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図書館における視覚障害者等へのサービス充実のための調査研究報告書

公共図書館における視覚障害者等へのサービス充実のために ~デイジーを中心に~

大阪府立中央図書館 司書
杉田 正幸

1.はじめに

 1970年代に公共図書館では視覚障害者に対するサービスが開始された。当時は対面朗読、録音図書の製作がサービスの中心であった。障害者サービスが開始され、30年となる現在は、パソコンやインターネットを中心とした新たなサービスを展開している図書館も増えてきた。また、デイジーへの取り組みに力を入れる公共図書館も増えてきている。

 ここでは、デイジーを中心に公共図書館での新たなサービスを紹介し、今後の可能性について探る。

2.公共図書館のデイジー機器及びデイジーソフトウェアの現状

 公共図書館では、ここ1、2年の間にデイジーに新たに取り組む図書館が増えている。都道府県立図書館では、東京都立中央図書館や愛知県図書館が先駆的に取り組んだ他、埼玉県立図書館、千葉県立図書館、大阪府立中央図書館でも取り組みが行われている。これらのほとんどの図書館が音声のみのデイジー図書製作に止まっているのが現状で、マルチメディアデイジーへの取り組みが行われている図書館は残念ながらないようである。

 筆者は、2002年の秋に全国の障害者サービスをしている公共図書館250館に「ITを活用した視覚障害者サービスの機器とソフトウェアについて」のアンケート調査を行った。その中で155館からの回答を得た。ここでは、デイジー関係の機器、ソフトウェアの導入状況を紹介する。

 回答は記述式を取った為、回答の方法にばらつきが見られた。

 まず、デイジー機器について紹介する。プレクスター社製のプレクストークを導入している図書館が62館であった。その中でプレクストークと回答した図書館が11館(機種名記載なし)、プレクストーク「TK-300」が26館、プレクストーク「TK-300B」が16館、プレクストーク「TK-900B」が3館、プレクストーク・ポータブルレコーダー「PTR1」が6館であった。また、カナダのビクタリーダーが3館、オタリテックのMOディスクレコーダー「DX-5」が2館であった。その他、デイジー専用録音機「A-12」が1館であった。具体的に導入されている図書館名は表1の通りである。

 次に、デイジー関連のソフトウェアについて調査した結果を報告する。筆者のアンケート実施時期には新しいソフトウェアが出ていなかった為、多くの図書館が現在では新しいソフトウェアに切り替わっている可能性がある。また、ソフトウェアについては視覚障害の利用者が使えるソフトウェアのみ回答している図書館もある為、ここでは参考程度に止めてほしい。

 日本障害者リハビリテーション協会の提供するSigtuna DAR 2.0.17Jと答えた図書館が17館、株式会社エルザから発売されているLpStudio Plus日本語版と答えた図書館が1館、日本障害者リハビリテーション協会のMy Studio PCが2館、コンバータソフト「OTARI TO DAISY」が1館であった。また、デイジー図書再生ソフトウェアとしては、日本障害者リハビリテーション協会のLPPlayerが4館、英語版のPlayback2000が1館であった。具体的な図書館名は表2の通りである。

 表1、表2から分かるように、まだ、デイジー製作ソフトウェアを導入している図書館はそれほど多くなく、今後の課題と言えよう。しかし、導入されている図書館の中で積極的に蔵書製作をしている図書館、その他では、製作を外部に委託している図書館も数館見られた。また、利用者用の機器を導入して、図書と一緒に機械を貸出する図書館も数館見られた。再生機器は比較的多くの図書館が導入しており、利用者が来館された際には使えるようにしている図書館も多くある。また、録音可能な「プレクストーク・ポータブルレコーダー」を導入し、対面朗読に使用している例も報告されている。

 パソコン用のデイジー図書再生ソフトウェアを導入している図書館は少なかった。これは、視覚障害者用にパソコンを開放している図書館が少ないことにも原因があると思う。また、パソコンは誰でも利用できる訳ではないので、導入した際には職員のサポートが要求されるので、利用に踏み切れない図書館があるようだ。

 この調査から分かるように、利用者はデイジーのニーズが高くなっているにも関わらず、情報を提供する側である公共図書館はそれら利用者のニーズに対応できていないのが現状である。地域に根ざした身近な公共図書館が、デイジーなど便利な機器、ソフトウェアを導入し、視覚障害者のニーズに答えていくことが望まれる。

3.公共図書館での他のIT技術を利用したサービス

(1)ホームページでの情報発信

 現在、全国の800館以上の公共図書館がホームページで情報提供をしており、600館以上の公共図書館が自館の蔵書検索が行える。また、インターネットで本の予約ができたり、障害者に対しては郵送貸出の申込みができたりする。視覚障害者への配慮については、画像に適切な文字での説明を加える、画面を分割して表示するフレームは使わない、検索ボタンなどはジャバスクリプトを使わない、PDFなどの情報を提供する場合にはHTMLで同様の情報を提供するなどの配慮が必要となるが、多くの図書館ホームページが視覚障害者に配慮されていないのが現状である。誰もが利用できるホームページを目指しての今後の取り組みが必要となる。

(2)インターネットの開放

 公共図書館の中でインターネットを開放している図書館が増えてきている。しかし、視覚障害者用の読み上げソフト、点字化ソフト、拡大ソフトを導入している図書館は、まだ、それほどないのが現状である。筆者の勤務する大阪府立中央図書館では2000年から視覚障害者にインターネットを開放し、図書館の本の検索、新聞記事へのアクセス、その他、調べものにインターネットが活用されている。機器の操作についても職員が対応することで、パソコンが苦手な視覚障害者にも気軽にインターネットを利用していただくことができる。今後、多くの図書館で視覚障害者にも利用可能なインターネット端末を置き、職員がそれら機器の操作に精通し、利用者に指導できる体制が求められる。

(3)OCRでの読書

 視覚障害者用の活字読み上げソフトウェアは日本では4種類ほど発売されている。公共図書館では活字資料が中心となる為、これら資料を視覚障害者が自ら利用できることが望まれる。スキャナーの上に本を置き、簡単な操作で本の内容を読み上げてくれることで視覚障害者は独力で図書館の利用が可能となる。しかし、複雑な段組の本は読めない他、図や表は読めない、確実に読む場合には不向きであるという問題もある。従って従来から行っている対面朗読サービスなどとの併用が必要となる。

(4)CD-ROMの利用

 辞書や百科事典など、音声読み上げソフトウェアなどとの併用で視覚障害者にも利用可能となる。図書館では、多くの辞書や百科事典を購入しており、それらを視覚障害者に利用可能なように整備するのが求められる。

4.録音図書ネットワーク配信の可能性

 シナノケンシ株式会社は、2001年度、日本点字図書館、日本ライトハウス、長野県上田点字図書館の協力で「視覚障害者向け録音図書ネットワーク配信システムの開発実証実験」を行った。これは、財団法人ニューメディア開発協会が平成12年度補正予算で「障害者・高齢者等向け情報システム開発事業」(経済産業省からの委託事業)として行われたものである。既存のデイジー形式の録音図書をインターネット配信し、視覚障害者は自宅に居ながらにしてパソコンからデイジー図書の視聴・ダウンロードができるという実証実験がおよそ半年間行われた。

 一方、大阪府立中央図書館では、「大阪府マルチメディア・モデル図書館展開事業」の福祉型実証実験として「録音図書ネットワーク配信事業」を平成15年4月から平成17年3月まで実施することとなった。この実証実験では、インターネットを使ってデイジー図書を配信し、視覚障害者が自宅にいながら録音図書の閲覧ができるシステムである。具体的には、視覚障害者自身が自宅のパソコンから、簡単な操作により、希望の録音図書を即時に利用できるシステムの実用化を目指すものである。

 実証実験対象地域は、概ね近畿地区に在住の視覚障害者100名程度とし、パソコン環境の条件は、Windows98以上のパソコンを有しており、画面読み上げソフトウェア、インターネット閲覧ソフトウェアの導入されたパソコンをお持ちの個人となっている。配信対象図書は、大阪府立中央図書館、日本点字図書館、日本ライトハウス、日本障害者リハビリテーション協会、全国視覚障害者情報提供施設協会のデイジー図書コンテンツを当館が著作権処理し、ネットワーク配信の許諾が得られたものとなっている。

 2003年2月から大阪府立中央図書館では、上記コンテンツの著作権処理を行っているが、2003年3月現在で、およそ700タイトルについてネットワーク配信使用許可が得られており、最終的には1000タイトルを越える録音図書を実証実験として使用できるものと考えている。インターネットで配信することについてはたとえ障害者に限定した利用であれ、著作権者にとって、許諾の得られるものではないと筆者は考えていた。最初の予想では1割から2割程度の著作権者からしか許諾を得られないのではと考えていた。しかし、現在、回答をいただいている著作権者の9割以上が、「ネットワーク配信OK」ということは大変に意義深いことであったと言えよう。

 さらに実証実験参加を希望する視覚障害者は、正式にこの事業を紹介してからおよそ10日しか満たない2003年4月5日現在で64名と大変反響も大きく、この事業に対する期待の高さを感じる。デイジー図書は見出しやページに自由に飛べたり、しおりを付けたりと検索性の高いデジタル録音図書である。今までであれば最寄りの点字図書館や公共図書館に借りたい図書を申し込まなければ聞くことができなかった。本実験では一般の人が本屋さんで立ち読みするのと同じ感覚で、図書を検索し、その一部(目次など)を視聴し、聞きたい本を選んでから、全ての内容を聞くことができるのが視覚障害者にとっては大きなことと言えよう。この実証実験が今後、各地の図書館で同様のサービスを実現する為のきっかけとなることを願いたい。

5.今後の課題

 公共図書館ではITを活用した様々なサービスが試みられている。しかし、障害者や高齢者など特に図書館利用に障害のある人に対して十分なサービスや配慮がなされていないのが現状である。IT技術により、特に視覚障害者は情報の格差を埋めることができるはずなのに、図書館はそういった人たちのことを忘れて、サービスを進めていることは大変に残念なことである。

(1)インターネットで提供する情報は誰もがアクセス可能なように配慮する

 図書館ホームページの作成指針を作り、誰もがアクセス可能なよう、配慮する。

(2)視覚障害者用機器・ソフトウェアの導入

 視覚障害者に利用可能な機器・ソフトウェアは図書館で積極的に導入し、視覚障害者が来館した際に対応できるよう配慮する。

(3)マルチメディアデイジーへの取り組み

 現在、マルチメディアデイジー図書製作を試みている公共図書館は全国的にないという現状である。マルチメディアデイジーは音声だけでなく、画像や文字情報もある為、パソコンで使用すれば弱視者には拡大して表示したり、全盲者にも文字の確認や文字列検索が容易となる。とりあえず図書館の利用案内からでもマルチメディアデイジーを作成し、普及させることが必要と言えよう。さらに、マルチメディアデイジーを全国に普及させる為の研修会の開催、ボランティアの養成を行い、これらの図書が全国的に製作できるような体制作りが求められる。

(4)デイジー出版の可能性

 現在、日本では10タイトル程度しかマルチメディアデイジー図書は出版されていない。今後、出版業界にマルチメディアデイジー図書の出版が可能なよう働きかけることが必要である。また、公共図書館は障害者にこれらの資料を貸し出す為に積極的にマルチメディアデイジーを収集することが求められる。出版点数を上げ、これら図書が一般の流通ルートにも流れていくことが今後求められる。

(5)著作権の壁

 著作権法では、点字図書は誰が作っても、ネットワーク配信しても問題とならない。しかし、録音図書は、公共図書館が作成する場合、著作権者に許諾を求めなければならない。ネットワーク配信については今の著作権法では解決できない。これら著作権法の問題を解決し、障害者の情報アクセスを保証することが障害者の読書環境の向上に繋がると考える。

(6)公共図書館の職員問題

 公共図書館には障害者サービスに精通した職員が残念ながら少ないのが現状である。ほとんどの図書館では他の業務と兼務となっている。また、専任を置いていたとしても2年~3年の行政の移動と同じく職員が変わっていってしまう。特に障害者サービスなど専門性の有する業務は長期間同じ職員が対応していくということも望まれる。さらに、デイジーや情報機器などを扱うケースが増えていく為、情報機器に精通した職員の配置が求められる。各公共図書館が障害者サービスの専門性を認め、それなりのサービス充実の為の方策を講じることが必要である。

6.終わりに

 デイジーを中心に公共図書館での最近の状況を概略的に紹介した。今後、公共図書館が地元に住む障害者の為にサービスを充実していくよう、国・地方自治体の配慮が求められる。図書館の財政が苦しく、業務委託、人員削減が行われているところも多くある。専門性の高い障害者サービスについてはさらなるサービスの充実と人員配置ができるよう、国・地方自治体の積極的な施策が求められている。