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高齢障害者に対する治療介入の効果に関する研究 作業療法種目および作業療法期間別の効果の検討

山田孝(北海道大学医療技術短期大学部
森二三男(北海道文理科短期大学)
山崎郁雄(発寒中央病院)

項目 内容
発表年 1989年
転載元 北海道高齢者問題研究協会発行
高齢者問題研究 No.5

A Study Concerning to the Effectiveness of Occupational Therapy Intervension for the Elderly Patients.

Takashi Yamada : Department of Occupational Therapy, College of Medical Technology, Hokkaido Universit
Fumio Mori : Hokkaido College of Art and Science
Ikuo Yamazaki : Department of Occupational Therapy, Hassamu Chuo Hospital

occupational therapy service, to control the activities of occupational therapy was very difficults to conduct.

はじめに

高齢で障害を持つ患者に対するリハビリテーションを大別すると、起居動作、移動動作などの基本的な動作の訓練や疼痛などの軽減を目的にした理学療法 Physical Therapy、目と手の協調性(功級動作)の訓練をはじめ、日常生活活動(ADL)の訓練などの応用的な動作の訓練や失行・失認症などの改善を目的にした作業療法 Occupational Therapy、失語症などの言語障害に対処する言語療法 Speech Therapy などがあり、それぞれの専門職が配置されている。これらの専門職の中で、作業療法は職務内容等からみて理解されにくいといわれている。作業療法に比較的理解を持っていると思われる理学療法士を対象とした最近の我々の調査の結果をみると、一緒に働くことが多い専門職である理学療法士ですら、一般に作業療法(士)に対しては独自性が低く、専門性がなく、体系的方法や手段が不明瞭であるとし、従って、作業療法が何に役立つのかわからないといった有効性に対する疑念がある。特に作業療法が手段として用いる「作業」に対しては、「遊び」との区別が不明確であるとしている(八田・山田:1987)。
博田(1986)はリハビリテーション医学の先人であるLichtの作業寮法の目的別分類として (1)運動学の基本的な原理を応用した運動性作業療法、(2)心身のトーンを維持・改善するために行われる緊張性作業療法、(3)エネルギー消費量の計測された動作を段階的・漸増的に行う計測性作業療法という分類をあげ、さらに、(4)知覚再教育、(5)認知再教育を加えている。これら全体をみわたしてみると、老人患者をはじめとする広範囲な患者に対して作業療法が用いる趣味(遊び)的な手段は治療的な意味がないとしている。さらに、作業療法は治療技術であり、そのためには、治療目的と適応が必要であるとしている。
このような状況は作業療法は治療目的と治療技術の曖昧なものと見られていることを示しているように思われる。従って、作業療法の効果の判定のためにも、作業療法が治療手段として用いる活動種目を明らかにし、活動種目に応じた効果を検討することは重要なことと思われる。
ところで、われわれは最近、道内の病院で働いている作業療法士に対して、老人患者にどのような治療法動を行っているのかを調査した(浜畑・他:1987)、この調査は道内で痴呆性老人の作業療法を実施している5病院(一般病院4。精神病院1)の作業療法士に調査用紙を配布し、調査時点で対象患者に実施している活動をすべて記入してもらった結果、87例の回答を得た。アンケート回収後、各種目をその種目の特性と使用目的に沿って、A群:サンディング(傾斜机上での抵抗運動)などの身体機能活動群、B群:更衣動作台所動作の訓練などの日常生活活動群、C群:リハビリ体操やゲートポールなどのスポーツ・ゲーム活動群、D群:合唱やカラオケなどの社会的・集団的活動群、E群:アンデルセン工芸などの創造的活動群1(単純な模倣)、F:陶芸や木工などの創造的活動群(工夫・発案・企画等を含む複雑なもの)の6群に分類した。さらに、B群以外の活動を机上でのstaticな活動と机上での活動以外のdynamicな活動に分類した。87例に実施されている活動種目はのべ216種目に上り、1症例平均で2.48となった。各活動群別では、A,C,F群の活動が比較的多数を占めているこ とが明らかになった(図1)。また、staticな活動とdynamicな活動との区分で見てみると、staticな活動68、dynamicな活動71とほぼ同じ割合であった。この研究は作業療法土が老人患者に対する活動種目を提示する際に、治療目的を定義し、それに見合った活動を選択していることを示していると考えられる。同時に、単純に活動種目別に治療の効果を検討することの困難さが明らかになった。というのは、この研究で明らかになったように、作業療法では1人の患者に対して平均2.5の活動種目を行わせている。しかも、同一の患者に同一の活動群の範囲内で種目を変えているというのではなく、2つ以上またがった活動群からの種目を行わせていることが明らかになった。このような現状を見ると、単に活動の種目という点から作業療法の効果を論じることはできないように考えられる。

ところで、作業療法の活動別に見た治療介入の方法による効果を研究した前回の研究(山田・森:1988)では、感覚入力と運動反応の促進による基本的な目と手の協調性を改善するためのさまざまな粗大な身体活動が患者の社会的行動の改善をもたらしたことを明らかにした。同時に、疾病や障害の発症からの期間、入院期間、入退院や転院などの頻度などや、面会謝絶期間やテント使用期間といった感覚剥奪状態の期間などを個々の患者について調査した上での活動種目の効果をみる必要が示唆された。
今回はこれらの点を考慮した上で、作業療法の種目や治療期間と治療効果を検討する目的で調査を行った。

表1 入院患者に関する作業療法の効果に関する資料
患者氏名 ___________
男・女
明・大・昭 _年_月_日生まれ
当院入院年月日 _年_月_日(_歳)
OT 開始年月日 _年_月_日
PT 開始年月日 _年_月_日
病歴
発症年月日 :_年_月_日(_歳) _年_ヶ月間
(1) 初回
入院 :_年_月_日(_歳)___病院
退院 :_年_月_日(_歳) _年_月間
(2) 2回目
入院 :_年_月_日(_歳) ___病院
退院 :_年_月_日(_歳) _年_月間
(3) 3回目
入院 :_年_月_日(_歳) ___病院
退院 :_年_月_日(_歳) _年_月間
(4) 4回目
入院 :_年_月_日(_歳) ___病院
退院 :_年_月_日(_歳) _年_月間
(5) 5回目
入院 :_年_月_日(_歳) ___病院
退院 :_年_月_日(_歳) _年_月間
他院でのリハの受療状況((1)~(5)で示す)
図表化(上に年、下に線で入院、自宅療養などと記入)

本研究の方法

本研究では documentationと呼ばれる、いわゆる文書(カルテ)調査法によった。文書調査とは病院に保管されている患者の個人記録をある一定の目的に従って調査することである。本研究においては、表1のような調査用紙を用いて作業療法を受けている患者の記録をレビューした。
調査は札幌市内の3つの病院で行った。調査項目は患者の(1)氏名、(2)性別、(3)当院入院年月目、(4)作業療法開始年月日、(5)発症年月目、(6)初回入院病院ならぴに初回入院・退院年月目、(7)2回目入院病院ならぴに初回入院・退院年月目、(8)3回目入院病院ならぴに初回入院・退院年月日、(以下入退院の回数が増す毎に入退院年月日)、(9)作業療法の種目、(10)理学療法開始年月日であった。
これらの調査を元に、患者の(1)性別、(2)年齢、(3)発症時年齢、(4)発症からの年齢、(5)入院回数、(6)通算入院期間、(7)当院入院期間、(8)作業療法(OT)実施期間を求めた。
同時に、作業療法開始時に実施したパラチェック老人行動評定尺度(以下、パラチェック1回目とする)、作業療法開始時のGBS・痴呆症候群評定尺度(以下GBS1回目、とする)の評定を記録し、また、調査時(または退院時)にもチェックしてくれるよう作業療法土に依頼し、回収した(以下、パラチェック2回目、GBS2回目とする)、なお、資科の整理にあたってパラチェック、GBSともに作業療法開始後1年未満までの評価を1回目、それ以後を2回目として記録した。

本研究の結果

得られた資料の総数は221であったが、今回はそのうち資料の整理がついたもののうちの93例を分析の対象とした。
1. 作集療法の種目
今回収集した資科の分析過程で、3つの病院の作業療法で実施している作業種目は延べ100種目以止にのぼり、またほぼ全員が共通して前回報告した目と手の協調性の改善を計る粗大な身体運動活動とともに、2種目以上の机上での作業を実施していることが明かになり、詳細な分析を実施することが困難で、分析の対象から除外した。

2. 全体およぴ男女別結果
今回の分析の対象となった患者全体、および男女別の各調査項目およぴパラチェック1回目、2回目、GBS1回目2回目の結果は表2、表3に示すとおりである。
93人の男女別内訳は男性32、女性61で、年齢は平均75.6歳、標準偏差(以下SD)8.80で、男性は平均72.4歳(SD9.66)、女性は平均77.2歳(SD7.91)であり、男女群間の年齢は危険率5%で有意な差が認められた。このことは男性患者群が若いことを示している。
発症時の年齢は全体で平均70.1歳(SD10.15)であり、男性が平均66.8歳(SD11.57)、女性が平均71.7歳(SD8.98)であり、男性群と女性群間には有意な差はなかった。
発症からの期間を見ると、全体では平均66.9カ月(SD57.71)が経過しており、男性群は平均68.1ヵ月(SD55.35)、女性群は平均66.3ヵ月(SD59.35)であり、両群間には有意な差は認められなかった。
入院回数を見ると、全体では平均2.3回(SD1.10)であったが、男性は平均2.7回(SD1.10)、女性は2.0回(SD1.10)で、両群間には1%の危険率で有意な差が認められた。このことは男性の入院回数(従って退院回数も)が女性よりも多いことを示している。
通算しての入院期間は全体では平均43.4ヵ月(SD38.65)で、男性は平均46.5ヵ月(SD45.06)、女性は平均41.8ヵ月(SD35.13)であった。
作業療法を受けている(あるいは、受けていた)期間は全体で平均13.3ヵ月(SD9.14)であり男性は平均14.9ヵ月(SD20.77)、女性は平均30.1ヵ月(SD25.48)であった。
通算入院期間作業療法実施期間共に男女群間に有意差は認められなかった。

表2 :本研究の結果:全体(平均と標準偏差)

年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
全体
n=93
平均値 75.6 70.1 66.9 2.3 43.4 28.3 13.3
標準偏差 8.80 10.15 57.71 1.10 38.65 23.98 9.14
男性
n =32
平均値 72.4 66.8 68.1 2.7 46.5 24.8 14.9
標準偏差 9.66 11.57 55.35 1.10 45.06 20.77 9.78
女性
n =61
平均値 77.2 71.7 66.3 2.0 41.8 30.1 12.4
標準偏差 7.91 8.98 59.35 1.10 35.13 25.48 8.74
男女間の有意差 **
―は有意差なし、*はP<0.05、**はP<0.01で有意差あり。

表3 :本研究の結果:全体(平均と標準偏差)

パラチェック1回目 パラチェック2回目 GBS1回目 GBS2回目
得点 人数 得点 人数 得点 人数 得点 人数
全体 平均値 34.3 65 37.3 55 38.0 49 37.5 31
標準偏差 8.80 8.17 34.25 41.85
男性 平均値 33.4 25 36.5 22 40.0 22 35.6 15
標準偏差 9.63 9.41 37.19 41.02
女性 平均値 34.5 40 37.8 33 36.3 27 39.2 16
標準偏差 8.32 7.34 32.28 43.88
男女間の有意差
―は有意差なし

3. 全体およぴ男女別評価の結果
パラチェック1回目・2回目、GBS1回目・2回目の全体およぴ男女別結果は表3に示すとおりであった。パラチェック1回目の全体(標本数n65)の得点は、平均34.4点(SD8.80)であり、男性群(n=25)は平均334点(SD9.63)、女性群(n=40)は平均34.5点(SD8.32)であった。パラチェックの1回目の得点に男女群間の有意差は認められなかった。
パラチエック2回目の得点は、全体(n=55)で平均37.3点(SD8.17)、男性群(n=22)で平均36.5点(SD9.41)、女性群(n=33)で平均37.8(SD7.34)であった。
GBSの1回目の得点は、全体(n=49)では平均36.0点(SD34.25)、男性では平均40.0点(SD37.19)、女性(n=27)では平均36.3(SD32.28)であった。
GBS2回目の得点は全体(n=31)では平均37.5点(SD41.85)で、男性群(n=15)の平均は35.6(SD41.02)、女性群(n=16)の平均は39.2(SD43.88)であった。
いずれの結果も男女間には統計的に有意な差は認められなかった。また、全体および男女各群においても、パラチエック1回目と2回目、GBS1回目と2回目の得点には有意な差は認められなかった。
4. 入院・退院等別結果
収集した資料を入院中の者、退院した者、転院(老人施設、老人保健施設を含む)した者、作業療法を医師の指示のもとに中止した者、作業療法実施期間中に死亡した者に分けて処理した結果は表4に示す通りである。いずれの項目にも群間の統計学的な有意差は認められなかった。

表4 :本研究の結果:入院・退院等別(平均と標準偏差)

年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回期 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
入院
n=56
平均値 74.3 69.5 59.6 2.5 43.0 26.3 13.7
標準偏差 8.44 10.12 53.95 1.10 41.05 23.82 10.03
退院
n=10
平均値 71.2 64.8 75.7 2.2 28.8 19.5 13.1
標準偏差 11.62 12.52 76.00 1.00 15.44 10.10 8.26
転院
n=14
平均値 80.6 74.6 72.1 2.1 53.5 36.4 12.9
標準偏差 7.11 7.75 56.44 1.50 48.14 28.38 7.17
中止
n=6
平均値 79.7 73.8 67.7 1.6 40.5 39.5 9.0
標準偏差 6.80 9.21 61.07 0.80 24.38 25.23 7.89
死亡
n=7
平均値 77.9 69.4 101.4 1.8 50.3 31.0 14.7
標準偏差 7.44 9.71 60.16 0.30 30.58 27.11 8.36

5. 入院・退院等別の評価結果
収集した評価に関する資料を入院中の者、退院した者、転院(老人施設、老人保健施設を含む)した者、作業療法を医師の指示のもとに中止した者、作業療法実施期間中に死亡した者に分けて処理した結果は表5に示す通りであった。いずれの項目にも、群間の有意な差は認められなかった。また、各群ともに、パラチェック1回目と2回目、GBS1回目と2回目の間に有意な差は認められなかった。
退院と転院を「快方に向かった者」、中止と死亡を「快方に向かわなかった者」と想定して、入院中の者との3群間の各評価項目間の有意差の検定を行ったところ、「快方群」と「非快方群」間にパラチェックの1回目と2回目に危険率5%で有意な差が認められた。

表5 :本研究の結果:入院・退院等別(平均と標準偏差)

パラチェック1回目 パラチェック2回目 GBS1回目 GBS2回目
得点 人数 得点 人数 得点 人数 得点 人数
入院 平均値 34.7 51 36.35 32 38.0 49 37.5 31
標準偏差 8.69 8.64 34.25 41.85
退院 平均値 37.0 2 36.5 8 0 0
標準偏差 7.94
転院 平均値 40.0 4 42.8 10 0 0
標準偏差 6.27 5.41
中止 平均値 30.8 6 0 0 0
標準偏差 9.08
死亡 平均値 24.0 2 32.2 5 0 0
標準偏差 5.71
各群間には有意差なし

6. 各項目間の相関
各項目相互間の相関係数を求め、その有意差の検定を行ったところ、表6のような結果が得られた。
年齢と相関が認められたものは発症時年齢とで、入院回数、パラチェック1回目の得点とは負の相関が認められた。発症時年齢と相関が認められたものは年齢とで、発症からの期間、入院回数、通算入院期間、パラチェック1回目の得点とは、いずれも負の相関が認められた。発症からの期間は通算入院期間、当病院入院期間と相関が認められ、発症時年齢とは負の相関が認められた。入院回数は通算入院期間、パラチェック1回目得点と相関が認められ、年齢、発症時年齢、当院入院期間とは負の相関が認められた。通算入院期間は発症からの期間、入院回数、当院入院期間、作業療法実施期間、パラチェック1回目得点と相関が認められ、発症時年齢とは負の相関が認められた。作業療法実施期間は通算入院期間、当院入院期間と相関が認められた。
パラチェック1回目得点は年齢、発症時年齢とは負の相関が認められ入院回数、通算入院期間とは相関が認められた。
パラチェック1回目、2回目、GBS1回目、2回目の得点相互間にはいずれも有意性が認められた。

表6 :本研究の結果:項目間の相関係数と有意性

年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間 パラチェック GBS
1回目得点 2回目得点 1回目得点 2回目得点
人数 93 93 93 93 93 93 93 66 56 49 31
年齢 .8764*** -.0257 -.4944*** -.0914 .1701 -.0371 -.2615* .0236 .2065 .1024
発症時年齢 -.5017*** -.5155*** -.3804*** -.0232 -.0910 -.3135** .0235 .2048 .1205
発症からの期間 .1783 .6280*** .3548*** .1350 .2211 -.0002 -.0862 -.1102
入院回数 .2759** -.2205* .0676*** .2975* .1953 -.2652 -.3300
通算入院期間 .6707*** .4336*** .2430* .1868 -.2574 -.1957
当院入院期間 .4477*** .0491 -.0027 -.1170 .0790
OT実施期間 .0356 -.0379 -.2501 -.1059
*はP<0.05、**はP<0.01、***はP<0.001で有意差あり

7. パラチェック1回目の得点区分別の各項目の結果
パラチェック1回目の得点を24点までを1群、40点から39点までを2群、40点から50点までを3群として、得点区分群別の各項目の平均とSDを算出した。結果は表7に示すとおりであった。1群と2群間の発症時年齢、2群と3群間の入院回数の有意差が認められた以外は他の項目間には統計的に有意な差は認められなかった。

表7 :本研究の結果:パラチェック1回目の得点区分別(平均と標準偏差)

年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院回数 当院入院期間 OT実施期間
1群
n=10
平均値 79.3 76.1 39.5 2.0 24.3 19.7 12.7
標準偏差 6.42 7.51 28.12 0.60 15.88 13.30 8.51
2群
n=33
平均値 76.2 71.4 59.3 2.0 42.5 33.9 12.2
標準偏差 6.68 7.25 51.88 1.00 36.98 31.01 9.51
3群
n=22
平均値 73.3 66.8 77.7 2.8 54.7 26.3 13.5
標準偏差 10.21 13.23 61.78 1.40 48.78 21.55 11.34
1-2群間の有意差
2-3群間の有意差
3-3群間の有意差
―は有意差なし、*はP<0.05で有意差あり。

8. 入院患者の結果
調査時点で入院中の患者だけについて、さらに資料を分析した。各項目の平均とSDを全体および男女別に示したものが表8である。いずれの項目間にも男女群間に有意差は認められなかった。
入院中の患者の評価結果を全体、男女別に示したものが表9である。いずれの検査でも男女の群間には有意差は認められなかった。また、全体および男女群に、パラチェック1回目と2回目、GBS1回目と2回目との間の得点の差は有意であるとは認められなかった。
入院中の患者について、発症からの期間を12カ月までの1群、13から24ヵ月までの2群、25から36ヵ月までの3群、37から60ヵ月までの4群、61から120ヵ月までの5群、121ヵ月以上の6群の6群に分け、各項目の平均とDSを求めたものが表10である。群間の有意差は発症時年齢で1群と6群間、2群と5群、6群間、3群と6群間に認められた。発症からの期間はほぼ全群間に有意差が認められた。入院回数は2群と6群、3群間、3群と4群間に認めらわた。通算入院期閻では1群と全群間、3群と4、5、6群間、4群と5、6群間に有意差が認められた。作業療法実施期闇では1群と3、4、5群間、2群と3、4群間、5群と6群間に有意差が認められた。
評価結果を発症からの期間別に見たのが表11である。各群間にはいずれも有意差は認められなかった。また、各群ともに、パラチェック1回目と2回目およびGBS1回目と2回目との間に有意な差は認められなかった。
入院中の患者にっいて、通算入院期間を12ヵ月までの1群、13から24ヵ月までの2群、25から36ヵ月までの3群、37から60ヵ月までの4群、61から120ヵ月までの5群、121ヵ月以上の6群の6群に分け、各項目の平均とDSを求めたものが表12である。各群間の項目の平均の差の検定の結果、年齢では1群と3、6群間に有意差が認められた、発症時年齢では1群と3,5、6群間、2群と5、6群間、3群と5群間に有意差が認められた。発症からの期間では1群と4、5、6群間、2群と4,5,6群間、3群と4,5群間に有意差が認められた。入院回数では1群と3,5,6群間、2群と5群間、3群と4,5壽間、4群と5群間にそれぞれ有意差が認められた。通算入院期間では1群は全群と、2群は4,5,6群と、3群は5群と有意差が認められた。作業療法実施期間では1群は全群と、2群と5群間、4群と5群間に有意差が認められた。
入院中の患者の通算入院期間区分毎の評価得点の平均を示したものが表13である。パラチェック1回目の2群と5群間、GBS1回目の1群と5群間にそれぞれ有意差が認められた。また、いずれの群においても、パラチェック1回目と2回目、GBS1回目と2回目との間に有意な差は認められなかった。
入院中の患者のパラチェック1回目、2回目の得点と各項目との相関を算出した結果は表14に示してある。1回目、2回目とも入院回数との相関が統計的に有意であった。

表8 :入院患者全体の結果(平均と標準偏差)

年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
入院
n=56
平均値 73.4 69.5 59.58 2.5 43.0 26.3 13.7
標準偏差 8.44 10.12 53.95 1.10 41.05 23.82 10.03
男性
n=25
平均値 73.2 67.8 66.4 2.7 48.9 26.1 15.0
標準偏差 9.65 11.74 59.27 1.10 50.33 22.55 10.15
女性
n=31
平均値 75.3 70.9 54.1 2.3 38.3 26.5 12.6
標準偏差 7.34 8.54 49.57 1.10 31.79 25.16 9.98
全項目に有意差なし

表9 :入院患者の検査得点の平均と標準偏差

パラチェック1回目 パラチェック2回目 GBS1回目 GBS2回目
得点 人数 得点 人数 得点 人数 得点 人数
全体 平均値 34.7 51 36.5 32 38.0 49 37.5 31
標準偏差 8.69 8.64 34.,25 41.85
男性 平均値 34.0 24 36.1 16 40.0 22 35.6 15
標準偏差 9.52 9.05 37.19 41.02
女性 平均値 35.4 27 36.9 16 36.3 27 39.2 16
標準偏差 8.00 8.48 32.28 43.88
全項目に有意差なし。

表10 :入院患者の発症からの期間別の結果(平均と標準偏差)

発症からの期間区分 結果 年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
1 :12ヵ月まで
n=4
平均値 75.8 75.0 8.3 2.2 8.3 4.3 2.5
標準偏差 2.50 2.44 3.09 0.50 3.09 2.50 1.29
2 :13~24ヵ月まで
n=11
平均値 77.5 76.1 16.6 2.0 14.1 11.4 8.5
標準偏差 8.37 8.34 3.52 0.50 4.65 5.67 6.18
3 :25~36ヵ月まで
n=10
平均値 72.2 69.9 30.8 2.9 25.9 16.1 13.2
標準偏差 6.21 6.40 3.04 0.90 6.47 7.38 5.30
4 :37~60ヵ月まで
n=11
平均値 74.4 70.8 43.8 1.9 40.9 32.9 17.7
標準偏差 11.79 11.87 6.95 1.00 14.62 15.11 10.64
5 :61~120ヵ月まで
n=12
平均値 73.4 66.8 81.9 2.7 62.4 38.3 20.9
標準偏差 7.45 7.60 18.43 1.20 27.30 24.35 11.59
6 :121ヵ月以上
n=8
平均値 73.5 59.6 168.5 3.2 95.3 43.5 10.6
標準偏差 9.81 12.07 42.99 1.70 74.03 40.60 9.22

表11 :入院患者発症からの期間区分別得点の平均と標準偏差

発症からの期間区分 結果 パラチェック1回目 パラチェック2回目 GBS1回目 GBS2回目
得点 人数 得点 人数 得点 人数 得点 人数
1 :12ヵ月まで 平均値 31.8 4 0 55.0 4 0
標準偏差 6.70 31.86
2 :13~24ヵ月 平均値 35.2 10 35.8 4 29.9 10 24.0 4
標準偏差 8.48 6.99 24.79 13.88
3 :25~36ヵ月 平均値 29.6 7 35.1 8 48.0 8 51.1 8
標準偏差 11.39 10.97 51.19 51.84
4 :37~60ヵ月 平均値 36.4 10 38.8 8 34.7 10 35.1 8
標準偏差 9.00 7.26 40.64 46.56
5 :61~120ヵ月 平均値 34.7 12 36.3 9 37.2 11 36.3 9
標準偏差 7.89 9.57 31.20 43.30
6 :121ヵ月以上 平均値 37.1 8 35.7 3 33.5 6 24.0 2
標準偏差 8.07 9.01 19.66
全区間に有意差なし

表12 :入院患者の通算入院期間別結果(平均と標準偏差)

通算入院期間区分 結果 年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
1 :12ヵ月まで
n=12
平均値 77.3 74.9 28.8 2.0 8.7 6.3 3.6
標準偏差 6,41 6.30 35.70 0.60 3.31 4.09 2.34
2 :13~24ヵ月
n=11
平均値 77.8 73.3 30.5 2.3 18.1 13.4 10.5
標準偏差 7.31 8.00 30.44 0.80 4.20 6.46 6.28
3 :25~36ヵ月
n=6
平均値 70.5 68.2 31.0 3.0 30.2 18.7 15.2
標準偏差 5.00 4.95 2.75 1.00 2.04 6.37 3.86
4 :37~60ヵ月
n=15
平均値 75.3 69.6 70.5 2.2 46.4 34.5 16.2
標準偏差 10.79 11.97 53.27 1.40 7.12 16.14 10.12
5 :61~120ヵ月
n=10
平均値 70.7 62.8 999.3 3.3 83.3 46.1 24.6
標準偏差 8031 8.43 31.44 1.20 15.86 28.27 9,65
6 :121ヵ月以上
n=2
平均値 71.0 53.5 203.5 3.0 197.5 79.5 13.5
標準偏差

表13 :入院患者の通算入院期間区分別得点の平均と標準偏差

入院期間期間区分 結果 パラチェック1回目 パラチェック2回目 GBS1回目 GBS2回目
得点 人数 得点 人数 得点 人数 得点 人数
1 :12ヵ月まで 平均値 32.8 12 0 58.7 11 0
標準偏差 11.34 45.35
2 :13~24ヵ月 平均値 32.7 9 35.8 6 35.8 9 226.2 6
標準偏差 5.85 5.45 25.84 14.13
3 :25~36ヵ月 平均値 29.5 4 34.8 6 47.4 5 58.0 6
標準偏差 12.36 12.95 57.93 58.84
4 :37~60ヵ月 平均値 35.9 14 35.4 10 31.6 13 48.6 10
標準偏差 7.42 9.53 20.84 52.09
5 :61~120ヵ月 平均値 38.9 10 38.3 9 20.4 9 19.9 8
標準偏差 6.64 6.85 17.32 17.31
6 :121ヵ月以上 平均値 37.5 2 45.0 1 30.0 2 11.0 1
標準偏差
パラチェック1回目得点で、13-24ヵ月群と61-120ヵ月群間、GBS1回目得点で、12ヵ月までの群と61-120ヵ月群にそれぞれ5%の危険率で有意差あり、その他の群間には有意差なし。

表14 :入院患者のパラチェック結果と他の属性との相関係数とその有意性

人数 年齢 発症時年齢 発症からの期間 入院回数 通算入院期間 当院入院期間 OT実施期間
パラチェック1回目 51 -.1824 -.2381 .1954 .3119* .2501 .2627 .1905
パラチェック2回目 32 -.1519 -.1705 .0931 .4249* .2065 -.0994 -.0105
無印は有意差なし、*はP<.05で有意性あり

考察

1. 評価結果について
作業療法をその活動種目別に検討するのではなく、総体として見たとき、作業療法が効果があるとすれば、また、前回に報告したようにパラチェック老人行動評定尺度やGBS尺度が老人の行動の変化を敏感に捉える評価法であるとするならば、パラチェックの1回目と2回目との間には得点の増加が認められ、また、GBSでは得点の減少が認められることになる。本研究の結果は、入院中や退院者を問わず、全体としてみたときにはパラチェックでは全体で2.9点、男性では3.1点、女性では3.3点の増加が認められ、また、GBSでは全体で0.5点、男性で4.4点の減少が認められたし、また、入院中の患者のみについてみたときにも、パラチエックの得点は全体で1.8点、男性では2.1点女性1.5点増加し、GBSは全体で0.5点、男性4.4点の減少を示している。しかしながら、統計的検定の結果はこれらの差はいずれも有意な差とはいえないことを示している。
このこと、つまり、老人患者に対する作業療法が本研究で用いた評価の経時的な得点の差に有意な変化をもたらさなかったということは、作業療法が有効ではないということを意味するものであろうか。また、前回報告した特に患者の社会的行動の改善をもたらす感覚人力と運動反応を促進する基本的な目と手の協調性を改善するための粗大な身体活動が、ほとんど全ての患者に実施されているということを考慮すると、患者の改善が本研究で効果判定に用いた評価法に反映されても良いはずである。
本研究の結果、全体的な傾向としてはパラチェック得点の増加にみられるように改善の方向を示しているということは事実である。なぜなら、得点の変化が有意ではないということであって、得点は増加しているからである。このことは作業療法の効果として、現状を維持するという効果が考えられる。平均年齢75.6歳の障害を持つ高齢患者の機能の維持は困難なことである。毎日、短時間でも病床を離れ、作業療法室まで来て、合目的な活動を行うということに、機能の維持という効果があるといえよう。

2. 患者の状態に影響を及ほす要因について
パラチェック1回目の得点と有意な相関があった項目をみてみると、調査の全対象者で人院回数と通算入院期間であり、年齢と発症時年齢とは負の相関があった。また、パラチェック1回目の得点区分別の各項目の平均値の差が有意であったものは1群と2群との発症時年齢で、1群の方が約10歳高かった。また、2群と3群との入院回数で、3群の方が多かった。また、入院患者だけでみても、パラチエック1回目、2回目と有意な相関がみられたのは入院回数だけであった。
これらの結果は入院回数が多いことと得点が高いこと、通算入院期間が長いれば得点が高いことを意味する。入院回数と有意な相関が認められた項目は年齢、発症時年齢および当院入院期間とがいずれも負の相関で、通算入院期間とは正の相関であったということは、入院回数が多い患者ほど年齢、発症年齢とも若いことを意味するものと考えられる。入院回数が多い患者は一般に全体状態がそれほど悪化していないために入退院を繰り返したりする場合や、より良い医療の場を求めて入退院を繰り返す場合が多い。それだけ全体状態が良好であることを意味するものとも考えられる。通算入院期間が長いということは単に状態が悪いからだけでなく、老人を引き取る家族状況、家庭環境などにも影響される。このことは今回の調査対象となった病院では、同一法人のもとに、最近話題になっている老人保健施設を新設したが、調査対象者のうちで転院となった14名の患者のうち、12名が老人保健施設や老人施設に転院していたことからも伺い知ることができる。
このことは入院患者の入院期間区分別にみたパラチェック1回目の得点の推移(表12,13)をみてみるとますます明らかになる。入院間区分別にパラチェック一回目の得点と人数をみると、5群や6群の得点が高くなっていり、入院回数も多く、逆に年齢も発症時年齢も低い。3群が低くなっているが、この群は年齢や発症年齢が低く、入院回数も多いし、また人数も少ないことなどから、この群は全体状態の良好でない患者が多いと思われる。
パラチエック1回目の得点と年齢や発症時年齢の間には負の相関が認められたことやパラチェック1回目の得点区分別の各項目の平均値の差が有意であったのが1群と3群との発症時年齢で、1群の方が約10歳高かったということは、年齢が高いほど得点が低くなるということであり、それは当然のことでもある。特に発症時年齢との相関の方が高かったことや1群と3群の発症時年齢に有意差があったということは、高齢で発症すればするほど、得点の低下が認められるということである。発症時の年齢は発症からの期間、入院回数、通算入院期間とも負の相関が認められており、高年齢での発症は同一施設への定着をもたらすという傾向が伺える。
入院患者を発症からの期間別にみると、このことがますます明らかになる。発症からの期間1では年齢も発症時年齢も高く、パラチエック1回目の得点も低い。発症からの期間3群でパラチエック得点が最も低くなっていることは発症時年齢が最も低くなっていることは通算人院期間別での1群とほぼ共通する対象者であると考えられる。

3. 作業療法の効果に関する研究の困難さについて
今回の研究では、当初、感覚入力を主とする活動を行っている病院の患者とそうでない病院の患者を比較検討することを考慮していたが、高齢患者を対象とする臨床の現場で働く作業療法士の数が少なく、また、既に前回公表したような活動の有効性が広く知れわたり、多くの病院でそれらの活動が導入されているのが現状である。このように臨床の場で、活動を十分コントロールして行う必要のある有効性の研究は、より良い治療の場を求めて来る患者を目の前にしたとき、困難を極めることといえよう。このような対照群を設定しての有効性の研究に代わって、単一患者のべースラインを数回にわたって測定してから、治療を開始し、治療中、終了時、および終了後にべースラインとの比較検討を行うことで有効性を検証する方法などが用いられるようになっているが、これも使用する有効な評価方法の開発が必要である。今後、作業療法の有効性を検討する効果的な方法、および、妥当性と信頼性の高い評価法の開発を検討する必要があろう。

本研究の結論と要約

本研究は作業療法の効果を検討する目的で、作業療法を受けている患者の文書調査という方法で、患者の作業療法開始以前の状態を調査し、開始後間もなくと終了後または1年後までの時点でのパラチエック老人行動評定尺度とGBS尺度を実施し、さらに、作業療法の受療期間を調査した。
その結果、開始後間もなくの時期と1年後までの時期とのパラチエック尺度の得点間に増加が認められたものの、有意な増加とは認められなかった。このことは直ちに作業療法の効果を否定するものではなく、むしろ、現状維持という効果があると認められた。
作業療法の治療効果を左右する条件としては、年齢と発症時年齢の高さという誰もが回避し得ないことが治療効果を妨げるということが認められた。入退院を繰り返すことが多いことや通算入院期間が長いことなどは年齢や発症時年齢とは逆に、治療効果をあげる結果となることが明らかにされた。
また、本研究を通して、作業療法の効果を検討するために、臨床場面で活動の種目などをコントロールすることの困難さが改めて明らかになった。

謝辞

本研究の実施にあたり、資料収集にご協力いただきました札幌市南区愛全病院作業療法士梅原茂樹、小ヶ口一彦、森正子、小杉恵美、木下浩也、庵弘恵、小樽市札樽病院作業療法士吉川法生の各氏に感謝致します。また、資料の処理にご協カいただきました北海道大学医療技術短期大学部作業療法学科助手真木誠、村田和香、八田達夫の各氏に感謝致します。

文献

博田節夫、1986 :作業療法・その核を問う~医師の立場から~。作業療法5(2)、267。
八田達夫・山田孝、1987 :作業療法はどのように見られているか?(3)~理学療法士へのアンケートから~。作業療法6(3)、369。
浜畑法生・山田孝・他、1987 :老人に対するアクティビティの処方~道内病院へのアンケートから~。作業療法6(3)、232。
山田孝・森二三男、1988 :老人患者の行動評価様式ならぴに治療介入の効果に関する研究、高齢者問題研究4,111~127。


主題:
高齢障害者に対する治療介入の効果に関する研究~作業療法種目別および作業療法期間別の効果の検討~

発行者:
北海道高齢者問題研究会

著者名:
森二三男、 山田孝、 山崎郁雄

掲載雑誌名:
高齢者問題研究

発行年月:
1989年

巻数および頁数:
No.5 p104~116

登録する文献の種類:
研究論文

情報の分野:
社会福祉

文献に関する問い合わせ先:
学校法人 つしま記念学園・専門学校・日本福祉学院
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