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身体障害者の日常生活の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書

視覚障害者に対する資格制限の現状と課題

はじめに

 現代は「資格社会」とも言われ、日常生活のあらゆる場面でさまざまな資格が要求される。これら資格は国や地方自治体が実施する試験やそれに準ずる公的機関が実施する試験に合格することが条件とされる場合が多い。
 ところで、視覚障害者がこのような「資格社会」で生活していく場合、さまざまな制約を受ける。まず各種資格の中には、そもそも視覚障害者がその資格を取得することを法律で禁じているものがある。自動車の運転免許などがその代表的な例である。また、資格そのものの取得が禁じられていなくても、その資格を取得するための試験において障害を考慮した措置が講じられなければ、実質的に資格取得に対する制限となる場合がある。点字を使用している重度の視覚障害者に対して、他の受験者と同じ普通の文字(以下、「墨字」という)で印刷された問題を使って試験を実施するのは、実質的に視覚障害者に対して資格取得を制限することになるのである。
 このように、視覚障害者が「資格社会」で生活していく上での「制限」には二通りのものがある。以下では、各種資格の中から主として職業に関する資格制限を中心にその現状を概観し、将来への課題を検討することにする。

1. 資格制限の現状

(1) 「目が見えない」ことが法律上欠格事由とされる場合
 まず、表をみていただきたい。これは、平成7年9月30日現在の「法令データベース」(行政情報システム研究所提供)の中から「目が見えない」ことを資格取得の欠格事由とする法令を検索した結果である。なお、ここで「目が見えない」というのは、視力を矯正しても、なお、1米の距離において指数を弁別できない程度の視力障害の状況をいうとされる(昭和29年医収第484号)。
 これを一見してわかる通り、ここに掲げられた各種資格は、その業務遂行に際して視覚的情報に依存する度合が極めて高いものばかりである。また、ほとんどの資格が、他人の生命や身体の安全にかかわる業務に関するものである。
 このようにみてくると、この表に掲げられた各種資格における制限には合理性が認められる。ただ、これを諸外国の例と比較すると若干問題がなくもない。たとえば、米国では重度の視覚障害者が精神科の医師として働いている例があるというが、わが国では、このような医師が誕生する可能性はまったくない。もし、視覚障害者でも診療可能な科目があるのならば、そのような可能性をはじめから阻むことが果して合理的かどうかは疑問である。

表 「目が見えない」ことを欠格事由とする各種資格の根拠法

医師法(昭和23年7月30日法律第201号) 第3条 

歯科医師法(昭和23年7月30日法律第202号) 第3条

保健婦助産婦看護婦法(昭和23年7月30日法律第203号) 第9条
歯科衛生士法(昭和23年7月30日法律第204号) 第4条

毒物及び劇物取締法(昭和25年12月28日法律第303号)
  第6条の2 第3項 第2号(特定毒物研究者の許可)、
  第8条 第2項 第3号 (毒物劇物取扱責任者の資格)

診療放射線技師法(昭和26年6月11日法律第226号) 第4条 第1項 第2号(絶対的欠 格事由)

歯科技工士法(昭和30年8月16日法律第168号) 第4条(絶対的欠格事由)

臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律(昭和33年4月23日法律第76号) 第4条
(絶対的欠格事由)

道路交通法(昭和35年6月25日法律第105号) 第88条 第1項 第2号(免許の欠格事由)

薬剤師法(昭和35年8月10日法律第146号) 第4条 第1項 第2号(絶対的欠格条項)

視能訓練士法(昭和46年5月20日法律第64号) 第4条(絶対的欠格事由)

臨床工学技師法(昭和62年6月2日法律第60号) 第4条(絶対的欠格事由)

義肢装具士法(昭和62年6月2日法律第61号) 第4条(絶対的欠格事由)

救急救命士法(平成3年4月23日法律第36号) 第4条(絶対的欠格事由)

(2) 「心身の故障」が免職等の事由となる場合
 次に、法律上欠格事由とはされていないが、その運用によってはそれに等しい結果となる場合をみることにしよう。
 国家公務員法(昭和22年法律第120号)第78条第2号及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条第1項第2号は、「心身の故障」のため職務の遂行に支障がある場合や職務遂行に耐えられない場合には、本人の意思に反して後任又は免職とすることができると定めている。これはケース・バイ・ケースの判断の余地を残したものであろうが、その運用の仕方によっては不当に就労の機会を奪う可能性がある。
 これと同様の規定は、各種資格を定める法律にもみられ、「心身の故障」のみでは資格停止とはならないが、それに伴う職務遂行能力の低下を理由として資格登録が認められなくなる形での制限が付けられているものが多い(例、税理士法、社会保健労務士法等)。

(3) 資格取得に際して一定の配慮を行わないことが制限となる場合
 これは、ほとんどの公的資格について考えられなければならないものである。視覚障害がいわゆる「欠格事由」とされているものを除いては、視覚障害者は基本的にはすべての資格を取得できるはずである。しかし現実には、前もってこのような配慮が検討されている場合は希で、視覚障害者が資格取得を希望してはじめてそのための対応策が検討されるのが一般である。資格試験実施機関の最初の反応は概ね「受験できません」とか「前例がありません」という否定的なものである。
 司法試験や各地の教員採用試験について、視覚障害者が点字試験の実施を求めて積極的な働き掛けを行い始めたのは昭和40年代後半のことであるが、当初はいずれの試験実施機関も実施に否定的な態度であった。点字試験の実施方法についての情報不足と衡平性の確保についての不安、その資格に基づく当該職種の遂行可能性に対する懸念等がその主な理由であった。このような否定的な態度に対して、受験希望者本人やその周囲の支援団体が、点字試験の実施方法や当該職種で働く内外の視覚障害者の事例等について情報提供しながら粘り強く交渉した結果、昭和48年からは司法試験が、それと相前後して、各地の教員採用試験や地方公務員採用試験が点字で受験できるようになった。
 国家公務員試験についてみると、一般職公務員の仕事は「文書を通じた業務が多く、強度の視力障害者は無理」(人事院任用局企画課)として、点字試験の実施には否定的であった。従前通り、障害者に適した職種がある場合にだけ、競走試験でなく、選考採用するとの方針を維持しようとしたのである(朝日新聞,1986)。
 このような状況を打開したのが、全国視覚障害者雇用促進連絡会(雇用連)等の陳情運動と、国会における論戦であった。その結果、1991年から国家公務員試験I種及びII種の一部について点字試験が実施されるようになり、その影響のもと、各地の地方自治体で点字受験が認められるようになってきている(日本盲人福祉研究会,1991)。
 ここで、日本盲人福祉研究会の盲学生情報センターが平成4年度に実施した、地方自治体における点字による採用試験の実施状況に関するアンケート調査の結果をみることにしよう(谷合,1993)。
 まず、平成4年度における一般公務員試験において、点字試験を実施したのは1都1道2府3県1市の計8自治体(東京都、北海道、大阪府、京都府、神奈川県、和歌山県、熊本県、京都市)の8自治体であった。このうち、北海道と神奈川県が初・中・上級職のすべてについて点字試験を実施している。なお、調査段階で、福岡・千葉・鳥取の3自治体が次年度からの実施を前向きに検討していると回答した。
 次に、同年度に置ける障害者特別枠採用試験において点字試験を実施したのは1道2府1県4市の(北海道、大阪府、京都府、神奈川県、横浜市、広島市、四日市市)の7自治体であった。次年度以降も実施するか、との問いには4自治体(大阪府、京都府、神奈川県、広島市)が「実施する」と回答し、他の2自治体(横浜市、大阪市)が未定と回答している。また実施頻度については、「採用枠なしで毎年実施」としたのが京都府、神奈川県、広島市の3自治体で、「採用の見通しがあるときだけ実施する」としたのが横浜市で、大阪府は「採用枠(必ず1名以上採用)を決めて毎年実施する」と回答している。
 なお、平成3年度以前の地方公務員の障害者特別枠採用試験において、視覚障害者が点字受験した事例として次のような状況が報告されている。

 * 埼玉県: 昭和56年点字カナタイプ指導員、電話交換手。同58年、電話交換手。同63、平成元年、図書館司書、電話交換手。 
 * 千葉県: 平成2、同3年、図書編集。
 * 長野県: 昭和56年、通信技師。同57年、社会福祉。
 * 川崎市: 平成元年、社会福祉。
 * 名古屋市: 昭和59年、図書館司書。
 * 神戸市: 昭和59年、電話交換手。
 * 町田市: 昭和63年、図書館。

 このように、地方公務員採用試験の点字受験の機会は、国家公務員試験の点字試験の実施を間にはさみながら、少しずつ拡大してきているが、その機会拡大の方式には二つの方式がある。一つは、一般の採用試験において点字試験を実施する方式であり、もう一つは、障害者雇用促進の観点から障害者特別枠を設定して、その中で視覚障害者に対する点字試験を実施していく方式である。ただし、障害者特別枠を設定する場合でも「活字文書に対応できる」ことを条件とする場合もあり、実質的に視覚障害者の採用を前提としないものもあるので、特別枠の設定=視覚障害者への試験解放とはならない点は注意しなければならない(朝日新聞,1988,1990)。

2. 問題を考える視点と今後の課題

 これまで、視覚障害者の資格制限の現状について概観してきたが、ここで、こうした資格制限についてどのような視点から考えるべきかについて述べてみたい。
 まず、法律が「目が見えない」ことを欠格事由として規定している場合についてみると、現行法規の規定をみる限り、一応の合理性が認められる。憲法第22条第1項は、職業選択の自由を保障しているが、「公共の福祉」による制限を認めていることから、その解釈として、国民の生命・身体の安全に重大な影響を及ぼす職種について、一定の条件を設け、これを満たさない者にその職業に従事することを制限することが認められるからである。ただし、ある職種の中でその職種に固有且つ主要な職務が視覚障害者にも遂行可能である場合には、視覚障害を欠格事由とする合理性が疑われる場合がある。なぜなら、どのような職種でも、有資格者だけが完全に単独で職務を遂行する場合はほとんどなく、したがって、その職種について固有でない付随的・派生的な職務については、当該職種の資格を有しない者に対して委嘱し、または命令・指示して行わせることができるからである。前例で言えば、医師の職務の中で、その固有且つ主要な職務が視覚障害者が遂行可能であるならば、「目が見えない」ことを欠格事由とする医師法の規定の合理性が疑われることになるのである。したがって、この場合には、 医師にとっての固有且つ主要な職務とは何か、しかも、診療科目を区別しない医師免許の中でそれをどう捉えるべきか、という問題が検討されなければならないのである。
 このようにみてくると、法律で欠格事由が定められている場合のほとんどが、ある程度包括的な職務内容をもつ職種にかかる免許制度に関するものであることから、視覚障害者が当該職種についてその職務の一部を遂行できることが証明できたとしても、それが直ちに免許取得可能な程度にその職種に固有且つ主要な職務が遂行可能であることの証明にはならないのである。
 しかし、コンピュータを始めとするマイクロ・エレクトロニクスの発達は目覚ましく、こうした先進技術を利用することによって、視覚障害者もその職種に固有且つ主要な職務を自力で遂行できるようになることも将来においてあり得るのであって、現行の規定が将来においてもそのまますべて妥当するとは必ずしも言えないことも忘れてはならない。
 次に、国家公務員法等により「心身の故障」の結果その職務遂行が困難と認められる場合について、どのように考えるべきかであるが、この点については二つの視点が考えられる。第1は、このような規定が新たにその職業に従事しようとする者の妨げにならないようにしなければならないこと、第2は、中途資格障害者の職場復帰の可能性を考慮しながら対応すべきことである。このうち、前者については、前述のように、国家公務員試験等の点字試験が実施されるようになってきたことから、今後はさらにその範囲を拡大していくことが重要な課題となる。また後者については、障害の程度、リハビリテーション訓練の経過、職務経験、本人の職場復帰への意欲などを総合的に考慮しながら、可能な限り、その能力を発揮できるような方向で、職場復帰への可能性を探ることが重要である。これによって、心身の故障、即、職務遂行能力喪失という、一般に陥りやす井思考パターンから脱却することが可能になるのである。
 最後に、各種試験における配慮についてであるが、これについても二つの視点が考えられる。第1は、国や地方自治体等が実施している資格試験において「目が見えない」ことを欠格自由としていないものについて、点字試験等の配慮を実施するよう求め、視覚障害者の受験機会を拡大していく視点が必要である。その意味で、社会福祉士、情報処理技術者、国内旅行業務取扱主任者等の資格試験が視覚障害者にも受験可能になり、合格者も出てきていることは注目に値する(朝日新聞,1991)。
 第2は、各種の資格試験における実質的な衡平を図るための配慮についての視点である。視覚障害者が資格試験を受験する場合には、試験問題を点訳したり、試験時間を延長したりという配慮が講じられているが、それぞれの試験によってその対応が区々であった。そこで、試験における視覚障害受験者の実質的衡平を確保するために、各試験の実施方法に応じて、出題方法や点訳、音訳上での配慮事項、試験時間の延長幅の基準等について一定の指針が必要になってきている。さらに多くの資格試験が視覚障害者に解放されるためにも、こうした指針の作成による実施方法の標準化が必要になると思われる。

おわりに

 以上、視覚障害者の資格制限の現状とそれを考える視点、並びに今後の課題について述べてきたが、最後に、視覚障害者の自己実現、社会参加をさらに進めるための抜本的な方策について少し述べておきたい。
 今回、本稿を執筆するために過去10年分の新聞記事を検索して気付いたことだが、視覚障害者の資格制限について扱った記事の中で最も多かったのは、大学入学試験の点字受験の可否に関するものであった。この種の記事が多数を占めたのは、単に新聞記事としての社会的アピール性が高い問題だからというだけではなく、それだけ視覚障害者が一般社会--ここでは高等教育機関--に参加する上でのハードルがまだまだ高いということを示しているにほかならない。
 この問題に対する従来の取り組みは、個々のケースを解決する中で事例を積み重ねながら、全体をプラス方向に変えていくというものであった。しかしながら、この方法では、着実にことが進む反面、当事者の個性や個別の事情に深く根差した解決が図られるため、結論を一般化しにくいという問題がある。
 そこで、入学試験などのように、ある環境にその者を受け入れるかどうかを判断するための資格試験については、障害を理由としてその機会を奪ってはならない、という趣旨の機会均等を定めた法律を制定することが、問題を抜本的に解決する有力な方策として浮び上がってくるのである。この考え方は、1990年のアメリカ障害者法(ADA)の底を流れる考え方と軌を一にするものである。
 確かに、憲法23条は学問の自由を保障しており、その延長線上で大学の自治が保障されている。国が大学に対して障害者の受け入れを強制できない理由もこの辺りにあるという。しかし、国立大学はもとより、私立大学であっても、その予算の一部に相当額の国費が支出されていることからみて、大学は単なる私塾とは認められない。したがって、平等を標榜する憲法の下では、その障害のみを理由として障害学生の受け入れを拒否することは著しく合理性を欠くことになると思われる。
 このような機会均等を作り出す法律を制定することによって、大学入学試験のみならず他の資格試験についても、広く入り口の平等が保障されることになり、障害者の社会参加の機会もまたその範囲も大きく拡大することになるのではないだろうか。

<参考文献>

 朝日新聞「大学は出たけれど… 盲学生に狭い就職の門」(昭和61年4月16日夕刊),p.10(1986)
 朝日新聞「9月12日から募集受け付け 水戸市職員採用試験 事務と保母」(昭和63年9月7日朝刊),茨城版(1988)
 朝日新聞「障害者対象に市職員を募集 川崎市」(平成2年10月5日朝刊)神奈川版(1990)
 朝日新聞「旅行業界で活躍の道、障害者にも開いて。全盲の大学生が陳情」(平成3年8月2日朝刊),p.26(1991)
 日本盲人福祉研究会「点字による国家公務員試験が実現するまで(視覚障害者と大学シリーズ3)」盲学生情報センター,pp.21-26,43-47(1991)
 谷合 侑(盲学生情報センター監修)「「広げよう公務員への道―全国点字試験実態調査と視覚障害公務員10人の事例集(平成5年度版)」」盲学生情報センター,pp.5-30(1993)


出典
「身体障害者の日常生活環境の向上に関する調査研究事業 平成7年度調査報告書」
29頁~36頁

発行者:財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
発行年月:平成8年3月