音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

レポート DAISYへの取り組み
読み書き障害を持つ子ども達に笑顔を-「かかわり教室」におけるDAISYの取り組み

飯田紀子(財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター)

”今日、卒業式だったんだー、卒業アルバム持ってきたよ!”
”わー卒業アルバム見たいなー。見せて見せて。”

カーテンから柔らかい光が差し込む3月のある晴れた土曜の昼下がり、北海道 札幌「NPO法人かかわり教室 リソースルーム」では、小学校の卒業式を終えた男の子とかかわり教室スタッフ達の心地良い空気が流れ笑いが溢れていた。

「かかわり教室」は外見的にいわゆる普通の子と差異が無くても、文字を読むことや書くこと(計算すること)に困難を抱えている軽度発達障害児の子ども達のソーシャルスキルトレーニングと学習のリハビリスペースである。

札幌 大通駅から1駅の西18丁目に位置し、札幌駅からも程近く、周囲には私立高校・専門学校・大学も多い。子ども達の多くは道内の専門機関や医療機関から紹介を受けて、教室へやってきており、属している子ども達は幼稚園児から高校2年生までと年齢も多岐に渡っている。当初は民間事業として行なっていたが、近年、NPO法人化され道外からも大きく注目をされる展開を行なっている。

その背景には、子ども達やスタッフの能力を最大限に引き出し、活動を行う仕組みづくりを行なっている主催者の二峰紀子氏の存在がある。二峰氏を中心としたスタッフは、活動の一環として、読み書き困難児の学習補助教材用DAISYの製作を行ったり、軽度発達障害児の社会的認知理解の為のハンドブックの作成、ブログによる情報発信、新たな教材開拓など常に柔軟な姿勢で読み書き困難を持つ子ども達に対する活動を行なっている。

一人一人のニーズに合わせた学習方法

人はそれぞれ異なる。誰にでも上手くいく学習方法はないのだ。ましてや、読み書きに問題を抱えている子ども達ならなおさらである。二峰氏は”子ども一人一のニーズに合わせた学習方法を与えることが特に大切だ。”と語る。
「かかわり教室」を訪れると、大きな戸棚一杯に収納された、補助教材の多さに圧倒される。教材は子どもの特性に応じ作成される様々な種類があり、戸棚には10年分の資料が収納されている。

しかし、子どものケースに合わせ新たな教材を作成する場合が多く、その数は日々、増え続けている。均一的な学校での学習方法が適さず、”読み” ”書き” ”計算能力”のいずれか、もしくは全てが普通の子と比べ差異が生じている場合は、まず学習目標を定め、そのゴールに達する為にスタッフが常に柔軟に状況に対応出来る方法を模索している。


DAISYとの出会い

2001年 二峰氏は画像とテキストと音声が同期(シンクロ)し、全ての情報がひとまとめに頭や心の中に結びつけることが出来るDAISYに出会った。
情報処理が混乱気味の子ども達にとって情報をつなげてくれる役割を果たす可能性を期待し、その取り組みを開始した。
DAISYを教材として使用する場合の一例はこうだ。
字と音声が噛み合って理解できない子どもの為に、学年で頻出される単語をリストにし、様々な角度からその言葉を細かく分別する。
小学1年生の頻出する単語である「じてんしゃ」「ひこうき」「ヨット」「きゅうきゅうしゃ」「ふね」は,全て乗り物というカテゴリーに入るが、その中からさらに”陸を走るもの””空を飛ぶもの”というようにカテゴリーに分けて分類することにより、単語についての情報が多角的にインプットされるのである。
マルチメディアDAISYはパソコン上で画像と音声が同期(シンクロ)する為、紙とペンを使用して学習が苦痛となる子ども達が、ある種の娯楽性を感じながら、知識を吸収することが可能なのではないかと二峰氏は語る。
「楽しみながら知識を吸収する。」ことは、かんたんそうに見えて実はとても難しいことである。特に「他の子とは違う子」「勉強が苦手な子」というレッテルを貼られ、そのことにより勉強がトラウマになるという第2次障害を背負った読み書き困難の子ども達にとっては。「かかわり教室」にあるパソコンのうち、数台のパソコンは子ども達に解放されている。休憩中の子ども達が自らソフトウェアを立ち上げ、DAISY図書を見ているという図も少なくないようである。
認識の第1段階として、DAISYを通して「分かる」ということの疑似体験を行なう。そして、何度も繰り返し見ることで、事物の名称を1対1対応され物事を鮮明により具体的に理解出来るようになっていく。自分との間に関連性を持って受け入れていくことが出来る。
「分からない」と「分かる」の溝を埋めるのがDAISYである。

現在進行形で成長する子どもたち
現在進行形で子ども達は成長していく。

「字を書くこと・読むことに問題があり、1年前まではテストの答案用紙のマス目に字を書くことも全く出来なかった中学1年生の男児も、教室での適した学習方法を積むうちに1年後には理科のテストで96点を取るまでになっていった。」

子ども達のポジティブな変化を語る時の二峰氏の表情は何よりも嬉しそうである。
そして、教室にいる子ども達も嬉しそうにそして楽しそうに学んでいる。

生徒が自分で考え、自分から行動を起こせるような学習法は、子ども達の話をよく聞き、彼等の存在を認めて、コミュニケーションを行なっているスタッフのバックアップ無しには成り立たない。

子ども達とスタッフの関係が密接に上手く連携することにより、勉強へのやる気を引き出し、教室を活気づけているのだ。
人は誰もが自分の人生の主役である。一人一人の問題点を明確化し、彼等のニーズに適した学習方法を作り出すことにより、読み書きに困難を持つ子ども達に活力と自信を与えている。

読み書き困難を持つ子ども達を笑顔にするDAISY。「かかわり教室」の事例は私達にDAISYが持つ大きな可能性を示してくれる。