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調査結果を見て

橋井 正喜(社会福祉法人 日本盲人会連合 常務理事)

1.視覚障害者と災害

(1)視覚障害者とは

視覚障害はその状況や程度から、視覚を全く活用できない全盲と何らかの保有視力がある弱視(ロービジョン)に大きく分けることができる。

弱視(ロービジョン)は、視力、視野、色覚の3つの要素のいずれかが障害されているか、その3つの要素の障害がどのように組み合わさっているかによって、視野が狭い、中心が見えにくい、明るいところや暗いところで極端に見えにくくなる等、その見え方及び見えにくさが異なる。

2011年(平成23年)に厚生労働省が実施した調査(平成23年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査))によると、全国の視覚障害者(身体障害者手帳所持者)数は、約31万5,500人と報告されている。

その内、全盲が1割~2割、弱視(ロービジョン)者が8割~9割いると言われている。また、日本眼科医会の推計(2009年)によると、視覚障害者総数は、163万7千人、その内弱視(ロービジョン)者は144万9千人と報告されている。

(2)災害時に視覚障害者にとって困難なこと

日常生活を送る上での情報の8割から9割は視覚によると言われている。そのため、視覚障害に起因する大きな不自由は情報の取得であり、その代表例として「周囲の状況の把握」、「文字の読み書き」や「移動」等が挙げられる。

したがって下記のような困難がある。

災害発生時

  • 「どのような災害が発生したのか」、「どのように避難行動をとればいいのか」等の状況がわからない。
  • 単独で避難所までの移動。

避難所での生活

  • 移動(通路が確保されていない)。
  • 情報の取得(視覚情報が中心「食事や支援物資の配布や支援方法等」)。
  • トイレの利用。
  • 食事の配給を受け取りの列に並ぶ。

(3)災害時に視覚障害者が必要とすること

上述から、下記のような支援などが必要となる。

  • 災害の状況を音声で伝達する。
  • 一緒に避難する。
  • 避難所において視覚障害特性を理解した支援者を配置する。
  • 福祉避難所(視覚障害者のための福祉施設等への移動)へ移動する。
  • 補装具(白杖等)、日常生活用具等(触読時計、ラジオ等)の支援物資を提供する。
  • 視覚障害者が参加しやすい防災訓練を実施する。

2.今回の調査で明らかになった課題

平成23年の東日本大震災における教訓を元に、平成25年の災害対策基本法が一部改正された。また、同年8月に内閣府(防災担当)から「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(以下、取組指針という)」が出されている。

主な内容としては、<1>「要行動支援者名簿」の作成等<2>「発災時等における避難行動要支援者名簿の活用」<3>「個別支援計画の策定、防災訓練」<4>「民間団体との連携等の避難行動支援に係る共助力の向上」が挙げられる。

自治体の取組について、今回の調査を通じて、主に下記の課題があることが分かった。

  • 「要行動支援者名簿」の作成が市町村に義務付けられているが、「まだ名簿を作成していない」との回答が17か所(3.3%)ある。(問1-1)
  • 「個別計画の作成は進んでいない」との回答が194か所(37.6%)に上った。(問1-3)
  • 災害時には、民間団体(福祉団体)等に避難行動要支援者名簿の提供が「可能である」との回答が41か所(7.9%)に留まった。(問1-4)
  • 「障害者に対する避難準備情報や避難指示、緊急情報や各種の情報を障害者に伝達するために外部の機関、団体等と協定や合意を「特に締結していない」との回答が375か所(72.7%)に上った。(問2-2)
  • 「災害時の福祉専門職の確保について、他の自治体、または障害者団体、専門職団体等と協定や合意を交わしている」との回答が24か所(4.7%)に留まった。(問4-2)
  • 災害派遣福祉チーム(DWAT、DCAT)の派遣や介護職等の派遣についての回答は「聞いたことはあるが詳細はわからない」との回答が256か所(49.6%)、「知らない」との回答が86か所(16.7%)であった。(問4-1)
  • 障害者または障害者団体が、「地域防災会議に委員として参加している」との回答は33か所(6.4%)、「障害者団体と災害時の支援対応に関する協定や合意を交わしている」との回答等は22か所(4.3%)に留まった。(問5-1)

3.求められる取組み

(1)地域に住む視覚障害者の把握と助け合い体制の構築

<1>「要行動支援者名簿」並びに「個別計画」の作成

被災した視覚障害者の避難行動の支援のためには、日頃から視覚障害者の居住地及び必要な支援を把握する必要がある。

そのために、「要行動支援者名簿」と「個別計画」の作成は重要である。調査結果において「要行動支援者名簿」を作成している自治体は9割にのぼり(問1-1、および「平成29年避難行動要支援者名簿の作成等に係る取組状況の調査結果 - 総務省消防庁」などより)、自治体の取組は評価できる。

一方で、個別計画が求められるが、「個別計画の作成は進んでいない」との回答が194か所(37.6%)にも上った。(問1-3)

身体障害者は、障害の種別によって必要とする支援は異なるため、障害種別に応じた個別の支援計画を立て、支援体制を確立することが求められる。また、個別計画を作成する際には、本人と話し合って作成するとともに、福祉の専門家の意見を聞くことも望まれる。

 

<2>「要行動支援者名簿」の活用

災害時には、行政機関も壊滅的な被害を受け、一時的に機能しなくなってしまうことや、被災地の視覚障害者への対応も難しくなることが懸念される。

そのため、視覚障害者福祉団体や視覚障害者の情報提供施設等が被災した視覚障害者の安否確認や支援を実施することがあり、速やかに自治体から名簿が提供されることが望ましい。

今回の調査では、災害時、民間団体(福祉団体)等に、「名簿の提供が可能である」との回答は41か所(7.9%)とわずかであった。(問1-4)

また、名簿を提供できない理由として多かった回答は、「信頼できる団体を判断・選定することが困難である」との回答は136か所(26.4%)だった。(問1-4-2)

視覚障害者福祉団体や視覚障害者の情報提供施設等と自治体が日頃から連携し、名簿の提供等の協定を結んでおくことが望まれる。

 

参考

東日本大震災の際、(福)日本盲人福祉委員会に対策本部が設置され、被災地への支援(安否確認、現地でのニーズ等の聞き取り、支援物資の配布等)を行った。

※日本盲人福祉委員会:視覚障害者のための中央組織。日本盲人会連合(当事者団体)、日本盲人社会福祉施設協議会(施設)、全国盲学校長会(教育)の3団体で構成。

(2)災害時の情報伝達

今回の調査で「電子メールやスマートフォンでの情報伝達(メール配信や掲示板機能など)」との回答は400か所(77.5%)に上った。視覚障害者の多くは、音声で読み上げる機能がついている携帯電話を使用しているため評価ができる。

また、「民生委員や自治会メンバー、近隣住民など地域における支援ネットワークの活用」との回答が232か所(45.0%)にも上り、障害者に情報が伝達されるよう自治体で取組みが進んでいる。

一方で、災害発生後の臨時情報や行政情報を点訳・音訳しているとの回答はわずか3か所(0.6%)に留まった。(以上、問2-1)

視覚障害者にとって臨時情報や行政からの災害情報を知るために、点訳・音訳等の支援も必要であり、今後取組みが望まれる。

(3)避難所

避難所に指定されているのが、主に学校の体育館や公民館である。多くの人が避難している場所で、障害者が避難生活を送ることは難しい。それは、これまでいくつかの大災害において実証されている。東日本大震災では、避難所で生活を送ることが困難で、被災した自宅へ戻らざるを得なかった視覚障害者も大勢いた。

まず、第1次避難所において、障害者への配慮が進むことが望ましい。一方で視覚障害者は早い段階で福祉避難所へ避難できることが望まれる。

しかし、東日本大震災では、福祉避難所について、3つの課題があった。<1>被災した視覚障害者のほとんどは福祉避難所の場所を知らなかった。<2>福祉避難所に指定されているのが、高齢者の福祉施設のため、視覚障害に特化した、適切なサポートをすることができなかった。<3>補装具、日常生活用具や医療品が用意されていなかった。

調査結果では、「指定された福祉避難所の場所などを情報開示・周知している」との回答は230か所(44.6%)に留まり、情報提供が望まれる。

また、福祉避難所に「福祉用具(日常生活用具・補装具等)・医療用品、情報関連機器を整備している」が42か所(8.1%)に留まった。(以上、問3-4)

視覚障害者が安心して生活を送るためには補装具(白杖等)、日常生活用具(触読時計等)、および医薬品が必要である。そのため福祉避難所において、迅速に調達できる体制が必要である。

(4)福祉の専門家のとの連携

災害時、被災地の行政機関が、要援護者へ対応することは難しいと思われる。また、視覚障害の特性に応じた支援が必要であり、福祉に精通した専門家やガイドヘルパー等が被災した当事者の支援に当たることが望まれる。

今回の調査では「災害時の福祉専門職の確保について、他の自治体、または障害者団体、専門職団体等と協定や合意を交わしている」と回答した自治体は24か所(4.7%)に留まった。(問4-2)

自治体として日頃から障害者福祉団体等と災害時の支援の協定を結んでおく必要がある。

また、平成28年の熊本地震での災害派遣福祉チーム(DWAT、DCAT)について、「聞いたことはあるが詳細はわからない」との回答が256か所(49.6%)、「知らない」との回答が86か所(16.7%)であった。(問4-1)

行政機関の防災担当者においては、日頃から災害時に対応できる福祉チームを把握し、協力体制を確立しておくことが望ましい。

(5)視覚障害者が参加しやすい防災訓練の実施

日頃からの災害の備えとして、視覚障害者も、「避難所の場所」、「避難経路」、

「避難方法(支援の方法)」を把握する必要がある。そのため、地域で実施されている防災訓練等は視覚障害者にも参加しやすい環境作りが必要である。

今回の調査では、「地域の防災訓練に、障害者(団体)が参加している」と回答した自治体が、128か所(24.8%)に留まった。(問5-1)

視覚障害者が参加しやすいよう配慮した防災訓練を実施することが望まれる。

(6)今後の課題

今回は、災害時における要配慮者/要支援者全体について調査を行った。今後はさらに、障害種別ごとの取組についても調査が必要である。

また、東日本大震災では、避難所において盲導犬の同伴を断られてしまったケース等もあり、障害者への理解啓発や心のバリアフリーの取組も必要と言える。