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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)分担研究報告書

災害時の避難候補場所の選定における電子地図とGISの活用

研究分担者 筒井澄栄 国立障害者リハビリテーションセンター

研究代表者 北村弥生 国立障害者リハビリテーションセンター

研究協力者 村島完治 国立障害者リハビリテーションセンター

研究要旨

 電子地図および地理情報システムを用いて、埼玉県所沢市内の一次避難所あるいは福祉避難所、行政区の災害対策本部からの距離に対して被覆できる地域を調べた結果、一次避難所から市内居住地域を被覆するには半径1㎞が必要であることがわかった。最寄りの一次避難所、福祉避難所、まちづくりセンターまで徒歩で移動できない場合には、移動方法の工夫、あるいは、別の避難場所の選定が必要であると考えられるため、個別避難計画の作成にあたっては、移動方法別に要援護者の移動能力を測定し、避難場所を選定する必要があり、地図情報システムは、その参考に使えると考えられる。すでに募集した市内で個人避難計画を作るモニター50名に関しては、半径1Km圏内に一次避難所がない場合が8名あった。次年度は、モニターの移動能力を測定し、移動方法と避難場所を選定する計画である。

A.目的

 災害時に要援護者が避難するのにふさわしい場所を検討することは全国的なニーズがある。被災経験のない埼玉県所沢市における障害者に対する調査では、避難する候補として、自宅から最寄りの一次避難所が最も多く回答された。また、現在あるいは過去に使用した学校及び事業所も避難所候補として多く回答された。「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」(厚生労働省、平成20年)でも、「災害持要援護者の避難支援に関する検討会報告書」(内閣府、平成25年)でも、「一次避難所に特別な配慮を行う部屋や部分を設けること」が勧められている。また、所沢市では、市立福祉施設はすべて福祉避難所に指定されている。そこで、本研究では、自宅から最寄りの一次避難所あるいは市立福祉施設が徒歩圏内にあるかを確認することを第一の目標とする。また、徒歩圏内にない場合に利用できる場所の候補を選定するための道具として電子地図あるいは地理情報システム(GIS: geographic Information System)を試用する。

B.方法

 GIS(ArcMAP Ver.10およびBusiness Analyst、ArcGIS社)を用いて、一次避難所から道路を介して500mおよび1㎞で到達できる範囲を描画した。また、一次避難所に加えて、市内で福祉避難所に指定されている高齢者施設と障害者施設、11行政区の中核であり災害対策本部が置かれる「まちづくりセンター」(元公民館)もあわせて、道路を介して500mおよび1㎞で到達できる範囲を描画した。描画には、道路あるいは日中人口を背景として表示した。
 全国電子地図帳Zi15(ゼンリン)には、所沢市内の一次避難所、福祉避難所となる市立障害者施設と市立高齢者施設、市が福祉避難所の協定を結んでいる国立障害者リハビリテーションセンター、同国立秩父学園、及び埼玉県立所沢特別支援学校、及び、行政区の災害対策本部となるまちづくりセンター11か所の住所情報を入力した。さらに、個別避難計画の作成モニターに応募した50名の住所を合わせて入力した。

C.結果

(1)一次避難所からの距離表示

 一次避難所からの道路による移動で500m圏の表示を図1、2に示した。図1には背景に日中人口を、図2には背景に道路情報を表示した。また、図3には、一次避難所からの道路による移動で1Km圏を表示した。図3では、市の周辺地域のほかに被覆できなかった地区は4か所あったが、いずれも住民が少なく、近隣に福祉施設あるいは公共施設があった(図1の黒番号)。すなわち、最大地区は米軍基地、2番目の花園町は茶畑が多いが公共施設もある。3、4番目の地区は地区内あるいは近隣に福祉施設があり、5番目は国リハであった。
 一方、50名のモニター自宅住所から最寄りの一次避難所までの距離は平均718.3m(幅149.1m~1.59Km)で、500m以上は25名、1Km 以上は8名であった。

(2)電子地図への避難資源の表示

 全国電子地図上に、一次避難所、市立福祉施設(高齢者施設、障害者施設)、消防署、警察署、病院、診療所を表示し、モニター50名の住所から災害時に活用できる資源を参照し、避難訓練に使用できるようにした(図*)。

D.考察

 高齢者の歩行速度は約40m/分と言われていることから、500m移動するのに12.5分を要する。直感的に、日常生活で歩きなれていない高齢者が徒歩で500mを移動することは容易でないと考えられる。したがって、多くの高齢者および歩行が困難な障害者は、一次避難場所に移動する方法、あるは別の避難場所を事前に準備しておく必要があると考える。自宅から移動できる範囲を、徒歩の場合、背負われる場合、車いすの場合、担架の場合、自動車の場合について、手配できる人員数と移動時間を、事前に確認しておくことは重要である。高齢者および障害者は、天候や体調により運動機能に差があるため、最悪の場合の準備が必要であると考える。また、本研究でのシミュレーションには、坂道及び信号、災害時の建物の崩壊による道路状況の変化は考慮されていない。実際の避難を考える上では、平時の道路状況を事前に調査し、災害時の予測をする必要がある。

E.結論

  • 埼玉県所沢市においては、居住地区は一次避難所から1Km圏内に概ねあった。
  • 最寄りの一次避難所、福祉避難所、まちづくりセンターまで移動が困難な場合、移動を経験したことがない場合には、移動方法の工夫あるいは、別の避難場所の選定が必要であると考えられる。したがって、個別避難計画の作成にあたっては、要援護者の移動能力を測定し、避難場所を選定する必要があり、地図情報システムは、その参考に使えると考えられる。
  • すでに募集した市内で個人避難計画を作るモニター50名に関しては、半径1Km圏内に一次避難所、福祉避難所、まちづくりセンターがない場合が8名あった。次年度は、モニターの移動能力を測定し、避難場所を選定する計画である。

F.健康危険情報

特になし

G.研究発表

1.論文発表

筒井澄栄、北村弥生. 災害時の避難候補場所の選定における電子地図と地理情報システムの活用. .福祉のまちづくり学会, 2013.

2.学会発表

筒井澄栄、北村弥生. 災害時の避難候補場所の選定における電子地図と地理情報システムの活用. .福祉のまちづくり学会, 2013.

図1 ★印の一次避難所から500m圏内を示した。背景の濃淡は日中人口を示す。

図1 ★印の一次避難所から500m圏内を示した。背景の濃淡は日中人口を示す。

図2 ★は一次避難所を、線は道路を示す。

図2 ★は一次避難所を、線は道路を示す。

図3 一次避難所から500m圏内を薄い色で、1Km圏内を濃い色で示した。

図3 一次避難所から500m圏内を薄い色で、1Km圏内を濃い色で示した。

図4 電子地図に表示した避難所になりうる地域の資源(○で表示)。下は拡大版。

図4 電子地図に表示した避難所になりうる地域の資源(○で表示)。下は拡大版。