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平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

【著作権の動向】日本におけるマルチメディアDAISYと著作権の動向

全国LD親の会 井上芳郎


皆さん、こんにちは。いまご紹介いただきました井上です。よろしくお願いします。短い時間ですので、早速本題に入ります。

DAISYそのものの話は、私からはあまりいたしません。先ほど来話題に登っております著作権の話、それも日本での話を中心にします。海外の話については後ほど河村さんからあると思います

まず、少し固い話から始まりますが、著作権法に関してです。DAISYの図書を作製するということは、著作権法上の「複製」をすることになるのだそうです。これは、音声のデータを作る場合でも同じだそうです。複製をするためには、基本的には著作権者から許可を得る必要があります。ただし、例外的に許可を得ずとも自由にできる場合があります。これについては著作権法でそのための要件が細かく規定されています。例えば、学校の授業で先生が授業で使う場合や、最近では著作権法の一部が改正され、授業を受ける生徒自身が複製する場合も許可なくできます。それから、主に視覚障害、聴覚障害の方のために使う場合には、基本的に許可なしで複製が可能です。ただし、実際には、著作権法上では非常に細かく規定してありますので、関心のある方は後ほどご覧になってください。

もともとDAISYは視覚障害の方を対象として始まったと伺っています。これとは別に点字データにする場合は従来から無許可でできますし、録音、つまり音だけのDAISYも視覚障害の方の利用に限定してあれば著作者に許可を得なくてもできます。これは、著作権法の第37条です。ただ、よく読みますと制限がいろいろありまして、誰でもどこででも勝手に作っていいかというと、ここに書いてあるように施設の範囲が定められていたり、貸出しのためにだけに使えるのだということなどが書いてあります。 (*井上氏パワーポイント資料2・3参照)

学校で使う場合ですが、先生が自分の授業のその時間中だけで使うことはOKです。しかし、厳密にこの著作権を解釈すると、例えば、ある先生が作ったものを他の先生に「これいいから使って」というようなことは、ちょっと難があるようです。ライブラリーとして蓄積し、多数で使い回しをするというのも駄目です。もちろん著作者が許可すれば自由にできますが。このように著作権法を厳密に読んでいくと、いろいろ制限があるようです。 (*井上氏パワーポイント資料4参照)

先ほど障害者放送協議会という団体名が出てきましたが、ここでは足掛け6年にわたり、著作権法改正の要望をしてまいりました。要望事項の概要はここに書きました。(*井上氏パワーポイント資料5参照)例えば録音図書は現行では視覚障害の方だけしか使えないのですが、学習障害や高齢者の方、その他にもいろいろニーズのある方がいますので利用対象者を拡大してほしい。それから、対象施設を一般の図書館などにも広げてほしい。さらに今はITの時代ですので、音声データ等をネットワークを使って送信させてほしい。などです。

(*井上氏パワーポイント資料6参照)2002年、2004年と文部科学大臣宛にいろいろ要望してきたわけなのですが、現実にはなかなか壁が厚くて要望どおりいきません。しかし、少しずつでは、ありますが前進してきています。

(*井上氏パワーポイント資料7参照)昨年3月に、文化審議会で著作権に関して検討されているのですが、その中に著作権分科会法制問題小委員会があります。
これは、そこへ厚生労働省が出した資料です。実はこれは私どもやほかの障害者団体等が要望した事項から一部を取り上げて、厚生労働省が取りまとめたものです。

(*井上氏パワーポイント資料8参照)ここにはざっと4つ書きました。DAISYに関係するものとしては、録音図書の特に音声のデータも公衆送信を認めてほしい。公衆送信とは、要するにインターネットなどを通じ送信するということです。
それから、知的障害の方や学習障害の方などへも利用対象者としての範囲を広げてほしい。
6年かかってやっとここまできました。そしてこの1月にこの小委員会での報告が取りまとめられました。これは文化庁のホームページで全文が見られるようになっていますが、録音図書の公衆送信に限っては可能になりそうです。ただ、それ以外の例えば学習障害や知的障害や、先ほどのような脳の機能障害の方へ広げることについては、今後また検討しなければいけないとのことで、残念ながら先送りになりそうな状況です。 このような国レベルでの取り組みとは別に、民間レベルで1つ前進があったのは、日本図書館協会と日本文藝家協会との間で取り決めが行われたことです。

(*井上氏パワーポイント資料9参照)文藝家協会に加盟されている作家の方たちの中で、事前に一定の契約を結ばれて、以下の文面にあるような条件で複製をしてもいいという方については、逐一著作者の方に断りを入れなくても、この文藝家協会のほうで一括許諾といいまして、要するに窓口を一本化して対応できることになっています。その中では、視覚障害の方以外でも重度の身体障害であるとか高齢等のために寝たきりになった方、学習障害等いろいろな事情で読みに困難がある方も、その対象者として広げて考えているようです。ただ、あくまでもこれは文藝家協会に加盟され、しかも事前に承諾された方だけですので、範囲は狭いといえば狭いのですがこれはこれで1つの前進といえると思います。

(*井上氏パワーポイント資料10参照)まとめということでたくさん書きました。現状の著作権法では例えば学習障害であるような方たちは、もともと想定されていないわけです。これは、多分この後河村さんからお話があると思いますが、海外の事情に比べますと日本はまだ非常に遅れた状況であります。それから、折角いろいろな技術革新が行われて、活用の道もあるのに、逆に法律が邪魔をしていて、新たな不平等が生まれる危険性も生まれているわけです。特に教育の場面で
いいますと、一部の生徒にとって「読めない」教科書が提供され続けていることがよいことなのか。当然よくないことなのですが、これは責任をもって誰もが読めるような教科書を提供する必要があるでしょう。現状ではどうしても著作権者の権利とユーザーの権利がぶつかっていて、悪い言葉ですが、どちらかが泣き寝入りになる形になっているのです。これはどちらか一方のみが負うべき課題ではなく、やはり社会全体で考えていかなければならないことだろうと思っています。それから今後折角やっていくのであれば、できるだけ統一されたフォーマットで、しかもオープンな形で進めていくほうが、資源も有効に活用できますし発展性もあるでしょうということです。もう時間が過ぎていますので、以上で終わりたいと思います。