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平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

【シンポジウム】知的障害児の認知特性に応じた教材の活用

城達也(手織適塾さをり)

皆さん、こんにちは、手織適塾さをりの城です。まず、さをり織について簡単に紹介します。

さをりは、障害者のために開発された手織でもなく、私の祖母が趣味で始めた手織です。一般の方にも教えているのですが、何がいちばんの特徴かと言いますと、 人間というものの面白さを、機械で作るものだけでなく、人間が持っている面白さを織を通して表現していくことにこの特徴があります。 その中に知的障害者という方が入っていたり、高齢者という方が入っていたりしています。全くコンピュータとはかけ離れている手織の私がなぜここにいるのかというのは、 たぶんコンピュータ開発などではなく、教材とかDAISYを知っていくときの何を作っていくかなどの中身に関して考えればいいのかなと思って。 そういう視点から今回、さをりから見た知的障害者の特性に応じた教材というものについて私なりの意見を言わせていただきます。

織物には縦糸と横糸があります。
横糸は簡単に出来るのですが、縦糸には結構工程があって、覚えるのがなかなか大変なのです。 通常の織物で言うとこの縦糸の作り方からして、多分できないと思い込んでしまうと思うのです。 しかし、さをりでは、数字が数えられない方でも縦糸の整形をしてしまいます。
それはどういうやり方かと言うと、ちょっとずつやっていくのです。西陣などではいきなり2,000本ぐらいの縦糸を作らされるのですが、 さをりは大体でいいのです。大体これぐらいとか大体これぐらいの幅という、これぐらいというか。 これぐらいなどと言っていいのでしょうか?要約筆記がよくわからないので。では、大体10センチとか30センチ。 束で言うと握り拳ぐらいなどという感じで糸を測ったりしてもらえばいい、という感覚でやっていきます。 それが出来たら次に、次にとどんどん進んでいきます。細分化していって、まず一個一個進んでいく。 それぞれに対してきちんと評価していくことが大事だと思っています。

DAISYに関して、細分化してステップアップしていくことをどのように活かせるかなと考えたら、 DAISYはデジタル図書なので目次にいきなり飛ぶことができるということがあります。 本をペラペラとめくって飛ぶ必要もありません。それこそ、目次の文字をブタやウサギのマークにしてしまえばいいのではないでしょうか。 ボタンをクリックすれば、いきなりそのページに飛ぶ。そこで写真やイラストなどで表示することもできます。 お母さんの声などで織り方の説明、いま学習しているものの説明ができると思います。

もう1つは、自ら興味の持てるものというところです。私は、当たり前すぎてすごく単純なことを言っているのです。 自ら興味の持てるもの、馴染みのあるものは親の声であったりしますが、見慣れているものを使うというのは1つあります。 興味が持てないものに関しては、学習意欲がすごく低いと思います。
この織を教えていて、よくお母さんと一緒に来る方がいます。施設の方でも、職員と一緒に織っている方がいます。 大体さをり織りがうまくいかないのは、お母さんがよく口出しをしている所です。 お母さんが自分で織りたいものを子どもを使って織らせているだけなので、全く無意味なのです。 こちらとしては、だったらお母さんがやればいいという発想です。 ですから、子どもの個性をいかに生かすかと言ったときにはその興味を引き出していかなければいけないので、 興味が持てるものを徹底して追求していけばいいと思っています。 ですから、さをりが万人に受けるということは関係なく、やりたいと思った方が来てやればいい、と私は思っています。 みんなに無理矢理やらせる必要もないです。そしてそれぞれに応じた、絵画がやりたい人は絵画をやる、 それに適した教材を作っていけばいいと思っています。

最後に。いちばん大事なことは、教材で学習をしていったときに、確実に評価されるものであるかどうかということだと思っています。 あらかじめゴールが決まっているものや100点満点が最大の点数であるものに関しては、どれだけ頑張っても100点という評価で、 あなたは100点の中から20点減点されて80点です、という評価方法しかないと思います。そういう教材よりも、どちらかといえば、 その人の個性を最大限に生かしていくものであれば、満点というものがないものにしてしまえばいいのではないかと思っています。 それこそ、出来上がった作品に応じて、120点を付けられるものがあってもいいと思います。織物に関しては、いま私が着ていて、 こうやって見られることで少し快感を感じていたり、そういったものをしていることによって刺激はどんどん高まっていくので、 見られること、見られてきちんと評価されることが大事だと思います。

それをDAISYに置き換えてみると。先ほど見て結構びっくりしたのですが、DAISYは簡単にHTML化できるようになっています。 あれは、インターネット上にそのまま乗せることができると聞いています。それを使えば。自分が織った作品を写真に載せて、 それを貼り付ける。自分が詩を書いていたら、片言でもたどたどしくてもどんなものでもいいのです、 自分の肉声でその詩を読み上げたものをインターネット上に流す。そうすれば、それぞれに応じて、人がちゃんと見てくれます。 たどたどしい声というか、肉声であることの大事なところは、その人がその障害も含めて、すべてありのままのその人を見てもらえる、 というのがいちばん大事だと思います。きれいにスラスラ読めるだけでなくてもいいと思うのです。 ですから、どういう人がその作品を作っているかということを評価していく。この3つが必要だと思います。