音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

第3章 取り組み事例「札幌この実会センター24」

第3節 考察

(1)ケースに見る支援の流れ

ここまで示した5ケースにもとづき、当事業所の支援フローを第1章の支援フレームに合わせて整理すると次のようになる。

図表3-9 本事業所の支援フロー
枠組み 内容
利用の契機
  • 特別支援学校高等科からの紹介が多い。
  • 就労していること(予定であること)を条件としている。
生活訓練 個別支援計画
  • 過去はあまり整備されていなかったが、近年「ストレングス・モデル」をベースとして策定されている。
カンファレンス
  • 金銭管理(小遣い帳作成)の場が、個別ミーティングの役割を担っている。
  • 普段の生活の中で利用者との会話を通じて本人の様子を確認している。
モニタリング
  • 明確な定めはないが、利用者との日常的な会話、面談を通じて、そこで生じた(気づいた)変化の情報を職員間で共有している。
    職員間でのミーティングを行い、必要な支援方針を検討している。
地域資源との接点
  • 就労をサポートすることが本事業所の基本方針であるため、利用者の就労先企業とは連絡を密に取り合っている。
  • そのサポートのために必要な関係機関と連携を図っている。
支援・訓練内容
  • 普段の生活の中で職員が変化をとらえ、職員間のミーティングを中心に必要な支援を実施している。普段の状況確認(いわゆる「見守り」)をベースとした支援を行っている。
  • 職員間で役割分担(例えば、問題点・課題点を指摘する役、フォローする役などの役割)を行い、社会生活を送るために必要な力を身につけるように支援を行っている。
  • この他に、金銭管理に関わる収支計画書の作成や、リフレッシュ&クリーンデイといった居室点検を年2~3回実施するなど、実際に生活するために必要なスキルを身につけるための継続的な支援を実施している。
地域生活開始に向けた支援
  • 法人内のグループホームまたはケアホームへの移行が多い。ただし、今回事例に上がっていないケースでは、自宅等に移行する場合もある。本人の移行先希望をもとに、そこでの生活を想定した支援がなされている。
  • 移行までの準備として、これらの事業所の体験利用、見学を行っている。このような体験を経て、地域で暮らすことへの理解を深め、実際に生活するイメージを持ってもらうようにしている。
利用終了後のフォロー
  • 定期的なミーティング(ナッツミーティング)を開催し、生活訓練の支援終了後も継続的な支援を行っている。
  • 利用者も気軽に同センターを訪問することが多いようであり、必要な相談等にものっている。
地域生活のための相談サポート
  • 上記のようなフォローは特に年限を区切っているということではなく、必要に応じて対応している状況である。

(2)まとめ

①当事業所の支援フレーム

当事業所は、就労をサポートすることと生活をサポートすることの両面への支援を行っている。当事業所の支援アプローチは次のようになる。

図表3-10 支援フレーム
  • a 利用者との普段の会話、面談、観察を通じた状況確認(いわゆる「見守り」)
  • b aの情報を職員間で共有
  • c 共有された情報をもとに支援方法を検討 その際、重要なのが職員間の役割分担(叱る役、フォローする役など)
  • d 支援の実行
  • e 支援実行後の情報共有

本事業所のもっとも重要な要素は、aに示した状況確認のプロセスである。すなわち、職員が利用者とのコミュニケーションを通じて、利用者の小さな変化も敏感にとらえることで、より適切な支援を行うことができるといえる。また、「できないこと」「失敗しそうなこと」に着目することだけが支援ではなく、必要な場合は継続して見守り続けることも重要な支援と位置づけられる。

職員がそのような変化を敏感にとらえるためには、利用者との信頼関係構築が必要である。信頼関係が構築されることで初めて、コミュニケーションが取れるようになるといえる。信頼関係を構築するまでの期間は、ケースによってまちまちであり、職員にとっても判断しにくい部分となっている。

このような情報を職員間で共有し、一体的な支援を行っているのが当事業所の特徴である。特に「見守り」で得られた情報を通じて、利用者の生活を支える支援がなされている。

ある程度失敗をし、それをどう乗り越えるかを自分なりに考えてもらうことも重要な支援としている。自分なりに失敗を乗り越えること(小さな成功体験)を積み重ねることで、生活するための力を身につけると同時に、生活への自信にもつなげているといえる。また、そのような失敗をした際に誰に相談をすればいいのかについても理解することが、大きな失敗にはつながらないようになると考えられる。

加えて、職員はそのような失敗をした時にきちんと「振り返り」を行っている。どうすればいいのかを普段の会話や面談を通じて伝えることで、利用者の実際に地域に出た時の生活力を高めているといえる。職員にとってみれば、その失敗が大きくならないようにするためにも、aに示した「見守り」が重要であるといえる。

このような支援に加えて、「くらしの見本帳」や「チャレンジCooking Book」など事業所独自のテキストをもとに社会生活力向上に向けたプログラムも実施しており、「生活のベース作り」に向けた試みを継続的に行っている。

②当事業所の自立訓練(生活訓練)事業

まず、期間の問題がポイントとしてあげられる。障害者自立支援法が定める2年間が長いか、短いかは今回のケースだけから判断できないが、少なくとも、利用者と職員との信頼関係構築に一定の期間が必要だということはいえる。先述した「小さな成功体験」の積み重ねと「振り返り」はこの信頼関係があることが前提となることから、この期間が予測できないとなると、期間を区切って支援をすることが本当に妥当かどうかは難しいところである。一方、長ければそれだけよいということでもないので、目標(当事業所の場合は、グループホームやケアホーム等での生活)と必要な支援期間をしっかりと定めた上で、支援することが必要である。

もうひとつのポイントとして、就労支援との関係がある。当事業所では、生活の場と働く場の両立を理念に掲げ、支援を行っている。今回のケースからも読み取れるように、職員は個々の利用者の職場での状況を就労先と連絡を密にし、情報共有をはかることに苦心している。必要によっては職場におもむき話し合いを行っている。しかし、自立支援法ではこのような活動の位置づけがあいまいであり、報酬上の補償もないのが現実である。すなわち、「就労を支える」ということであれば、就労の場の情報共有が重要であり、単に地域の就労支援機関に任せればよいという問題ではないということである。障害者就業・生活支援センターや職業センターなどに活動を引き継ぐということも考えられるが、先述したように「信頼関係」が重要であることから、ある日突然、就労支援の部分をこれらの機関に丸投げすることはできない。これらの機関にも自立訓練(生活訓練)の中で実践されているのと同様の信頼関係構築期間が必要になると想定される。

一般論であるが、このような就労支援機関は地域により活動状況に差があるため、協働できない場合もあり、その場合は、当事業所のような事業所が就労部分のフォローまで行う必要があるといえる。

③当事業所調査から得られる知見

同事業所の支援は、若年(新卒)の知的障害者を対象とした支援モデルの一つであるということができる。「働き始め」でとかくストレスがたまりがちな生活を、サポートしている仕組みとなっており、生活のリズムや、お金の使い方を通して、「社会の中で暮らす」ことを普段の生活の中から学んでいくプロセスであるということができる。その基本的な考えとして、「労働=賃金=生活」ということを視点として置いており、この理解を進めることで、地域で生活することを目標に事業が展開されているといえる。