音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

【教材を提供している立場から】DAISYソフトの認知・知的障害者への活用

札幌かかわり教室 二峰紀子

かかわり教室の二峰です。よろしくお願いいたします。簡単に私の活動と、DAISYを作っていて子どもと関わっていたこと、それを通してお話したいと思います。私の与えられた時間は15分ということですので、10分強で終わらせていただきます。かかわり教室は、札幌にあります。初めは民間でやっておりまして、少し前からNPO法人になり、札幌近郊の子どもさんたちがいらしています。

活動内容は、読み書き、計算を中心とした学習と、課外活動で身体を使ったりというところです。うちの教室に来ていただく方は、たいてい、言葉の教室、発達の病院、さまざまな所からご紹介をいただいて来てくださっています。幼稚園から高校生までおります。その中で、既成の教科書(テキスト)を使うことができないものですから、補助教材を作っております。プリントを作ったり・・・・・その中の1つとしてDAISYにも出会いました。2001年10月に、日本LD学会の開催地松山でインターネットからの情報をいただき、視聴覚センターでのDAISY講習会を見学させていただきました。その後半年ぐらい経ちまして、札幌で富山大学の森田先生、神戸ドットコムの後藤さん、それぞれお集まりいただいた、かかわり教室の保護者・ドクター・私たちが参加して、7名のために、リハビリテーション協会より講師さんにいらしていただき講習会が開かれました。

このたび、独立行政法人の福祉医療機構の助成によって、今回のDAISYソフト「ことば」を作製しました。シンプルな内容ですので、ここで3分ぐらいお見せしたいと思います。

------DAISY-----
[ 音声 ]
せいかつ
からだ

まゆげ
みみ
------DAISY-----

声は保護者にやっていただきました。素人の声です。学校の保健の先生に絵を描いていただいて、子どもの部位について行ないました。いまの身体の部分は、子どもに画面を見せながら、自分の手でその部位に触るという指導ができます。手の大きさと文字の大きさと、配置はセンターのところにということと、横文字で読みやすく1つの塊として見ていただくということで、この形を取りました。

かかわり教室では、実践とともにLD学会で発表や、北海道にはサポート学会というものがありまして、そこで2002年から発表を始めました。実践の報告ということで、「環境調整から意志へ」というテーマで、子どもの実践の報告をしました。2003年では、子どもたちの意志を育てるための環境調整、2004年には児童期における作文指導について、学生と私たちが集まって発表しました。このように環境調整ということで、環境をどのようにするかが1つの長年のテーマでした。その中には教材も含まれております。おかげで、2004年には北海道LDサポート学会とかながわLD懇話会のスタッフによって、IEPの研修会も行われました。

今日の私の役割は、教材を提供している立場からということで、「DAISYソフトの認知・知的障害への活用」について発表いたします。

先ほど聞いていただいた「ことば」のソフトの表紙です。

DAISY図書 「ことば」
製作:特定非営利活動法人 かかわり教室
助成:独立行政法人福祉医療機構

「語彙入力と読み能力の向上をめざして」という目標で、このソフトを作りました。逐次読み、飛ばし付け加え、行錯誤などの「読み」に困難を持っている児童の指導と方略、DAISY図書の絵の手がかりを使って読みを進める、横読みと縦読みの教材を作る、誤読を確認したあとに、新たな読み課題を作成するという手順で始めました。

これは、ことばのチェック表です。(*二峰氏パワーポイント資料11参照)先ほどのソフトの出てきた順番にこれを表示してあります。参加態度の項目は、着席して読む、じっと参加、途中離席、遠くから何となく参加、参加を拒否などの関連した発言、そのときどきの関連した発言などにも注目して読みのチェックをしました。【読めるようにする】という具体的な実践を通して、今回のお話をさせていただきます。

ディスレクシアの診断を受けて来室した児童の指導は、50音表で確認するというよりも、「読み」という作業を通して指導方略を考えています。教材は、絵も語調も楽しい五味さんの言葉の絵本を利用します。しかし、私たちには楽しいけれども、読み困難を抱えている児童には少し難しいようです。そこで、文字を印字し、知っている単語に○を付けさせたり、もしくはつなぎの助詞に読み進む都度、○を付けてあげることで、大変読みやすくなっています。これまでの経緯から、「読み」の力をつける目的に沿って有意味語、知っている言葉、馴染み深い単語があれば、それらを手がかりに予測して読む力をつけています。

事例1、小学校1年の男子です。(*二峰氏パワーポイント資料12・13・14・15参照)PDDの診断を受けています。いまのところ、教科書の文章の読みに特に支障はないのですが、サッケードをさせると似通った文字形態に間違いが見つかります。そのほか、飛ばし付け加えがあったり、指示理解が弱く、その都度、細かく指示または語意の意味を聞いてきます。学校でも、1学期の初めに「できるできる」とほめられましたが、1学期終了時には「指示理解と友だちとのコミュニケーションでトラブルがある」と担任から悩みを打ち明けられ、しかし、2学期になると、また個人懇談でお褒めの言葉をいただくなど、担任の混乱ぶりが目立っています。当然、文字を書く、計算ができるだけでは円滑な学校生活が送れないので、意識的に語彙を入れて指示理解の力をつけようと、いまは「聞く」「話す」を指導の中心に入れています。

ラディッシュ、エンドウ豆、チョッキ、学用品、レンジ、これらについては何だかわからないので、知らない」と答えが出ました。自転車は三輪車、気球は救急車。この気球は、絵を見たのではなくて文字を読んだのではないかと、いまは仮定しています。ただ、手袋、靴下、靴は「履いてるよ」ということで、これは自分の生活の中から身につけていることがわかっていたと感じられました。それに併せてプリントの課題を読ませてみますと、横読みではスペースシャトルは「スペシャル」と読みました。縦読みにすると「スペー/シャトル」と、そこに区切りができました。水着のみはゆと読み、チョッキはチョキンと読み、というところで、どんどん読みの間違いが見つかってきました。しかし、国語の教科書などは、家庭の事情もあるのでしょうがスラスラと読みますし、算数の指導の部分でも文章の読みにあまり困難はありません。縦読みの修正プリントを作りました。これは無意味語も入っています。間違いを見つけながらしっかりと読めるようにということで、このような課題を作りました。

事例1の特徴ですが、プリント課題では手続的に字を読むことで終わってしまい、ものと文字が一致していない、生活場面に般化されないと考えられます。DAISY読みでは、視覚情報と聴覚情報が同時に得られる。ものと言葉の一致が可能になるのではないか。知らない言葉は無理して読まないで、知らないと止まることができたことから、本来の言葉の獲得に役立つのではないかと考えています。

事例2です。(*二峰氏パワーポイント資料16・17参照)小学校3年生で、この子も広汎性発達障害の診断を受けています。 DAISY読みは、ラディッシュは「ってなあに」、レモンは「すっぱいよね」、モモは「ピーチ」、パイナップルは「嫌いな果物」、カキは「おいしい季節だよね」。この時期は冬でしたが、その時期のことを思い出したのではないでしょうか。課外活動の体験から、イチゴは「イチゴ狩りに行ったよね」、トウモロコシは「採ったよね」、スペースシャトルは「野口さんが飛んだ」。このような視覚的な手がかりがあると、連想が促進され、エピソード記憶がたくさん出てきました。

プリント課題では、横読み、縦読みともに誤読が多いけれども、逆に無意味語は読める。DAISY読みに見られるように、エピソード記憶が語彙獲得に有効であると考えました。修正課題は、彼に必要な拗音・吃音・長音、細かな無意味語を含む課題を新たに作成して、併せて家庭での課題として進めています。

そこで、一般の学習ソフトではなくDAISYであるという意味は何なのだろうかと、常々考えています。オーケストラ効果で読めたという疑似体験、これは私の考えなのですが、オーケストラでバイオリンを弾いている子どもがぎこちなくキラキラ星を弾いたときに、たくさんで弾いたときに、自分もいっぱい綺麗なキラキラ星が弾けたという体験と同じように、読めない子どもにとって読めたという疑似体験ができるのではないだろうか。

読んでもらったらわかる支援ツール、読めないけれど、読んでもらったら理解できる子どもたち。

ストレスフリー(聞き流しも可能)。その辺を行ったり来たりしながら読みなさいと言われても読んでもらえない、聞いてもらえない絵本も、DAISYで流れていると何となく見ながら~、聞きながら~、基本的にユニバーサルな目的である。技術支援の中で情報を得ることができる。このようなことを考えています。終わらせていただきます。