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Ⅰ.障害別のニーズと配慮事項

2.聴覚障害

聴覚障害者について

聴覚障害者は、外見上、分かりにくいので、周囲が気づかないことがあります。また、どんなことで困っているかも、第三者から見て分かりにくいと言えます。

聞こえないということは、日常の意思疎通が困難なだけでなく、さまざまな生活情報を得ることも出来ません。

家庭・教育環境、生い立ちの背景などで読解力に困難をもつ人もいます。

聴覚障害者は、人と会うときのあらゆる場面で常に困っていると言われます。

意思疎通が困難なことから、人にものを頼んだり、一緒に行動したり、行事に参加することに困難を感じて、つい人を避けたり、近隣や地域とのつながりが弱くなったり、孤立感を味わうこともあります。

話しのいきちがいから、相手を怒らせてしまったり、職場などでは、仕事上の指示が伝わらずトラブルの原因になったりもします。これらのトラブルが、聴覚障害者の「人格」のせいにされてしまうことすらあります。

なお、コミュニケーションの方法も、手話を第一の言語とする人、文字での通訳(筆談や字幕、要約筆記)を必要とする人など、一通りでないことを、覚えておく必要があります。

災害時に困ること

●テレビやラジオでの情報や、案内放送による、耳から入るさまざまな情報を得ることができないため、適切な行動を取ることができません。

●情報収集やコミュニケーションの道具として使っている、ファックス、電子メール、字幕付テレビ番組などが、災害時には使えなくなります。

●コミュニケーションの問題などから、聴覚障害者は安否の把握も難しい場合が多いです。

●避難所で放送が聞えないため、救援物資、食糧の配給などが受けられないことがあります。人の行列を見て、初めて食料の配給だと分かり、自分も並んだが品切れになってしまったとの事例や、たまたま行動隊が来たときに、避難所内の放送を通訳してもらったところ、医者の往診や無料散髪などの情報が初めて分かり、今までこのような放送をしていたのかと、ますます不安になった、などの事例がありました。

●読解力に困難がある場合は、行政機関などからの震災ニュースの内容を掴めないことがあります。

●被災によるストレスのほか、聴覚障害があるがゆえの、情報阻害や人間関係のストレスが重なります。情報からも人間関係からも取り残されていたろう者が、久しぶりに仲間達と会い、怖かったと涙を流したという事例もありました。

●災害に関する申請書類を役所に持っていっても、通訳者がいないため、戸惑う場面も多いです。また、各市町村によって、ファックス機の再申請可否、修理代の負担割合などが違うため、特に災害時は情報も錯綜しがちです。

(1)日ごろの備え

本人の備え

●非常時の連絡先一覧を準備しておきましょう。家族、親戚、かかりつけの病院、聴覚障害者団体、手話通訳・要約筆記派遣事務所、福祉事務所、また、水道、電気、ガス会社、金融機関、保険会社などの連絡先・ファックス番号を保管し、携帯できるようにしておくとよいでしょう。

●また、近隣の連絡網や、団体の活動をされている場合は都道府県やブロック間の連絡網などを普段から備え、非常時の連絡系統、指揮系統を明確にしておくと、いざというときに役立ちます。

●自治会、町内会との接触をもち、自分の存在を知ってもらうようにしましょう。

●防災訓練に積極的に参加して、問題や課題などを行政や自主防災組織に伝えておくようにしましょう。

●携帯電話は、聴覚障害者にとって、災害時にも大変役立ちます。災害伝言版やメールの使い方はぜひ知っておくとよいでしょう。

●非常持ち出し品の中に、筆談できる紙とペン、補聴器の予備電池などを含めましょう。また、自分の携帯電話に合う充電器をみつけ、あらかじめ用意しておきましょう。

●災害時の避難場所と経路を確認しておきましょう。

●CS障害者放送統一機構「目で聴くテレビ」では、さまざまな災害情報を得ることができます。
「目で聴くテレビ」は、通信衛星によって放送しており、番組を見るためには、専用受信機「アイ・ドラゴンII」が必要です。「アイ・ドラゴンII」は、「目で聴くテレビ」のほか、一般のテレビ番組の字幕・文字放送も見ることができます。緊急災害時には、緊急個別信号を受信し、光で知らせる機能も備えています。「アイ・ドラゴンII」は、聴覚障害者情報受信装置として、「身体障害者日常生活用具」に指定されています。

周囲の備え

●聴覚障害のある人に、日ごろから声を掛けたり、必要な情報を伝えておくようにしましょう災害時には、日頃のつながりのある隣人が、避難場所などについての情報を伝えたり、避難の手助けをすることは、大きな力になります。

また、日ごろのつながりを持つために、地域の防災訓練などへの参加を、聴覚障害者(個人・団体)にも呼びかけてください。

学校や地域などで、聴覚障害者を招き、理解と交流を深めるプログラムを開くこともよいでしょう。

●災害伝言用メールなど、各地での緊急情報送受信の仕組みが、うまく機能するように、防災訓練に取り入れましょう。通常、住民が緊急情報を得たことを前提に、訓練を行っている場合が多いですが、「避難所に避難してください」というような情報をどのように得るかが、聴覚障害者にとっては重要です。

●防災計画の策定や防災訓練の実施段階で、障害者団体へのヒアリング、発言や参加の機会の提供、協議の場の設定など、可能な方法を通じて、聴覚障害者の声を反映させるようにしておくことが必要です。

●新潟県中越地震などの際に、聴覚障害者団体が自ら「聴覚障害者支援対策本部」を設けて大きな役割を果たしました。日ごろの防災計画や訓練において、このような対策本部との連携や支援(場所の提供など)などについて、検討しておきましょう。

●災害発生後、他の自治体から手話通訳者・要約筆記者派遣、ボランティア派遣ができるように、ネットワーク体制を敷き、協定を結んでおくことも必要です。

聴覚障害者 避難カード
(図:「聴覚障害者 避難カード」全日本ろうあ連盟の「聴覚障害者向け災害マニュアル」より)
防災カードを見せているイラスト

(2)災害が起きたとき

本人の対応

●まず、自分の安否について、情報を発信しておきましょう。

●携帯電話のメールが繋がらない場合や、携帯電話の充電が切れる場合があるので、周囲の人に自分の存在を知らせておきましょう。

●「防災カード(避難カード)」をあらかじめ準備し、携帯しておくと役に立ちます。

周囲の対応

●聴覚障害者に情報を伝え、避難などを支援してください。非常時には、身振り手振り、筆談、パソコンや携帯電話の文字表示など、あらゆる手段を駆使して聴覚障害者へ情報を伝えるようにしましょう。

●前述したとおり、新潟県中越地震など過去の災害時に、聴覚障害者団体が自ら「聴覚障害者支援対策本部」を設けて大きな役割を果たしました。安否確認が取れない人、非常情報送信に対して返信が来ない人については、「対策本部」に支援を依頼するなどの方法があります。

問い合わせ用ページ
(図:「問い合わせ用ページ」全日本ろうあ連盟の「聴覚障害者向け災害マニュアル」より)

(3)避難しているとき(避難行動・避難生活)

本人の対応

●避難所では、避難所の責任者や、要援護者窓口に、自分の存在をあらかじめ知らせて、要望や相談をしておくとよいでしょう。

●コミュニケーションのために、必要事項を書いた図のようなカードを準備しておくと、役立ちます。

周囲の対応

●避難所で、避難者へ連絡事項などを伝える場合は、文字化して、伝言板などに貼りだしておくと、聴覚障害者を含む多くの人に役立ちます。

●聴覚障害者の存在が分からない場合は「耳が聞えない人はいますか」「手話通訳・要約筆記が必要な人はいますか」などの紙を貼りだしておく方法もあります。

●手話通訳者、要約筆記者は、単に情報を伝えるだけでなく、情報疎外の中で感じる不安や恐怖を取り除くなど、心のケアのうえでも大きな役割を果たします。災害時における通訳者配置には限界があるでしょうが、地元、近隣自治体の手話通訳者、要約筆記者やサークルなどから派遣が受けられるよう、日ごろからネットワーク体制を敷き、協定を結んでおくことも必要です。災害時に聴覚障害者団体等によって「聴覚障害者支援対策本部」が作られた場合は、ここから派遣や支援を要請することもできるでしょう。

●聴覚障害者からみて、支援者、被支援者の識別が困難な場合があります。支援者の識別表示(帽子、ジャンバー等)があるとよいでしょう。

●聴覚障害者への配慮は、人的な対応のほか、避難所に次のような備品を置くことでも大きく変わってきます。

 

伝言板

情報機器や補聴器に使える電池

携帯電話の充電器

FM文字多重対応ラジオ

「目で聴くテレビ」専用受信機 「アイドラゴンII」

磁気誘導ループ

フラッシュライト、パトランプなどの発光装置

夜や暗いところでも分る筆談器(ルミパット)

電光掲示のような大きな文字表示板

パソコン(文字通訳用、情報通信用)

「耳マーク」など聴覚障害者に関わるシンボルマーク など

 

フラッシュライト*

フラッシュライト*

電光文字表示板*

電光文字表示板*

(*写真:全国手話研修センター「コミュニティ嵯峨野」より)

 

耳マーク

耳マーク

アイ・ドラゴンⅡ

アイ・ドラゴンⅡ