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盲老人援助マニュアル Q&A 知ってる人も 知らなかった人も これからの人も

全盲老連・盲老人援助マニュアル編集委員会

第1章 盲老人の理解と盲老人ホーム

Q1  盲老人とはどのような人をいうのでしょうか 

Q2  見えないことをどのように理解すれば良いのでしょうか

Q3  視覚障害によって受ける影響はどのようなことですか

Q4  我が国の視覚障害者の実態について教えて下さい

Q5  最近の我が国の盲老人福祉施設の動向について教えて下さい

Q6  盲老人ホームの老人福祉施設の中での位置付けと入所要件は

Q7  盲老人ホームの歴史と全国盲老人福祉施設連絡協議会の発足は

Q8  なぜ、盲老人専門の施設が必要なのですか

Q9  全盲老連では、どのような事業を行っていますか

Q10 盲老人ホーム利用者について視覚障害の原因とその失明時期を教えて下さい

Q11 利用者はどのくらいの費用負担をしていますか

第2章 日常生活援助の実際

Q12 援助者としての基本的考え方について教えて下さい

Q13 手引き(ガイド)の基本について教えて下さい

Q14 盲老人を手引きする時、特に注意することは何ですか 

Q15 車の乗り降りとドアの開閉の援助はどうすれば良いですか 

Q16 エスカレーターの乗り降りの援助はどうすれば良いですか 

Q17 お茶などを出す時に注意することは何ですか 

Q18 食事について配慮することは何ですか

Q19 入浴の援助で注意することは何ですか

Q20 トイレを利用する時の援助について教えて下さい

Q21 金銭の受け渡しと金銭管理はどうすれば良いですか

Q22 掃除と私物の整理はどうしたら良いですか

Q23 代筆と代読について留意することは何ですか

Q24 身だしなみと洗濯について教えて下さい

Q25 難聴等重複障害者に接する時はどのようにしたら良いですか

第3章 盲老人ホームにおける援助の実際

Q26 言葉づかいの基本事項とはどんなことですか 

Q27 利用者と接する態度で心掛けておくのはどんなことですか

Q28 接する時の注意事項をわかりやすく説明して下さい

Q29 視力の状態によって接し方が変わるのでしょうか

Q30 レクリエーションについて教えて下さい

Q31 レクリエーションについて配慮するのはどんなことですか

Q32 クラブ活動について配慮するのはどんなことでしょうか

Q33 点字についてどのようなことを知つておくと良いですか

Q34 テープ図書の活用はどのようにすれば良いですか

Q35 日常生活用具について教えて下さい

Q36 医務に関する援助の基本はどんなことですか

Q37 調理・栄養に関する援助の基本はどんなことですか

Q38 盲老人ホームの設備面での専門性・安全性について教えて下さい

Q39 防災面ではどんな配慮が必要でしょうか

Q40 盲老人ホームにおける新しい取り組みについて教えて下さい

第1章   盲老人の理解と盲老人ホーム

Q1. 盲老人とはどのような人をいうのでしょうか


 盲老人とは、端的に言うと視覚障害をもった高齢の人です。盲老人は一般の老人と大きな違いがあるわけではありません。ただ視覚障害があって、それにより様々な生活場面での不自由さが見られるので、専門的に私たちが援助していくことで、豊かな日常生活を送ることができるのです。 
  「盲」についての理解も重要です。単に目が不自由であるということが、全く見えないということではないことも理解しておきましょう。「盲」ということを聞くと、全く見えないか、ほとんど見えないと考えてしまいがちです。 援助者は、盲老人の皆さんが、一生懸命に生活しているのを援助しながら「共に生きていきましょう」と常に願っていきたいものです。
 盲老人がどのような人であるかは、援助者が視覚障害を理解した上で、自然に、素直に接していく中から理解していくものです。
  盲老人の皆さんも日々意欲的に生活しており、その姿に感銘を受けることも多くあります。また、視覚障害以外の様々な障害についても配慮していきましょう。

Q2. 見えないことをどのように理解すれば良いのでしょうか


 見えないこと、つまり目が不自由であるというのは、広い範囲を表わしている言葉です。そのことは、一般的に使われる「視覚障害」や「盲人」という言葉にも共通しています。
 視覚障害等の言葉からは、全く見えない「全盲」の人を連想してしまいがちですが、視力の障害や視野が狭かったり、色覚が異常等も含まれています。
 援助者は「見えない、見えにくい」と言う不自由さをアイマスクを使用することで、一時的な体験はできますが、そのことはあくまでも一時的なことであり、その不自由さが継続している視覚障害者の苦労や不自由さを十分に理解できたとはいえません。
 見えないことによって起こるいくつかの不自由さをいかに援助者がスムーズに援助できるか、また、その不安や苦しみを和らげる効果的な援助ができるかが、「見えないこと」への理解につながっていくのです。仮に私達の援助が、その見えないことに対する十分な援助でなくても、盲老人の不自由さを理解した上で援助することは、とても大切なことです。

Q3. 視覚障害によって受ける影響はどのようなことですか


 援助者が、視覚障害をもっている人の気持ちそのままになるのはとても難しいことかも知れませんが、ある程度その苦しみを察することは出来ます。その不自由さを理解しようとする気持ちが大切です。
 視覚障害によって失う主なものを上げてみますと、次の四つになります。
1.自 由
 人間として生きるために欠くことの出来ないものが自由です。これを失うことほど非情なことはありません。具体的には、移動の自由です。好きな時に行きたい所へ安全に安心して動けることです。これほど当たり前で、簡単で、誰もが日頃無関心でいて当然の権利のように思っているものが、失明したことにより大きなハンディキャップとなってしまうのです。
2.権 利
 こんな堅い言葉ではなく、もっと柔らかく考えてみましょう。今まで生活してきたことの多くの部分に不利益を受けてしまうということです。掃除や洗濯、買い物や娯楽、スポーツやレクリエーション、まだまだ挙げればたくさんあるでしょう。こうした生活する権利を少なからずあきらめなくてはならないことになるのです。具体的な例でいえば、読書をすること一つをとっても、読みたい本を読みたい時に気軽に心を踊らせて読むことは至難の技です。
 読書の場合、点字が出来ることで可能性は広がりますが、その習得も中途失明では難しく、個人差があります。そのかわりにテープ図書があるのですが、印象に残る感じが少なく、イメージづくりには不利です。便利ですが、聴力に支障がありがちな盲老人にとっては、ある程度の限界はあるでしょう。
3.情 報
 見て分かることは非常にたくさんあります。周囲の状況や風景、表情や動きなどあらゆるものが一見して分かるのです。そのことによって、自分のいる場所の位置の確認、目的物への最短距離を判断すること等、一瞬に行うことが出来るのです。そして、障害物にぶつかったり、つまづいて転倒したり、迷ったりすることはないのです。日常生活の80%は視力に頼っているといわれます。つまり、物を見ることで安心や安全、自信と安らぎを手に入れることが出来るのです。見えないことが、いかに失うことが大きいかを知ることができます。
4.尊 厳
 これは今まで述べてきたことを集約したものです。
 見えないからといって、その人の人格が問題視されることは決してあってはならないことなのです。そのことは重大な差別であり、人権侵害になってしまうからです。

Q4. 我が国の視覚障害者の実態について教えて下さい


 盲老人への援助を行なう上で、我が国の視覚障害者の現状を理解しておくことは大切です。
厚生省の調査(平成3年度全国身体障害者実態調査より)では、18歳以上で在宅の視覚障害者は35万3千人、このうち65歳以上の高齢視覚障害者の数は19万1千人で、全体の54.1%も占めています。
 また、視覚障害のみならず、聴言障害や肢体不自由も65歳以上の割合いが50%を超えています。
 障害者の高齢化の問題は、今後の我が国の福祉制策においても注目すべき、重要な課題と思われます。

総 数 性 別 年  齢  別
不 詳 18~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~64 65~69 70~ 不 詳
353千人
(100%)
167
(47.3)
177
(50.1)
9
(2.6)
1
(0.3)
7
(2.0)
15
(4.2)
29
(8.2)
55
(15.6)
46
(13.0)
44
(12.5)
147
(41.6)
10
(2.8)

Q5. 最近の我が国の盲老人福祉施設の動向について教えて下さい


 福祉が救貧対策といわれた時代は、相部屋で、衣食住の最低保障でしたが、我が国の国民生活も次第に豊かになり、同時に国民皆保険の充実が図られ、昭和55年には費用負担制度が導入されました。権利としての生活保障が求められ、さらに個室化が進められ、新しく設置される盲老人ホームは2人部屋若しくは個室が主流を占めるようになりました。
 平成2年にゴールドプランが示され、在宅サービスが推進される中で、ショートステイ、在宅訪問看護等を実施する施設も生まれてきました。将来は、施設ケアと並行して在宅サービスの充実が一層求められ、出来るかぎり在宅での生活を支える方向にあります。施設は在宅サービスの限界を補完する大事な役割を持つものといえましょう。
 近年、特に高齢化、虚弱化が進み、小規模特養を併設する施設も増えてきました。盲老人の場合、特養対象となった時、なかなか一般の特養への移行が困難であるのと同時に、盲老人にとって他の施設へ移る事は大変大きな精神的負担を伴うものです。
 特養若しくは小規模特養を併設していない盲老人ホームの中には、最後まで介護しなければという使命感に燃え直接介護・看護職員の不足にもかかわらず終末ケアまで、質の高いケアに努めている施設も多くあります。

Q6. 盲老人ホームの老人福祉施設の中での位置付けと入所要件は


 盲老人ホームは、「老人福祉法」第5条の3の老人福祉施設の種類(表1参照)の規定では、養護老人ホームに位置付けられています。
 入所要件についても、一般の養護老人ホームの「おおむね65歳以上の者であって、身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護が困難なもの」という要件は同じですが、当然、「視覚障害を有するもの」という要件が加わります。
 しかし、視覚障害の程度については、例えば身体障害者手帳1~2級の老人という明確な規定はなく、市区町村(実施者)の判断に任されています。
 また、ねたきり老人や痴呆性老人で視覚障害がある老人については、心身の状態が優先されますので、特別養護老人ホームの入所対象となります。

表1 老人福祉施設の種類

養護老人ホーム

特別養護老人ホーム

軽費老人ホーム

老人福祉センター

老人デイサービスセンター

老人短期入所施設

老人介護支援センター


Q7. 盲老人ホームの歴史と全国盲老人福祉施設連絡協議会の発足は


 昭和36年、奈良県の壺阪寺境内に「慈田園」を開設したのが、我が国最初の盲老人専門施設です。
 その後、昭和39年、東京青梅市に軽費老人ホーム「聖明園」、昭和40年に養護老人ホーム「第二聖明園」、更に昭和41年、広島県三原市に養護老人ホーム「白滝園」が開設されました。この4施設(3法人)が盲老人専門の施設として事業を行い、盲老人ホームのあるべき姿やサービスの専門性などの多くの課題に取り組み、盲老人ホームの基礎を確立しました。
 そして、昭和43年、前述の4施設(3法人)で、全国盲老人福祉施設連絡協議会(以下「全盲老連」という。)を発足させました。
 発足の目的は、「盲老人福祉施設間の緊密な連係を保ちつつ、施設運営の合理化と充実を図り、新設ホームの育成発展に相互協力し、もって盲老人福祉の向上に寄与すること」(会則第4条)と定め、盲老人ホームの新設や開設後の育成に努めました。
 また、関係機関(厚生省等)や全国の老人ホーム、一般社会に対し、盲老人ホームの必要性を機会あるたびに訴え、その結果、昭和45年以降は、毎年のように盲老人ホームが開設され、今日では、全盲老連加盟の養護盲老人ホームは47施設、特別養護老人ホームは23施設(平成7年3目31日現在)となり、全国全ての都道府県に盲老人ホームを設置したいという全盲老連の念願に近づきつつあります。
 更に行政への働きかけにより、寮母の増配置、看護婦や指導員の増員なども実現してきました。

Q8. なぜ、盲老人専門の施設が必要なのですか


 全盲老連発足当初、厚生省や民間社会福祉施設関係者の中には、晴眼老人と盲老人の分離入所は、ノーマライゼーションの精神に反するのでは、という意見も多くありました。
 そこで、全盲老連では利用者の実態調査をしたところ、盲老人が晴眼老人と24時間共に生活していると、監視されているようで、精神的な安定が得られないという意見が多くあり、また、盲老人ホームでは多くの専門的サービスが行われていることが調査結果に表われました。
 そのような実態調査の結果をもとに、全盲老連関係者と厚生省や民間社会福祉施設関係者が加わり、盲老人ホームについての存在意義について検討されました。実態調査の資料は非常に説得力のあるもので、専門的施設があっても良いのではないかという方向付けがなされました。
 その後の盲老人ホームの開設とその整備・拡充は、在宅盲老人の老後保障体制を確立していくうえで極めて重要な役割を果たしてきました。
 盲老人が気遣いや不安が無く、安心して生活ができ、しかも、専門的な設備で専門的なサービスを受けることができるということが、盲老人ホームの存在意義なのです。

Q9. 全盲老連では、どのような事業を行っていますか


 全盲老連で最も力を入れて取り組んでいるのが職種別研修会です。
 全国の盲老人ホームの新任寮母に、盲老人福祉の基礎的知識や技術を研修してもらう「新任研修」を始め、施設長や生活指導員など、職種別の研修会も毎年実施しています。
 また、職員が他の盲老人ホームに出向いて、実習中心の研修をする「交換研修」も大きな成果を上げています。職種別の研修会では、「盲老人ホームにおける専門性の確立」をメインテーマに、盲老人福祉に携わる職員としての共通の認識に立ち、サービスのあり方やQOL(生活の質)の向上などについて、熱心に話し合い、盲老人ホームにおけるケアのレベルアップと専門性の確立に努めています。
 また、調査研究及び報告書の発刊や、「盲老人福祉ハンドブック」の発刊など、多くの出版物を発行しています。
 その中には、欧米やアジアの盲老人福祉の実態を紹介する出版物もあり、広い見地で様々な角度から盲老人福祉を研究しています。
 その他にも、機関紙「全盲老連」の発行や職員・ボランティアによる写真コンクールの実施、利用者向けテープ誌「ともしび」の発行、韓国やブラジルにいる邦人の恵まれない老人達のための募金活動等、多くの事業を展開し、着実に成果を上げています。

Q10. 盲老人ホーム利用者について視覚障害の原因とその失明時期を教えて下さい


 盲老人ホーム利用者の視覚障害の原因は、事故などの外傷以外、そのほとんどは眼病によることが多いのです。全盲老連の第5回利用者実態調査(平成4年)の中で、視覚障害の原因となった病名は、両眼とも緑内障が一番多く、全体の12%を占めていますが、先天性等一般の白内障に老人性白内障を加えると、白内障が最も多くなります。表1以外の病名としては、強度近視や視神経炎、網膜剥離などがありますが、最近では現代病といわれる糖尿病による白内障が増える傾向にあります。第1回の調査結果では、白内障と緑内障で全体の51.3%となっており、病名でも、梅毒、トラコーマ、風眼、栄養失調など現在では余りみられない病名がありました。視覚障害の原因は、医学の進歩や時代の背景により、変わってきています。

表1 視覚障害の原因となった病名

病  名 右眼 左眼
緑内障 12.1% 12.0%
老人性白内障 11.6% 10.9%
眼球癆  8.7%  9.2%
網膜色素変性  8.1%  8.1%
白内障  5.6%  5.4%

er

 失明時期については、40歳以降の失明が多く、特に50歳から70歳までの失明が多いようです。(表2参照)このように、中途失明の中でも高齢期の失明が多いことは、いわゆる「かん」がにぶい老人や、ADLの自立度が低い老人が多いということになります。

表2 失明年齢(第5回利用者実態調査)

er
1.  0歳~1歳未満 64 10.7 116 8.9 180 9.5
2.  1歳~10歳未満 82 13.7 188 14.4 270 14.2
3.  10歳~20歳未満 34 5.7 92 7.1 126 6.6
4.  20歳~30歳未満 48 8.0 80 6.1 128 6.7
5.  30歳~40歳未満 58 9.7 101 7.8 159 8.4
6.  40歳~50歳未満 71 11.8 136 10.4 207 10.9
7.  50歳~60歳未満 116 19.3 227 17.4 343 18.0
8.  60歳~70歳未満 77 12.8 190 14.6 267 14.0
9.  70歳~80歳未満 31 5.2 107 8.2 138 7.3
10. 80歳~90歳未満 9 1.5 19 1.5 28 1.5
11. 90歳以上 0 0.0 1 0.1 1 0.1
12. 不  明 10 1.7 46 3.5 56 2.9
合  計 600 100.0 1,303 100.0 1,903 100.0

Q11. 利用者はどのくらいの費用負担をしていますか


 利用者が盲老人ホームで生活するための費用(措置費)は、施設に対して国及び地方財政の中から支払われていますが、利用者に対しても応能負担が求められています。
 元来、福祉サービスは公費負担を原則としてきました。しかし負担能力のあるサービス受給者(老人ホーム利用者)からは、受益(年金等)に応じて負担を求めるという考え方から、費用負担の制度ができました。
 費用負担の金額は、利用者の収入(主に年金)から必要経費(国民健康保険料・租税・医療費等)を差し引いた金額を基に、別表の費用徴収基準表により決定されます。盲老人ホーム利用者に多い障害基礎年金受給者は階層段階が26段階で負担額が45,800円となります。また、最高限度額が示されており、養護老人ホームの場合は14万円、特別養護老人ホームの場合は24万円です。(平成6年7月現在)ただし、この徴収基準表は毎年7月に見直しが行われます。
 そして、扶養義務者に対しても所得に応じて、費用の負担があります。費用負担の問題は、利用者の立場からすると、負担額とは関係なく施設のサービスは同じという不満も出てきており、今後も検討されなければならない重要な問題です。

第2章   日常生活援助の実際

Q12. 援助者としての基本的考え方について教えて下さい


 私達が援助するのは、視覚障害をもっている高齢者です。それ故に援助技術も視覚障害者と高齢者の両方を対象としたものとなります。また広い意味での視覚障害の程度や重複障害の場合などの様々なケースについても注意し、いくつかのポイントを考えてみます。
 援助活動を行う前に、大切なことの一つに、「出来る事は自らが行う、出来るだけ補助的な立場で見守っていく」という視点が必要でしょう。仮に出来ない事でも、慣れないためなのか、それとも視力や身体の状態で出来ないのかを、しっかりと判断しうる「目」を養いましょう。これが援助者としての力量を示す大事な点です。それはまた、盲老人ホームでは援助者として欠くことの出来ない専門性であり、要件です。特別養護老人ホームにおいてもこの考え方において変わるところはありません。
 また、利用者個々の情報をよく知っておくことが重要です。これらは、入所前と後のオリエンテーションで徐々に蓄積していく事柄も多いのですが、ADLを見る場合に、失明年齢や既往症や健康状態によって個人差があるからです。利用者によって、身の回りのことが出来る力も様々で、リハビリテーションや生活訓練でも、その力の伸び方に個人差があります。個別的に援助の方法やレベルを変えることで、より個別援助の充実が図れるでしょう。

Q13. 手引き(ガイド)の基本について教えて下さい


(1)ガイド者(援助者)は、視覚障害者の半歩前に立ちます。(図1)

手引き(ガイド)の方法についての説明図

(2)ガイド者は、自分の肘関節の少し上を軽く握ってもらいます。
(3)ガイド者の注意点
 ア 握られた腕は、振らない。
 イ 握られた腕は、横や前後に開かない。
 ウ 相手の手を脇にはさみつけない。
(4)視覚障害者の注意点
 ア しがみついたり、かかえたりしない。
 イ ガイド者の腕を持つ腕は、90度に保つ。
 ウ 持っている腕を横に開いたり、身体から離したりしない。
(5)狭い場所の通行には、図2のようにすると二人幅から一人幅になりスムーズに通行できます。

手引き(ガイド)の方法についての説明図(狭い場所の場合)

 盲老人の場合は、握力が弱かったり、腰が曲がる等その状態は個々に違いがありますので、基本を守り、かつそれぞれの条件に対応した臨機の処置が大切です。あくまでも危険防止を念頭に置き、手引きするようにしましょう。

Q14. 盲老人を手引きする時、特に注意することは何ですか


 行事等で園外へ出かける時は、盲老人の中には歩くだけでも不安な方がいますので、ガイド者は精神的なゆとりを持ち、相手に安心感を与えるように努めなければなりません。また、歩く速度も盲老人のペースに合わせ、健康状態や年齢にも十分留意することが必要です。次に場面ごとに説明します。

(1)道路の歩き方
  ガイド者は、車の通る側を歩きますが、車ばかりに気を取られていると、頭上の看板や盲老人側の側溝に気がつかなかったり、道路のくぼみに気がつかない等、事故につながりますので、周囲の状況をよく見ながら手引きして下さい。
 大型のトラック等が近づいた時や自転車が前から来た時等、危険を感じた時は、まず止まるようにして下さい。

(2)階段の上り下りや段差のある場合
 階段では、手前で止まり「階段を上がります」とか「下ります」と言葉をかけて下さい。階段に手すりのある場合は、なるべくつかまってもらった方が良いと思います。階段の終わりに近づいたら「あと2段です」とか声をかけます。段差も同じ要領ですが、小さい段差だから大丈夫と勝手に 判断すると、とても危険です。盲老人はどちらかというとすり足で歩きますので、小さい段差でも手前で止まるようにして下さい。
(3)その他
 水たまりでは一旦止まり「50センチ程またいで下さい」とか、足場の悪い道路では「足を上げて歩いて下さい」等、その状況に応じて、適切にに声をかけるよう心掛けましょう。

Q15. 車の乗り降りとドアの開閉の援助はどうすれば良いですか


 病院へ行く、買い物をする等、盲老人は車に乗る機会が多いので、援助者は、基本をしっかり身につけておく必要があります。
 安全のため、乗り降りは、原則として左側のドアを使用します。
 まず、車がどちらの方向かを知らせるために、左で開いているドアに触れてもらい、そして頭をぶつけないために右手で屋根に触れてもらいます。次に右手で座席に触れてもらうと、盲老人は一人でも車に乗れます。座席に触れる時、背もたれにも触れてもらうと正しい向きがわかりやすくなります。
 足腰の弱っている老人の場合は、先に座席に腰をかけてもらい、足は後から入れるように介助するとスムーズに車に乗れます。
 降りる時は、援助者が先に降り、足を降ろす場所の安全確認をして下さい。
 ドアの開閉は、援助者が手引きしていない方の手で、ノブをつかみドアを押し(引い)てください。その際、ドアはなるべく広く開いた方が良いと思います。

Q16. エスカレーターの乗り降りの援助はどうすれば良いですか


 エスカレーターの幅が広い場合は、まず上りか、下りかを知らせ、必ずベルトを持ってもらい、タイミングを見ながら声をかけ、一緒に乗るようにしてください。
 二人が並んで乗れない幅の狭いエスカレーターの場合は、盲老人にエスカレーターのベルトを持ってもらい、上りの時は先に乗ってもらいます。そして、降りる直前に声をかけます。下りの時は、援助者が先に乗った方が、万一転倒しても体を支えられ安全です。
 エスカレータを経験したことのない盲老人は不安感が大きいので、可能であればエレベーターか階段を利用する方が良いでしょう。
 いずれにしても、エスカレーターの乗り降りは細心の注意と適切な声かけが必要です。

Q17. お茶などを出す時に注意することは何ですか


 ほとんどの利用者は、自分でお茶を入れて飲んでいますが、行事やクラブ活動の茶話会等では、援助者がお茶やコーヒーを出す機会も多くあります。
 お茶などを出す時は、必ず手を添えて茶器に触れさせ、置いた場所の確認をしてもらいます。どんなに忙しくても「ここに置きます」と言うだけではいけません。手探りで探しているうちに倒してやけどをすることがあります。
 コーヒーや紅茶を出す時は砂糖とミルクの位置を教え、老人自身で入れてもらいます。ミルクの量の調整はスプーンでできますが、希望によっては、入れる量を聞いて入れてあげましょう。

Q18. 食事について配慮することは何ですか


 盲老人にとって、食事はとても楽しみなことの一つです。おいしく、楽しく食事ができるよう、援助者は工夫することが大事です。
 食器の位置や食事内容を知らせる「献立の説明」ですが、食器の位置は、多くの盲老人ホームでは、クロックポジション(時計の文字盤)で説明しています。例えば1時にお茶、5時に豆腐とワカメのみそ汁……という具合です。
 食事内容については、主に食材や調理方法などを説明しますが、「今日のさんまは、とても油がのっておいしそうです」等と、食欲をそそるような言い方にも工夫して下さい。食卓では調味料の好みについても個別こ聞きながら対応しましょう。
 十人十色の嗜好をもつ利用者が、全員満足できる食事は難しいことかもしれませんが、嗜好調査、残食調査や個別嗜好カルテ等の結果に基づいて、日々の食事がマンネリズムに陥らないよう工夫が必要です。
 また、行事食として、郷士料理や鍋物、バイキング等、食事内容に変化をもたせることも大変喜ばれます。

Q19. 入浴の援助で注意することは何ですか


 盲老人ホームでも、入浴に対する考え方が変わりつつあります。
 なるべく家庭の生活に近づけようと、夜間入浴を実施したり、最近では、利用者が好きな時に自由に入浴できるようにしているホームもあります。また、皮膚疾患等のある利用者に対応できるように一人用浴槽を整備しているホームもあります。
 ただ、利用者個々の自立度にも差異があるので、入浴中は不慮の事故が起きないように、援助者は細心の注意も必要になってきます。

入浴援助の留意点

(1)浴室内に石鹸が落ちていないか、腰掛けや洗面器が通路にあたる部分に置かれていないかを注意する。
(2)浴室内で利用者が移動する時は、援助者が声掛けや手引きをし、利用者間の衝突がないよう気を配る。
(3)皮膚病や湿疹等に気をつけ、早期発見に努める。
(4)利用者の体調に合わせ入浴してもらう。特に、心疾患や高血圧等持病がある人は、看護婦が入浴前にチェックする。

 援助者の時間の都合で、つい急がせるというようなことがないよう、入浴の時間設定には余裕をもち、できるだけゆったりとした気分で入浴できるよう配慮することが大切です。

Q20. トイレを利用する時の援助について教えて下さい


 入所のオリエンテーションの時に、トイレ内の広さやトイレットペーパー、水を流すレバーの位置、汚物入れ、鍵の使い方、インターホン、手洗いの場所等の説明が必要です。また、滑りにくい床材や履物の工夫も大切です。
 ホームのトイレは、利用者はある程度使い慣れていると思いますが、外出先のトイレでは不安があります。援助する利用者が異性の場合、一緒にトイレに入りにくいものですが、周囲の人に事情を話し、便器(男性の場合は水を流すボタン)のふたやトイレットペーパー等の位置をしっかり教え、終わった時点で声をかけてもらいます。
 和式のトイレの場合は、分かりにくいので、便器の方向等の位置確認を特に丁寧に教えて下さい。

Q21. 金銭の受け渡しと金銭管理はどうすれば良いですか


 金銭の受け渡しについては、十分な配慮が必要です。金銭のトラブルにより援助者と利用者の信頼関係が失われたり、猜疑心を生む結果となります。
 お金を渡す時は、まず、金額を言い、次に金種ごとに一枚ずつ数えて渡します。基本的には、複数の援助者で渡した方がトラブルは防げます。預金等を頼まれ、お金を受け取るときも、その場で必ず数え、本人の金額と一致していることを確認して下さい。
 金銭の管理は原則として、利用者本人がしているケースが多いようです。硬貨や紙幣は分類して入れられるように仕切りの多い財布を使うよう勧めてみて下さい。紙幣の弁別は、表の7時の位置にマークがついていますが、凹凸が少なく分かりにくいようなので、折り方を変える等の工夫が必要です。硬貨は、周囲の刻み(10円玉-昭和34年以降のものは周囲に刻みがない、100円玉-周囲に刻みがある)等で弁別します。

Q22. 掃除と私物の整理はどうしたら良いですか


 掃除は自分でしてもらいますが、ゴミやほこりが残っていることがありますので、時々は確認します。きれいに掃除ができない人には、一緒に掃除をし、ゴミの残りやすい場所を教えてあげましょう。
 私物の整理も、できるだけ自分でしてもらいます。援助者が手伝う時は、普段良く使うものや必要なものは分かりやすい場所に置くように助言して下さい。また、援助者がものを移動する場合は、必ず断ってから動かします。散らかっているようでも、本人が自分で分かるように置いているのですから、説明し、確認しながら、一緒に整理するように心掛けて下さい。
 引き出しの中の整理については、仕切板を入れたり、小箱に納めると便利です。創意工夫してみましょう。
 掃除機を使用する場合は、吸い口を壁等の端にぶつかるまで直進させ、平行移動を繰り返すとムラなくきれいにできる事(図1)や、ほうきの場合は畳の縁を手がかりにして掃くことも助言したらよいでしょう。

掃除機の移動方向の説明図

Q23. 代筆と代読について留意することは何ですか


 代読は、楽しみにしている家族からの手紙等を読むものですから正確に内容を伝えるようにして下さい。
 代読や代筆を頼まれた場合、利用者が同室者に聞かれたくないこともありますので、その場で読んで(書いて)良いかを必ず確認して下さい。また、なるべく静かな場所を選び、利用者が手紙の内容に集中できるよう配慮することも大事です。

代読・代筆の留意点

(1)ゆっくり、はっきり読む。
(2)表現がわかりにくいところは、理解したか確認する。
(3)固有名詞等わからない文字は、文字を説明し、読み方を利用者に聞く。
(4)辞書を携帯する。
(5)高度難聴老人には、内容を理解したかどうか確認しながら読む。
(6)代筆については、利用者が言うとおりに正確に書き、文字のわからない時は聞くか、辞書で調べる。
(7)丁寧に書く。

Q24. 身だしなみと洗濯について教えて下さい


 服装に関しては、色や柄の組み合わせが適当であるかどうか助言します。特に色がわからない先天盲の方は難しい点ですから、ふさわしい配色について助言しながら利用者の好みにあったコーディネイトとなるように援助しましょう。シミ、ほころびは気づき難いものです。本人を傷つけないように見て見ぬ振りをするよりは、小声でそっと教えてあげましょう。また、靴下を裏返しの状態で履いていたり、左右そろっていないものを履いている方を見かけることがあります。表からは見え難い箇所に糸で印をつけたり、洗濯は一足ずつ手洗いする等工夫した助言ができると良いでしょう。
 身だしなみという点では、爪が伸びていないことも大切です。糖尿病の方は特に深爪が危険ですから、爪切りを使わずに、やすりでこまめに整えるよう助言するとか、援助者が定期的に介助しましょう。
 男性の髭剃りはT字型よりも電気髭剃の方が安全です。
 また、メガネが汚れていないか、義眼洗浄ができているかにも気を配りたいものです。厚生省告示では、義眼の耐用年数は2年となっています。
 洗濯については、小物は手洗いすることもありますが、洗濯機を利用する人も多くなっています。
 洗濯機(全自動が多い)は利用者の使いやすい操作の簡単なものを選び、重要なスイッチにはテープを貼る等の目印をつけ、使用しやすいようにします。洗剤や漂白剤等の量や計量の仕方も適切に教えて下さい。
 洗濯機を使用する時は、前の使用者が残し物をしていないか、使用後は自分が残し物をしていないか確認する事を習慣化すると良いでしょう。
 また部屋を出る時に持ち出した物が洗濯機に入れる時に全部あるか、洗濯機に入れた物が干す時に全部揃っているかの確認も必要です。
 洗濯物の乾燥で、物干し竿を使う場合は、顔をぶつけたりすると危険なこともありますので、竿の位置をしっかり教え、位置を確認できるような目印も必要です。
 乾燥機の場合は、標準の時間のところに目印をつけ、洗濯物の量で時間を調整するよう教えて下さい。

Q25. 難聴等重複障害者に接する時はどのようにしたら良いですか


 最近の盲老人ホームでの利用者の日常生活援助の問題やADL上の課題を考える時に、聴力の低下に伴う様々な問題が挙げられてきています。これは、視覚障害がある上に聴覚障害が加わるという非常に生活上困難な状況におかれる盲老人の切実な問題となっています。
 視覚も聴覚も同じ感覚器であり、生活面での移動やコミュニケーション、情報の獲得にとっても重要な感覚なのです。こうしたことを考え合わせて接します。また、視覚と同じように聴覚にもそれぞれ個人差があるので、同じような声や音の大きさだけではわからない場合があります。出来るだけ利用者個々の身体的な状況を細かく知っておきましょう。
 また、重複障害の人には、それぞれの障害の特徴や重複障害による生活上の問題点を援助者が日頃から理解しておくことが大切です。

重複障害者に接する時の留意点

(1)障害の固有の特徴や、重複した時の問題を整理して、それぞれの個別性を考慮しながら生活空間の確保をして、動きやすい環境をつくります。
(2)コミュニケーションをとるようにするために筆記用具や点字、身ぶり等を交えることも必要でしょう。
(3)残存感覚機能との関連もありますが、触覚を生かして、出来るだけさわって、位置や周囲の状況もわかってもらえるように考えましょう。
(4)介助の方法にも工夫したり、情報の不足にならないように細かく丁寧に援助出来るよう配慮しましょう。
(5)難聴者や重複障害者の場合は、まず手や掌に触れて安心させて、「今から話を聞きますよ」という姿勢を伝えます。もし、大きく字を書いてわかるようなら、常に太字のペンや大きめの手帳を携帯しておきましょう。

第3章   盲老人ホームにおける援助の実際

Q26. 言葉づかいの基本事項とはどんなことですか


 言葉は、視覚に障害のある盲老人にとって最も重要なコミュニケーションの手段です。私達援助者にとっても大切な援助技術である言葉について考えてみましょう。
 言葉は、心の音声化されたものです。それを使ってお互いに意思の伝達や感情の表現を行います。その使う方法を正しく丁寧に行う事で、盲老人に、より快適な生活をして頂こうというのが援助の基本的な考え方でしょう。
 「声には表情があります」と本間昭雄会長は言っています。
 私達盲老人に関係する援助者は、常に《言葉づかい》に気を配り、明るい表情のある声で接したいものです。

基本事項

(1)盲老人にとっての言葉の持つ大切さを援助者は認識しましょう。
(2)あいさつは、必ず名前で○○さん「こんにちは」、「さようなら」とはっきり明るく言いましょう。
(3)近くにいたら声をかけましよう。何度あいさつが重なっても良いですから、笑って「また会いましたね」と言いましょう。
(4)当然ですが、敬語で話して敬称で呼びます、愛称では、呼ばないようにしましょう。
(5)『めくら』、『按摩さん』、『目が見えない人』と言う呼び方は相手の尊厳を傷つける事につながります。

Q27. 利用者と接する態度で心掛けておくのはどんなことですか


 援助者は盲老人と共に、ぬくもりのある、和やかな家庭的雰囲気を大切にしていけるように心掛けて接していきたいものです。
援助者は、盲老人が主体的に物事に取り組めるように援助し、安心して暮らせる生活環境をつくる裏方に徹しましょう。
 特に、あいさつは援助者の側から明るく声をかけます。黙っておじぎをしたり、声をかけずに握手したりするのは失礼になります。
 居室を訪問する際に大切な事は、必ずノックをし、援助者側より名前を言うことです。そして利用者の名前を呼び返事を待ちます。
 話しかける時は、正面から同じ視線で話す事に心がけます。背後から声をかけたり、急に身体に触れたり、大きな声を出したりして驚かせてはいけません。
 援助者はまず盲老人の話しをよく『聞く』と言う事を心がけなくてはなりません。相手の話しを先取りして、すぐこちらから一方的に話しをするのは相手の心を傷つけます。まずは、盲老人に合わせて対応することを忘れないようにしましょう。

Q28. 接する時の注意事項をわかりやすく説明して下さい


 接する時の態度を「ことわざ」を使って表してみました。
〔親しき中にも礼儀あり〕
 私達援助者は、盲老人の生活の場面のほとんどに関係する事が多いので、つい親しみが過ぎて馴れ馴れしくしてしまったり、言葉づかいでも、愛称で呼んでしまう事があります。それも親しみの表現ではありますが、専門職員として、その自覚が求められているわけですから、良く考えて行動したいものです。
〔汝自らを知れ〕
 これはギリシャの哲学者ソクラテスが言ったとされる有名なことわざです。私達が援助を行う場合、つい相手の事ばかりに気がいって、自分自身の事をじつくり見直すことが少ないようです。自らを再点検、反省する時間を持ってみたいものです。
〔急がば回れ〕
 私達が目頃援助活動をしていると、その仕事の流れによって動くのがふつうです。その時に、つい焦って省略したり、近道したりして物事を処理してしまいがちです。そんな時に失敗する事が多いのです。
〔臨機応変〕
 盲老人から用事を頼まれると、つい「今忙しいから後で」、「ちょっと後にして下さい」等と言ってしまいます。これは仕方がないのですが、当面しなければならない事を中断して、まずその依頼について聞きます。そして「今すぐには出来ませんから、この用事が終わり次第やります。どうぞ部屋で待っていて下さい」と対応して下さい。急いでいる時はどうしても余裕がありませんから、つい対応が雑になりがちです、注意したいものです。
〔必要は発明の母〕
 私達は、毎日の援助活動の中で、視覚障害をもっている高齢者が、より豊かな生活を送っていただけるように、援助活動において工夫しなければなりません。こんな大げさな言い方ではなくても、部屋や共用部分等において目印になる器具をおいたり、誘導鈴や音声時計の位置で場所の表示をしたり、日常の工夫でより生活しやすい環境づくりができるよう、盲老人が何を必要としているかを考えておく姿勢が大切なのです。この積み重ねが専門性を深める結果になるのです。
〔ローマは一日にしてならず〕
 これは文字通り、その歴史の重要性を意味していることわざです。私達が援助している毎日の活動は、盲老人ホームの誕生と同時に始まったたくさんの援助者の方々の努力の結晶なのです。そうした事も理解しながら盲老人の援助活動を行っていくと共に、今行っている事がすぐに目に見える評価につながらなくても、時間と共にすこしづつしっかりとした援助として定着していくと信じましょう。
〔以心伝心〕
 私達は、援助を求められる側ですが、援助を求める盲老人は、それを当然と思っているのではありません。「迷惑をかけてすまない。とても心苦しい。」と思っています。こうした気持ちも考えて、日頃から細やかな心づかいを援助者として持っている事は大切でしよう。

Q29. 視力の状態によって接し方が変わるのでしょうか


 接する前に、視力の状態によって、それぞれ見え方が違う事を理解しておく必要があります。そのことによって、動作や勘の良さに差が出てくるのです。また失明時期、過去の社会経験によっても大きく異なります。
 全盲の場合は、表情が見えないので、この点に着目し、注意する事が大切です。したがって、個々の事例について、より具体的に理解出来るように説明する必要があります。
 弱視者についても良く考えて接していかなければなりません。弱視者については、その視力や視野、明るさを考慮した援助を心掛けておきます。その上で拡大した文字や太字のペンで書いたら分かるような事であれば丁寧に、書いてあげます。館内の表示や照明についても配慮しましょう。また、弱視者用の拡大本や拡大読書器の利用も勧めて下さい。
 援助する場面では、どうしても、全盲者に目が行きがちで、つい弱視者の方は見えるから大丈夫だと思い込んでしまいがちです。視力や視野が低下してきて精神的な安定が保たれない場合のある人がよく見られます。そうした点にも配慮した接し方をしていきましょう。

Q30. レクリエーションについて教えて下さい


 レクリエーションは広義には、生活を楽しみ、明るく豊かにする方法、やや狭義には、気分転換や、自己表現することです。
 このような事を念頭に置いておき、しかも視覚障害老人であることも考慮し、事故のないようなプログラムを作ることが大切です。例えば音楽に合わせてのスクエアダンスやチームを作ってのボール送り・伝言ゲーム等々数多く考えられます。苦痛のない楽しいものでなければなりません。
 私達の生活は一日24時間の中8時間を睡眠時間、8時間は労働時間、そして、残りの8時間は、通勤に2時間、生活常務時間に3時間、3時間が余暇時間と考えられます。しかし、ホームのお年寄りにとっては、12時間もの余暇時間があると言われています。
 生活に変化を持たせることは、とても大切で、そのためにクラブ活動や行事を行なっているのです。
 一般的に行われている事として、旅行、誕生会、模擬店、その外季節感があるものとしては節分、盆踊り等があげられます。それぞれの地域によって特色のあるものも考えてみましょう。

Q31. レクリエーションについて配慮するのはどんなことですか


 毎日の生活の中で、余暇を充実して過ごしたいと思うのは、利用者の願いの一つです。それが施設の活気にもつながっていきます。
 利用者が、心と体をリフレッシュさせ、充実感や満足感を実感できるようなプログラム作りをしていくことが基本です。
 楽しくハツラツとなれるものを工夫して、老人の残存能力の開発や、感覚能力の維持、発展を図るように考えましょう。主に、グループワーク的なものを行い、その中で個人の楽しみを見出し、能力を発揮させる場面を作っていくようプログラムしましょう。
 ゲーム内容やルールに決まりがあるものは、なるべく分かりやすく、簡単に、イメージがわきやすいように説明するよう心掛けます。
 盲老人ですから視覚障害と身体状況にも配慮し、その時の健康状態にも留意しておきましょう。単に視覚障害というだけでなく、先天盲の方は字や形に対する概念がない場合がありますので、配慮して下さい。
 また、利用者全員が一緒に楽しめるプログラムを考えなくてはならないのですが、その為には重複障害や弱視者も楽しめるよう工夫しましょう。
 具体的には、重複障害の方にも品物の材質や手触り、大きさにも配慮し、弱視者には明るさや照明の加減も調整する等細やかな配慮も必要です。

Q32. クラブ活動について配慮するのはどんなことでしょうか


 毎日の生活にアクセントをつける活動ですから、盲老人自身が楽しめる内容にする工夫が大切です。
 クラブ活動的なものの例を全盲老連の加盟施設が行っているものの中からあげてみましょう。

音楽を生かしたもの コーラス・楽器・吟詠・謡曲・民謡他音楽を通じて楽しめるものがたくさんあるでしょう。
スポーツ的なもの フォークダンス・ファミリーボウリング・輸投げ・ハイキング・体操他が挙げられますが、ファミリー ボウリングは、セットして後ろで手をたたいて方向を示すものです。
美術的なもの 手工芸・編物・竹細工・ハンドクラフト・版画・写真・書道・陶芸・ペーパークラフトなどです。ハンドクラフト やペーパークラフトはそれぞれ紙や使用済み点字用紙等を使ったもので、花や鍋敷き等を作るものです。
鑑賞・学習するもの 園芸・文芸・俳句・短歌・茶道・華道・川柳・昔話他ですが、民話やその土地に残る話を集めていると ころもあると聞きます。また、全盲老連でも文芸コンクールが行われており、たくさんの応募があります。
屋外の趣味的なもの 園芸・美化活動他です。
交流会的なもの カラオケや楽器・琴や尺八の演奏他が挙げられます。
ゲーム・クイズ的なもの できるだけ触覚や指先を使うものが良いでしょう。また、道具(輪投げの輪や○×のカードや大きなプラ カードに書いたジャンケン等)を使った簡単なものが良いと思います。 ピアノや音があっても良いですし、クイズは時事的なものや。昔の印象に残つた事柄を対象にするのも 一つの方法です。特にゲームでは昔やったことのある「かごめかごめ」や「花いちもんめ」等はおもしろ いでしょう。

 最近は幼稚園・保育園児や小中学生が福祉施設に来園する機会が増えています。そんな時にクラブ活動を有効に生かして交流しましょう。
 クラブ活動は、行事やその場の楽しみで終ってしまうレクリエーションと違い、継続的に活動するものです。メンバーが同じ目標に向かって作品を作り上げたり、毎回顔を合わせたりする事で、連帯感や親近感も生まれてきます。
 目が不自由だからという事で引きこもりがちな利用者に対しても、趣味に合ったクラブ活動を勧める事で、ホームでの生活に生きがいを感じてもらえます。

Q33. 点字についてどのようなことを知っておくと良いですか


 点字は、理論的な裏付けと実質的な練習の積み重ねによって上達します。視覚障害者の特徴的なコミュニケーション手段として挙げられます。
 点字の歴史について述べておきましょう。1825年に点字を発明したのは、フランスのルイ・ブライユ氏です。それを日本語の五十音に変換したのは石川倉治氏です。その年代は1890年(明治23年)ですから、100年以上の歴史があります。昔の盲学校では、教師は晴眼者であっても点字は必ず習得すべきものであったそうです。
 中高年齢で失明された方にとっては、習得しにくい技術ですが、援助者は、少しでも点字を理解してもらえるように晴眼者に働きかけていきたいものです。
 最近では、触知できる地図や文字が数多く出ています。優秀な点字プリンターが出てきたおかげでしょう。そうした物も活用し、触覚を鋭敏にして残存感覚を開発しましょう。また、点字よりもテープ(カセット)を利用する人が増えているようです。点字を読むことは、かなりの修練を必要としますし、高齢で失明した人にとっては、かなりの苦労が伴う技術と言えるでしょう。それだからこそ、援助者が積極的に習得しておくべきだと言えるのではないでしょうか。

Q34. テープ図書の活用はどのようにすれば良いですか


 視覚障害者にとって点字を習得するのには、かなりの時間と根気が必要となります。それが中途失明の場合であれば、さらに本人の努力が求められます。それに対してカセットテープ、つまり録音機器は、かなり進歩してきており、使い易さもあって広く普及しています。その意味で、読みたい本が聞けるテープ図書が、点字本をしのぐ勢いで普及しているのです。
 テープ図書、つまり各地の点字図書館や社会福祉協議会や日本赤十字の付属ボランティアやその他朗読ボランティアグループの活動によって録音された図書、それが広く聞かれているのです。
 一般にもカセットブックといわれて書店でも数多く売っています。盲老人ホームでは、主に文学を中心に聞かれているようですが、幅広い種類の本が多くの利用者の方に読まれ、余暇時間を充実するものになってもらいたいものです。次に活用方法等をまとめてみました。

(1)施設で点字図書館や社会福祉協議会に登録しておきます。目録や機関誌に目を通して利用者に案内します。リクエストにも応じます。もちろん、利用者個人で登録も可能です。
(2)グループワークやクラブ活動に活用したり、テープ鑑賞会や行事の際に役立てる事も工夫しましょう。
(3)朗読ボランティアグループとの交流会や、点字図書館の行事や催しにも参加し、テープ図書を通じて、社会性を身につけてもらう。
(4)テープレコーダーは使い勝手の良い物、わかりやすい物を利用し、カセットテープの取り扱いにも注意しましょう。

Q35. 日常生活用具について教えて下さい


 現在の日常生活用具は、盲老人専用の物というのは特別にはありませんが、視覚障害者のための用具については、様々に工夫された品物が開発されてきます。また、視覚障害のみならず、老人にも子供にも使いやすい商品の開発が進んできました。私達もこうした日常生活用具の知識や技術に熟練しておくことが大切です。
 日常に使う用具は、日常生活の利便を助ける目的で使う物です。それは、誰もが使える物が良いのです、使用頻度や価格も配慮しましょう。
 視覚障害者のための用具でも、盲老人にとっては使いにくい物もあります。目印や使い方を工夫して使い勝手を良くしてあげます。
 日常生活用具も日々新しくなっています。その情報を常に入手できるよう気をつけておきましょう。地元の社会福祉協議会や視聴覚情報提供施設(点字図書館等)、盲人協会とも情報の提携をしておきたいものです。
 盲老人ホームに入所している場合、日常生活用具の給付は基本的には受けられません。日常生活用具の交付制度は在宅視覚障害者に対してだけのものです。窓口は市町村の福祉事務所です。所得によって負担額も異なります。詳しくは福祉事務所でお聞き下さい。
 日常生活用具の中で安全杖(白杖)、点字器(盤)、義眼・眼鏡(弱視者用他)は身体障害者手帳所持者であれば申請をすると給付を受けられます。

Q36. 医務に関する援助の基本はどんなことですか


 養護盲老人ホーム(50人定員)では、全盲老連の努力もあって看護婦2名の配置が認められています。特別養護老人ホーム。小規模特別養護老人ホームとの併設等で、医務室の規模や人員も違いがあるようです。しかし、盲老人の方々への医務的援助者としての対応は同じですから参考にして下さい。

(1)盲老人は、眼科疾患を始めとして様々な老人性疾患があります。それらを理解、研究して援助活動を行いましょう。
(2)失明の年齢、社会的経験などにより、個々のもつ精神的な負担、動揺は異なるものです。又、病弱になったり病気にかかると不安や心配で消極的な生活に陥りがちです。ゆっくり落ち着いて話し合える時間を持ち安心できる雰囲気を常にもてる環境作りにも努力しましょう。
(3)付き添って通院したり、入退院したりする場合があります。外出援助や手引きの項の留意点を活かしましょう。
(4)居室回りや行事等で日頃から利用者と親近感や信頼感をもってコミュニケーションをはかり、声かけや明るい態度で接しましょう。
(5)専門職ですから健康管理に責任を持ち、他の援助者にも分かりやすく状況を説明します。利用者にも自分の病気を認識、理解してもらえるように努力します。また、嘱託医や協力病院にも利用者の理解をしてもらえるように努力したいものです。

 高齢社会の到来や老人医療費の膨張によって老人医療、福祉システムもかわらざるをえません。看護の質的向上を目的に病院も介護の量を増やして看護システムを改革してきています。給食費や寝具費の徴収、付添婦の廃止等利用者に直接係る制度の変更がありますから、医務的援助はそれらの情報にも留意しておきましょう。

Q37. 調理・栄養に関する援助の基本はどんなことですか


 調理は創意工夫はもとより、衛生面に留意し、食中毒等絶対に出さぬよう心掛けましょう、不潔にならないように食事の際には配慮し、手が汚れやすいので、おしぼり等も用意しましょう。残菜についても目を向ける事が大切です。高齢者にとっては、量より質が基本です。

(1)健康状態や季節感を考慮した献立作りに努め、利用者の声をできるだけ反映させるために嗜好調査を行っていくことが必要です。
(2)食器や調味料入れを工夫します。食器は陶器や持ちやすいものを使い、調味料入れの形や点字表示も考慮します。食卓や椅子も家庭的なあたたかみを考えます。
(3)食事時間は、できるだけゆっくりと、ゆとりを持って設定しましょう。今後は、一斉に食事をしてもらう方法から、できるだけ自由に食事をしてもらえる環境作りを考えたいものです。
(4)食事は大きな楽しみですから、食べやすさも考慮して、温度(適温)、味(濃い薄いや地元の味)等に注意します。また、病弱老人などには、刻み具合や液状の程度も老人個々の状態に合うように配慮して下さい。
(5)外食に出かけたり、専門店の出張料理や選択メニューの日を設けたりして、季節感やバラエティーに富んだ食事としましょう。
(6)目が不自由であっても料理の盛り付けは大切です。弱視者にも配慮した分かりやすく、おいしそうに見える盛りつけを考慮しましょう。

 利用者の大きな楽しみである食事をより充実させるために、援助者のたゆまぬ努力と工夫が望まれます。

Q38. 盲老人ホームの設備面での専門性・安全性について教えて下さい


 「誰にもやさしい街づくり」をテーマに高齢者や障害者を中心に街づくり条例が考えられるようになりました。そうした中で、盲老人ホームが、視覚障害のみならず、あらゆる面に配慮した生活施設として、その特性をいかした援助をしていきたいものです。 
 設備を見てみると、全国の盲老人ホームは、一般の老人福祉施設とは違ったいくつかの設備をもっています。そのほとんどは、視覚障害のハンディをカバーするものです。それに加えて高齢者に対する配慮もなされています。
次に個別の設備についてそのポイントとなる大切な点を解説してみましょう。

(1)階段や廊下
階段や廊下は利用する頻度が多いところです。また踏みはずしたり、衝突したり、転倒したりしてケガをする危険性が高い場所です。次のことに注意しましょう。
 階段や廊下には、歩行の障害となるものは置かないことです。それに転落防止柵や点字ブロックの設置が必要です。手すりについては、高さ、材質、形等にも工夫したいものです。例えば、高さは75cmくらいで、材質は、木製と金属製、プラスチック製といった具合に数種類を使い分けた方が、現在位置や方向が理解しやすいでしょう。当然ながら、各居室やトイレ、食堂などの共用部の手すりやドアには点字表示をつけます。また、弱視者には大きな活字の表示板も有効です。居室の入口には、各自が分かる目印を装飾的なことも含め、本人と相談して付けるのも一つの方法です。
 弱視者に対する配慮として大切なことは、残存視力や色覚をいかした援助を考えることです。例えば、部屋の照明の照度の調節をしたり、欧米の施設では早くから取り入れている、階段の最初と最後のステップ部の色を変えるカラーリング、手すり部分のところだけ壁の色を変える等です。廊下も一部色を変えると方向や危険を表すことができます。
(2)居室
居室は生活の基本となる場所です。広さや定員数など各施設で事情が違ってきますが、利便性と安全性を第一に考えて下さい。
 また、インターホンの設置により緊急時や急用の際に活用してもらいましょう。
 入口には危険度を考慮すれば、開き戸より引き戸の方が望ましいのです。また、点字や目印になるものをつけます。下駄箱や押し入れは、使い勝手と衛生に注意します。安全を考えると引き戸が良いでしょう。援助者が居室訪問した時に、身辺整理や私物管理等、その人の生活状況をよくみながら話し合って援助します。
 弱視者については、照明や光線の照度や方向を考え、机やテレビの位置に配慮し、スイッチの色分け等も考えます。
 居室は、和室と洋室と両方あれば状況に合わせて使い分けることができます。また、部屋にポータブルトイレを設置する場合、プライバシーの保護を考慮し、カーテンや目隠し棚等も準備する方が良いでしょう。
(3)食堂
 食事は利用者の方々が最も楽しみとするものです。なるべく明るい雰囲気になるよう心掛けましょう。座席は指定席が良く、椅子は背もたれ付きのもので、テーブルは丸型よりも角型の方が座る位置の確認が容易にできます。また、座席に目印の設置をすることや季節の花を飾ることはよいことです。献立の表示にも心を配りたいものです。
(4)トイレ
 共用のトイレでは、入口に扉を付けているところと開放してあるところとあるようです。衛生面を考えれば、閉めておく方が良いようですが、利用者と相談して決める必要があると思います。トイレの中のドアも内開きと外開きの他、カーテンにしているところもあります。便器は、和式と洋式の両方設置することが望ましいでしょう。また、便器の近くにはつかまる手すりや、インターホンがあると安心です。匂いの対策や清潔マットの利用等も考えて援助します。
 なお、個室化が進む中でトイレも自室に設備していく施設が増えつつあります
(5)入浴場所(浴室)
 床面の滑りやすさ等から、転倒等事故の起こりやすいのが浴室です。特に脱衣場所から浴槽までの移動には十分な注意が必要です。設備的には扱いやすい温度調節がついたシャワーや蛇口の設置が大切です。また、換気や保温にも気を配って下さい。
 脱衣場には点字や目印で自分の篭や場所がわかるようにし、手すりやマット等も利用して、滑らないように配慮します。
(6)その他
集会室
レクリエーションや行事を行いやすいように、設備面での充実と部屋の中の整理をしておきましょう。また、車椅子の使用や出入り口の段差、照明にも配慮しましょう。
玄 関
段差には、スロープや手すりを付け、ドアの開閉には注意します。常に白杖を用意しておき、下駄箱等の整理整頓を心掛けましょう。
洗面所
洗面台の高さ、水とお湯の温度調節、換気に配慮して下さい。
遊歩道
各施設では、天気の良い日に利用者の方々が散歩する姿をよく見かけます。そこでは手すりが付けられ、自由に歩行ができるようになっていたり、庭園も用意されたりします。段差や障害物がないこと、車椅子でもすぐに出られる
こと、対面してぶつからないようにすること等の配慮が望まれます。

Q39. 防災面ではどんな配慮が必要でしょうか


 盲老人ホームにおける防災対策については、利用者一人一人の人命尊重の観点からも、最も優先されるべき課題であり、常に出火防止と地震対策に最善を尽くしていかなければなりません。そのために、地元の消防署や市町村を始め、地域との協力や連携を踏まえた総合的な消防計画を作成し、それを基にして定期的な防災訓練の実施と、施設内の防災設備や器具の点検、整備を心掛ける事はもとより、常日頃から盲老人の行動の特徴を理解し援助者の防災意識の高揚に努めることも大切です。

1.盲老人の行動の特徴
(1)環境変化への順応や対応には時間がかかる。
(2)原因や状況の把握が難しく、誘導が遅れると混乱しやすい。
(3)移動速度が遅い。
2.防災面で配慮すべき点
(1)防災訓練で行う避難誘導活動を体験的に反復して行う事により、避難経路や方角等を正確に覚えてもらう。
(2)避難訓練時に限らず、日頃から施設の構造等、環境確認のための生活援助を行うよう心掛け、施設内のどこから火災が発生しても避難行動がとれるようにしておく。
(3)居室や棟単位、各階単位等で利用者相互に協力して避難できるような自主防衛体制を確立し、避難道の手すりやロープ、またお互いの肩や肘を持っての避難方法も体得しておく。
(4)聴覚や肢体の障害を重複してもっている利用者も多いので、情報をできるだけ早く正確に伝えられるようにしておく。
3.訓練や実際の火災(災害)時の援助者の行動と注意点
(1)火災(災害)発生時には、初期消火活動と並行しながら、利用者の避難誘導活動について的確な判断と指示が行えるようにする。指示に際しては即断する必要も生じるが、この判断力は日頃の訓練で養うこととなる。
(2)非常放送等での状況説明は、冷静に、はっきりと分かりやすくかつ簡潔に伝え、援助者の指示に従うよう放送し、また情報の収集にも努める。
(3)避難路の確保については、最も安全な所(火災の場合は、安全が確保されている防火区画)を選択した上で、利用者の避難を指示する。
(4)避難誘導に当たっては、避難の方向の分かりやすい指示(東西南北や建物の目印を基に指示)を行い、安全な避難誘導に心掛ける。
(5)避難場所は、あらかじめ指定してある、いくつかの安全な場所を訓練の中で確認してもらう。また、防火ドアや防火区画の安全区域が何カ所か等も説明し、併せて確認してもらう。
(6)難聴者や重複障害者は、布団ごと安全が確保されている防火区画に搬送するか、避難場所に出す事も考える。
(7)弱視者には、音声付誘導灯に組み込まれている緊急点滅ランプが有効である。また、非常口の方向を示す大きめの指示パネルを廊下や壁の見やすい所に設置し、避難行動を容易に行えるようにする事なども大切である。
 利用者に安全に避難してもらうには、これら一連の行動を冷静沈着に実行しなければなりません。しかし、気が動転しがちですので少しでも被害が少なくすむよう、日頃の訓練には、気を引き締めて取り組むよう心掛けなければなりません。

4.設備点検や防災に対する心掛け
(1)日頃より消防署をはじめとする関係機関や地域住民との連絡や交流を密にし、盲老人施設の建物構造や盲老人に対する理解を深めてもらう事が緊急時の対応に役立つ事となる。
(2)消火器や消火栓等の防災設備の使用方法や配置場所を常に頭に入れておく。
(3)ヘルメットや懐中電灯はすぐ目につく所や持ち出しやすい所に常備しておく。
(4)非常時には、つい火災の方に気をとられ、非常口を全て施錠したままの場合がある。防犯との兼ね合いもあるが、緊急時に外部から立ち入る事のできる場所を決めておく必要がある。
(5)防火戸付近や火気に近い所、避難道、廊下、階段等に障害物が置かれていないかを常に点検しておく。
(6)居室内に置かれているタンス等の大きめの家具が地震の際落下したりするのを防ぐための対応や、いざという時の避難行動がとりやすいよう、居室内の私物の整理について助言しておく。
(7)施設内に設置してあるカーテンやカーペットタイル、寝具類は防炎処理をしたものを使用する。
 以上防災面での配慮を中心に述べてきましたが、今後は、盲老人ホームにおいても日頃の防災活動での問題点の解消に取り組んで行かなけれぼなりません。
 一番の問題となるのは、緊急対応を少人数で行わなければならない夜間時の防災です。そのためには、夜間訓練を行う事も大切ですし、施設で緊急対応マニュアルの作成や防災委員会を設置しての検討なども重要です。
 また、平成7年1月に起きた阪神大震災を教訓とし、援助者全体での非常時の危機管理体制の検討、非常食を始めとした備蓄物資の確保等を早急に検討する事も今後の重要な課題の一つと言えます。

阪神大震災から学んだこと

1.阪神大震災を体験して

 平成7年(1995年)1月17日午前5時46分、淡路島北部を震源地とするM7.2の直下型大地震が阪神間を襲った。死者5,300名余り、負傷者2万6千余名、被災家屋10万余りと大きな被害を出している。その日に私は当直をしていた。その時の状況を述べ盲老人ホームの防災上の課題として、いくつかのポイントを挙げてみたい。
 背後でけたたましくガラスの割れる音がした。2階洗面所の大型冷蔵庫が倒れたのだ。
給湯器に着火する寸前の大きな揺れだった。立っていられないほどだ。洗面所で「じっとして!揺れが治まるまで動かない」とどなり、冷蔵庫の下敷きになった人かいないのを確認して廊下に飛び出した。
 気持ちは冷静だったが、いつの間にか小走りになっていた。そのとき、頭に強烈な痛みが走った。廊下の防火戸か自動的に閉じていたのだ。頭を押さえながら「揺れが治まるまで動かない!必ず余震があるから火の元だけは気をつけて、窓は閉めておく。入口は開いておく!指示があるまで動かない」とどなって走った。 1階に下りると同じ宿直者の黒木寮母が「どうしましょう?一体何が起きたのでしょう?」と震える声で聞く。「地震です。それもかなり大きな。まず火の元をチェックしましょう!ガスは?1階の給湯器は消しましたか?彼女は「確認しました。でも水が止まらず、傾いています。」という。それは僕が元で止めるから1階の利用者の安否を確認して!それと裏のガスの大型乾燥機を止めて下さい。」と言った。そして電気が消えて真っ暗の中を確認作業に奔走し、すぐ全館放送で現状の説明と情報の提供と指示を送るつもりでマイクを持ったが停電で使えない。自動通報装置も役には立たない。
 非常電源が入るまでに時間があった。すぐに2階に戻って揺れの治まりを確認して「避難するから厚着をして玄関に集合! 各部屋単位で協力して確認して動くこと!すぐに玄関に集合!荷物は持たない!」とどなって回った。
 少し余談であるが、こんな場合にも状況を理解している利用者はとても少ないように思われた。「このくらいなら大丈夫。」、「外に出たら風邪をひく。その時はどうしてくれる。」、「テレビが落ちてきたし、メガネが分からない。」、「訓練でこんな時は放送があって動くこ
とになっていたのと違うのか。」等わけが分からない声が続いた。その極めつけが地震発生前からずっといつものように顔を丁寧に洗い続けていた利用者がいたことだ。私は大声で「死にたくなかったら玄関に集まれ!けがしないように急げ!必ず声をかけあって避難しよう!」といって回った。
 盲老人は目が不自由な高齢者であるが、年齢と共に聴力も足腰、つまり動きも衰えてくる。だから行動を起こす時間や反応が鈍い。だから一人ずつ急ぐように走って伝えた。「果たして何名の人を助けられるのか?全員を助けたいが、できるだけのことをするしかない。ねたきりの人も数名いて強引に連れ出すしかない。」訓練では余裕があったのに本番ではあまり役に立たないこと、意外なことが多すぎた。「百訓練は一本番にしかず」とつくづく思った。重複の障害がある場合の避難誘導にも日頃から注意、工夫が必要だと思う。
 他の施設との連絡もつき安全確認かできた。利用者にはケガもなくほっとした。ようやく落ち着いた感じで周囲を見ると、事務所や医務室はメチャクチャ、食器戸棚は動き食器は割れて散乱。厨房の中は無残で見る影もない。電気はつかず(午後2時頃復旧)電話、ガス、水道も切れている。これから食べ物や排泄(トイレ)、洗濯等の生活面の不安がわいてくる。表は消防車や救急車のサイレンで騒がしくなってきた。かなり火事か多く出たようだ。火が出なくて本当に良かったと胸を撫で下ろした。どっと疲れが出たようだ。
 千山荘はいち早く在宅の視覚障害者の救援援助事業を行うことを決め、神戸市盲人協会等関係機関に連絡をとった。このような事ができたのは、建物自体にほとんど損傷がなかったこと、去年から始めた在宅視覚障害者相談援助事業を行っている関係等かあったからである。
 千山荘の利用者は50名、ショートステイ5名、職員21名か通常であるか、1月29日現在では利用者50名十23名の方々を受け入れている。この23名の人たちは、1.以前にショートステイを利用した人、2.盲人協会の会員か以前にカラオケ交流会等に来た人、3.救護施設等一般施設が被害を受けて行き先がなくなった人、以上のケースがほとんどである。 職員も自分の家のことを後にして頑張っている。被害を受けて出てこれない人も多くいる中でこのような救援活動をするのは大変なのであるが、良く頑張っていると思う。天災に対して視覚障害者は非常に困難な状況に追い込まれる。晴眼者の人はもちろん、視覚障害者同士での救助活動が大切なのではないだろうか?ネットワークや組織力を活かして何ができるのか、どのように動くか、自分の能力を信じて、できるかぎり互いに助け合う気持ちを大切にしていきたいものだ。

2.地震への備えについて

 阪神大震災の体験から今後の参考になる事柄を整理しました。

(1)地震が起こったら
1.周囲の状況を確認しながら落ち着いて行動してください。
2.火を始末をして、火事を出さないように気をつけます。もし火が出たらすばやく消火活動を始めます。
3.戸や出口を開けて避難路を確保しておきます。
4.利用者や職員、隣近所に声をかけて回り、安否確認をし、連絡を職員間でとりながら避難誘導します。(消防署も混乱していますが、必ず連絡をとるようにします。しかし、現場が優先です。)
5.簡単に外に飛び出さないようにしましょう。
(2)今後どのような備えがあれば良いか。
1.冷蔵庫や家具類は転倒防止金具で壁に固定しておきます。
2.居室の家具や棚の高いものは避け、寝具の周囲には危険物を置かないようにします。
3.開き戸には止め金、車輪付きには滑り止めをつけます。
4.電灯は金具や鎖で天井に固定しておきます。
5.廊下や階段、共用部については、障害物を置かないようにします。
6.タンスや食器棚等は重心をなるべく下の方にしておきます。
7.避難訓練では、声のかけ方や点呼、確認を工夫しておきます。
8.非常用の備蓄物資として、次のものを用意しておくと良いでしょう。
 懐中電灯、乾電池、トランジスタラジオは寮母室に用意して緊急時使えるようにしておきます。また、非常食(米、水、インスタント食品)、医薬品、毛布、紙おむつ、自家発電機、燃料(プロパンガス、卓上コンロ、固形燃料、薪等)は防災倉庫等に備えておきます。

(神戸・千山荘生活指導員 新阜 義弘 記)

Q40. 盲老人ホームにおける新しい取り組みについて教えて下さい
A:
 21世紀を間近に控えて、盲老人ホームもそれぞれ設備や援助の内容を、より充実したものとするために努力しています。
多様化するニーズに応えるためには、援助者自身が質の高い知識・技術・教養を備えていなければなりません。その上で、利用者のQOL(生活の質)を高める努力が望まれます。
 設備面では、まず、生活空間の充実やプライバシーの確保の面から個室化を目指しています。個別的援助サービスの第一歩といえるでしょう。また、居室の中にもトイレやベランダが設備され、永年使用し愛着のある家具や電話が持ち込めるようになると良いでしょう。それにより自分で掃除や布団干し等を自由に責任を持って行い、豊かな生活を送って頂けるように思います。
 また、援助サービス面では、食事時間や入浴時間の柔軟な運用が考えられます。一斉に食べ始めたり、入浴時間を制限したりせずに、ある程度の時間帯の中で自由に食べたり、入浴してもらうようにするのです。これには温食や献立説明、夜間入浴の際の事故等も念頭においた上での援助サービスを始めていくようにしなくてはなりません。パート職員の採用やボランティアの受け入れ等も考慮していくのも一つの方法でしょう。
 施設サービスと在宅サービスは、対立的な内容と考えるのではなく、連携、協調し、密接に関連しあって福祉サービスとしての大きな役割を果たすといえるでしょう。こうした考え方にたって、盲老人ホームも地域の中で充実した福祉サービスを提供できる中核的な視覚障害者センターとしての役割を構築していかなければなりません。 
 その具体的な事例としてショートステイやデイ・サービスをあげてみましょう。これは在宅の盲老人の方々に利用してもらえるような内容のプログラムが必要となってきます。これは地元の市町村や盲人協会・盲学校等の視覚障害者専門機関との連携や、日頃からのコミュニケーション、ネツトワークが重要となってきます。施設での行事への招待や、交流的な取り組みも日頃から行っておくことも大切です。
 また、中途失明者への相談援助や福祉制度、歩行や日常生活訓練、点字教室等の開催が望まれます。特に高齢で失明される人が増加していますので、糖尿病に対しての医療的、福祉的なケアやサービスの問題も広くとりあげていくことも良いでしょう。
 また、視覚障害者に対しての総合的な介助技術の講習会を、ボランティアや福祉学習に来られた学生や実習生に体験してもらうようにするのも良いでしょう。こうした事の積み重ねが、より専門性をもった新しいサービスの一助となるのではないでしょうか。このような新しい取り組みを行っていくためには、施設の整備面での様々な問題や課題を解決していかねぱなりません。何よりもこうした事業を支える人的資源、マンパワーの育成が急務となってきます。専門的な知識や技術の習得と経験、そして研修や実践の時間の充実が求められるのです。
 今私たちが求められている援助サービスは、施設はいかに在宅の生活以上のレベルを維持し、発展させていけるかが課題となっています。
 今までの施設が抱えていたサービス面での問題をクリアした上で、専門施設としての新しいサービスの提供を図っていかねばなりません。真に人間愛に目覚めた援助者として頑張りたいものです。


主題:
盲老人援助マニュアル Q&A 知ってる人も 知らなかった人も これからの人も

発行者:
全国盲老人福祉施設連絡協議会 (発行責任者:本間 昭雄)

著者名・研究者(個人・団体):
全盲老連・盲老人援助マニュアル編集委員会

発行年月:

文献に関する問い合わせ先:
東京都青梅市根ヶ布2-722
全国盲老人福祉施設連絡協議会
TEL: 0428-21-0301