ここでは、相談支援の業務実態把握調査、先進自治体事例調査の結果を踏まえ、サービス利用計画作成費の対象者に限らず、介護給付、自立支援給付、地域生活支援事業に関する市町村の支給決定プロセス(特に暫定ケアプラン作成)に指定相談支援事業者による相談支援を明確に位置づける場合、どの程度の人員が必要となるか、またそのためにどのような仕組みの整備が必要となるかを検討し、今後の効果的な相談支援のあり方について提言する。
■■■本報告における「相談支援」の定義■■■ |
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障害者の「相談支援」にはさまざまな定義がある。この報告書における「相談支援」は、総合的かつ継続的な相談支援、すなわちケアマネジメントをさすものとし、電話受付や窓口対応による、各種窓口・機関の案内、問題点の整理、基本的な事項のアドバイス等、一般的で単発の相談とは異なるものとする。 ケアマネジメントとは、障害者の地域における生活支援するために、ケアマネジメントを希望する者の意向を踏まえて、福祉・保健・医療・教育・就労などの幅広いニーズと、様々な地域の社会資源の間に立って、複数のサービスを適切に結びつけて調整を図るとともに、総合的かつ継続的なサービスの供給を確保し、さらには社会資源の改善及び開発を推進する援助方法である。 (「障害者ケアガイドライン」平成14年 3月31日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部) |
I.相談支援業務の範囲の明確化・標準化と関係者での共有の必要性
○ | 現在、全国で行われている相談支援業務には、以下のような幅広い業務が含まれる。サービス 利用計画作成費の対象者を拡大した場合、個別給付として評価する相談支援業務、市町村の支給決定プロセスに連動した相談支援業務はそのどこまでを対象とすべきか、また、これらの業務をどのような専門性を有する関係機関がどのような形で役割分担するのが望ましいか、十分な議論がつくされていない。 |
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* | サービス利用計画作成費の対象者に対する支援に代表される、ケアプラン作成、給付管理等、個別の利用者に対する相談支援業務(介護保険制度の介護支援専門員業務に相当) | |
* | 特定のサービス導入を必要とするが、状態が不安定、サービスへの拒否がある、生活のしづらさを抱えているが課題が明確で内藤の理由で実際に利用にいたっていないケース、放置すると状態悪化が予想されるケース(いわゆる「地域を漂う人々」)への支援業務(介護保険制度の地域包括支援センター業務に相当) | |
* | 地域自立支援協議会への参画、運営支援、社会資源開発等の地域福祉コーディネーター的業務 | |
○ | さらに、相談支援の業務実態把握調査によれば、個別の利用者に対する相談支援業務に限定し ても、ケアマネジメントプロセスをどこまできめ細かく実践しているか、個別支援計画の作成状況やサービス担当者会議の開催状況には大きなばらつきがある。このため、計画作成に限らず、インテーク、アセスメント、サービス利用計画作成とサービス調整、サービス利用計画の実施、モニタリングと再アセスメント、終結といったケアマネジメントプロセス全体について、それぞれの業務手順や使用する様式等の標準化も必要である。 |
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○ | 相談支援業務の標準化が行われなければ、それを担う人材がどの程度必要となるか、その人材をどのように育成し、質を確保していくかの検討もできない。相談支援業務の標準化は、市町村の支給決定プロセスに連動した効果的な相談支援を実現するための、出発点となる喫緊の課題である。 | |
○ | なお、相談支援業務の標準化に当たっては、相談支援にかかわる人材とその他障害福祉サービスにかかわる人材の効率的・効果的な活用に向けて、個別支援計画に基づいて実際のサービスを提供している施設・事業所におけるサービス管理責任者・サービス提供責任者と相談支援専門員との役割分担、個別具体的なサービス提供計画とトータルな個別支援計画の整合・効率的な作成体制について特に重点的に検討する必要がある。 |
II.サービス利用計画作成費の対象者拡大に伴い必要となる相談支援専門員の確保
○ | 前項で述べたとおり、相談支援業務の標準化は現状では不十分であるという制約があるものの、仮に今回の相談支援の業務実態把握調査の業務量を前提として、サービス利用計画作成費の対象者拡大に伴い必要となる相談支援専門員数の推計を行うと、以下の通りである。 |
○ | 相談支援の業務実態把握調査によれば、ケース1 件1 週間あたりの業務量平均は2.8 時間であった。(P33 参照)常勤専従の相談支援専門員の1 週間の平均勤務時間は54.4 時間(P31 参照)であり、その全てを個別の利用者に対する相談支援業務にかかわるとすれば、常勤専従職員1人が担当できるケース数は19.4 件(=勤務時間合計54.4 時間÷1 ケース当たり業務量2.8 時間)となる。 |
○ | 相談支援専門員の業務は、個別の利用者に対する相談支援業務だけでなくその他の相談支援業務(地域づくり等)、事務作業、委託等その他業務と多岐にわたっており、実際には勤務時間の4 割程度(21.6 時間)しか個別の利用者に対する相談支援業務に割くことはできない。(P31 参照)この前提に立つと、常勤専従職員1 人が担当できるケース数は7.7 件(=利用者に対する相談支援業務時間21.6 時間÷1 ケース当たり業務量2.8 時間)となる。 |
○ | 障害者部会報告に示されたように、サービス利用計画作成費の対象者を、施設入所者や精神科病院に入院中の者を含め、原則としてサービスを利用するすべての障害者に拡大した場合、支給決定者数を45 万人、相談支援専門員1 人20 ケース担当と仮定すると、相談支援専門員は22,500 人程度必要となる。相談支援専門員研修の修了者は既に25,000 人を越えているので、対象拡大に伴う担い手の確保は物理的には実現可能な状況である。 |
III.支給決定との連動に向けた地域自立支援協議会の役割強化
○ | 相談支援が市町村の支給決定プロセスと連動し効果的に展開されるためには、相談支援事業者の業務内容や公平性・中立性を客観的に評価できる仕組みが必要となる。そのためには、地域自立支援協議会に専門部会を設置し、相談支援事業者が作成した全てのサービス利用計画の内容やその運用状況を確認し、必要に応じて是正する等の体制をつくることが期待される。 |
○ | こうした仕組みがあれば、サービス利用者、行政、相談支援事業者、関係するサービス提供事業者等がサービス利用計画のあり方について共通認識をもち、地域の社会資源の状況に応じた公平・中立、かつ適正なサービス利用計画を作成し、支給決定プロセスと連動して運用することができるようになると考えられる。また、必要に応じて相談支援事業者に対する研修や個別指導・支援を行うことで、相談支援の質を高めることができる。 |
○ | 対象が拡大された場合に必要となる相談支援専門員が人数的には確保されたとしても、その質を均一にし、高めていくことは別次元としての大きな課題である。そこで、標準化された相談支援業務を効率的・効果的に実施できる相談支援事業者・相談支援専門員を育成する必要がある。 |
○ | 前項で述べた個別の地域における自立支援協議会等を通じた質の向上の取組みもきわめて重要であるが、全国的な人材育成の方策として、現在の相談支援専門員研修は都道府県により大きくばらついているため、現行研修の内容を標準化するとともに、より現場に即した実践的な研修プログラムを付加する必要がある。 |
○ | また、業務遂行中に単独の小規模な相談支援事業所では解決できない課題が生じる可能性があるため、それらを解決し、相談支援事業所を後方支援するための広域的・専門的な相談支援の拠点的機関の整備が必要である。 |
○ | 相談支援体制を充実させるためには、事業所の安定的運営のためにも地域の体制整備のためにも一定の財源が必要である。サービス利用計画作成費の単価等の見直しに当たっては、相談支援専門員に求める業務範囲および一人が担当できるケース数等の実態を踏まえ、適切な評価を行う必要がある。 |