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平成17年度 マルチメディアDAISY図書製作普及事業 総括報告書

【シンポジウム】読書の楽しみ・絵本の楽しみを届けたい-DAISYの持つ可能性-

撹上久子(社団法人日本国際児童図書評議会)

撹上と申します。
いままでのマルチメディアDAISYの可能性は、比較的教材や学習といった角度からのお話が多かったと思いますが、生活の中での読書や絵本などの楽しみをもっと広げたい、そういう楽しみを届けたいという視点から少しお話させていただきます。

私は3年間、日本国際児童図書評議会の活動としてバリアフリー絵本展の全国巡回を展開しました。全国6,5カ所ぐらいでバリアフリー絵本展を実施しましたが、その中でマルチメディアDAISYとも出会ったのです。

日本は出版大国で、絵本だけでも、年間1,300から1,400タイトルという多くの絵本が出版されます。ですが、それらの絵本が並んでいる本屋さんや図書館に行っても、自分の読みたいと思う本、楽しめる本が見つけられない子どもが実はたくさんいるのです。この絵本展実施の願いは、そういう事実を知っていただきたかったこと、そして、こういう子どもたちは、どういうアプローチのある本が楽しめるのか、ということも知っていただきたかったのです。残念ながら、日本にはそうした子どもたちのために出版されている絵本は少ないので、海外から、こんなアプローチの本があるよというものを持ってきて、展覧会にして、巡回をいたしました。

では、どんな子どもたちが本屋さんや図書館で自分のいわゆる「The Right Book」というものを見つけられないのでしょうか?字や絵が見えない子ども、字が書いてあってもそれを読み取ることの難しい子ども、内容が難しくて、いろいろな工夫で、もう少しわかりやすくなっていれば楽しめるのだろうけれども、そのままではわからない子ども、図書館や本屋に行けない、移動することの難しい子どもや、病院環境の中で生活しているような子どももたくさんいます。そのような子どもたちに、まだまだ読書や絵本の楽しみが十分に届けられていないのではないかと思います。

その子どもたちに、どんなアプローチのある本を届けてあげたらいいのでしょうか?

子どもの状態は、当然多様なものです。その子の障害や状態は、本当に一人ひとり違っています。ですから、1つのアプローチがあって、1冊の本があったとしても、その本ですべての問題が解決するわけではありません。しかし、私たちは、この世の中でいろいろな子どもたちと一緒に生活していく大人として、こんなアプローチがあったらいいのではないか、こんなアプローチがあったらいいのではないか、と考え続けていってあげることが大事なのではないかと思っています。その中の1つのアプローチとして、マルチメディアDAISYもあると思います。

せっかくの機会なので、マルチメディアDAISYだけでなく、絵本展の中で、どんなアプローチを紹介してきたのか、少しだけ紹介させていただきたいと思います。

(以下は本を見せながらのお話)

○これは、日本ではほとんど出版が不可能な仕様状態の本ですが、このようにさわる部分がある絵本も出版されています。ノルウェーの本です。こうしたさわる楽しみのあることが一つのアプローチです。マルチメディアDAISYへの変換をボランティアさんが盛んに頑張っていらっしゃいますが、絵本の世界でも、さわる絵本や布の絵本を手づくりでこつこつ子どもたちに届けてきたボランティア団体が全国にたくさんあります。布の絵本、さわる絵本は、ほとんどが出版ではなく、そうした形で子どもたちに届けられています。

○これは、さわる絵本の中でも匂いが付いています。ただ触れたりするだけではなく、におったら重い状態の子どもたちに、もっと楽しんでもらえるのではないか、そう考えついたボランティア団体が長いこと試行錯誤して作られた絵本です。これはミニチュア版ですが、におう楽しさのある絵本です。

○これは藤澤先生がご専門ですが、ピクトグラムという絵文字をテキストに使ってイラストも兼ねた、文字だけではなく、視覚言語を加えた絵本です。こういうものも、とても面白いです。

○これもスウェーデンの本です。これは、手話が絵本の中に入っています。手話はもちろん聴覚に障害のあるお子さんのための言語ですが、これも一種の視覚言語です。逆にピクトグラムも視覚言語ですので、絵文字があるほうが、いわゆる音声言語の理解の難しい聴覚障害のお子さんなどにもわかりやすかった、展覧会の中ではそのような声がありました。手話が絵本に入る、その入り方にもさまざまなアプローチがあります。たまたまこれは、キーワードを手話で表して、絵本の中に加えているアプローチです。

○時間があれば実際の音を流せばいいのですが。これは、見える子どもは絵でイメージを楽しみながらテキストを読みますが、見えない子どもたちには音でその絵のイメージを楽しんでもらうというアプローチの仕方です。  例えば犬がごはんを食べている場面では、ナレーションと一緒に犬がペチョペチョッとものを食べる音が入っています。犬がおしっこをしている場面では、ナレーションと一緒にジョーッというおしっこの音が入っています。見えない代わりにその本の視覚的なイメージを音でつかんでいくというアプローチです。

そのようなさまざまなアプローチを展覧会の中で見ていただきながら、日本でもこの中で1つでも2つでも出版に結びついてほしいなと思いながら展覧会を巡回してまいりました。私は、マルチメディアDAISYにも大きな可能性を感じています。大きく言って3つ、可能性を考えています。

1つは、これからの子どもたちはこうしたパソコンの世界で育っていくわけですが、同じこの環境を共有できることは、とても大きいことではないかと思っています。

2つめは、このマルチメディアDAISYなら、見えない、読めないだけでなく知的にも重い、いわゆる重症心身障害施設や病院の中で生活しているような子どもたちにも届けられる可能性があるのではないかと思っています。しかも、共通の環境で届けられるのではないかと思っています。受け身の読書ではなく、主体的、能動的な読書活動を可能にしてくれる可能性もあります。

3つめは、単にパソコンの入力のスイッチ部分の主体性や選択権だけではなく、そこにはもう1つ、ネット配信などで、自分は行けなくてもたくさんの図書を届けてくれるようになってくると、そこの選択の自由が本当に広がってくるのではないかと思っています。

そのようなマルチメディアDAISYですが、ほかのバリアフリー絵本の出版が難しいのと同様に、現状はまだ非常に厳しく、これが出版されているという状況はほとんどありません。1つ、2つ、全くゼロではありませんが。  前の方たちのお話では、マルチメディアDAISYをオリジナルのものから変換して使っていくお話が多かったのですが、絵本の場合には、著作権の許可をとって、変換のことを進めていくことも1つの道ですが、絵本そのものの製作が非常に多様な進化を遂げているので、これからは、絵本を作るときに最初からユニバーサルデザイン的にマルチメディアDAISYを加えていくようなメディアミックスの絵本が出来ないか、そのようなことを強く願っております。

つたないご報告でしたが、終わらせていただきます。ありがとうございました。