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3.結果

1、ヘルプサービス利用高齢者の生活と家族介護

 ヘルパーが介助している高齢者は男性51名、女性52名で性別無記入の回答が1名であった。そのうち配偶者のいる高齢者は27名(26.3%)で、たとえ配偶者がいても実際に介護できるのは11名とその半数以下である。また別に親族がいると答えた人は全体の70%未満であるが、さらにこの中で息子や娘あるいは嫁がいる場合でも介護しているか、もしくは介護可能としたものは13.5%と極めて少なく、家族介護の困難性を窺わせる現実が認められる。
仮にわが子が2人、3人いたとしても遠隔地に居住していれば常時介護は不可能であろう。またヘルパーを利用している高齢者本人が親族の介護を避けたり、時には拒否するという事実が意外に多いことも自由記述欄の記載から見受けられた。なお子どもたち家族と別居している高齢者は56.7%と半数を超え、そのうち3分の1は近くに居住しているとなっていたが、無記入回答も多いことから、こうしたプライベートな親族縁者の人間関係はホームヘルパーがかなり長期サービス供与をしなければ把握困難な面もあると推定された。
さらに高齢者の過去の職歴、家族関係、生計維持の現状および生活上の問題に関する回答の結果を表2に示した。

表2 対象高齢者の生活歴(%)

職 歴   家族関係 生計維持 生活上の問題
会社員   24.0 同  居  16.3 近  隣  31.7 年  金  60.6 あ り     19.2
公務員   7.7 別  居  26.0 遠  隔  25.0 生活保護 35.6 な し    64.4
役  員   2.9        
その他   34.6 そ の 他  31.7 そ の 他  8.3    
無記入   30.8         26.0        35.0          3.8         16.3

2.高齢者の病歴、障害と受療の現況

(1)病歴と障害

 一般に多くの高齢者は既往症が治癒しきらずに退院したり、慢性化して居宅に戻ってから以後も通院治療が続く場合がほとんどである。
そのうえ後遺症状である言語障害や片麻痺などの運動障害等、多種多様な合併症を患う場合が多く、既往症と現病歴とを明確に区分することは困難である。
我々の調査でもこうした傾向は同じで記載内容を検討した結果、ケースごとに判断して症状や病態を推定したが、90%未満が健康とは言えない高齢者であった。
また障害手帳の交付を受けていることが明確な人が59名で、そのうち1種1級は19名、同2級は18名、その他は22名、不明確ないし無記入が45名となっていた。
次にかかりつけの病院あるいは主治医の有無をたずねたが、主治医のいることがはっきりしている高齢者は84名(80.4%)、いないとの回答が8名で、その他は無回答であった。
また、この質問の次にかかりつけの病院の有無をたずねたが回答は94名で、先の主治医ありの84名より10名多く、結局主治医がいるを94名と解釈してよいと判断される。さらに投薬を受けている人は全体の82%、受けていない人が7.7%、無回答10%であった。
そこで現病名と既往歴を総合的に検討、分析し、疾患、障害別の人数を図2のグラフに示した。
ここで心・血管系疾患と脳・血管系疾患の高齢者はほとんどが高血圧であり、またこの既往歴をもっ人が後遺症として言語障害や片麻痺などの運動機能障害を伴っている。また糖尿病のある人には網膜症や白内障を合併している。
視覚、聴覚障害のある高齢者は、図3に示したとおり視覚障害がやや多いものの、両者とも重度障害が10%近くを数え、中には全盲と全く聞こえないと言う人も数名あった。
さらに呼吸器系疾患では結核による肺切除術の既往歴を明記している人がいるが、年代から推定すると青年期の抗生物質使用以前の頃に治療を受けたのではないかと考えられ、そのためであろうか低肺機能で自宅酸素療法を行っていた。その他の既往歴ではリウマチ疾患、癌、パーキンソンなどであった。

図2 既往性および現疾患

図2.既往症および現疾患

図3 対象高齢者の視聴覚障害保有率

図3.視聴覚障害保有率   

(2)ADL注*3)からみた介助の状況

 これらの高齢者たちの要介護支援サービスの実態をADLの面から把握するため、歩行、立位、食事、入浴等々の必要性を訊ね、その回答結果を図4に示した。入浴介助の必要な人は約半数未満、歩行介助の必要な人は32.7%とこの2項目がやや突出しているが、その他は自力で活動できる人が多く、さきに述べた疾病、障害が重度な割にヘルパーの介助を受けていないのではないかとの印象を受ける。

 またコミュニケーションの疎通状況を調べたところ、言語の障害があって言葉が通じない人が2.4%、理解力をかく人が6.7%となっていた。したがって、感覚機能喪失のレ12.5%、意志表示の困難がベルを併せ考えてみても、相互のコミュニケーション伝達が可能な高齢者がかなり多いと判断される。
精神障害についても、痴呆症状を呈している人が7.7%、徘徊などの問題行動の認められる人もほぼ同率である。

表3 コミュニケーションの伝達能力(%)

言語障害 意志表示 理解力
なし 困難 可能 困難 あり なし
82.7 12.5 90.4 2.4 88.5 6.7

図4 ADLの可能・要介助の状況

      可能 要介助
歩行 53.8% 32.7%
立位 76.9% 19.2%
食事 91.3% 5.8%
洗面 83.7% 13.5%
更衣 76.9% 20.2%
入浴 51.0% 45.2%
起床 82.7% 15.4%

3.医療。福祉サービスの支援状況

 通院については」前述したが往診、看護、リハビリテーションならびに保健に関する要援護高齢者への支援サービスの現状は、この調査では無記入がほとんどのため把握できなかった。また同様に介護支援センター、施設のデイサービス、ナイトサービス、ショートサービスについても無記入回答が多いことから不明である。
ホームヘルプサービスの項目には70名が回答していて、週平均1.7回のサービスを提供しているという実況であるが、こうした支援の実態把握は、直接面接による聴き取り調査によらなければ正確な判断ができないことであろう。

4.自由記述欄の記入例

 ヘルパーが要介護高齢者の要求や希望をかなえてあげるうえで、困難なこと、他のケアワーカーや医療関係者との連携上必要と感じていることなどを自由に記入してもらったが、かなり詳細に記述した回答は40名未満であった。
そのうちの2つの例をあげると、
[ケース1]-
脳梗塞の後遺症で膝関節が伸びず、歩行困難のため車椅子を使用していて、1種1級の障害手帳の交付を受けている70歳の妻(夫は同じく脳梗塞で現在痴呆状態である)にヘルプサービスをしている46歳(経験年数10ケ月)の女性ヘルパーは、
「ホームヘルパーの仕事のことですが、痰取り、口腔清拭、手足の運動等はリハビリの分野になるからヘルパーはしてはいけないことになっていると聴きました。あれもダメ、これもダメではなく、人が人の世話をするのになぜ限られたことしかできないのでしょうか。もしも自分の親だったら、きちんとした介護を受けたいと思うでしょう。」
この要介護高齢者には7人の家族があり、同居親族もいて、週1回3時間のヘルプサービスを提供しているが、役割の規制から介護無力感を訴えたものと理解される。
[ケース2]
肺結核の既往歴をもち現在両手のリウマチ、股関節炎および膝関節炎で苦しんでいる1種1級の障害者の80歳になる寡婦にヘルプサービスをしている58歳の女性ヘルパー(経験年数16年)は
「本人は数10年前の事や数年前の事などよく憶えているけれど、買い物してきた物や、5分前にした事をすっかり忘れて頼んでいないなどと言う。気ぐらいが高く助言などは一切聴き容れない人で、2週間分の薬を貰ってきているが飲んだ様子もなく、訊ねると分からないと言う。そのあたりの把握はなされているのだろうか。ヘルパーからは時問的に医療関係への連絡は無理です。」と記入されている。
この要介護者の家族関係については、親族の有無、同居か別居か、近くに住んでいるか、遠隔地かなどの記入が一切無いので調査票の記入者がよく分からなかったか、または記入漏れであろうと推定される。ヘルパーは週3回行くと記入しているが、医療関係者や他の福祉支援サービスなどについても記入されていない。
このようにホームヘルパーが所属機関から派遣されてサービスを提供している立場を考えると、ある程度の役割規定もあろうし、自ら保健医療と福祉関係事業者などへの連携に積極的な活動を期待することは無理なことであろう。

4.考察と結論

 最近の国民生活白書などによれば、わが国の65以上の高齢者の6割近くが子どもたちと同居しているというが、北海道の場合はこれより2割ほど少ないという調査結果がある 注*4)また老親と子ども夫婦、孫の3世代同居割合も本道は全国で最低というが、こうした北海道の高齢者のうちでもヘルプサービスを受けている要援護老人、とくに障害高齢者の今後の在宅福祉における保健医療と福祉の連携は重要な課題である。
しかし現在の老人保健福祉計画のガイドライン策定にかかわった京極高宣(1993) 注*5)は、福祉の立場から医師会に参画してほしいとの方針をうちだして呼びかけたところ、「北海道とかその他の広域な都圏などではなかなか色々な意見が出ていて、そうはいかない」という悲観的な発言が多く、まとまらなかったという。
もともと治療がほぼ安定した状態になった要援護老人の場合は治療(cure)よりは介護(care)への道筋づくりが連携ということの本来的なあり方で、老人ホームから特養へ、さらに病院で死を迎えるというような従来からのルートを居宅でという方向に転換しようとしているのが在宅福祉の目ざす方向で、住み慣れた家で老後生活を終えることができれば人生最高の幸せであることは疑う余地のないことである。
元気なうちは老人クラブに、生涯学習にと出かけ、地域の社会資源の利用も可能であろうが、身体が弱り、痴呆が出現してくるにつれて頻繁に病院へ通うか、さもなければ往診を求めなければならなくなり、家族だけでは対応しきれなくなってヘルパーのサービスを受け、さらには専門職のケアワーカーに重介護を、訪問介護や在宅リハビリテーションを受けるようになっていくわけで、こうした時と所のコーディネートは医師の指示をうけて円滑な連携のもとに推進されてこそ在宅保健医療福祉の援護サービスと言い得るのであろう。
しかし、福祉関係法をめぐっての文言としていたるところに連携という文字があらわれて久しいが、実際にチームを組んで効果的な協働(cowork)のすすんでいる地圏はそう多いと聴いていないのが現状である。

図5.寝たきりの原因

図5 寝たきりの原因(平成4年国民生活基礎調査より)

脳卒中 31.7%
心臓病 5.2%
転倒・骨折 9.0%
リウマチ・関節炎 6.2&
老衰 26.3%
その他 21.6%

統計数値のうえからのみ福祉の充実を云々するつもりではないが、平成6年8月末に厚生省が発表した1993年老人福祉マップで札幌市の在宅サービスは立ち遅れが目立ち、ホームヘルパーの年間利用率も低く、全国的に最低水準と指摘された。しかし市の行政担当側では広報などを通して今春スタートした高齢者保健福祉計画で、先に述べた三本柱の量と質の充実を強調するようになり、その通り実現するなら期待は持てると思われる。ただ病状の重い障害で家族介護の望めない高齢者の在宅医療をどのようにすすめるかは、経費の点と人的資源の面からも大きな負担を伴うだけに今後の重要課題となろう。
たとえば坂上正道(1992)(*6)は「大学病院が計画的に在宅医療ととり組み昭和40年代の半ばから実践している」と言う報告をしているが、その圏域内の住民にとってはこの上ない恵まれたケースである。
また竹内孝仁(1994)(*7)は、平成4年の国民生活調査の結果を示す図5を例としてとりあげ、「在宅高齢者のケアをしている人たちの意見では一般に寝たきりが疾病や障害によって発生するとの考えが根強いけれど、

(1)雪国では積雪が寝たきりをつくる
(2)坂道の多い地域は坂が寝たきりをつくる。
(3)山陰などでは‘こたつ’が寝たきりをつくる。

と言われる。こうしたことからライフスタイルが寝たきりをつくるわけで、閉じこもりが心身両面から寝たきりにさせるのであって、日本には坐りっきりがなく、ヨーロッパには寝たきりがない」と言うが、まさに至言であろう。
したがって本研究の結論を要約すると次の通りである。
1.ホームヘルパーがサービスを提供している多くの要介護高齢者の疾病並びに障害の状態は、脳血管障害と心疾患たとえば脳梗塞や心機能不全による後遺障害が多く、車椅子などの補助機器、生活支援機器の使用者である。したがってこうした人々およびその家族からの相談をうけてコーピング(copig)の計画をたて、介護家族の負担軽減をはかるサービスの供与が緊急課題である。
2.こうした在宅ケアサービスの実現のためには医師の指示のもとにコーディネートの役割をもつ専門職者、たとえば社会福祉士(ソーシャルワーカー)が即応してケア関連のマンパワー相互問の連携を保持しつつ協働することにより、効果的なホームヘルプサービスが期待される。
以上の通りであるが、この調査研究に参画して助言をいただき、かつアンケート用紙の配布と収集に協力して下さった札幌市在宅福祉サービス協会の吉村信義専務理事ならびに同協会職員とヘルパーの皆さんに心から謝意を申し上げる次第である。


*日本福祉学院 **北海道大学医療技術短期大学部
注*1)高齢者問題セミナー(北海道高齢者問題研究会)、1991.8.30、於札幌市社会福祉総合センター
注*2)高齢者保健福祉推進10ヶ年戦略(厚生省)、1989
注*3)Activities od Daily Living、生活上必要で多くの人々の共通の基本動作のことで、たとえば入浴、排泄、更衣等の能力 を言う。しかしその範囲はそれほど明確ではない。
注*4)平成4年度北海道高齢者化対策企画調査報告書(北海道生活福祉部)、1993.3.
注*5)地域福祉と老人保健福祉計画、日本医師会雑誌、1993,Vol.10,No2,215-223.


文献情報

(1)忍博次ほか、1985、家庭奉仕員派遣事業の課題、高齢者問題研究、No.1,73-87.
(2)忍博次ほか、1987、家庭介護の   評価基準に関する研究、高齢者問題研究、No.3,1 55-177.
(3)忍博次ほか、1993、在宅福祉におけるホームヘルパーの位置、高齢者問題研究、No.9,111-130
(4)野上文夫、1993、在宅福祉サービスの体系化とコミュニティーワークの課題、ソーシャルワーク研究、Vol.14,NO3,163-   171.
(5)A.Whitehead.1970,In the Service of old Age-The Welfare of Psychogeriatric Patients-.(杉本一義、石野敏夫訳、1994、高齢者の福祉サービス、川島書店)
(6)坂上正道、1992、日本における在宅ケアの位置づけ、Gerontology,Vol.4、2、No.33-43.
(7)竹内孝仁、1994、老年者のライフスタイルとねたきり、Gerontology,Vol.6,No4,71-80.


主題:
高齢者の在宅福祉に関する研究、ホームヘルパーの意見を中心に

発行者:
森 二三男、真木 誠

発行年月:
1995年

文献に関する問い合わせ先:
札幌市豊平区月寒西2条5丁目1番2号
TEL:011-853-8042 FAX:011-853-8074


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