験したことのある精神障害者のグループが、北海道の浦河で、国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所との協力により、冬の晩に津波避難訓練を実施し、成功を収めました。

訓練は主に、デジタル・アクセシブル・インフォメーション・システム(アクセシブルな情報システム)注釈7、略してDAISYとよばれるフォーマットで作成されたマニュアルを使いながら進められました。DAISYは、W3Cのオープン規格に基づいてDAISYコンソーシアムによって開発された、オープンかつ一般的な、そして相互操作が可能な、テキストと音声および画像をシンクロ(同期)させたプレゼンテーションのための規格です。アメリカ合衆国では、DAISYはANSI/NISO Z39.86-200Xとして知られています。

それでは津波に関するDAISYのサンプルの、短いデモンストレーションをお見せしましょう。

DAISYは、アクセシブルなマルチメディアのための、無料かつオープンな国際標準規格として定評があり、そのため、オープンソースなものを含め、さまざまなオーサリングツールや再生システムが利用できます。特に書き文字を持たない言語や文化にとっては、DAISYは自分たち自身の言葉で記録したり出版したりすることができる、目次を含む優れたナビゲーション方法を備えた、すばらしいツールだといえます。

印刷物を読むことに障害がある人たちへの津波の被害を防止すること以外に、すべての人のためのDAISYプロジェクト注釈8では、HIV/AIDSに関するアクセシブルで分かりやすい教材が必要な人たちを対象としたリソースを開発するための連携も模索しています。これにより、HIV/AIDSを予防し、また、HIV/AIDSの犠牲者が、社会生活にうまく参加できるようになると期待されています。

DAISYコンソーシアムを代表して、私はすべての関係者の間で、特に世界の発展途上地域において、更に連携が進んでいくことを楽しみにしています。

ご清聴どうもありがとうございました。

1.http://en.wikipedia.org/wiki/2004_Indian_Ocean_earthquake
2.http://www.dinf.ne.jp/doc/english/prompt/051115_18wsis.html
3.WSIS-05/TUNIS/DOC/7-E
4.http://www.un.org/esa/socdev/enable/conventioninfo.htm
5.http://www.dinf.ne.jp/doc/english/prompt/ws070112.html
6.http://www.dinf.ne.jp/doc/english/prompt/ws070112_2.html
7.http://www.daisy.org/
8.http://www.daisy-fo-all.org/