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実施報告
先端研バリアフリーシンポジウム
シンポジウム名称:聞こえのバリアフリー:人工内耳装用者による体験的聴能論

開催日時: 2011 年 2 月6 日
1:00 p.m. - 5:00 p.m.
会場:先端研4号館2階講堂

会長日誌

大沼直紀(東京大学 先端科学技術研究センター 客員教授)

2011年2月6日(日):シンポジウム「人工内耳装用者による体験的聴能論」

 東大先端研バリアフリープロジェクト主催によるシンポジウム「人工内耳装用者による体験的聴能論」を開催した。メールで直接私宛に参加申し込みをしていただくというややクローズドな形をとったにもかかわらず、事前に120名の申し込みをいただいた。私からは一つ一つのメール全てに「参加をお待ち申し上げます」と返事をさしあげた。大変な作業ではあったが私には120名のメル友ができたわけである。
 実際は当日の飛び込み参加が約60名も加わり、全体では180名の参加者となった。100名定員の講堂に急遽椅子を運び込んだ。聴覚障害者のプロマジシャン「マジック・トシマ」の十島典弘氏の陣頭指揮のもと、福島研、中邑研、巖淵研、伊福部研の若い先生方に尽力いただいた。「大沼研究室」と言っても私一人でスタートしたばかりの「聞こえのバリアフリー研究室」である。私自身が関わっている3つの団体にも共催をお願いいたした。日本教育オーディオロジー研究会と関東教育オーディオロジー研究協議会、そして聴覚障害者と共に歩む会トライアングルである。関東教育オーディオロジーの会長である葛飾聾学校の根本校長先生も参加された。トライアングルの児玉眞美先生は昨年秋に東大先端研で博士号を取得し、その後暫く入院され療養中であったが、元気なお顔を見せられた。開会の挨拶で企画の趣旨について私は次のような話をした。少々長いがご紹介する。

 『この一年間、私は「聞こえのバリアフリー」というタイトルを付けたいろいろな企画をしてまいりました。昨年の日本特殊教育学会では「聞こえのバリアフリー:人工内耳・補聴器の選択と非選択」というシンポジウムを開催しました。昨年末の先端研の教授会セミナーでは「オーディオロジー:補聴器と聞こえのバリアフリー」という演題で話をいたしました。そして本日は、「人工内耳をめぐる聞こえのバリアフリー」をテーマに取り上げた次第です。
特に今回は「人工内耳装用者による体験的聴能論」と題し、大人の人工内耳を扱うことになります。わざわざ「体験的聴能論」とした理由には、私自身も高齢者の仲間入りし加齢による難聴を経験し始めたこともあります。補聴器を実際に装用してみて初めて分かる当事者体験は聴覚の専門家と自負していた私にとって貴重なものです。そこで、長いあいだ私とお付き合いいただき敬愛申し上げて来た4名の、体験的聴能論についての私の先輩諸氏のお話を、ぜひ関係の皆様と共有したいと願った次第です。

 本日の4人のシンポジストは皆、人工内耳によるご自身の補聴効果を自己評価できる能力をお持ちの方々です。そして、医療の専門家から与えられた聴能訓練プログラムを受け身的にこなしていくというよりも、日々の社会生活の中で自ら「聴覚学習」を継続されている方々です。そして、4人の話題提供者は聴覚障害問題を解決するために各々の専門職を通して活躍されてきたリーダーでもあります。ご紹介いたします。

1)鈴木克美先生(東海大学・名誉教授)です。
2)高岡正先生(全日本難聴者中途失聴者団体連合会・理事長)です。
3)佐藤紀代子先生(関東労災病院・言語聴覚士)です。
4)神田幸彦先生(長崎ベルヒアリングセンター・神田E・N・T医院院長)です。

 今日ご参加の皆さんの多くは言語獲得前の重度な難聴の子どもに対する教育、療育、リハビリテーションなどについて関心が深く、その実践をされており、専門性が高い方々です。子どもの人工内耳の困難さに比べたら成人の人工内耳は大した問題はないとお考えの方も多いでしょう。成人の人工内耳の選択からリハビリテーションに至る課題と成果は、子どものそれとは差異があって余り参考にならないとお考えの方も多いでしょう。決してそうではありません。4人の先生方の話題提供とパネルディスカッションをお聞きになられれば、大人の人工内耳装用当事者の体験的聴能論が、子どもの人工内耳選択や課題解決に大変役立つことがお分かりいただけると思います。

 その意味で、本日のシンポジウムの総括講演として加我君孝先生(東京医療センター・臨床研究 (感覚器)センター・名誉センター長)をお招きいたしました。加我先生は東京大学耳鼻咽喉科の教授を務められ、東大全体の障害学生のバリアフリーを進めるバリアフリー支援室の創設にも尽力されました。加我先生には本シンポジウムを締めくくる講演として「人工内耳の効果を左右するものは何か-成人と幼児の違い-」のお話をお願いしました。
 本日は、会の運営スタッフとして沢山の方に働いていただいております。先端研バリアフリープロジェクトの先生方、関東教育オーディオロジーの先生方、トライアングルの役員の方々、会場設営の準備を細かく計画して進めていただいた十島さん、私の研究室の雑用も手伝っていただいている平田直彦さん。そして、手話通訳の方々、文字情報保障の方々。磁気ループシステムはソナール社にお願いしました。さらに、早稲田大学のボランティアの方々には別の部屋で小さなお子様たちのお世話をしていただいております。』