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東日本大震災被災障がい者支援 ~震災5年目にあたって活動報告と提言~

AAR Japan [認定NPO法人 難民を助ける会]
野際 紗綾子、加藤 亜季子

1.東日本大震災被災障がい者への緊急支援の経緯

 当会は、震災2日後から被災地入りし多岐にわたる支援活動を実施してきたが、中でも、延べ約18万人の被災者への緊急支援物資の配付においては、被災した障がい者や高齢者を重点的な支援対象としてきた。東日本大震災における障がいのある方々の死亡率(2.06%)が全体の死亡率(1.03%)の2倍にのぼったことが、NHK「福祉ネットワーク」取材班によって発表されたが、命が助かったあとも困難な避難生活が続いたのが大きな理由である。
 2011年3月14日に全体状況の把握のため宮城県庁障害福祉課を訪れたところ、課長から「各施設へ安否確認をしたいのだが電話がつながらない。物資配付時に安否確認もお願いします」と県内の障がい者施設のリストをいただいた。その後、車の荷台に支援物資を満載しながら福祉施設を順にまわり、食料や衛生用品の配付と安否確認の両方を行っていった。同時に、宮城県障害福祉課より「停電時に人工呼吸器が止まらないよう、3日以内に自家発電の燃料となる軽油や灯油を3,000?調達しなければならないのだが、その目処が立っていない」との連絡を受け、大至急手配し福祉施設に届けた。被災1か月後からは、一刻も早く福祉施設が事業を再開できるよう、事務機器や家電、福祉機器の配付を本格化した。
 同様の状況は、復旧1 段階に移っても形を変えて継続していった。震災3か月後からは、障がい者・高齢者施設の修繕や作業所のパン製造機械といった機械設備の設置を通じた再建活動を行ってきた。また、福祉施設を利用する方々が移動するために必須の手段である車両の提供も開始した。厚生労働省は2011年4月26日付で「東日本大震災に係る社会福祉施設等災害復旧費国庫補助の協議について」の通達を出したが、通常は支給まで1~2年かかるうえ、一部経費は施設負担となるなど、どこまで迅速に対応できるか未知数であった。そこで、各県の福祉課や日本障害フォーラム(JDF)と相談のうえ、国庫補助金の支給まで体力が持つか危ぶまれる施設を中心に修繕活動を進めた。
 緊急・復旧段階においては、海外での災害支援の経験や、迅速性や柔軟性といった市民セクターの特徴を活かしながら、人道的な観点から、本来行政が担うべき社会権保障の補完的役割を果たすことを目指した。東日本大震災では、多くの被災地の行政機関が甚大な損害を被ったためである。各県の福祉課、JDF、宅老連絡会、社会福祉協議会などと連絡を取りながら、状況把握と物資配付を同時に行ったことが、迅速かつ柔軟な活動につながったと考えている。

2.2013年以降を中心とする復旧期から復興期にかけての取り組み

 2013年以降も当会は岩手県、宮城県、福島県の三県で特に支援の手が届きにくい障がい者の支援を重点的に実施した。緊急期から大きく変わった点は、復興のスピードが県によって、市町村によって、団体によって、ひいては個人によって異なり、復興が進むにつれその度合いは強まる一方であった。それに伴い支援のニーズもそれぞれ異なり、障がい福祉作業所の復旧、障がい児放課後デイサービスなどの整備や遊具の設置、排痰補助装置の提供、特別支援学校に対する放射線量測定器の提供、福祉移送サービスの支援、防災訓練の実施と多岐にわたった。この中で当会の支援の柱の一つとなったのが、就労継続支援事業所の支援である。
 内閣府が平成27年9月に発表した障害者基本計画の推進状況によれば、日本全国に就労継続支援事業所は10,000件近くある。一般就労率は年々増加しているとはいえ、身体障がい者の就業率は一般の就業率と比べ2~3割、知的障がい者は20歳代でも一般の6割程度低く、年齢が上がるにつれ急激に低下していく(内閣府「平成24年版障害者白書」)。一般就労が困難な障がい者にとって就労継続支援事業所は、社会に参加する入口としての役割を果たしている。
 福祉サービス事業所に通っている障がいのある方々の多くは自立訓練の一環として授産品の生産に携わっている。福祉サービス事業所での1か月の工賃は、就労継続支援事業所では全国平均22,898円、A型事業所69,458円、B型事業所では14,437円(厚生労働省「平成25年度工賃(賃金)の実績について」)であり、自立して生活をするにはほど遠い水準である。もともと少ない工賃の支給であったうえに、震災により古くからの地域の顧客を失ったことから福祉サービス事業所で請け負う仕事が少し減り、それに伴い工賃は更に減額されたり、仕事や日中の活動が制限される状況が続いていた。また、岩手県や宮城県では沿岸地域に位置する福祉サービス事業所は移転を余儀なくされたが、福島県では、県外に避難する福祉サービス事業所の職員も多数おり、県内に残る障がい者が十分な福祉サービスを受けられなかったり、障がい者が社会的・経済的活動に従事できる機会が減少する状況となった。この状況では、たとえ福祉サービス事業所が復旧したとしても、このままでは障がい者が社会に出て、経済的に自立を目指すにはほど遠い状況となった。
 もちろんさまざまな施策は講じられた。平成23年度第3次補正予算において甚大な被害を受けた被災地の障がい福祉サービス事業所が復興期に安定したサービス提供を行うことができるよう「被災地障害福祉サービス基盤整備事業」が開始され、その後も「障害福祉サービス基盤整備事業」などが実施された。例えば岩手県では、各福祉圏域/拠点にコーディネーターを配置するとともに、支援の必要な事業所などに支援アドバイザーを派遣し、①障害福祉サービス事業所への支援、②障害者就労支援事業所への支援、③その他東日本大震災における課題に対応するための支援の業務が行われた。
 しかし、これらは福祉サービス事業所の再開支援に加え、防災事業や実態調査などさまざまな事業を実施する必要があり、また専門家派遣などのソフト面の支援が中心であった。また、単年度事業であったことから、2年以上の中長期計画を立てることが難しく、被災地の事業所は復興の道筋を描きにくい状況にあった。被災者が仮設住宅で新たな生活を歩み始め、被災前に通っていた福祉サービス事業所の利用を再開しはじめたこと、福祉施設の復旧が進みその機能を回復したことが相まって、福祉サービス事業所の事業拡大、利用者の工賃向上のための支援の依頼が多数当会に届いた。
 事業拡大、工賃向上には複数の課題が背景にある。まず、福祉サービス事業所では多くの場合、福祉の勉強をしてきた職員が多く、また職員数が限られるなか、日常の業務に加えて商品の開発にかかる情報収集やその検討は困難であった。また、障がい者施設の商品は素材が良いものが多いが、他商品が目立ったり、優先調達推進法などの施策があるにも関わらずその浸透が遅れており、たとえ新商品を開発したとしても販路が少ないという課題もあった。これに加え、震災後は東北地方の食料品に対する放射能にまつわる風評被害にも悩まされた。抱えている課題は生産している商品によって、また各事業所によってさまざまであった。
 当会は被災地の福祉団体からあがる支援の要望を一つ一つ精査した。復旧が求められる団体には緊急期に引き続き、①機材提供、場合によっては事業所を修繕した。復旧を終えて通常の運営が再開でき、さらに新規事業に取り組み始めた団体には、②福祉サービス事業所製品の開発や③福祉サービス事業所で製作した商品の販売促進のための支援を実施した。
 障がい者福祉サービス事業所の職員を対象としたセミナーでは広く商品開発の知識を広め、新事業だけでなく、既に扱っている商品の改良にも役立てられた。その一方で、事業を立ち上げたばかりの事業所においては、事業所としての機能を整えるため机やキャビネットなどのオフィス機器を整備した。復旧が進み、事業の先を見据えている事業所に対してはさらなるステップとなるよう、専門家の派遣を行い、共に商品を開発し、製品の質の向上を図った。

3.東日本大震災被災者支援活動を通じて見えてきた課題

 支援を続けるなかで課題もあった。複数の事業所を傘下にもつ社会福祉法人、利用者の多い事業所など比較的規模が大きい事業所は比較的迅速にその機能を回復し、運営も軌道に乗りやすかった。しかしその一方で、中小規模事業所や震災後に新たな福祉サービスを開始した福祉サービス事業所は安定した事業運営にはほど遠い状況にあった。
 平成25年3月岩手県社会福祉協議会いわて障がい福祉復興支援センター「岩手県障がい福祉サービス事業所運営状況等調査・支援事業 結果報告書」によれば、平成24年7月に岩手県に登録している「障がい福祉サービス事業所」の約7割の事業所で職員数が20人以下、約5割が10名以下であり、中小規模の事業所の多さが目立つ。
 こうした事業所は利用者が少ないために利用料収入が少なく、また職員数が少ないがために経営に不安を抱える事業所も多い。しかし、中小規模事業所は、きめ細やかな配慮が必要な障がい者へ柔軟な対応をすることも可能であり、地域での存続が強く望まれる。そこで当会は中小規模事業所への支援を強化する必要があると考えた。例えば、JDF被災地障がい者支援センターふくしまは原発事故で避難している11の福祉サービス事業所などをたばね手工芸品の製作やお菓子づくりを計画していた。当会はその商品の開発から販売まで支援を行うことで小規模事業所への支援を実施した。

4.将来への展望、そして今後想定される災害への備え、提言

 当会が支援を実施した事業所は100件を超えた。このように各地で支援を実施できたのは、当会の活動を支えてくださっている個人、企業などの支援者のおかげであることは言うまでもない。
 加えて、各地の障がい者団体の果たした役割を特筆すべきであろう。当会が支援を届けた先の多くは障がい者団体からの情報によるところが大きかった。緊急期においてはもちろんのこと、復旧・復興期においても、その重要性は極めて高かった。前述のとおり、復旧・復興期に入り求められた支援は、「個別のニーズに合致した」支援である。障がい福祉サービス事業所を運営しておらず、また東北地域でいわゆる「新参者」である当会がタイムリーに被災地の状況を把握できたのは、JDFをはじめとする障がい者ネットワーク団体があったからと言っても過言ではない。東日本大震災の被災者支援を実施するなかで日ごろの障がい者関連団体間のネットワークの必要性を痛感した。とりわけ、中小規模の事業所は地域で果たす役割が大きいにも関わらず、情報が得にくく、また行政からの情報収集でも名前があがらないこともある。次の災害時には迅速にかつ広範に支援を届けるため、各事業所が日ごろから障がい者ネットワーク団体や地域の行政とつながり、その存在をアピールすることが求められる。また、当会のような支援団体は常に情報交換をできる関係をこうした団体と構築しておくことも必要である。
 被災地にA型事業所がないことも課題であると感じた。B型事業所がさまざまな取り組みをしているため、作業の多様性はあるものの、A型事業所がないということは障がい者の就労の場の選択肢が限られており、また一般就労へのかけ橋が少ないということでもある。一人でも多くの障がい者が社会に参加し、また経済的自立が実現するようA型事業所の増設にも期待したい。
 当会は今後も原発事故により避難が続いている福島県を中心として東日本大震災被災者の支援や障がい者のものづくりを通じた障がい者の社会参加推進を支援していく予定である。


1 本文章では、「復旧」を東日本大震災前の状態に回復すること、「復興」を復旧するだけでなく、長期的な視点をもってさらに良い状態を目指すことと定義する。