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東京・新宿 障害当事者と取り組む地域防災・減災

合田 茂広 一般社団法人ピースボート災害ボランティアセンター理事

東日本大震災では、障害者の死亡率が健常者の2倍以上。生死はもちろん、発災後に直面する困難の多さを考えれば、障害者の防災・減災にもっと力を入れるべきだ。ただ、言葉にするのは簡単でも具現化させるのはなかなか難しいもの。2016年から3年間、東京都新宿区で試行錯誤した地域防災・減災の取り組みを紹介したいと思う。

PBVと「しんじゅく防災フェスタ」の取り組み

ピースボート災害ボランティアセンター(以下、PBV)は、国内外の被災地支援や防災・減災の活動を行っている。首都直下地震への備えも重要なテーマだ。PBVが事務所を置く新宿区の外国人比率は都内でも最大。新宿駅は世界一の利用者数で、通勤・通学・買い物・観光などの昼間人口は夜間の約3倍。一人暮らしや集合住宅も多い。障害者が利用する施設もたくさんある。多様で流動的な人が集まるのが新宿区の特徴だ。「この街が大災害に見舞われたら?」と想像すると不安ばかりだが、全国各地で毎年のように想定外とされる災害が多発するなか、「30年以内に70%以上の確立で発生」と想定内の首都直下地震への対策が求められていた。2016年に始まった「しんじゅく防災フェスタ」は、みんなが楽しく学べる防災・減災イベントとして、行政、企業、学校、NPO、ボランティアが一緒に企画・運営を進めてきた。新たな地域課題に行政とNPOが一緒に取り組む協働事業制度を活用し、私たちPBVは3年間、実行委員会の事務局を務めた。子ども向けの防災体験「イザ!カエルキャラバン!」、外国語でのワークショップ、被災地へのチャリティ、NPOや企業、防災関係機関のブース出展、200人を越える若いボランティアの活用など、実行委員会でさまざまな工夫を凝らし、実施1年目から約3,000人が来場する人気のイベントとなった。

障害者の参加、そこでの気づき

ただ、「みんなが集まった」と呼ぶには障害者の参加がほとんどなかった。1年目を踏襲しつつ、「障害者等の(災害時)要配慮者」を2年目の重点テーマとした。とはいえ、障害分野が専門ではない私たちPBVには経験や知識がなく、イベントの実行委員会とは別に有志でワーキンググループ(分科会)をつくった。「参加したい人が参加したい会に参加すればOK」というゆるやかな集まりだったが、障害当事者が不在のなかでの進行はしないことは決めた。勉強会や情報・意見交換会を重ねるうちに、当事者が参加しやすい場づくりはもちろん、彼ら彼女らが活躍できる役割は何かを考える癖がついたように思う。ワーキンググループの定例会の参加者は次第に増え、多いときには約30名が参加。そして、2年目の「しんじゅく防災フェスタ」には、100名以上の障害当事者が来場した。

ワークショップ・勉強会の写真

進めるなかで、たくさんの気づきがあった。ひとつは福祉避難所のこと。地域の防災訓練に参加した際、ヘルパー経験者が視覚障害の男性に「福祉避難所って知っていますか?」と質問した。彼はちょっと驚いた様子で、「自立生活している僕は対象じゃないだろうから、近くの指定避難所は知っていますが、福祉避難所のことは調べていません」と答えた。自宅で家族のサポートはあるが、出勤も仕事も一人でできる。特別な医療・福祉行為が必要なわけではない彼は、(在宅避難という選択肢はあるが)自宅を離れるのであれば一般の避難所で周辺住民と共同生活を送ることを想定していた。おそらく当事者である彼の想定が正しい。福祉避難所の制度が「障害があればみんな福祉避難所へ」と間違った認識につながるかもしれないと危機感を覚えた。ワーキンググループが主催し、障害当事者参加型で行った「HUG(避難所運営ゲーム)~要配慮者版~」では、福祉避難所の必要性と同時に、一般避難所で包摂すべき要配慮者の対応を具体的に考えることができた。

障害者は支援される側の存在だけではなく、支援する側の一員

障害者だって防災・減災を学びたい。当たり前だが、はじめは抜けていた視点だった。ワーキンググループでは、参加する障害当事者に持ち回りで小さな勉強会の講師を務めてもらっていた。支援者が障害について理解するためだ。一方で、イベント実行委員会では、ボランティアリーダー向けの各種講義やワークショップ、地域での実践経験などを組み合わせた人材育成のプログラムを実施した。一部には障害者理解や障害体験も組み込んだが、各家庭の備え、救命講習、災害ボランティア、防災まち歩きなど、ほとんどの内容は一般向け。有料の研修も含め、障害当事者も自主的に参加するようになった。障害者向けに企画された防災・減災の研修はいつも「障害者と○○」とどこかで線が引かれ、かえって学びが深まらないという人もいた。3年目のイベントでは、全盲でアイメイトユーザーの視覚障害者と電動車椅子ユーザーの女性が、学生や社会人、外国人と一緒にボランティアリーダーを務めた。イベント当日も複数の障害当事者団体がブースや体験コーナーを企画した。アンケートには、「親子で防災を学びたいと思って参加したが、子どもに障害体験をさせることもできてよかった」などの声があった。障害者は支援される側の存在だけではなく、支援する側の一員としても十分に活躍していた。

イベント(防災クイズ)の写真

専門性がなくても、「やってみよう!」から始まった

ワーキンググループを立ち上げる当初、障害当事者や支援者の皆さんと長期で一緒に活動するのがはじめてという不安はあった。予算も人員も限られていた。ずっと障害分野で活動を続けてきた研究者や支援者に相談した。「障害者の防災・減災は、大切なテーマ。ただ、障害分野の人間は、障害の種別や団体間のしがらみがあって新しいチャレンジがなかなかできない。大切なことをちゃんと大切と言ってくれてありがとう」と背中を押してもらった。専門家や施設関係者もグループに入り、知り合いの障害当事者にも参加を呼びかけてくれた。もちろん、失敗したことも迷惑をかけたこともたくさんある。その方が多い。ただ、上手くできない不安があるからこそ、わからないことがあるからこそ、たくさん相談をして、たくさん助けてもらえた。首都直下地震を考えるとき、障害の有無や立場の違いを越えて助け合える関係、一緒に汗を流した経験こそが役に立つのかもしれない。