調査から得られた情報を整理し、分析すると、次のようなポイントが浮かび上がる。今後、事業所が新体系への移行を進め、新たな事業に取り組んでいくうえで、これらのポイントに留意することが重要であると考えられる。
アンケートによれば、移行にあたり重視した点として、変化をできるだけ少なくすることを重視したところは約3割、既存資源・ノウハウのもとで安定的・効果的運営を目指したところが約4割、事業の強化を目指したというところが約2割という構成である。事業の強化を図る場合はもちろん、既存資源・ノウハウのもとで安定的・効果的運営を図るためにも、既存の事業体制の見直しは必要になってくると考えられ、多くの事業所で移行にあたって事業を見直しした様子がうかがわれる。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
利用者・職員にとって従来からの変化ができるだけ少なくなることを重視した | 30.4% |
旧体系では実施が難しかったが、利用者や地域のニーズ等があった事業、施設としてやりたかった事業を組み込む(増強する)ことを重視した | 16.8% |
自施設の既存資源・ノウハウのもとで、より安定的・効果的に運営(経営)できる事業形態とすることを重視した | 43.6% |
その他 | 5.8% |
無回答 | 3.4% |
図表35 移行にあたり重視したこと(N=738)
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サイズ:79KB (684×335)
特に、旧体系の施設種別で小規模施設の場合、変化をできるだけ少なくすることを重視したところは割合としてやや少なく、事業強化、既存資源・ノウハウ活用の割合がやや高くなっており、事業見直しをしたところが多いのではないかと考えられる。
選択項目 | 更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 | 全体 |
---|---|---|---|---|
利用者・職員にとって従来からの変化ができるだけ少なくなることを重視した | 32.9% | 33.6% | 27.4% | 30.4% |
旧体系では実施が難しかったが、利用者や地域のニーズ等があった事業、施設としてやりたかった事業を組み込む(増強する)ことを重視した | 12.3% | 16.8% | 19.1% | 16.8% |
自施設の既存資源・ノウハウのもとで、より安定的・効果的に運営(経営)できる事業形態とすることを重視した | 41.9% | 39.3% | 46.5% | 43.6% |
その他 | 9.0% | 4.7% | 5.5% | 5.8% |
無回答 | 3.9% | 5.6% | 1.5% | 3.4% |
図表36 移行にあたり重視したこと[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:106KB (686×518)
※「更生系施設」は身障療護施設および更生施設、「授産系施設」は授産施設、福祉工場等、「小規模施設」は小規模通所授産施設および法定外作業所(以下同様)
また、旧体系施設の障害種別では、身体、知的に比べて精神で事業強化を目指した割合が高くなっている。
選択項目 | 身体 | 知的 | 精神 | 全体 |
---|---|---|---|---|
利用者・職員にとって従来からの変化ができるだけ少なくなることを重視した | 30.6% | 29.7% | 31.0% | 30.4% |
旧体系では実施が難しかったが、利用者や地域のニーズ等があった事業、施設としてやりたかった事業を組み込む(増強する)ことを重視した | 17.4% | 14.2% | 22.1% | 16.8% |
自施設の既存資源・ノウハウのもとで、より安定的・効果的に運営(経営)できる事業形態とすることを重視した | 44.6% | 45.3% | 38.9% | 43.6% |
その他 | 5.8% | 6.8% | 6.2% | 5.8% |
無回答 | 1.7% | 4.1% | 1.8% | 3.4% |
図表37 移行にあたり重視したこと[障害種別](N=738)
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サイズ:107KB (686×518)
以上のように、小規模施設、精神の施設で比較的事業の強化が目指された割合が高くなっており、これは、旧体系で制度的な位置づけが相対的に弱かったところが、新制度への移行を機に、サービスの充実に向けた見直し(新制度で何ができるようになるのか、施設の資源・ノウハウを活かすにはどのようなサービスが望ましいか)を行ったところが多かったのではないかと思われる。
ヒアリングにおいても、移行がサービス見直しのきっかけになったという声が多く寄せられている。新体系への移行にあたっては、まずは従来サービスを見直すという姿勢が大切であり、これは単に新体系に合わせるということではなく、利用者にとってよりよいサービス体系を構築するためとしていくことが重要であると考えられる。
移行事業所は、具体的に、どのような方向で事業の見直しを進めているのか。アンケートでは、新体系事業の実施においてどのような工夫や取り組みをしているかという点については、特に、就労継続支援の商品開発や工賃アップ、利用者個々の状況に応じたサービス提供の工夫、日中活動や自立訓練、就労訓練等の場所の確保・メニュー充実等の回答が多くなっている。つまり、日中サービスや就労支援の充実、個別支援の充実といった方向について、多くの事業所がサービスを見直し、新体系での取り組みを進めているのではないかと考えられる。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
特別支援学校の卒業生などの新規利用者や重度障害者等を受け入れるための取り組み | 27.8% |
地域における障害者支援ネットワークの構築のための取り組み | 26.2% |
日中活動や自立訓練、就労訓練等の場所の確保・メニュー充実などの取り組み | 35.4% |
就労移行支援における一般就労促進の取り組み | 27.1% |
就労継続支援における商品開発や工賃アップの取り組み | 38.5% |
地域生活への移行のための取り組み | 21.3% |
利用者個々の状況に応じたサービス提供の工夫などの取り組み | 37.9% |
その他の取り組み | 11.0% |
特に取り組みはしていない | 8.9% |
無回答 | 16.1% |
図表38 新体系事業での工夫・取り組み(複数回答)(N=738)
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サイズ:85KB (684×796)
旧体系の施設種別で見ると、更生系施設では日中活動等の工夫や地域移行支援、授産系施設では就労移行支援、小規模施設では就労継続支援が比較的高い割合となっており、こうしたサービスを中心に事業展開の工夫が行われている様子がうかがえる。旧体系の施設種別で工夫・取り組みに比較的違いが見られるということは、それぞれの施設でこれまでやってきたサービスの蓄積を活かして、それを新体系でよりよく活かすための事業の工夫が行われているのではないかと考えられる。
項目 | 更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 |
---|---|---|---|
特別支援学校の卒業生などの新規利用者や重度障害者等を受け入れるための取り組み | 29.0% | 26.6% | 28.0% |
地域における障害者支援ネットワークの構築のための取り組み | 28.4% | 25.7% | 24.3% |
日中活動や自立訓練、就労訓練等の場所の確保・メニュー充実などの取り組み | 42.6% | 33.2% | 32.5% |
就労移行支援における一般就労促進の取り組み | 15.5% | 38.8% | 23.7% |
就労継続支援における商品開発や工賃アップの取り組み | 13.5% | 33.2% | 52.0% |
地域生活への移行のための取り組み | 35.5% | 16.4% | 17.3% |
利用者個々の状況に応じたサービス提供の工夫などの取り組み | 38.7% | 31.3% | 41.9% |
その他の取り組み | 12.3% | 12.1% | 9.7% |
特に取り組みはしていない | 12.3% | 8.9% | 8.2% |
図表39 新体系事業での工夫・取り組み(複数回答)[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:111KB (740×633)
ヒアリングにおいても、次のような意見があった。
すなわち、新体系に移行し、事業メニューや場が充実することで、利用者の個別ニーズに細かく応えることがやりやすくなり、サービス向上につながっているという認識である。方向としては、利用者の状況やニーズをふまえて必要な事業を選択し(多機能化)、事業メニューの充実を図るという流れになる。一方で、事務量の増大や人員配置などの負担も少なからずあり、この点はアンケート・ヒアリングでも指摘されていることから、こうしたこともふまえて、サービスの見直しを図る必要がある。
なお、事業の見直しの効果であるが、アンケートでは、新体系事業の定員増加などの効果で利用者数が増えたというところも多くなっている。特に、小規模施設で増えたというところが多い。
項目 | 更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 | 全体 |
---|---|---|---|---|
大きく(2割以上)増えた | 5.2% | 14.0% | 20.7% | 14.9% |
若干増えた | 21.9% | 27.1% | 28.9% | 27.1% |
あまり変わらない | 59.4% | 42.5% | 35.3% | 42.4% |
若干減った | 7.1% | 10.7% | 10.9% | 10.7% |
大きく(2割以上)減った | - | - | - | - |
無回答 | - | - | - | - |
図表40 移行の前後での利用者の変化[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:88KB (686×433)
また、サービスの質の向上に関しては、向上したというところが多く、特に小規模施設で向上したというところが多くなっている。こうした点をふまえると、新体系への移行に伴う事業の見直し等を通じて、利用者数の増加やサービスの質の向上などの結果にも結びついているものと想定される。
項目 | 更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 | 全体 |
---|---|---|---|---|
かなり向上したと思う | 3.2% | 3.7% | 13.4% | 8.1% |
ある程度は向上したと思う | 34.2% | 45.8% | 55.3% | 47.8% |
どちらとも言えない | 46.5% | 41.6% | 27.1% | 35.9% |
どちらかというと低下したと思う | 7.7% | 5.6% | 2.4% | 4.5% |
かなり低下したと思う | - | - | - | - |
無回答 | - | - | - | - |
図表41 移行によるサービスの質の変化[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:92KB (684×433)
【新体系移行の状況】
【ポイント】
アンケートによれば、移行にあたって8割程度の事業所が何らかの投資をしており、特に職員数の増強をあげるところが多くなっている。また、事業用設備・機材の整備・増強、職員研修なども比較的実施されている。ヒアリングでは、事業メニューの増強にともなって場所や設備・機材を新たに確保したというところが多かった。
移行にあたっては事業体系の見直しとともに、それと並行して何らかの投資が必要になってくる場合が多いと想定される。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
新たに施設整備や場所の購入・借り上げ等を行い、事業スペースを確保した | 27.9% |
事業用の設備や機材等の整備・増強を行った | 35.9% |
事務作業の効率化のためのシステム導入やアウトソーシング化などを行った | 28.3% |
職員数を増やした | 48.0% |
事業のために従来雇用していなかった職種(専門人材)を確保した | 20.9% |
事業のための職員研修等(研修費等の支出を伴うもの)を行った | 32.1% |
ジョブコーチやグループ就労などの外部サポートを導入した | 4.5% |
その他 | 4.9% |
特に投資はしていない | 17.1% |
無回答 | 2.2% |
図表42 新体系移行にあたっての投資(複数回答)(N=738)
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サイズ:77KB (737×630)
アンケートで、旧体系の施設種別で見ると、全体的に小規模施設で投資している傾向がうかがえる。一方、更生系施設では投資をしていないところも比較的多い。小規模施設では新体系事業に対応するために投資が必要となるのに対して、規模の大きな施設では、既存資源で対応可能で投資が不要なところもあるものと考えられる。
選択項目 | 更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 |
---|---|---|---|
新たに施設整備や場所の購入・借り上げ等を行い、事業スペースを確保した | 19.4% | 20.6% | 36.2% |
事業用の設備や機材等の整備・増強を行った | 24.5% | 31.8% | 43.8% |
事務作業の効率化のためのシステム導入やアウトソーシング化などを行った | 27.7% | 18.2% | 33.4% |
職員数を増やした | 40.0% | 38.8% | 57.1% |
事業のために従来雇用していなかった職種(専門人材)を確保した | 11.0% | 19.6% | 24.6% |
事業のための職員研修等(研修費等の支出を伴うもの)を行った | 29.7% | 31.3% | 33.1% |
ジョブコーチやグループ就労などの外部サポートを導入した | 2.6% | 7.0% | 3.0% |
その他 | 1.90% | 6.10% | 5.50% |
特に投資はしていない | 27.70% | 19.20% | 11.20% |
図表43 新体系移行にあたっての投資(複数回答)[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:104KB (740×628)
投資の規模・内容については、ヒアリングで主に聞いたが、内容はさまざまであった。数億円単位で新たな施設整備を行ったところから、ほとんど投資をしなかったところまで、多様である。これは、事業所のもともとの規模や、既存資源の状況、新事業の展開に対する考え方などにもよるものであり、一律に多くの投資が必要というものではない。
その他、移行にあたっての投資以外の準備としては、ヒアリングによれば、多くの事業所で利用者や家族に何度も説明し理解してもらうための取り組みがなされていた。また、アンケートでも比較的多くなっているが、職員研修や職員の意識改革に力を入れたというところも多い。むしろ職員の意識改革がたいへんだったという意見もあった。
このように、移行にあたっては、ある程度の投資は想定し、新体系サービスに適合した適切な投資内容を見積もること、利用者・家族や職員の理解を得るために早い段階から説明の場や協議の場を設けることが、準備として必要になってくるものと考えられる。
なお、投資と効果の関係であるが、アンケートでは、サービスの質の向上についての回答状況で投資内容を見た場合、全体的に、サービスの質が向上したと回答しているところでは多く投資がなされており、特に人材に関する投資で差が大きくなっている。この結果から、投資によりサービスの質が向上したという因果関係を結論することはできないが、何らかの相関はあるものと想定される。
選択項目 | 向上した | どちらとも言えない | 低下した |
---|---|---|---|
新たに施設整備や場所の購入・借り上げ等を行い、事業スペースを確保した | 32.9% | 21.1% | 24.4% |
事業用の設備や機材等の整備・増強を行った | 42.9% | 26.0% | 35.6% |
事務作業の効率化のためのシステム導入やアウトソーシング化などを行った | 34.4% | 21.5% | 20.0% |
職員数を増やした | 59.3% | 35.5% | 24.4% |
事業のために従来雇用していなかった職種(専門人材)を確保した | 27.8% | 13.2% | 6.7% |
事業のための職員研修等(研修費等の支出を伴うもの)を行った | 38.5% | 26.4% | 15.6% |
ジョブコーチやグループ就労などの外部サポートを導入した | 6.1% | 2.6% | 2.2% |
その他 | 6.8% | 2.3% | 4.4% |
特に投資はしていない | 8.0% | 29.8% | 28.9% |
図表44 新体系移行にあたっての投資(複数回答)[サービスの質の向上程度別](N=738)
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サイズ:97KB (740×633)
また、経営状況の安定についての回答状況で投資内容を見た場合も、サービスの質と同様に、経営が安定したところで多く投資がなされている傾向が見られる。これも因果関係を結論することはできないが、少なくとも投資をすることで経営が悪化するという関係ではないとは言える。
選択項目 | 安定した | どちらとも言えない | 悪化した |
---|---|---|---|
新たに施設整備や場所の購入・借り上げ等を行い、事業スペースを確保した | 29.3% | 26.1% | 29.4% |
事業用の設備や機材等の整備・増強を行った | 42.4% | 30.3% | 34.5% |
事務作業の効率化のためのシステム導入やアウトソーシング化などを行った | 32.0% | 26.6% | 27.1% |
職員数を増やした | 59.9% | 43.2% | 37.9% |
事業のために従来雇用していなかった職種(専門人材)を確保した | 24.9% | 16.6% | 20.9% |
事業のための職員研修等(研修費等の支出を伴うもの)を行った | 35.0% | 31.1% | 31.6% |
ジョブコーチやグループ就労などの外部サポートを導入した | 4.4% | 3.3% | 6.8% |
その他 | 4.7% | 4.6% | 5.1% |
特に投資はしていない | 11.8% | 21.2% | 20.3% |
図表45 新体系移行にあたっての投資(複数回答)[経営安定程度別](N=738)
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サイズ:100KB (737×629)
【新体系移行の状況】
【ポイント】
アンケートで、新体系の実施事業を見てみると、更生施設でも就労移行支援、就労継続支援B型を2割程度が回答しており、就労支援事業が比較的選択されていることがわかる。
生活介護 | 施設入所支援 | 共同生活介護 | 自立訓練(機能訓練) | 自立訓練(生活訓練) | 就労移行支援 | 就労継続支援(A型) | 就労継続支援(B型) | 共同生活援助 | 無回答 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
身体障害者療護施設 | 93.8% | 75.0% | 3.1% | 6.3% | 3.1% | 3.1% | 0.0% | 0.0% | 3.1% | 3.1% |
更生施設 | 84.6% | 47.2% | 17.1% | 11.4% | 25.2% | 23.6% | 1.6% | 20.3% | 10.6% | 0.8% |
授産施設 | 40.0% | 7.6% | 5.9% | 1.6% | 17.3% | 55.1% | 9.2% | 70.3% | 5.4% | 0.0% |
福祉工場 | 4.5% | 4.5% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 22.7% | 86.4% | 22.7% | 4.5% | 0.0% |
精神障害者生活訓練施設 | 0.0% | 14.3% | 14.3% | 0.0% | 28.6% | 42.9% | 0.0% | 28.6% | 42.9% | 14.3% |
小規模通所授産施設 | 23.2% | 0.0% | 4.0% | 0.7% | 18.5% | 28.5% | 2.0% | 85.4% | 5.3% | 0.0% |
法定外作業所 | 17.4% | 1.1% | 4.5% | 0.6% | 14.0% | 21.9% | 7.9% | 77.5% | 6.2% | 1.1% |
複合施設 | 47.5% | 10.0% | 25.0% | 0.0% | 17.5% | 50.0% | 7.5% | 80.0% | 25.0% | 0.0% |
全体 | 39.8% | 14.1% | 7.9% | 2.8% | 17.1% | 32.8% | 7.9% | 62.5% | 7.7% | 0.7% |
※複数種類の施設を回答しているものは「複合施設」とした。
授産系の施設はもちろんだが、更生施設でも従来から訓練メニューとして就労訓練を取り入れているところは多く、これが新体系への移行にともない、明確化された形であると考えられる。更生施設へのヒアリングでは、就労支援のニーズを持っていた利用者に対して、従来であれば就労に特化した支援が難しかったが、移行によってサービス提供がやりやすくなったとの声も聞かれた。ただし、やはり更生施設にはノウハウがあまりないため、同じ法人内の授産施設から就労支援のノウハウを持つ職員を異動させた、というところもみられた。このような方法が取れるところはそれほど多くはないが、就労支援のノウハウをどのように蓄積するかが、特に更生施設が移行する際の1つのポイントになると考えられる。
【新体系移行の状況】
【ポイント】
同一法人で複数の事業所を持つ場合、上記のように更生施設と授産施設で職員配置を工夫したり、また、異なるサービス構成がある場合、同一法人内での連携によって利用者のニーズに対応した受け皿を用意したりすることも可能である。ヒアリングにおいてそのような実例がいくつかあり、法人全体としての取り組みが可能な場合は新体系でのサービス提供場所のイメージがしやすく、移行に踏み切りやすいといえる。
例えば、旧の更生施設入所者で就労希望がある人を、旧の授産施設がベースとなった就労支援事業で受け入れるなど、さまざまな取り組み方法が考えられる。特に、障害程度区分判定の関係でサービスが利用できなくなった場合など、1事業所のみでは対応が難しいが、複数の事業所で役割分担をして対応することができる。
こうした方法は事業所にとっては同一法人内がやりやすいと思われるが、異なる法人の事業所でも適用は可能である。移行にあたっては、周辺事業所の動向もふまえ、連携の道も探ることで、移行の実現性を高めるものと考えられる。
【新体系移行の状況】
【ポイント】
アンケートによれば、経営の安定については、安定したというところが多くなっている が、悪化したというところも2割以上ある。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
かなり安定したと思う | 8.1% |
ある程度は安定したと思う | 32.1% |
どちらとも言えない | 32.7% |
どちらかというと悪化したと思う | 14.2% |
かなり悪化したと思う | 9.8% |
無回答 | 3.1% |
図表47 移行による経営状況の変化(N=738)
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サイズ:62KB (686×337)
旧体系の施設種別で見ると、小規模施設では6割近くが安定したと回答している一方で、更生系施設、授産系施設では3割弱にとどまっており、差が大きい。
更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
かなり安定したと思う | 5.2% | 2.8% | 13.1% | 8.1% |
ある程度は安定したと思う | 20.0% | 23.4% | 44.4% | 32.1% |
どちらとも言えない | 40.0% | 38.3% | 25.2% | 32.7% |
どちらかというと悪化したと思う | 16.8% | 18.7% | 9.4% | 14.2% |
かなり悪化したと思う | 12.9% | 13.6% | 6.1% | 9.8% |
無回答 | 5.2% | 3.3% | 1.8% | 3.1% |
図表48 移行による経営状況の変化[旧体系施設種別](N=738)
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サイズ:96KB (686×445)
ヒアリングでも、比較的規模の大きな施設では、収支が悪化したというところが多い。
その理由としては、
といった意見が多くなっている。苦労しているところが多い。
ただし、規模の大きな施設でも、経営が安定しているという事業所もあり、そのようなところは、移行にあたって収支シミュレーションを綿密に行い、8~9割程度の利用率でも運営できる体制をつくったり、特に障害程度区分で報酬額が変わるため、利用者の区分シミュレーションをして適切な事業体系を組み立てたという事業所もある。これまでの収入体系から大きく変わるため、それに備えて準備をしていたところは、ある程度安定した収支が得られているのではないかと推察される。
一方、作業所のように小規模な事業所の場合、アンケートでは経営が安定したところが多いが、ヒアリングによれば、従来の不安定な収入状況から、事業報酬に切り替わることで収支が安定したという理由が多くなっている。
なお、経営が安定したというところに、その理由を聞くと、移行による利用者増や報酬アップという理由が多くなっている。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
新体系への移行に際し、これまでの運営(経営)の評価や新事業のシミュレーション等を通じて適切な移行計画を組み立て、実行したから | 36.0% |
新体系に移行することで、従来の経営資源をベースにして利用者の増加や報酬アップによる収入増が得られたから | 64.6% |
新体系への移行を機に、新たな設備投資や職員体制の強化などサービス基盤の整備を行い、それが利用者の増加や報酬アップによる収入増につながったから | 35.4% |
新体系サービスを想定した職員研修など、事業運営に対する職員の意識改革等の取り組みを行ったから | 25.3% |
新体系への移行を機に特別支援学校や企業、地域、関係機関等との連携が進んだから | 10.4% |
国・地方公共団体やコンサルタント、先進施設等からの助言や支援を得て、事業運営(経営)の体制強化を行うことができたから | 4.7% |
その他 | 9.4% |
無回答 | 1.3% |
図表49 経営が安定した理由(複数回答)(N=297)
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サイズ:98KB (799×649)
このことは、移行後のサービス利用人数の変化で経営安定の程度を見た場合でも裏付けられ、利用人数が増えたところでは安定したというところが多くなっている。利用人数の増加により報酬が増え、それが経営の安定につながっているものと考えられる。
大きく(2割以上)増えた | 若干増えた | あまり変わらない | 減った | 全体 | |
---|---|---|---|---|---|
かなり安定したと思う | 18.2% | 8.5% | 6.1% | 4.0% | 8.1% |
ある程度は安定したと思う | 40.9% | 41.5% | 28.1% | 17.0% | 32.1% |
どちらとも言えない | 20.9% | 31.5% | 40.3% | 29.0% | 32.7% |
どちらかというと悪化したと思う | 12.7% | 8.0% | 15.0% | 28.0% | 14.2% |
かなり悪化したと思う | 5.5% | 8.5% | 9.9% | 18.0% | 9.8% |
無回答 | - | - | - | - | - |
図表50 移行による経営状況の変化[利用人数の変化別](N=738)
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サイズ:89KB (686×443)
ただし、経営が安定したというところについても、中長期的な見通しについて聞くと、当面はうまくいったが今後は厳しいというところが約4割、今後もプラスであるというところが約3割となっており、見込みが分かれている。
選択項目 | 回答数 |
---|---|
旧体系に比べて新体系はメリットが多く、今後も事業運営上プラスであると思う | 31.0% |
当面の移行はうまくいったが、今後の事業展開は旧体系と比べて厳しくなってくると思う | 42.1% |
新旧体系の差は少なく、それほど事業運営に影響はないと思う | 3.4% |
今後のことはよくわからない | 18.9% |
無回答 | 4.7% |
図表51 経営の中長期的な見通し(N=297)
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サイズ:71KB (684×336)
旧体系の施設種別で見ると、小規模施設で事業運営上プラスとするところが多くなっている。新体系移行の経営面での効果は、特に小規模施設で顕著である様子がうかがえる。一方、授産系施設では、当面うまくいったが今後は厳しいと言うところが多い。ヒアリングでも、実際に苦労しており、当面は運営できているが、課題をうまく乗り越える方法が見出せていないというところが多い。
更生系施設 | 授産系施設 | 小規模施設 | 全体 | |
---|---|---|---|---|
旧体系に比べて新体系はメリットが多く、今後も事業運営上プラスであると思う | 20.5% | 21.4% | 37.6% | 31.0% |
当面の移行はうまくいったが、今後の事業展開は旧体系と比べて厳しくなってくると思う | 48.7% | 62.5% | 33.9% | 42.1% |
新旧体系の差は少なく、それほど事業運営に影響はないと思う | 7.7% | 3.6% | 2.1% | 3.4% |
今後のことはよくわからない | 23.1% | 8.9% | 20.6% | 18.9% |
無回答 | 0.0% | 3.6% | 5.8% | 4.7% |
図表52 経営の中長期的な見通し[旧体系施設種別](N=297)
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サイズ:104KB (688×506)
経営の安定とサービスの質の向上については、サービスの質が向上したというところでは、経営も安定しているところが多い。サービスの質を削って経営を安定させるという方向ではない。
向上した | どちらとも言えない | 低下した | 全体 | |
---|---|---|---|---|
かなり安定したと思う | 11.4% | 3.8% | 4.4% | 8.1% |
ある程度は安定したと思う | 40.0% | 25.7% | 4.4% | 32.1% |
どちらとも言えない | 30.0% | 40.0% | 22.2% | 32.7% |
どちらかというと悪化したと思う | 12.3% | 16.2% | 24.4% | 14.2% |
かなり悪化したと思う | 5.8% | 11.7% | 37.8% | 9.8% |
無回答 | 0.5% | 2.6% | 6.7% | 3.1% |
図表53 移行による経営状況の変化[サービスの質の向上程度別](N=738)
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サイズ:92KB (688×446)
安定したサービス提供のためには安定した経営が不可欠であり、移行に際しては収支にも留意する必要がある。ヒアリングにおいても、あまり収支のことは考えなかったというところもあるが、多くは何らかの見込みを立てている。前もって事業シミュレーションなどを行い、適切な解を得る努力をしておくことが重要と考えられる。
【新体系移行の状況】【ポイント】