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第3章 取り組み事例「札幌この実会センター24」

第1節 事業所概要

(1)設立

社会福祉法人札幌この実会は、1973年(昭和48年)に開所した知的障害者入所更生施設「手稲この実寮」が始まりである。知的障害者の「幸せ」を追求し、「家庭的な普通の暮らし」を目指し、地域に根ざした事業展開を図ってきた。地域で普通に暮らすための努力を、利用者・保護者・支援者・法人運営者がそれぞれの立場で、ともに考えつつ事業を進めてきた法人である。

社会福祉法人札幌この実会は障害の程度や利用者の年齢等により法人内を6つのセクションに分けて運営をしている14。今回の調査対象の前身である「知的障害者通勤寮札幌この実会センター24」は1997年(平成9年)に開設された。当法人では、一般就労する人たちと福祉的就労をする人たちをグループに分けて支援を行うようになった。この新しい形態の支援は、今まで知的障害者入所更生施設で生活してきた障害の重い人たちの地域移行をするきっかけとなった。その結果、2008年(平成20年)に知的障害者入所更生施設を廃止し、そこに入所していた利用者はグループホーム、ケアホーム等を中心とした地域社会の中での暮らしを実現した。

自立訓練(生活訓練)宿泊型としての「札幌この実会センター24」は2009年(平成21年)にそれまでの通勤寮であった施設が、新体系に移行し、スタートした。

(2)設置・概要

調査対象の設置と概要を示すと以下のとおりである(図表3-1)。自立訓練(生活訓練)宿泊型事業のみで運用しているということではなく、ケアホーム、グループホーム等との連携のもと、一体的に支援を行っている。

図表3-1 設置・概要
法人名 社会福祉法人札幌この実会
事業所名 札幌この実会センター24 自立訓練(生活訓練)宿泊型
所在地 北海道札幌市西区二十四軒4条6-2-7
法人内関連事業所 日中系:生活介護、就労移行支援、就労継続支援
居住系:施設入所支援、居宅介護、行動援護、移動支援事業、重度訪問介護、短期入所、ケアホーム、グループホーム 34事業所
札幌市障害者住宅入居等支援事業(独自事業)
地域の関連社会資源
  • 特別支援学校高等科
  • 就労先企業(利用者の職場など)
  • 市役所 他

(3)利用者と職員の状況

自立訓練(生活訓練)宿泊型事業の定員は20名であり、それに対応する職員は兼務、非常勤も含めて5名となっている。ただし、日中活動支援や共同生活援助、共同生活介護一体型事業を行っているため、自立訓練(生活訓練)宿泊型事業に係る職員はこれより多い。なお、法人全体では169名の職員がいる。

図表3-2 実施事業利用者の状況

図表3-2 実施事業利用者の状況
実施事業 利用者定員 職員数
宿泊型自立訓練事業 20名 管理者:1名
サービス管理責任者:1名
生活支援員、地域移行支援員:3名
(専従1名・兼務2名)

(4)自立訓練(生活訓練)事業の位置づけ

当事業所は、主に特別支援学校高等科を卒業した若年層を対象として、就労と自立した生活を続けていく力をつけることを目的とした事業所である。主に次のような支援の柱を立てて、実践をしている。

図表3-3 支援の柱

図表3-3 支援の柱
  • a 地域生活に必要なスキルを身に付ける
    (金銭〈労働=賃金=生活〉、身辺自立、人間関係、健康管理、余暇)
  • b 経済的基盤の確立
  • c 雇用安定の継続
  • d 緊急時(SOS)の対応

この前提となる考え方として、「一市民として暮らすことを目指す」という考え方があり、その一つの側面として、企業で働くことを大切にしている。利用者一人一人が一般就労を継続し、年金等とあわせて経済的に自立できるようにすることを重視している。したがって、当事業所では「就労していること」を利用条件としており、働くことを重視する姿勢が見て取れる。

「働くこと(労働)で、賃金を得て、それを基盤に生活する」という〈労働=賃金=生活〉という考え方のもと、生活費を組み立てる金銭管理の支援を実施している。収入(給料、障害年金など)と支出(生活費、就労における必要経費、こづかい、共益費など)のバランスを理解し、計画的な生計の立て方を支援している。

(5)支援の特徴

①利用者像

本事業所は、特別支援学校高等科を卒業し、就労を軸として生活を送ろうとしている方の利用が多い。新体系移行前は知的障害者通勤寮であったことから、主たる支援対象は知的障害である。

②社会人としての生活に着目した支援の実施

障害基礎年金を受給し、就労先の企業からの賃金と合わせて、生活が成り立つことを目標として支援を行っている。本事業所の利用者の多くが特別支援学校高等科を卒業したばかりの人であることから、社会人として生活するために必要なスキルである「金銭管理」「身辺(セルフケア)」「健康管理」「人間関係」「余暇」などの広範な生活スキルの構築を目的とした支援が必要である。当事業所ではそのような支援体制を構築してきた。

利用者が2年から3年で地域生活移行できるよう、自立訓練(生活訓練)宿泊型では、「暮らしの中で学ぶ」ことを主たる支援のコンセプトとし、次の基本姿勢をもとに支援を行っている。

図表3-4 支援の基本姿勢
  • 食事の提供
  • 働く人としての生活リズムの確立
  • 集団で暮らすことによる「仲間同士」15での学び

また、生活能力を高めるアプローチとして、次のような方針のもと支援を行っている。

図表3-5 支援方針
  • ①経済的自立:働いて得る賃金・お金の使い方
  • ②精神的自立:親等からの自立
  • ③身辺自立 :自分の身の回りの整理等 「生活スキルトレーニング」
    (リフレッシュ&クリーンデイと称する居室点検を年に2、3回実施)
  • ④その他、「雇用の安定・継続」「余暇」「対人関係の調整」

この他の特徴としては、「体験型地域移行プログラム」が充実している。具体的には次のようなことが行われている。

図表3-6 特徴的な支援プログラム
  • a ナッツミーティング
    • 利用者及び利用終了者混合のミーティング (月1回)
    • 暮らしの場アンケート、個別支援計画にかかわる個人目標作成、地域で暮らす際の注意点、実際に地域生活を行っている利用者の体験談 等実施
  • b ディナーテイリング
    • 退所後に利用可能性のあるグループホーム・ケアホームで提供されている食事を食べに行くプログラム。地域生活を開始した時の「擬似体験」を行い、地域生活移行へのモチベーションを高めることができる。
  • c 見学
    • グループホーム、ケアホーム、単身向けアパートなどの見学。当事業所に係るこれらの施設はそれぞれ特徴があり、見学することで具体的にどのような移行先がよいかを検討する。
  • グループホーム・ケアホーム体験利用
    • 実際に外泊体験を行い、自分に適した地域生活移行を実感してもらう。また、実際に地域生活移行を行う場所の選定をより具体的に行う。

14このうちのセクションの1つは2009年(平成21年)に社会福祉法人あむとして別法人として独立している。したがって、2011年(平成23年)3月時点では、5つのセクションでの運営となっている。

15いわゆるピア活動の視点