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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)分担研究報告書

知的・発達障害者に対する災害時の情報支援に関する研究

研究分担者 深津玲子 国立障害者リハビリテーションセンター

研究協力者 細川淳嗣 県立広島大学保健福祉学部コミュニケーション障害学科
      東江浩美 国立障害者リハビリテーションセンター
      鈴木繭子 国立障害者リハビリテーションセンター

研究要旨

 知的・発達障害者に災害準備期、急性期、復旧・復興期における情報提供のあり方を明らかにすることを目的に、研究1と研究2に分けて検討した。
 研究1「発達障害者支援センターに対する災害復興期における情報支援のニーズ調査」では、全国の発達障害者支援センターが東日本大震災後に行った災害支援ならびに防災・減災への取り組みを明らかにした。震災直後から平成23年度には74%、平成24年度には44%の発達障害者支援センターが何らかの活動を行っていた。災害時や防災に関する資料については、発達障害児者に特化した資料の認知度が高かった。一方、要援護者支援全般に関する資料の認知度は低く、発達障害者支援センターへの情報提供の必要性が示唆された。
 研究2「大規模災害時における特別な支援ニーズを持つ人への情報提供のあり方の検討」では、大規模災害発生時における特別な支援を必要とする被災者に対してインターネットを通じた情報の提供のあり方および、被災者の救援や支援を求める発信をより有効に拾い上げ支援に結びつける仕組みのあり方について検討を行った。検討を行うためのデータとして本研究では、東日本大震災時にインターネット上で流通したSNSのテキストデータおよび発達障害情報・支援センターのホームページへのアクセス状況に関するデータを用いた。
 その結果、SNSでの発達障害情報・支援センターホームページへの言及が増加するのに伴い同様の傾向で同センターホームページへの当該SNSを経由してのアクセスが増加したが、情報全体に占める割合は少なかった。ホームページによる情報発信の入口としてSNSは機能しうるが、発災時に情報の流通量を増やす仕組みが必要であることが示唆された。一方、被災者からの支援を求める情報の発信はごく少数であり、実際に支援に結びついたと確認できたケースはその中でも少数であった。今後は、センターからの情報発信方法や支援を求める被災者からの発信を拾い上げる仕組みを平時から準備し、災害時を想定した訓練を行う必要性が示唆された。

研究1:発達障害者支援センターに対する災害復興期における情報支援のニーズ調査

A.研究目的

 本調査は、全国の発達障害者支援センター(以下、支援センター)が東日本大震災後に行った復興支援ならびに防災・減災への取り組みについて把握することを目的とする。復興や防災に向けての地域での取り組みを明らかにし、その際に必要な情報支援について考察する。
 初年度に災害復興期における情報支援のニーズ調査を行い、災害時情報支援ガイドラインを作成することを目指す。

B.研究方法

 支援センターは全国の都道府県ならびに政令指定都市に86か所(平成24年11月現在)設置されている。このうち発達障害情報・支援センターと全国の支援センター間で共有して使用している会員サイトに登録のあった84か所を対象に、震災後の活動についてアンケート調査を行った。回答時期は平成24年10月~11月。内容は、発災(平成23年3月11日)直後から平成24年度末までに支援センターが業務として行った(もしくは予定している)活動に関して、多岐選択式および自由回答方式で回答を得るもので、質問1~13で構成されている(資料1参照)。アンケートは会員サイトを通じて配布し、各支援センターは会員サイト上で回答を記入した。
 (倫理面への配慮)国立障害者リハビリテーションセンターの倫理審査委員会において、対象が個人ではなく機関であるため倫理審査の必要なしという結論が出ており、倫理上の問題はないと考える。

C.研究結果と考察

C-1.調査の概要

 アンケート集計総数は80件である(回収率95%)。発達障害者支援センター全国連絡協議会の区分に従い、全国を6つのブロックに分け集計・分析を行った。

表1 回答のあった発達障害者支援センター
-ブロック別内訳-

ブロック回答数
北海道・東北11
関東12
中部・北陸17
関西15
中国・四国12
九州・沖縄13
80

注)震災後の平成23年度に開所した支援センターが1か所、平成24年度に開所が2か所含まれている。

C-2.調査結果①災害支援や防災に関する活動

1)震災直後から平成23年度の活動

 震災直後から平成23年度(平成23年4月~平成24年3月)に支援センターとして取り組んだ災害支援および防災に関する活動について、質問2~5の回答をもとにまとめたものが図1である(2か所は24年度に開設のため、計78か所について集計)。58か所(74%)の支援センターが災害支援や防災について何らかの活動を行っていた。
 災害支援すなわち図1に示す「東日本大震災への対応」にあたる活動では「震災に関する相談への対応」が26か所(33%)と最も多く、北海道・東北ブロックの80%、関東ブロックの67%の支援センターが取り組んでいた。「転入者への支援」は23か所(29%)が実施しており、関東ブロックの58%を筆頭に中部・北陸ブロックが29%、関西ブロックが27%の実施で、障害のある人が広域避難を余儀なくされたことがうかがわれた。ついで「物品や情報の提供」19か所(24%)、「被害や影響についての情報収集」17か所(22%)と続いた。
 「防災に向けた活動」では、「防災に関する研修会を開催」の9か所(12%)が最も多く、「個別避難計画の作成や情報提供」が7か所(9%)、「センターの災害時活動計画の作成」が7か所(9%)であった。これらは北海道・東北ブロック、関東ブロック、中部・北陸ブロックの割合が多かった。「その他」の活動では、支援センターの所属している法人等からの職員派遣、義援金の送付や募金活動、市民への啓発活動があげられた。
 この期間の相談の増加の有無について(質問6)は、「特に変化がなかった」が最も多く54件(69%)であった。増加した相談内容では「心身の変化(不眠、パニック、余震を怖がる等)」が16か所(21%)と最も多く、ついで「生活の変化(福祉サービス、転居、仕事等)」が11件(14%)であった。それぞれ北海道・東北ブロックと関東ブロックで7割前後を占めており、相談の増加は主にこの地域で起こっていた。ついで「災害への準備や防災」6か所(8%)、「放射線に関すること」4か所(5%)だった。

2)平成24年度(予定も含む)の活動

 平成24年度に実施した(もしくは予定している)「防災に向けた活動」について、質問11~12の回答をもとに図3にまとめた。「特に実施していない」が80か所中45か所(56%)であった。
 実施した(もしくは予定している)活動では、「要援護者施策について情報収集」が10か所(13%)、「福祉避難所設置施策への参画・協力」が9か所(11%)、「要援護者支援施策へ参画・協力」が7か所(9%)など、管内の福祉避難所の整備を含む要援護者支援施策への働きかけを始めていることがうかがえた。また「支援センターの災害時活動計画を作成」が9か所(11%)あった。
 23年度もしくは24年度のいずれかに防災に向けた何らかの取り組みを行った支援センターは計46か所(58%)となり、多かった活動は「防災に関する研修会を開催」が計12か所(15%)(23年度9か所、24年度4か所、うち1か所は23年度も重複して実施)、「要援護者支援施策について情報収集」が計14か所(18%)(23年度4か所、24年度10か所)、「支援センターの災害時活動計画の作成」が計13か所(16%)(23年度4か所、24年度9か所)であった。

C-3.調査結果②-災害関連資料の認知度-

 質問8~10では国(助成事業を含む)が発行している障害者および災害時要援護者への災害対策関連資料の認知度を調べた(図4)。
 日本自閉症協会発行の「自閉症の人のための防災・支援ハンドブック(平成24年3月)」は78か所(96%)とほぼすべての支援センターが認識していた。ついで発達障害情報・支援センターの「被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(平成23年3月)」が61か所(76%)、「発達障害児・者のニーズを踏まえた障害福祉サービス等の利用支援に関する調査報告(平成24年8月)」が54か所(68%)と続き、「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック(平成23年4月)国立特殊教育総合研究所」が29か所(36%)の認知度であった。
 これらはいずれも震災後の平成23年~24年に発行され、内容は発達障害に特化しておりページ数が少ない冊子形式の資料であった。「自閉症の人のための防災・支援ハンドブック」は初版である「「自閉症の人のための防災ハンドブック」が平成20年に発行され、印刷物としても関係諸機関に配布された上に、震災後に新聞で紹介されたことにより認知が高かったと推測される。また、「被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ」と「発達障害児・者のニーズを踏まえた障害福祉サービス等の利用支援に関する調査報告」は、すべての支援センターに送付、あるいは会議等で周知・配布されたことも認知度アップに有効だったと思われる。
 一方、他の資料はあまり知られておらず、「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン(平成20年6月)日本赤十字社」について知っていたのは12か所(15%)、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン(平成18年3月)内閣府」は8か所(10%)と、要援護者支援に重要と考えられるガイドラインでさえ低い認知度であった。要援護者支援全般を対象にした資料であること、それぞれ平成18年、平成20年の比較的古い資料であること、必ずしも各々の支援センターに配布されたわけではないことが認知度の低い要因であると考えられる。

D.結論

  • 平成23年度には全国の74%の支援センターが災害支援もしくは防災に関する活動を実施していた。相談件数は、東北や関東を中心に増加していた。
  • 平成24年度には44%の支援センターが防災に関する何らかの活動を実施していた。支援センター管内の発達障害児者を含む要援護者支援に対して、一部ではあるが参画し始めていることがわかった。
  • 発達障害に特化し全国的に既に周知されていた資料については認知度が高かった一方、災害時要援護者施策全般に関する資料への認知度は低かった。発達障害情報・支援センターウェブサイト自体の認知度は高いため、今後情報の取得先のひとつとなりうると考えられる。

 震災後に増加したニーズは心の変化、生活の変化の順であり、東北地方と同様であった。

E.健康危険情報

特になし

F.研究発表

1.論文発表

なし

2.学会等発表

Reiko Fukatsu. Disaster preparedness; Translating recommendations of the World Report on Disability into action. Open Forum on The World Report on Disability. Hong Kong, March 8th 2013.

図1 震災直後~平成23年度(平成24年3月まで)に実施した活動

図1 震災直後~平成23年度(平成24年3月まで)に実施した活動

図1のテキスト

図2 震災後に増加した相談内容

図2 震災後に増加した相談内容

図2のテキスト

図3 平成24年度に実施した(もしくは予定している)活動

(参考として、平成23年度に実施したセンター数も記載した)

図3 平成24年度に実施した(もしくは予定している)活動

図3のテキスト

図4 災害関連資料の認知度

図4 災害関連資料の認知度

図4のテキスト

研究2:大規模災害時における特別な支援ニーズを持つ人への情報提供のあり方の検討

A.研究目的

 本研究の目的は、2011年3月11日に発生した東日本大震災時に、発達障害に関する情報がどのようにインターネット上で流通していたかを分析することによって、災害時においてインターネットをどのように活用することが障害児者にとって有効な支援につながるのかを検討することである。

B.研究方法

 東日本大震災の際にインターネット上で流通したソーシャルネットワークサービス(SNS)の一つであるtwitter(ツイッター)のデータ、発達障害情報・支援センター(以下、情報センターと記載)のホームページ(HP)へのアクセス記録の分析を行った。

B-1.分析に利用したデータ

B-1-1.Twitterのテキストデータ

 震災発生当日の2011年3月11日から一週間分の日本語による全てのtweet(ツイート)をTwitter Japan株式会社より提供された.データは、UTF-8のテキストファイルでid、 user_id、 datetime、 textのフォーマットで提供された.また、提供されたデータにはtweetテキスト中に改行が入っているものが含まれていたため、分析前にデータのクリーニングおよび成型を行った(以降単にtweetデータと記載)。なお、この作業にあたっては岡崎直観氏よりクリーニングのためのプログラミング言語pythonで動作するスクリプトの提供を受けた。

B-1-2. 発達障害情報センター(以下、情報センター)ホームページへのアクセス記録情報

 情報センターでは、震災発生後4日目からセンターのホームページ(以下、HP)上に発達障害のある被災者の避難所での生活を支援するための情報や避難所などでの対応方法を掲載して情報発信を開始した。このHPへのアクセス状況を一つずつ確認しながら分析するために、アクセス数、参照元などの情報をGoogle Analyticsを用いて取得した。

B-2.分析の方法

B-2-1.Tweetデータの分析方法

 全tweetから発達障害に言及したtweetを抽出するために、発達障害関連のキーワードによりpythonで動作する抽出スクリプトを用い抽出した。なお、本スクリプトはGraham Neubig氏から提供を受けた。その際、表1-①のように表記のゆれや略語を考慮し検索語を作成した。以下、この抽出されたデータを元データと記載する。
 元データから特定のtweetを抽出するために上記の抽出スクリプトに適宜キーワードを入れ、当該スクリプトを実行し、キーワードが入ったtweetを抽出した。これら抽出されたtweetは、tweetの出現傾向について調べるため、時間ごと若しくは、日ごとの頻度のヒストグラムを作成した。

表1.抽出キーワードの一例(正規表現で記述)

発達(障害|しょうがい|障碍|障がい)|自閉(症|的)|PDD|PDD|
ADHD|ADHD|アスペ|アスペルガー
(情報|支援)(センター|センター)

 また、twitterには最初に発信されたtweet (original tweet)を読んだユーザが文面を変えずにさらにtweetする(retweet)機能がある。このretweet機能によりoriginal tweetが多くのユーザに拡散する。そのため、original tweetの文面を抽出キーワードとしてtweetを抽出し時系列に並べ頻度をグラフ化することにより、どのような情報が時間経過と共にどのように拡がったのかについて明らかにできる。
 元データからoriginal tweetを抽出するために、元データのtweetテキストをソートしテキストの文頭に記号やretweetを示すRTがないテキストをoriginal tweetとみなして抽出し、テキストの内容を目視により読み内容によって7分類した。

B-2-2.情報センターHPへのアクセスの分析

 Google Analyticsを用いて震災発生後1週間のアクセス数や参照元などのデータを日ごとに集計し、参照元ごとに推移をまとめた。また、平時の状況と比較するため、震災発生前の2011年2月一ヶ月の同じデータも取得し、参照元別アクセス数の日平均を算出した。

B-3.倫理面への配慮

 本研究の分析に用いたデータからは、個人を特定するようなIPアドレスやSNSにおける個人名やそれと紐付けられているID番号などの情報を削除し個人情報の保護に関する配慮をした。

C.研究結果

 提供された全tweetは179,286,297件あり,発達障害に関連するtweetとして抽出された元データには、12,185件(全tweetの0.006%)のtweetが含まれていた。元データから抽出された発達障害に関係するoriginal tweetは848件(元データの7.96%)であった。

C-1.情報センターHPでの情報発信とtweet

 元データ12,185件中、情報センターHPについて言及がありテキスト中に情報センターHPのURL(短縮も含む)が含まれるtweetはoriginal tweetである3件も含め144件(元データの1.18%)あった。tweet数の日変化を図1に実線で示す。
 一方、情報センターHPへのアクセス数は2011年3月11日から3月18日の間に全部で9,401件、一日平均1,175件であった。そのうちtwitterを参照元とするアクセスは期間中に238件あった。一方、2011年2月の平均は一日あたりの全アクセス数は704件あったがtwitterが参照元であったアクセスは0件であった。Twitterを参照元とする情報センターHPへのアクセス頻度推移を図1に破線で示す。
 2011年3月15日の情報掲載以前はtwitterを参照元とするアクセスはないが、15日からのtweetの頻度の推移に合わせて、twitterを参照元とするアクセスが急増し、tweetの頻度が減少するのに合わせアクセスも減少した。

図1.Tweet頻度とtwitter参照元のアクセス推移

図1.Tweet頻度とtwitter参照元のアクセス推移

図1のテキスト

C-2.Original tweetについての分析

 抽出された848件のoriginal tweetの分類とその件数を表2に示す。

表2.Original tweetの分類と件数

分類件数
参考情報やお知らせ、URLを貼っての誘導261
避難所等での配慮やそのお願い249
本人、家族などからのSOS(困っているなど)22
被災地の障碍自社への共感や慮り88
その他82
障害児者向けの寄付・義捐金について12
無関係、震災と直接関係ないと判断されるもの134

 「参考情報やお知らせ、URLを貼っての誘導」の多くは、災害時の発達障害児者に対する支援や避難所での対応を掲載している情報センターや日本自閉症協会などののHPを紹介しURLを貼って誘導するものであった。他には、通常から発達障害について発信をしている関係の専門家や親の個人的なblog(ブログ)における災害時における発信への誘導が見られた。
 「避難所等での配慮やそのお願い」は、避難所において発達障害児者が混乱していた場合の対応や分かりやすい伝え方、障害ゆえの避難所という新規な場への慣れにくさ、ルールの分かりにくさがあることについて周囲の避難者や避難所での支援者に対して理解を求める内容が見られた。また、津波や地震の映像を繰り返し流すことによって予想される発達障害児者に対する影響を述べ報道機関に配慮を求めるtweetも見られた。なお、今回分析したtweetの中では、不適切な内容と明らかに分かるものはなかった。
 「被災地の障害児者への共感や慮り」は、被災地にいる本人が混乱をしていて自身や家族が大変な思いをしているのではないか、阪神淡路大震災の体験から避難所での生活の大変さについて言及しているものが見られた。
 「無関係、震災と直接関係のないと判断されるもの」には、大きく分けて2種類あった。1つは、抽出キーワードが含まれていて発達障害に関連する内容であるが、震災には直接関係なく書籍の情報提供や平時にもされると思われる話題であった.もう一つは、抽出キーワードに含まれる語が発達障害とは全く関係のない用語の一部となっておりそのため抽出されたものであった。例えば"PDD"では、偶然に全く関係のないURLの文字列と一致したため抽出されたものや「アスペ」というキーワードで「アスペオリティ」「アスペクト比」といった単語を含むtweetが抽出されていた。

C-3.個人発信のtweetが有効な支援に繋がった例

 東日本大震災時のtweetについて分析をする中で少数ではあるが、個人から発信された支援を求めるtweetがその後の支援に結びついた例があった.必ずしも一般化できない部分もあるが、分析の結果を示し、今後につながる考察を試みる。
 被災者が直接あるいは、被災者の状況を聞いた友人などが何らかの助けを求めることを目的として発信したと思われるoriginal tweetは、全original tweet 848件中22件であった。その内容は次のように4つに分類できた。①発達障害を抱えており停電や断水、テレビ番組の変更が予告無く起こるといった通常と違う状況でパニックになり困っている(12件)、②発達障害を抱えた人の救助や人探しのお願い(4件)、③普段服用している発達障害に対する薬がなくなり困っている(2件)、④避難所という環境に適応できず困っている(1件)などがあった。
 この中で④のケースで問題解決に繋がったようであったため、詳細に検討した。一方、その他のtweetについては、解決されたかどうか今回のtweetデータの中からははっきりしなかったため詳細な分析は行わなかった。
 ④のoriginal tweetをキーワードとして元データよりtweetを抽出したところ、original tweetを他のユーザが引用して発信したtweet (retweet)は1,109件みられた。このtweetのretweetの状況を示すヒストグラムを図2に示す.

図2. retweetの状況のヒストグラム

図2.retweetの状況のヒストグラム

図2のテキスト

 これによるとoriginalのtweetが発信されてから短時間にretweetがあり、情報が急激に拡散したことがうかがえる。約5時間後には有益な情報提供がありoriginal tweetの発信者から解決のお礼のtweetが行われている。
 このtweetに関する情報の流れを図3に示す。①まず被災地にいる友人(発達障害の子どもを養育する親)から避難所に適応できなく困っているという話を聞き、②それをoriginal tweetとしてこの友人の地域、困っている内容が発信された。③そのtweetが図2のようにretweetされ拡散した。④このtweetを見た当該地域の支援センターの職員が自分のところに連絡をとるようにoriginal tweetを発信したユーザに連絡を取り、⑤その情報を友人に伝えた。

図3.問題解決に繋がった例の情報の流れ

図3.問題解決に繋がった例の情報の流れ

図3のテキスト

D.考察

D-1. 情報発信の方法についての考察

 図1に示すようにtweet頻度の推移に合わせtwitterを参照元とするアクセスが推移した。また、tweet頻度に比べtwitterを参照元とするアクセスが多いことから、自分自身でretweetしなったユーザであってもHPへはアクセスしたと考えられる。このことからtwitterのようなオリジナルな文面を容易に転載できるSNSにアクセスリンクを掲載してユーザが発信することは、情報の発信が行われていることを周知する手段として機能しうることが示された。
 一方で、全体のtweetに比べるとごく少数であり、またtweet頻度の減少に伴いtwitterが参照元のアクセスが減った。このことから、より有効な手段として機能させるためには、長時間にわたって多くの人が発信を行うようなサービス側の仕組みの工夫と平時から災害時を想定したSNSを含めたインターネットを使った情報発信の訓練およびその効果の検証の必要性が示唆された。

D-2. SNS上での個人が発信する情報の考察

 C-3に示した例について、個人の発信がSNS上を介して解決されるための発信者側の要因と情報が拡がる過程における要因について考察する。
 発信者側の要因としては、どこで、どのような障害をもった人が、どのようなことで支援を求めているのかについて情報があったため、それを読んだ支援者がフォローすべきと認識できた可能性がある。一方、情報の拡がる過程における要因としては、短時間で多くのretweetがあり多くのユーザの目に触れやすかった可能性や偶然に情報を受け取った当該地域の支援センターの職員がretweetしたユーザのフォロワー(あるユーザが自分のtwitterで特定のユーザのtweetを常に表示できるようにしておくこと)であった可能性もある。
 今後の大災害でSNSが要支援者に対する必要な支援の要請を発信できる手段となるためには、発信者側には、必要な情報が入った(どこで、どのような障害をもっていて、どのような支援が必要か)情報発信をすることが求められる。一方、情報が拡がりそれを受け止めて適切な支援につなぐという観点からの仕組みや準備が必要であると考えられる。たとえば、インターネット上に流通する支援を求める発信をリアルタイムで検索するような仕組みや被災地の外からこれらの仕組みを使って検索し、検索された情報に対して被災地にいる支援者に対し適切なフィードバックを行えるような、専門家の組織化が考えられる。

E.結論

 本研究では、大災害時における発達障害児者を支援する情報流通のあり方について東日本大震災時におけるインターネットを使った情報流通に関するデータを用いて分析・考察を行った。
 その結果、インターネットが大災害時における有効な情報流通のための手段となるためには、平時における持続的な情報発信が必要であることや情報発信の仕方についての訓練が支援センターなど機関だけでなく支援を求める個人についても必要であることが示唆された。また、発信された情報をリアルタイムに検索できるような仕組みの準備や被災地の外からそれらの活動を支援する専門家の存在が必要であることも示唆された。

F.健康危険情報

 記載すべき事項なし

G.研究発表

1.論文発表

細川淳嗣, 深津玲子, 斗内沢邦男, 東江浩美, 鈴木繭子, 北村弥生: 大規模災害時における特別な支援ニーズを持つ人への情報提供のあり方の検討. 第75回情報処理学会全国大会講演論文集,2013-03

2.学会発表

細川淳嗣, 深津玲子, 斗内沢邦男, 東江浩美, 鈴木繭子, 北村弥生: 大規模災害時における特別な支援ニーズを持つ人への情報提供のあり方の検討. 第75回情報処理学会全国大会, 仙台, 2013-03-08.

3.その他

細川淳嗣, 深津玲子, 斗内沢邦男, 東江浩美, 鈴木繭子, 北村弥生: 大災害時における特別な支援ニーズを持った被災者に対する情報提供に関するプロジェクト. 東日本大震災ビッグデータワークショップProject311報告会, 東京, 2012-10-28. 発表会スライドおよび記録動画
https://sites.google.com/site/prj311/event/presentation-session/presentation-session4#TOC--1 (2013-1-30アクセス)

H.知的財産権の出願・登録状況

 なし

資料1
アンケート

質問1:
記入者のお名前をお書きください。

質問2:
平成23年3月11日の東日本大震災時(地震発生時から平成23年3月末まで)に、貴センターが貴センター管内で災害支援に関して行ったことは何ですか。【複数選択可】

□貴センターの登録者や相談者について、安否確認をした。
□貴センター管内において、震災による被害や影響について情報を収集した。
□被災地に出向き、震災で被災した発達障害児・者の支援を行った。
□被災地の発達障害児・者や家族、組織や施設等へ物品や情報を提供した。
□震災で被災し、貴センター管内に転入した発達障害児・者の支援を行った。
□貴センター管内に居住する発達障害児・者に対して震災に関する相談に応じた。
□特に行った活動はない。
□その他

質問3:
質問2で“その他”と回答された方は、内容を記述してください。

質問4:
東日本大震災後(平成23年4月~平成24年3月まで)、貴センターでは、災害支援や防災に関して、どのような活動を行いましたか。【複数選択可】

□貴センター管内において、震災による被害や影響について情報を収集した。
□震災で被災し、貴センター管内に転入した発達障害児・者の支援を行った。
□貴センター管内に居住する発達障害児・者に対して震災に関する相談に応じた。
□被災地に出向き、震災で被災した発達障害児・者の支援を行った。
□被災地の発達障害児・者や家族、組織や施設等へ物品や情報を提供した。
□発達障害児・者に対する災害時の対応や防災に関する研修会を開催した。もしくは講師を務めた。
□発達障害児・者に対して、個人避難計画の作成に協力した。もしくは災害時の対応や防災に関する情報を提供した。
□保育所・幼稚園、学校や福祉施設、企業などの機関に対して、避難計画の作成に協力した。もしくは災害時の対応や防災に関する情報を提供した。
□行政、警察、消防等に対して、発達障害児・者に関する災害時の対応や防災に関する情報を提供した。
□貴センター管内の要援護者支援施策について情報収集した。
□福祉避難所設営へ協力した。
□貴センターの災害時活動計画を作成した。
□その他
□特に行った活動はない。

質問5:
質問4で“その他”と回答された方は、内容を記述してください。

質問6:
東日本大震災後(震災直後~平成24年3月)、貴センターで増えた相談や問い合わせは何ですか。【複数選択可】

□東日本大震災による発達障害児・者の心身の変化への対処方法の相談(例:不眠、パニックが増えた、余震を怖がる)
□東日本大震災による発達障害児・者の生活の変化への対処方法の相談(例:福祉サービスについて、転居、仕事・雇用について)
□放射線に関すること(例:発達障害児・者に放射線を説明する方法)
□災害への準備や防災に関する相談
□特に増えた相談・問い合わせはない。
□その他

質問7:
質問6で“その他”と回答された方は、内容を記述してください。

質問8:
貴センターでは、災害対応や防災に関する下記の資料について知っていますか。【複数選択可】

□「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」(平成20年6月)、日本赤十字社(厚生労働省) http://www.jrc.or.jp/saigai/shiryo/index.html
□「災害時要援護者支援検討会 検討報告」(平成18年3月)災害時要援護者の避難対策に関する検討会(内閣府) http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/060328/index.html
□「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年3月)災害時要援護者の避難対策に関する検討会(内閣府) http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/060328/index.html
□「災害時要援護者対策の進め方について(報告書)」(平成19年4月)災害時要援護者の避難支援における福祉と防災との連携に関する検討会(内閣府) http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/070419/index.html
□「災害時要援護者の避難支援に関する調査結果報告書」(平成21年3月)内閣府(防災担当) http://www.bousai.go.jp/3oukyutaisaku/youengosya/index.html
□「被災者の心のケア都道府県ガイドライン」(平成24年3月)内閣府 http://www.bousai.go.jp/4fukkyu_fukkou/kokoro.html
□「災害時要援護者の避難対策事例集」(平成22年3月)災害時要援護者の避難対策に関する検討会(総務省消防庁) http://www.fdma.go.jp/html/new/youengosya_hinantaisaku/index.html
□「東日本大震災における学校等の対応等に関する調査研究報告」(平成24年3月)文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323511.htm
□「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(平成24年3月) http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323513.htm
□「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」(平成23年4月)独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 http://www.nise.go.jp/cms/6,3758,53.html
□「自閉症の人のための防災・支援ハンドブック」(自閉症のあなたと家族の方へ、支援する方への2種)社団法人日本自閉症協会 http://www.autism.or.jp/bousai/index.htm
□自治体(都道府県もしくは政令指定都市)の要援護者支援等に関するその他資料
□上記の資料で知っているものはない。

質問9:
発達障害情報・支援センターの『被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ』(平成23年3月にウェブサイトに掲載)について【複数選択可】

□知っている  □読んだ  □紹介したことがある  □知らない

質問10:
発達障害情報・支援センターの『発達障害児・者のニーズを踏まえた障害福祉サービス等の利用支援に関する調査報告』(平成24年8月~9月にウェブサイトに掲載)について【複数選択可】

□知っている  □読んだ  □紹介したことがある  □知らない

質問11:
今後、貴センター管内で起こり得る災害に関して、貴センターとして取り組む必要があると考えていることのなかで、今年度すでに取り組んでいること、もしくは今年度内に取り組む予定であることを選んでください。【複数選択可】

□発達障害児・者に対する災害時の対応や防災に関する研修会を開催する。
□発達障害児・者に対して、個人避難計画の作成に協力した。もしくは災害時の対応や防災に関する情報を提供する。
□保育所・幼稚園、学校や福祉施設、企業などの機関に対して、避難計画の作成に協力する。もしくは災害時の対応や防災に関する情報を提供する。
□行政、警察、消防等に対して、発達障害児・者に関する災害時の対応や防災に関する情報を提供する。
□貴センター管内の要援護者支援施策について情報収集する。
□要援護者支援施策へ参画、協力する。
□福祉避難所設置施策への参画、協力する。
□貴センターの災害時活動計画を作成する。
□特に実施していない。
□その他

質問12:
質問11で“その他”と回答された方は、内容を記述してください。

質問13:
貴センター管内に「災害時要援護者支援に関する情報や体制」「要援護者名簿の運用」「要援護者支援に関する防災教育や啓発」の好事例がありましたら、自治体名(都道府県、政令指定都市、市町村等)、あるいは組織名(福祉組織、当事者組織等)をお書きください。