音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

災害時の障害者支援に関する市区町村調査の結果をみて

小山 貴(社会福祉法人ひまわり会)

 

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、障がいのある方の死亡率は、そうでない方の死亡率に比べ2倍であるという事実が浮かび上がった1。また、年齢別で見た場合、65歳以上の高齢者の死亡率はそれ以上だったことが分かっている2。その「災害弱者」と言われる方々の命をどのように守るかといったことがこの間、さまざまな立場で議論されてきた。

近年、さまざまな自然災害が日本を襲い、狭い国土の中でどこにいても被災する可能性があるとボンヤリとではあるが意識されるようになった。

東日本大震災後、津波が想定される場所を居住地としてはいけないということは、子どもにでもわかることなのだが、現実としてそれは難しいことだと被災地の行政職員の口からこぼれた。また、南海トラフが動いた際に逃げる間もなく数十メートルの津波に襲われると想定されている場所に立つ施設からは、そこからの移転は費用的に難しいということで防災の話をしたときに口をつぐんだと取材をした新聞記者に伺った。

そのような中でさまざまな要因から、その場所から逃れることができない今の生活をベースに「どのように命を守るか」といった点で防災や減災を考えなければならない。

震災後に改正された災害対策基本法では、住民等の円滑かつ安全な避難の確保の観点から、「高齢者、障害者等の災害時の避難に特に配慮を要する者について名簿を作成し、本人からの同意を得て消防、民生委員等の関係者にあらかじめ情報提供するものとするほか、名簿の作成に際し必要な個人情報を利用できることとすること。」と定められた。

しかしさまざまな課題を含んでいることは2015年12月から2016年1月かけてNHKが行った「災害と障害者に関する自治体アンケート」3や、同時期にNHKとJDFが共同で行った「障害者と防災に関する当事者アンケート」4の結果に表れていた。

調査の結果をみて

今回の調査は東日本大震災のあった2011年以降のことを全国の自治体に聞いているが、回答した自治体の76%が指定避難所開設経験有りと答えている。その開設時期であるが、震災時(2011年)よりこの2年(2016~17年)の方が多く、その地域も全国に広がる。これは日本中で避難所開設をしなければいけない規模の自然災害が起こっているということである。

その自然災害が発生した際に避難所を開設しても、そこに住民が避難できなければ意味がない。その避難行動を起こす際に支援が必要な方を洗い出し、計画を立てるものとして避難行動要支援者名簿を作成することになっているが、それが実際に役に立つのかが問題である。

これに関し、名簿から必要な人が漏れないようにするためにどのようにするかといった設問があったが、広報などでの周知や文書を発送するだけではなく、保健師や民生委員、自治会など、当事者へ関わる人が直接働きかけると答えた自治体に見られる特徴は、指定避難所を開設した経験がある自治体に非常に多く、避難所開設経験が無い自治体に比べ保健師の動員が2倍、民生委員と自治会の活用が4倍弱と大きな差が見られた。

これは経験から生み出された方法であり、逆を言えば、そのように丁寧に働きかけをしなければ理解が進まず、命を助けることができない問題であることの表れであると考える。

今回の調査で名簿作成をされていない自治体は3.3%であり、数字的には少ないと感じるのだが、実際避難行動を起こす際に重要になる個別計画の作成ができていない自治体を見ると37.6%という3分の1以上となっていることが明らかになった。

本調査でのコメントではないのだが、名簿作成後、個別支援計画を作成する場合、その要支援者を支えるだけの人を確保しなければならず、そのため簡単に名簿を作成できないと自治体職員も悩んでいた。命を守ることを真剣に考えれば考えるほど難しい問題に直面し、その表れでもあるのではないだろうか。

自治体の実情はどうか--数字では見えない部分

この名簿作成にあたり、本調査では見えない部分で気になったことがあった。

問1-1で名簿作成の際、必要な人が漏れないようどのような対応をとっているかという設問で、手帳情報の活用とチラシや広報での呼びかけという回答があり、それら2つを合わせるとかなり大きな数になった(複数回答のため詳細は分からず)。

ここで私が感じたのは防災・危機管理関係課等、福祉課以外が主導した場合、障害特性に配慮された周知がなされていたかという点での危惧である。

実際、私が関わった自治体では、障がい当事者へ制度説明と避難行動要支援者名簿への掲載と緊急時の個人情報開示の同意書を求めた文書が配布されたが、それを受け取った当事者は「難しい」「意味が分からない」「家族も読み込むのが大変で後回しにしてしまった」との話をされていた。実際、防災担当と福祉担当の事前の想定の数には程遠く危機感を持ったそうだ。そのため、文書での説明ではなく、対象者へ保健師が訪問し説明をする形に切り替えたそうである。そのときの話として、もう二度と目の前で大切な市民を亡くしたくない。そのためには名簿などが無くても必要な方を助けるという気持ちではあるが、市で想定している方に関しては丁寧に説明をしていくという話であった。

また、この調査を行う前に私が住む自治体はどうなっているのであろうかと気になったため、総務省の調査結果を見たのだが、「名簿作成」「個別計画策定」は100%となっていたのだが、私の作業所のメンバーに個別計画が作られた形跡や同意書を取られたこともなかった。この点について、市役所に問い合わせを行った結果、法改正前の災害時要援護者名簿を作成した時からの流れで他市町村とは違う形での独自の取組の結果であるとの回答があった。これは、行政からのトップダウンではなく、市内各地域からのボトムアップでの取組になっており、各地区の自主防災組織が地域の要支援者をどのように支えるのかを定めるため、実際避難行動を起こす際には実効性はあるものになっているとのことであった。しかし取組がなされている地域からの報告が全数となり、数字は常に100%となるため報告の数字からでは課題も見えなくなってしまう。この問題に関しては行政も認識しており、地域に任せているため地域差がかなり出てしまい、全ての地域が同じ取り組みを出来るようになるためにはまだまだ時間がかかるだろうとのことであった。

このように取組指針から見ればイレギュラーな形での取組が実は多く存在し、同じ数字でも自治体ごとの取組にかなり差があるのではないかと感じた。

さいごに

障害者への防災対策を考えた場合、<1>実効性のあるものが作られているのか。<2>本当に必要な方に周知でき、理解されているのか。<3>避難行動の担い手をどのように解決するのか。

最低これが解決できなければ災害弱者に命を守ることは厳しいのではないかと思う。そのためにも数字では見えない、それぞれの地域での取り組みを共有することも必要だと感じた。


  1. 「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2011年11月号 pp.61-63 フォーラム2011「東日本大震災における障害者の死亡率」 NHK「福祉ネットワーク」取材班
  2. 「平成25年版 高齢社会白書」p55 第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向 6(7)東日本大震災における高齢者の被害状況
  3. 「障害者と防災」に関する当事者アンケート 2016年1月 日本障害フォーラム(JDF)、NHK
  4. 「災害と障害者」に関する自治体アンケート 2016年1月 NHK