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モデル調査(ケンジントン・チェルシー)

2008年12月以降、Approved Social Worker(認定ソーシャル・ワーカー)という名称はApproved Mental Health Professional(認定精神保健専門家)に変更された。これには、ソーシャル・ワーカー、看護師および作業療法士が含まれる。

ケアマネジメントサイクルと、Fair Access to Care Services(FACS:ケアサービスへの公正なアクセス)の受給資格基準とは、精神保健上のニーズがある人々だけでなく、コミュニティケアを必要とするすべての成人に適用される。

この人物の経歴が記されていないが、ほとんどの統合失調症は成人期初期に発症する。研究によると、早期介入が効果的であることがわかっている。通常、一般開業医から紹介されて精神科を受診する。この人物のように、多くの患者が幻聴を聞くが、これは必ずしも精神保健上の問題ではない。それによってその人が苦痛を感じる場合、問題となる。多くの地域において、地元の保健サービス機関がNHS(国民保健サービス)と連携を取りながら活動している。精神科は、(警察を除けば)唯一、人々から自由を奪うことができる権限を持つ機関であるが、人々ができる限り自立した生活をおくれるようにすることが目的なので、短期間しか隔離することはできない(これには2人の医師による承認が必要である)。この人物は、命令幻聴に苦しんでいるので、このような命令する声とともに生きていくことを学べるまで、そして自分自身や他人に対して危険をもたらすことがなくなるまで、隔離されるだろう。自立生活ができると判断された時点で、帰宅することになる。その後、問題点や能力、財政上の課題、日常生活の状況、社会的・文化的および精神的ニーズ、その他の個人的な課題にもとづき、ニーズの査定が行われる。ケアは、この査定を踏まえたものとなる。

この人物は、一般開業医あるいは地元の精神保健サービス機関から投薬を受けることになる。統合失調症では、注射により薬を投与することがよくある。患者が恐怖症を克服するため、あるいは恐怖症とともに生きるため、作業療法士が患者とともに取り組み、助けようとしてくれるであろう。つまり、ガスを使わなくてもよいように、冷凍食品を買いに連れていったり、冷凍庫と電子レンジを与えたりして支援する(ダイレクトペイメントを利用)。ニーズがあると判断されれば、食事の宅配サービスも利用できるが、通常これは、買い物に出かけられない高齢者や、食べ物を選ぶことができない高齢者に提供される。ケアの個人化がキーワードであり、それは、ケアを既存の体制に合わせて箱詰めにして提供することはせず、個人のニーズに従って支援を提供するということである。Disabled Facility Grant(障害者施設補助金)も申請できる。

この人物は、Incapacity Benefit(就労不能給付)(これは資力調査がある)と、ケア給付と移動給付の2つの要素からなるDisability Living Allowance(障害者生活手当)(資力調査はない)を受給することになる。この人物が車の運転ができない場合は、公共交通機関を使用して自由に移動できるように、Freedom Pass(フリーパス)が与えられる。また、失業中なので、家賃もHousing Benefit(住宅手当)から支払われる。(イギリスではほとんどの統合失調症患者は失業中で、就職先を探すのは難しい。)

たとえばこの人物に子供がいる場合などには、他の専門家も関わってくる。現在、新たな反スティグマキャンペーンが始まっている。http://www.time-to-change.org.uk/

事例4 精神障害
性別:男性
年齢:40歳代
家族:独身

病歴:統合失調症
幻聴、妄想等の病的体験を有しており、これにより病状は不安定である。2週間に1度、通院による精神療法、薬物療法を継続している。衝動的な自傷行為の危険があり、注意深く見守ることにより、これを防ぐ必要がある。

彼は、特定の時間に蓄積注射を受けているのでなければ、投薬のために2週間ごとに通院する必要はないと思われる。ほとんどの継続的な治療は、地域において、病院あるいは一般開業医の診療所で提供される。Community Mental Health Teams(CMHT:地域精神保健チーム)が、患者と会って面談し、治療を行う施設がある、病院以外の場所を拠点に活動している。

衝動的な自傷行為の危険があるというのは大きな問題である。この危険が継続するなら、彼は病院内にとどまらなければならない可能性が高い。現在続いている症状があっても、治療(薬物治療と精神療法の両方)の目的は、きわめて自立した生活が送れるところまでこの危険を減らすことになる。それゆえ、シナリオのあらさがしをしたいわけではないのだが、これは現実的ではない。自立生活をしている者が、そのような危険な行動を避けるために「注意深く見守られる」ことは、可能性としてありえない。これは病院の中でのみ起こることである。

彼が自立して生活するには大きな問題を抱えているとしても、また支援付きの住宅で暮らす必要があるとしても、これほどまでには監視されず、自分が望むように出入りできる相当なレベルの自由を持つであろう。

ADL:食事、衣服の着脱、排泄などの日常生活活動には介助は必要ない。(週1回、4時間ホームヘルプサービスを利用している。)

私たちが会ったときに話したように、この人物によってホームヘルプサービスが利用される可能性は低い。これよりも専門的なコミュニティサポートサービスが、おそらくは作業療法士による限られた時間内での自立スキルの開発や失われたスキルの再獲得のための支援と合わせて、彼の最大限の自立を目指して利用されるであろう。支援の配分のための基準がとても厳しいので、ホームヘルプ(あるいはコミュニティサポート)サービスが提供される前に、具体的なニーズ(上では特定されていない)を明らかにすることが必要である。

昨日、Community Care services(コミュニティケアサービス)であるFair Access to Care Services(FACS:ケアサービスへの公正なアクセス)の受給資格に関する国の規則について話した。

一見して明らかに障害があるとわかる人は誰でも、そのニーズの査定をしてもらう権利がある(NHS and Community Care Act 1990:1990年国民保健サービスおよびコミュニティケア法)が、誰もサービスに対する「権利」を生まれながらに持っているわけではない。サービスを提供する必要があるかどうかは、ニーズの査定によって決まるのである。

査定>確認されたニーズ(「希望」ではない)->それらのニーズを解決するためのケアプラン->サービス

「ケアマネジメント」サイクルは、専門的なモニタリング、サービスがニーズの解決のために機能しているかどうかの再検討、再評価、および必要に応じたケアプランの修正によって完了する。

IADL:ガス器具は怖くて使用できない(つまり、調理、入浴は1人ではできない)。洗濯機を使って洗濯はできるが、洗濯物を物干し竿に干すことはできない。

これについても、この種の疾病を抱える者としてはかなり変わっているように思われる。

恐怖心の克服を助けるために、作業療法が利用できるであろう。彼が何を恐れているのかを知ることが重要である。

この種の状態にある人々のほとんどは、意欲がないため、料理をすることができない(それが問題になるならば)。同様の理由から、身の回りのこともできない。私は、料理と入浴をしたいけれども恐怖心からできないという人の話は聞いたことがない(シナリオでは、それが彼の統合失調症の一部とされているようであるが)。

ここで重要なのは、おもに、これらのスキルを自分で学ぶことを彼に教え、また/あるいは、促すことであろう。

彼が本当に、このうちのどれもできないのであれば、精神保健上のニーズを抱えた人々のための入所施設のような、もっと多くの支援が得られる住宅がおそらく必要であると私は考える。入所者のニーズにもとづき、さまざまなレベルの支援を提供する施設は、相当数存在する。中には24時間体制のものもあるが、その反対に、月曜日から金曜日の9時から5時までしかスタッフがいないところもある(通常、緊急時に連絡する電話番号がある)。

移動能力:プラットフォームや、道の横断歩道あるいは歩道橋などで、電車・車に飛び込めという幻聴が聞こえることがあるので、移動の際には基本的に介助が必要である。

もしこのような声が聞こえるのであれば(これらは「命令幻聴」として知られており、非常に深刻である)、そしてそれらをコントロールすることができないのであれば、自殺という重大な危険があるので、入院する必要があるだろう。

幻聴の影響を減らし、さらに/あるいはそれらをより効果的に管理できるようにするために、投薬治療と精神療法が組み合わされる。これらの症状がある人は、その症状が確実に管理できるように、またこれらの症状が原因で自らを傷つける危険を最小限に抑えられるように、注意深く監視されなければならない。

社会活動:地域の障害者団体の活動に従事しているが、活動はボランティアベースであり、定期的な収入はない。

これは、彼の精神状態がかなり安定していることを示しており、はじめに与えられた情報と一部矛盾している。私たちは精神病に対するスティグマについて話したが、特に統合失調症の人は、失業中の人の割合が非常に高い。

もしこの患者が障害者手当を受給しているのなら、その給付金が得られなくなる危険を冒さずにボランティア活動ができる時間数は限られるだろう。このあたりの詳細はわからないが、すべて非常に複雑である。このため、イギリスにはCAB(市民相談所)があり、また、このサービスに関する専門の精神保健給付アドバイザーがいるのである。

私は、ケアの提供に関する最近の動向として、ホームヘルプやデイセンター、食事の宅配サービスのような従来の固定的なサービスから、人々の個々のニーズに敏感な、より個人化されたサービスへと変わりつつあると述べた。このような政策展開は、「個人化」と呼ばれる。

実際の政策手段はDirect Payments(ダイレクトペイメント)であり、次世代の手段はIndividual Budgets(個人予算)と呼ばれ、個人が前述の方法で審査を受け、そのニーズが特定され、その結果、限られたメニューしかない従来のサービスを割り当てられる代わりに、ニーズに合わせて(理にかなった範囲内で)希望通りに使用できる資金が各人に支給される。

たとえば、食事の宅配サービスは一食xポンドかかり、デイセンターの利用は1日yポンドかかるとする。ある人が食事を作れず(食事のサービス)、孤立していたら(デイセンター)、これらのサービスが支給されるであろう。だがもしその資金が個人に支給され、その人たちがSainsbury(センズベリー:イギリスの大手スーパーマーケット)で電子レンジと冷凍食品を買ってくることに決めたら、あるいはジムに行くことを決めたら、はるかに制度的ではない方法でそれらのニーズを解決することができ、その人たちのさらなる自立を促すとともに、自分は他者に依存する不幸な給付金受給者ではなく、普通の社会人にずっと近いと感じさせることができるであろう。