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第1章 調査の概要

(1)調査名

障害者の福祉サービス利用の仕組みに係る国際比較に関する調査研究事業

(2)目的

我が国では障害者自立支援法の理念である「障害者が地域で普通に暮らせる地域づくり」を進めており、3障害一元的な福祉サービスの充実が図られてきている。

一方で、今後とも増大が見込まれるサービス需要に対応するための財源確保や障害の状況に応じて適正に提供するサービス量を決定する仕組みづくりが求められているが、今後の検討を進めるに当たっての十分な情報が得られていない状況にある。

そこで、本事業は、障害者が日常生活上の利便を図るために利用する介護サービスをはじめとする福祉サービスのサービスメニューや利用の仕組みについて、欧米等の諸外国のデータを収集し、現状や課題の比較・分析を行うことにより、我が国の障害福祉サービスの利用に係る仕組みづくりの検討のための有用な情報を提供することを目的とする。

(3)調査実施期間

平成20年7月1日 から 平成21年3月31日

(4)調査対象地区

ヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)、アメリカ(各州)、カナダ、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)より、専門家による検討委員会が、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、デンマーク、アメリカ(カリフォルニア州)の7カ国を選定した。

(5)調査方法

現地調査研究担当者に調査票を送付し、障害者に対するケアについて、「検討委員会が作成した4種類の障害モデルへの対応」と「介護要否判定方法」を中心としたレポートの作成を依頼した。

(6)調査内容および調査結果の主要集計項目

A.障害者介護サービスに関する調査

  • 障害の定義、範囲、区分(制度別)
  • 要介護者の定義、範囲、区分(制度別)
  • 制度の名称、根拠法
  • 運営主体
  • 制度の体系・相互の位置づけ
  • 加入対象者、加入者数
  • 給付内容
  • 障害者のみの付加給付
  • ケアマネジメント
  • 給付対象者
  • 認定主体
  • 認定基準
  • 認定者数
  • 利用手続き、所管窓口
  • 要否判定方法
  • 利用者負担

先行研究

『介護保険の被保険者・受給者の範囲に関する外国調査報告書』

(財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構、平成18年度老人保健健康増進等事業研究報告書、2007年3月)

B.モデルに関する調査

4種類の障害モデル(視覚障害、頚髄損傷、知的障害、精神障害)への対応(相談・判定・サービス供給までの流れ)についての調査を行なった。

本調査は、同じような状態像の人へのサービスが具体的にイメージでき、かつ、各国間で比較できるようにということで設定した。

自治体の窓口、ソーシャルワーカー、モデルの障害に近い当事者などから具体的にお話を伺い、どのような介護サービスが受けられるのか、どういう手続きで申請して、どんな判定が出るのか、その基準や根拠が具体的にわかる資料として記述してもらえるように、各調査員に依頼した。

なお、介護サービスには、身体介護だけでなく、見守りや指導のようなサービスも含むとした。

提示したモデルは、次の通りである。

モデル1:全盲

性別:男性

年齢:45歳

家族:単身

視力:左右とも0

病歴:糖尿病性網膜症のために失明

ADL:
食事、衣服の着脱、排泄、入浴など、介助など屋内の活動は、介助を必要としない。

IADL:
食事の準備、衣服の管理など、視力を使わなくても可能。銀行預金の管理など、視力を必要とする活動については、補助が必要。

移動能力:
通いなれた道であれば、単独で白杖を使用して移動可能。慣れない道は、介助者が必要。例えば、病院の通院などは、介助者が必要。

職業:なし。

社会活動:
地域の障害者団体の活動に従事している。活動は、ボランティアベースであり、定期的な収入はない。


モデル2:頸髄損傷

性別:男性

年齢:45歳

家族:単身(24時間介護を希望している)

障害程度:
C4不全マヒ。頸から上は動くが、四肢は麻痺している。自発呼吸可能。人工呼吸器は必要としない。電動車いす使用。顎によりジョイスティックを用いて自力による運転可能。体幹麻痺もあり、ベルトで車椅子に固定している。

病歴:スポーツ事故により頸髄を損傷。

ADL:食事、衣服の着脱、排泄、入浴など全介助。嚥下は、介助なしで可能。

IADL:基本的に不能。

移動能力:
バリアフリーであれば、電動車いすにより単独の移動可能。安全性を確保するためには、移動時の見守りがある方が好ましい。

職業:なし。

社会活動:
地域の障害者団体の活動に従事している。活動は、ボランティアベースであり、定期的な収入はない。


モデル3:知的障害

年齢:男性21歳

家族:父48歳(会社員)、母47歳(パートタイム)、姉23歳(派遣会社)

地域:人口20万人の地方都市

障害名:広汎性発達障害(自閉症)、精神遅滞

経過:
小さい時より視線が合わない、どこかに行ってしまう、泣きやまないなどあり。3歳になっても発語がなく、大学病院にて広汎性発達障害(自閉症)と診断される。特定の食べ物しか食べないなどこだわりがあり、ときどきパニックがあるなど子育てには困難が伴った3歳より療育センターに通い、環境やスケジュールの構造化により落ち着いた生活となる。学校は、近くの特別支援学校に通い高等部を卒業する。卒業後近くの作業所に通う。作業所が平成19年度より障害者自立支援法の多機能型事業所になり、その中の生活介護事業所に通う。作業については、農作業で野菜の生産を行う。主に、運搬や植栽、草取りなど単純作業に従事。生産物を販売することも行う。

療育手帳:4歳で取得。重度。

年金:障害基礎年金1級(月額88,000円)

自己負担:生活介護及びホームヘルプ等月額3,000円

サービス:
生活介護事業所(平均月20日)
ホームヘルプサービス(身体介護、月25時間)
地域生活支援事業(移動支援、月20時間)
ショートステイ(月5日)

その他:
月に1回程度、市主催のボランティアによるダンス教室に通う。


モデル4:精神障害

性別:男性

年齢:40歳代

家族:単身

病歴:統合失調症
幻聴、妄想等の病的体験を有しており、これに基づき病状は不安定である。
通院による精神療法、薬物療法を継続している(2週間に1度通院)。
衝動的な自傷行為につき注意が必要である。

ADL:
食事、衣服の着脱、排泄などの日常生活上の動作については、介助の必要なし。
(週1回(4時間)ホームヘルプサービスを利用している)。

IADL:
ガスは怖くて使用できない。(調理、入浴は1人ではできない)。
洗濯機に洗濯物を入れて動かすことはできるが、物干し竿に干すことができない。

移動能力:
駅のホームや道路の横断歩道、歩道橋などにおいて、電車・車などに飛び込めとの幻聴を有することがあるため、基本的には介助が必要。

職業:なし。

社会活動:
地域の障害者団体の活動に従事している。活動はボランティアベースであり、定期的な収入はない。

各モデルについては、次のことを留意点とした。

モデル1:

ガイドヘルパーは介護サービスとして提供されているか。

また、ガイドヘルパーはどのような場合に派遣されているか。病院や市役所に行くときなどに限定されているかどうか。

視覚障害者は要介護度が低く評価されることはないか。低く評価されていないとしたら、何か工夫をしているのか。

モデル2:

このモデルの場合、日本では24時間のパーソナルアシスタントの費用を行政機関が負担しているため、夜間でも介助者をそばにずっと待機させることもできる。対象国ではどのようになっているか。(ずっと待機するのではなく、緊急時に駆けつけられる体制になっている・・・など。)

同じような制度がある場合はどのように手続きをするか。

モデル3、モデル4:

日本では、このモデルは、デイサービス、ホームヘルプ(家事援助)、ショートステイのサービスを行政機関から受けられる。対象国ではどうか。

C.障害児に関する調査

各国の障害児に関する施設について概観するために、補足的に以下の項目を調査した。

a)障害児施設の種別と数

どのような障害児施設があるか。(介護に限らない。)

b)利用の条件

その施設を利用できるのはどのような障害児か。

c)予算

施設の運営に使われる国または地上自治体の予算はいくらか。

(7)調査結果の活用方法

専門家による検討委員会により、収集したデータの比較・分析を行い、我が国の障害福祉サービスの支給決定プロセスの仕組みの見直しに係る政策提言をまとめた調査研究報告書を作成する。