音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

図書館における視覚障害者等へのサービス充実のための調査研究報告書

肢体不自由者と知的障害者の読書

都立八王子盲学校
三崎 吉剛

1.肢体障害者と視覚障害者の読書におけるインターフェースの比較

 視覚障害者は、まったく視力を使えない「全盲」の方と部分的に視力が使える「弱視」の方に類別される。この弱視者には、「まぶしさ」「視野欠損」「強度の近視」といった3つの因子が重畳されているといわれる。(1)弱視者の見え方を、補うために「フォントサイズ」「フォントデザイン」「文字と地のコントラスト」などを、その人にとって適正なものに調整する。

 たとえば、「まぶしさ」をおさえるために、黒字に白の文字を使用するといった事もある。また、見えにくさを補うために「音声読み上げ機能」を併用することもある。これによって、「眼の疲れ」を避ける事ができる。

 さて、肢体不自由者は文字を読むときの困難は、上肢の不随意運動によることがある。たとえばCPの人は、ATNRのため、画面を注視することが困難という事が多くある。すなわち、画面を注視しようとするとその反対の方へ視線がいってしまうのである。このことの繰り返しで、読書を継続するのが困難になることもある。また、PMDの所見として、筋力の低下のため文字を追う事が困難である事がある。

 以上に、おおざっぱな比較であるが、弱視者への文字のフォントサイズや音声読み上げの補助の機能は、CPやPMDの方の読書の助けとなるのである。

2.ページめくり機

 通常の本を重度の上肢障害者が読もうとすると、まず、本の位置のセット、ページをめくるという操作などに困難が生じる。このことは、学校教育段階の肢体不自由者が、教室で教科書を使用するときもまったく同様である。この困難を補うための工夫のひとつとして「ページめくり機」というものがある。(2)(3)このページめくり機は、スイッチでセットされた本のページをめくるという機械である。重度の肢体不自由者が自分自身に適合したインターフェースを使ってこの「ページめくり機」を操作し、読書をするという事例がある。(4)(5)

 ところで、一般的にページめくり機は、確実なページ送りに困難があるとされている。また、特殊な機械であるために、価格も高価格になってしまう。そこで、「視覚障害者のため録音図書が製作されるようになった後、録音図書は他の障害を持つ人々にも明らかに役立つと理解されるようになった。

 視覚障害者以外の障害者達が抱える読書困難は、すでに介護支援センター(vardsinstitution)によって様々な器具で補助する手段が模索され始めていた。読書台、ページめくり補助器具、多面レンズ眼鏡(乱視用補助器具)、マイクロフィルム図書などだが、それらは障害者達にとって充分な補助とは言えなかった。機械的な器具を使って本を読むことは、彼らにとって大変だった。」(7)という指摘がある。

3.スウェーデンの録音図書館と肢体不自由者の利用

(6)によれば、スウェーデンでは、録音図書は日本のように視覚障害者のみに貸し出しが許されているのではない。それは、いままで論じてきた理由で、肢体不自由者にも貸し出しがありうるということだけではなく、他の「本へのアクセスが困難な人」に貸し出しをしている。「印刷字を読めない障害のある方々は録音図書を借りる権利があります。つまり、視覚障害者、身体障害者、読み書きに障害がある方、失語症、知的障害者、聴覚障害者(聴覚トレーニングのために)、慢性疾患、健康回復期の方々です。診断書は必要ありません。」

 実は、多くの国々ではこのような多様な「読書障害者」に録音図書を貸し出しているのです。残念なことに、日本の方が例外と言っていいように思う。

 我が国では、録音図書は、著作権法によって、盲学校や点字図書館でしか作れない。また、使用者も視覚障害者のみに限定される。車いすに乗った方が、録音図書を点字図書館にいって借りようとしても借りる事は規則上できない。

 さまざまな障害者への録音図書の貸し出しの状況は資料(7)にある。

4.知的障害者と読書

 中軽度の知的障害者は、Webアクセスにあたって漢字がうまく読めないという問題が生じる。こうしたことを解消するブラウザがある「ひらがななび」(9)というソフトである。また、米国には、WYNNというソフトがある。これは、ブラウザ、ワープロ、辞書、メーラーなどの機能がついた、知的障害者、学習障害者用の「シェル」である。これは、文章を読み上げる事ができるが、読んでいる部分をシンクロしてハイライトする機能がある。拡大する機能もあるので、弱視者にも便利である。このようなソフトたちが知的障害者の読書環境をよくするものである。

 先にふれたスウェーデンの録音図書館における、知的障害者の事例を紹介してみたい。「カールスタッドの国立図書館では1975年の春から開きにかけて知的障害を対象に、彼らが図書館に親しむことを目的としたコースが開かれた。その中には録音図書を聴く活動も含まれていて、その図書館では参加者一人一人にそのテープと同じ内容の印刷された図書を持たせた。一冊の本を理解できること、「読める」こと、の喜びは大きかった。何人もの参加者が貸出しサービスの利用者となった。」とある。

5.次世代デジタル録音図書とマルチメディア対応のブラウザによる読書

 デジタル録音図書規格のデイジーは、音声と文字の他に、画像を取り込みシンクロすることができるようになり、マルチメディア化した。すなわち上記のWYNNと同様のことが可能にあなった。そればかりではなく、ここでは録音された肉声とのシンクロが可能になったのである。(11)また、動画の同期も可能になりつつある。さらに、文字の拡大やフォントの変更もできる。操作は、タッチパネル、USB端子につながったスイッチ類が使用可能である。こうしたことから、肢体不自由者と知的障害者にも使いやすい環境を提供できる。(12)こうしたものが、学校教育に導入され、教科書を含む様々な資料をアクセシブルに出来ることを期待したい。

(1)弱視児の見えにくさを考慮した読書環境の整備について
中野泰志(国立特殊教育総合研究所・視覚障害教育研究部;現在、慶應義塾大学・心理学教室)
小田浩一(東京女子大学現代文化学部)
中野喜美子(岩手県立盲学校)
http://www.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/article/LowVision/reading/1993/reading1993.html
(2)ページめくり機「りーだぶる」
http://www.j-d.co.jp/4_fks/readable/r_top.html
(3)ページめくり機「りーだぶる」使用記
http://www.j-d.co.jp/4_fks/readable/sub/otasan.html
(4)ALS患者さんのための意志伝達装置「伝の心」
http://www.hke.co.jp/products/dennosin/denindex.htm
(5)「意思伝達装置『伝の心』(日立製作所)」使用レポート
http://member.nifty.ne.jp/kazu-page/education/edu-07.htm
(6)02年11月29日開催
”スウェーデンとアメリカにおける「読みに障害がある人々」への情報サービス” 講演会資料(会場:日本財団)
スウェーデン国立録音点字図書館-インガー・ベックマン・ヒルシュフェルト女史資料
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/021129/tpb.htm
(7)著作権法によって録音図書貸出しが認められないグループへの貸出し枠拡大の試みについての調査(1973:76)報告書
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/school.htm
(8)著作権法
http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html
(9)ひらがなナビ
http://kids.knowledgewing.com/
(10)WYNN
http://www.freedomscientific.com/WYNN/index.asp
(11) 講演会資料 デイジー(DAISY)とアミ(AMIS: Adaptive Multimedia Information System)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/20021101hans/daisyamis.htm
(12) DAISYの紹介
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/20021026hans/daisy.htm