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身体障害者の日常生活の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書

デイサービスにおける レスパイトサービスの現状と課題

1 はじめに

 地域福祉の幕開けと思われた国際障害者年から十数年を経ても、未だ地域で生活をし続けるために有効な福祉サービスはありません。グループホームも大きな期待を背負って立ち上がりましたが、量的な不足は否めません。先頃、国による障害者プランが示されましたが、地域で生活をしている人たちにとっては、例えるなら、レストランに入ってメニューが示されただけで、料理の臭いすら嗅げないというほどの距離を感じています。
 近年、家族を支えるサービスとして、大きな期待が寄せられているサービスにレスパイトと呼ばれるものがあります。地域福祉の閉塞的な状況を打ち破るパワーを秘めたサービスなのか?はたしてその実態は?現状を紹介しながら、今後を展望します。

2 レスパイトの理念

 レスパイトは英語です。元の意味は振り返る。顧みるであり、転じて暫くの猶予、延期の許可、一定の期間の解放、苦役あるいは苦労から暫くの間解放し疲れを癒すことに用いられるとされており、休息、延期、猶予、という意味になっています。この意味につられてレスパイト(サービス)を、単に親の介護疲れを癒し余暇や休息をもたらすためのサービスに限定すると途端に色あせたものとなります。レスパイトは、地域福祉に新たな価値を創出する運動体の象徴として重要なキーワードです。レスパイトは、家族と暮らす障害のある人は親が見て当り前という考えの元で、一番おいてきぼりにされやすい養育義務という言葉にもぐり込んでしまう過度な介護義務による重荷から開放し、日常に「安心感」「休息」「ゆとり」もたらすことの大切さを全面に打ち出して、一人一人の存在の大切さを強調します。そして、本人の生活を親だけでなく社会が支援していく際には、利用者主体のきめこまやかなサービスと、専門性と地域相互扶助の融合などが大切であることを具体的なサービスとして示すことにより、さらに一人人一人の存在の大切さを強調します。

3 レスパイトサービス - その背景となるファミリーサポート

 欧米で先行しているレスパイトサービスは、家族支援機能(ファミリーサポート)の一つとして行なわれています。ファミリーサポートは、在宅生活の要となる支援体制です。その基本にある理念はノーマライゼーションです。具体的には、地域での生活基盤を安定させて、障害のある本人の日常生活を尊重した援助体制を組立てるということです。
 ファミリーサポートを背景としたレスパイトと入所施設によるショートステイ対応とは、このコンセプトにおいて全く違っています。地域福祉で必要とされているのは、本人のみならず家族と共に暮らす生活、その全般にあわせた援助なのです。
 レスパイトサービスを考える際には個々のサービスを単体でとらえるのではなく、前提となるファミリーサポート全体の中で、そのサービスの果たす役割、意義、他のサービスとの関連性について考えなければならないと感じています。
 アメリカのDr.Lipsky氏が提唱した「ファミリーサポート」によると、障害のある本人と家族が地域で生活するには、次に掲げる援助内容が必要であるとしています。

(注)一
1.情報・資料の収集・提供 一般啓蒙 2.家族メンバーその他ケアー担当者の訓練 3.カウンセリング 4.レスパイト(介護支援) 5.移動・交通手段の提供 6.個人給付の改善 7.経済援助 8.住宅援助 9.レクリエーション 10.危機介入

 家族支援は単なる家族への支援ではなく、真のねらいは”本人の地域での生活基盤の安定”をはかることです。その理念は、つぎの3つの要素で成り立っています。
1.家族による支援・・・・・・家族が障害のある人を物理的にも精神的にも支えている状態
2.家族に対する支援・・・・障害のある人と暮らす家族が直接求めるものに応じる支援。
3.家族と共にする支援・・・家族と共に社会が地域での資源で生活を支援。
 それとともに支援を行う際には、1.家族との暮しを支える。2.家族以外の地域の人との結び付き支える、両方の視点を持つことが重要です。
 家族支援(ファミリーサポート)を障害のある本人のライフサイクルに沿ってとらえていくと、生活支援(セルフサポート)への関連性の重要さに気付きます。

 地域で生活する障害のある人が、家族と暮らす時期から家族以外の人と営む生活基盤に移り変わっても、本人の生活基盤を中心に必要なときに必要なだけ介護を支援していく体制の確保という視点が必要です。それが家族との暮しを支える介護支援であり、障害のある本人の生活を支える生活支援です。
 支援の目標は、あたりまえの幸せを育む暮しを維持することです。つまり、家族で共に暮らすことはあたりまえで、サービスは生活の質を高めるために必要であると言う事の理解が家族にも社会にも必要です。また、障害のある人と暮らす家族が陥りやすい(1)長期のストレス(2)社会的孤立(3)自主性の減退などの落し穴にはまらないようにするには、サービス全体に(1)柔軟さがあり(2)幅広く(3)利用しやすく(4)身近で(5)経済的で(6)即応性のあるという内容が必要とされます。
 そしてさらに重要なことは、一人一人の権利が地域で保障される事です。誰かが決めた理想的な利用者像を押し付けられることなく、「「こんな風に暮らしたい。」」という一人一人の思いに沿って、サービスが保障されなければなりません。
 それはサービスを供給する側が、用意した枠組みでしか提供できない体制から、利用する側を主体に援助を組み立て、消費者としてサービスを使いこなしてもらう立場に焦点を切り替えて、価値観を転換させることから始めなければなりません。
 サービスに求められる姿勢は、障害の状況や程度などによって、利用可能・不可能の線引きをせず、たとえ障害が重度であろうとも、その人が家庭で生活し続けるためのサービスを提供するには何が必要なのか、どのようにすれば良いのかを考え、作り出すと言う事です。

各地域の実態

1.民間の運営による実態

 全体の特徴としては、利用者が学齢児童が中心の場合、日帰りのケアーと中心に宿泊の対応も織り交ぜながらの対応をしている傾向にあります。宿泊を中心に行っているところは、通所施設の職員が利用者向けに限定的に行っているところが多く、親の介護負担の軽減も視野に入れていますが、主な目的は本人の自立支援にあるという傾向が見られます。どの事業所も運営費の確保には苦労しています。法人経営であっても自己財の持ち出しによる運営で、いずれも経済的には逼迫しており経営の安定が大きな課題です。

2.行政施策の実態

 現在、行政施策による介護支援は様々な名称で行われています。国の制度によるものは-入所施設によるショートステイ(短期入所)の対応です。利用についてはかなり弾力的になり、利用可能な理由には息抜きや休息も取り入れられました。(東京都ではレスパイトサービスと呼ばれている。)手続きも簡素化されました。また利用対象者も重度だけでなく中軽度も利用できるようになりました。それでも入所施設による対応は大きな問題を抱えています。その決定的な違いはノーマライゼーションに即した対応とは言えないことです。確かにいくつかの入所施設では、この問題解消を図る手立てを工夫し、1.対象エリアの限定、2.事前の登録制、3.本人の日常性を重視した取り組み、などを行なっている施設もありますが、ほんの僅かしかありません。在宅の生活を願う人にとって、入所施設による介護支援の対応は残念ながら対処療法にもなりえないと言えます。
 各地方自治体による施策も徐々に広がりを見せています。地域内の相互扶助を前提とした制度として、東京都の在宅心身障害者緊急一時保護介護人制度を皮切りに横浜、千葉、群馬と徐々に整備されつつあります。この制度は、利用の際に身近な援助として小回りが効くよさはありますが、事業の柱となるべきコーディネーターの存在が弱く、実際には近所の知合いや親の会や学校で知り合った仲間同士での預けあいといった傾向が強く、誰もが利用できる広がりをもった事業とはなりえていません。ただし、表一で紹介した各地の民間団体は、この制度に独自のてこ入れをして活用を図っています。
 新たな方向性をもつ取り組みも、生まれつつあります。 一ヵ所は東京都です。都では平成四年より地域福祉センターに必須事業としてショートステイ事業を組み入れました。これは国の制度であるB型の福祉センターの機能に東京都の単独事業として加えたものです。要項施行の平成4年以前に設立された福祉センターでは、この事業だけ独立して社会福祉法人などに委託できるとなっています。事業の中身としては、在宅の心身障害児者を介護している保護者が疾病などの理由により、家庭における介護が困難となった場合に宿泊を伴い一時保護するものです。
 このセンターによる在宅介護支援の構想は、地域で宿泊を前提に一時保護を行う受け皿を普及させる上で高く評価できます。しかし、利用日数が五日まで、利用理由にも制限があるなど多くの問題があります。実際の事業内容にも職員はコーディネーターとしては主に受付を行い、実際の介護は家政婦協会に委託するという形式で事業展開されている場合が多く、介護者の力量不足からサービス供給側が利用者を選別するという弱点があり、利用上大きな問題となっています。
 都内では区や市の独自の事業として練馬区、中野区、豊島区などで行われています。
 なかでも豊島区の取り組みは先駆的です。保護者の死亡、高齢化、疾病などの理由で作業所や実習所への通所の継続が困難となった場合に、日常生活の支援を行う施設として福祉ホームさくらんぼを設置しています。運営は、社会福祉法人恩賜財団東京都同胞援護会に委託しています。事業内容は大別すると3つになります。1つは、長期間の自立援護指導:保護者の高齢化、死亡などの理由で援護が必要な場合3年以内の期間で福祉ホームで自立助長を図ります。2つめは、短期間の自立生活訓練:15才以上の人で必要な場合一日数時間から最長10日間まで状況に応じて自立訓練を行います。3つめは、緊急一時保護:保護者の疾病、事故、または冠婚葬祭などで一時的に介護を受けられないとき短期間から最長7日間まで援護を受けられます。この事業は平成4年から行われており、平成6年度の利用実績によると緊急一時保護登録者は158名で、延べ利用者は170人、延べ利用期間は、594日。短期自立訓練は224人の利用で1175日間です。利用の申し込みならびに利用の決定は行政で行われ、この事業所は地域内の専門機関として機能が位置付られており、新たな方向性を示していま す。
 もう一ヵ所は、神奈川県の相模原市で、市立の相模原市障害者支援センターを設置し、社会福祉事業団によって一九九五年四月より運営が始まりました。事業内容としては、障害者支援部門のなかに障害者緊急一時ケアー事業を置き、障害児者世帯の生活援護を目的にサービスを行っています。サービスの内容は障害者支援センターの一時保護室でのケアーを前提に、イ、家族の方の都合(通院など)により、障害児者の家庭内の介護が一時的に難しくなった時。ロ、家族の方が日頃の介護疲れを解消したい時。に利用することができます。利用できる日時は年末年始(十二月二十九日~一月三日)を除く毎日、八時半から午後十時までです。利用できる人は相模原市在住の障害のある人であれば誰でも利用できます。利用の区分は二つに分かれています。
社会的理由の場合・・・・利用理由:疾病、出産、冠婚葬祭、事故、災害、学校、看護、などの公的行事への参加となっています。この際は利用に制限はなく、申請期間は利用日の一カ月前から当日までとなっています。
私的理由の場合 ・・・・利用理由:社会的理由以外の理由となっています。この理由の際の利用制限は、一カ月一人四回以内となっています。申請期間は、利用日の一カ月前から五日前までです。介護費用については、理由を問わず四時間以内の場合、五百円。四時間を越えて八時間以内は千円。八時間を越える場合は千五百円の家庭負担となります。
 介護の体制は事前把握、受け付け、コーディネート、介護を行う正規職員が四人、パート職員が六人。(夏期休暇中は十五人ほどを予定)登録者は百五十名ほどで毎日依頼があり、多い日は七から八人程の利用があるということです。
 宿泊を伴わないという大きな問題がありますが、事業内容に重きを置き、四人の正規職員がチームで事業に当たるという方法は、地域在宅介護支援センターの新たな展開として高く評価できます。
 滋賀県の甲賀郡で今年の四月より七つの町が自治体の枠を超え、知的に重度な障害者のある人へのホームヘルパー事業を始めました。この事業は障害のある人を抱える家庭にホームヘルパーを派遣して、家族を介護面で支援するのを目的としています。事業主体は郡内七町と県で、運営は信楽青年寮に委託されます。青年寮では専従の職員を二名置き、食事や入浴の介助などの身体介護、調理、洗濯、掃除、などの家事に関する世話、その他、援助制度の相談や助言、外出時の付添いの手伝いを年間を通して二四時間態勢で行います。これは心身障害児(者)ホームヘルプサービス事業に、今まで(1)身体の介護に関すること(2)家事に関すること(3)相談、指導助言に関することに、新たに平成四年に改正され付け加えられた(4)外出時における移動の介護を適用したものです。定められたメニューに即した事業内容としてはもちろん、知的障害の分野で初の本格的ホームヘルプサービスの開始に大きな期待が寄せられています。
 また甲賀郡では、このサービスを単に一施設の資源とせず、福祉圏域の資源としての位置付けを求めて、事業を担う信楽青年寮で行っている生活支援事業の生活支援ワーカー、地域療育拠点施設事業によるコーディネーター、福祉事務所のケースワーカーと行政の窓口が集い甲賀郡心身障害児(者)サービス調整会議を行い、より機能的な運営をめざしています。
 今後、地域内に専門施設(機能)を行政ごとに整えていく動きが活発化しつつあります。埼玉県の東松山市や千葉県の市川市などは具体的に事業規模内容の検討を行っています。東京の東久留米市でも、障害者福祉センターのショートステイ機能に専任の職員を配置し24時間の受入れ態勢を備えて事業化できるよう平成8年4月オープンに向けて準備が進められています。

まとめ

 レスパイトの求める本質は、その人の人生をその人らしく生きて行くことのできる環境作りをめざした、生活づくりであり、街づくりなのです。それはファミリーサポートにもノーマライゼーションにも一貫して流れるものです。そのことが理解され尊重されるなら、今後、介護支援のサービスが、名称・施策化の問題も含めどのような形で整っていくのかは、それぞれの地域の社会資源に応じた地域特性に委ねられるべき事柄でしょう。

(注)一参照 アメリカ・英国その他にみるレスパイトサービス 大井英子 療育の窓No.85


出典

「身体障害者の日常生活環境の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書」
1頁~6頁

発行者:財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:平成8年3月