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聴覚障害者災害救援中央本部の活動

聴覚障害者災害救援中央本部

1.「東日本大震災聴覚障害者救援中央本部」から
「聴覚障害者災害救援中央本部」へ

 2011年3月11日に起きた東日本大震災に対して、東日本大震災聴覚障害者救援中央本部を全日本ろうあ連盟内に設置し、聴覚障害者に対する支援を行ってきた。
 今後起こりうる災害に対して緊急に対応できる支援体制が必要なことから、これまでの「東日本大震災聴覚障害者救援中央本部」を「聴覚障害者災害救援中央本部」(以下「本部」とする)に名称を変更して活動を継続することになった。この組織には、全日本ろうあ連盟、全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会の三団体から、運営委員と事業担当委員を各2名ずつ出して本部組織を構成している。
 主に、年2回の本部会議、2つの支援班(東日本大震災支援班、地域災害支援班)による活動を行っている。また、災害発生時には、その地域の聴覚障害者の状況を把握し、必要な支援を行っている。

2.活動内容

(1)全国防災対策会議

 新たな聴覚障害者災害救援体制の下、東日本大震災への支援と今後起こりうる災害に対する防災、地域ネットワーク・支援体制作りに関する課題等を協議し、全国の聴覚障害者と連帯して防災に取り組むことを目的に全国防災対策会議を開催した。
 第1回は、2013年3月16日(土)、17日(日)の2日間、神戸市の「のじぎく会館」において、各県からの代表者を集め、119人の参加者の下、講演(総合防災情報研究センター長 田中淳氏)と分科会を行い防災の意識付けを図った。
 第2回は、2014年11月1日(土)、2日(日)の2日間、福島県郡山市の郡山市民文化センターと郡山ビッグアイ・7F市民交流プラザにおいて、各県からの代表者を集め、108人の参加の下、講演(漫画家 山本おさむ氏)と分科会を行った。郡山市にはまだ仮設住宅が建ち、震災後の復興がまだ実現できていない現状を知ることができた。
 2回開催した全国防災対策会議については、多くの方々に災害時における聴覚障害者の抱える困難さなどを理解していただくため、それぞれ報告書を作成した。

第1回全国防災対策会議(兵庫県)
第1回全国防災対策会議(兵庫県)

(2)地域防災学習会の開催

 地域における聴覚障害者・手話関係者の防災意識を高め、災害時に地域の住民と共に支え合い、安心して避難生活が送れるようにするため「地域防災学習会 講師派遣事業」を実施した。経費は本部が負担し、講師は本部の運営委員および事業担当委員が担った。
 29都道府県と東海ブロックの延べ34か所に講師を派遣した。この学習会では、全日本ろうあ連盟が出版した『守ろう! LIFE』と『手話で防災』を活用して学習を行った。
この学習会を開催することにより、改めて地元の地理的条件や情報収集などについて考える機会となり、支援体制の見直しを図ることに繋がった。

地域防災学習会(埼玉県)
地域防災学習会(埼玉県)

(3)全国実態調査

 2014年8月に調査用紙を各都道府県の聴覚障害者災害救援地域本部(以下、地域本部)に配布し、防災についての実態把握を行って、2014年11月の全国防災対策会議(福島県)に調査のまとめを報告した。
 調査対象は47都道府県、回答は41都道府県で回答率は85%であった。
 都道府県の多くに地域本部が組織され、災害時における対応などを検討している状況にあり、学習会を開催し意識向上に努めていることが分かった。
 安否確認や連絡体制については、まだ、取り組みが進んでいないという課題も明らかになった。

(4)被災3県訪問調査と追跡調査

 これまで2013年と2015年の2回、被災3県に対して訪問調査を行った。訪問するに当たり、事前にアンケート調査を実施し、状況を把握したうえで実際の協議の場に臨んだ。
 第1回目の訪問は、2013年12月22日(日)に宮城県、2014年1月21日(火)に福島県、2月2日(日)に岩手県を訪問し、現状と問題点について協議した。
 2014年は、震災直後の支援について、平常時に準備すべき事などを明らかにするため、被災3県で追跡調査を行った。調査から、「聴覚障害者だけでなく、他の障害者との連携も必要であり、お互いの理解が深まった。」「行政との要援護者台帳の開示協定がなかなか進んでいない。」「仮設住宅に住んでいる聴覚障害者に継続的な心のケアが必要。」などが明らかになった。
 第2回目の訪問は、2015年8月30日(日)に宮城県、11月7日(土)に福島県、11月21日(土)に岩手県を訪問した。
 大震災後、4年半が経過するものの、いまだに仮設住宅などで生活をしている聴覚障害者がおり、「実際、4年半が過ぎても『非日常』が日常化しただけで、何も復興していない。」との言葉を重く受け止める必要がある。

(5)『災害時ろう者支援に関するリーフレット』の作成

 災害時に聴覚障害者への支援を円滑に進めるため、医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護師会、保健師会などの専門機関に理解してもらうためにリーフレットを作成した。
 作成部数は5,000部で、医療関係および日本障害者協議会(JD)に加盟している障害者団体など34か所に配布した。
日本医師会と日本薬剤師会には2015年5月15日(金)、また、日本看護協会には5月27日(水)に本部に訪問し、リーフレットなどの関係資料を手渡し、災害時において医療関係者が聴覚障害者に対して円滑に支援が行えるよう情報交換を行った。

災害時ろう者支援に関するリーフレット
『災害時ろう者支援に関するリーフレット』

(6)行政への要望

 これまで2回の要望行動を行った。
 2014年4月18日(金)に総務省、厚生労働省、内閣府に本部委員5人が訪問し、要望事項について協議した。
 また、2015年9月14日(月)に総務省、厚生労働省に本部委員8人、9月15日(火)に内閣府に本部委員3人が訪問し要望内容を伝えた。
 主な要望事項は、①地域防災計画を策定する際には障害当事者の参画を、②避難所運営マニュアルに障害者への情報提供手段などの事項を明記するよう働きかける、③被災した聴覚障害者の生活再建のため、手話通訳者・要約筆記者・ろうあ者相談員を公的に派遣できるようにする、④聴覚障害者支援の拠点となる「聴覚障害者情報提供施設」を全ての都道府県・政令指定都市に設置してほしい、⑤緊急時における地方局で製作するものを含む全ての災害関連テレビ番組に「手話」と「字幕」を付けてほしいことなどを訴えた。

内閣府に要望書を提出
内閣府に要望書を提出

(7)内部組織における活動マニュアルの作成

 本部において、これまで災害時における活動体制が明確でなかったため、災害が起きたときに具体的にどう行動するのかをあらかじめ決めておく必要が出てきた。
 そのため、本部における『災害に関わる活動マニュアル』、『聴覚障害者災害救援対策本部設置マニュアル』、『聴覚障害者災害救援対策本部支援活動マニュアル』を作成した。これらのマニュアルに沿って災害発生時に速やかに行動がとれるようにした。
 また、本部と行動を共にする必要から、本部と連動して、それぞれ三団体においても行動マニュアル等を作成した。

(8)中平幸一防災特別会計

 福岡県に住んでいた故中平幸一氏の代理人から本部へ寄付の申し出があった。この寄付金を元にして被災3県に対して支援することにした。
 この寄付金で、先に記述した『災害時ろう者支援に関するリーフレット』の作成の一部や聴覚障害者災害救援福島県本部が災害時の準備や心構え、避難所の確認、防災に関する手話や関連書籍の紹介、福島県内の市町村の福祉課連絡先一覧や緊急通報用FAXシートなどを記載した『聴覚障害者防災マニュアル』の作成を助成するなど地域本部の活動を支援した。

(9)ネパール地震におけるカンパ活動

 2015年4月25日にネパールで発生した地震は甚大な被害をもたらした。ネパールろう連盟等を通じて情報収集をし、ろう者や手話通訳者などの関係者が被害を受けたことが判明した。そのため、本部として全国に呼びかけカンパ活動を行い支援することにした。
 集まったお金は、本部から全日本ろうあ連盟「アジアろう児・者友好プロジェクト」を通じて活用してもらった。

(10)その他

 災害時における福祉避難所の開設において聴覚障害者情報提供施設と協定を結んでいる施設が増えてきている。滋賀県立聴覚障害者センター、富山県聴覚障害者センターなどがあげられる。
 また、災害時の要援護者への支援に関することでは、東京都が『災害時における手話ボランティア支援に関する協定書』の一部を改正し、区市各地域との連携を強化した聴覚障害者支援体制の構築を進め、神戸市が『神戸市における災害時の要援護者への支援に関する条例』を策定し個人情報を要援護者支援団体に提供できることになった。三重県でも『災害時における災害時要援護者の支援に関する協定書』を策定し、三重県と伊勢市が協定を結んだ。その後、三重県内の玉城町、度会町、大紀町、南伊勢町、鳥羽市においても協定を結ぶなど広がりを見せている。
 さらに、2015年3月に行われた国連防災世界会議(宮城県仙台市)には、本部から委員1人を派遣し、聴覚障害者の情報保障や生活支援に関する現状と課題について訴えた。

3.今後の活動について

(1)拠点作り・ネットワークづくりについて

 宮城県では、大震災を受けてから「みやぎ被災聴覚障害者情報支援センター(愛称:みみサポみやぎ)において支援活動を続けてきた。このことをきっかけに正式に聴覚障害者情報提供施設が2014年12月1日に設置された。
 拠点ができたことにより、聴覚障害者への情報収集や情報提供が一元化され、迅速な対応が行うことが可能となった。このことから早急に都道府県および政令指定都市に必ず最低1か所の聴覚障害者情報提供施設を設置することが望まれる。
 聴覚障害者情報提供施設を中心にして、当事者のみならず関係団体とも繋がり、普段から情報交換できる状況を作ることと、発災時に速やかに支援体制を立ち上げることのできるようなネットワークづくりが重要である。

(2)理解啓発について

 災害時の自助・共助・公助をより強固にするためには、日常的な近所との触れ合いが大切である。聴覚障害者がいることや、その障害特性を市民や行政に理解してもらうことが死亡者ゼロに繋がる。医療関係など関係団体のホームページに『災害時ろう者支援に関するリーフレット』をリンクして情報を流す、避難訓練に聴覚障害者の参加を促す、防災計画に聴覚障害者の対応について記述する、防災対策委員会に当事者の参加をしていくなどの取り組みが必要である。

(3)情報保障について

 災害時に聴覚障害者が一番困ることは、情報が届かないことである。そのことから、不安を感じ、ストレスをためたり人間不信になったりして生活再建ができなくなってしまうことに繋がってくる。
 手話などの視覚的な方法で話ができる状況をできるだけ早く構築することが求められる。そのためには、手話通訳者、要約筆記者、支援者や相談員を行政として被災地に公的派遣できる体制が必要である。
 また、災害時におけるテレビ放送については手話通訳や字幕を付けるなどの対策が必要なことは言うまでもないが、携帯電話を使った情報発信、文字情報を表示するデジタルサイネージなど視覚で情報収集できるような環境を整備していくことを行政に求めていく必要がある。

 2014年9月27日、御嶽山の噴火では、残念なことに聴覚障害者のご夫婦が亡くなるという痛ましい事故が起きた。2015年9月9日、10日の関東・東北豪雨では、茨城県に住む聴覚障害者が自主避難して助かったものの1階が水に浸るなどの被害に遭われた。
 このように今後起こりうる災害に速やかに対応するため、防災に関する活動をより充実していかなければならないと考える。

(文責 渡辺 正夫)