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第5章 取り組み事例「自立生活支援センター・ウイリー」

第1節 事業所概要

(1)設立

精神病床、老人病床を持つ総合病院を経営する精神科医が、これらに関わる精神障害者の地域生活を支えるべく、1994年(平成6年)に社会福祉法人若竹会「精神障害者通所授産施設ワークプラザみやこ」を設立した。

1999年(平成11年)には精神科病院と地域生活の中間施設として、生活訓練施設の前身となる「精神障害者社会復帰施設 援護寮みやこ」を開設。2006年(平成18年)の障害者自立支援法施行に伴い、2007年(平成19年)4月に「自立生活支援センター・ウイリー」(多機能型事業所)として新事業体系へ移行した。

当事業所が位置する岩手県宮古市は、宮古市を中心として、山田町、岩泉町、田野畑村の4市町村で「宮古圏域」として、一体的な障害福祉サービスを提供している。

高齢化率が34.5%(2008年(平成20年)10月)と高く、さらに毎年1千人の人口減少が続いている。面積は、東西南北、縦・横の距離が各約100kmと広く、人口密度が非常に低い。そして、広大な面積にもかかわらず公共交通機関が未発達であることや、医療・福祉サービス資源も宮古市内に集中していることが、サービス提供の大きな障壁となっている。

2008年(平成20年)に、宮古圏域にある社会福祉法人や病院、行政のすべての関係者が関わる「NPO法人レインボーネット19」(以下、レインボーネット)が設立され、圏域のネットワークによる福祉サービスの提供が開始された。これによって、広域で人口が点在している地域環境の中で、医療や福祉、家族や人とのつながりも乏しく生活していた障害者の豊かな暮らしの実現を目指している。

(2)設置・概要

調査対象の設置と概要を示すと以下のとおりである(図表5-1)。自立訓練(生活訓練)宿泊型事業のみで運用しているということではなく、ケアホーム、グループホーム等との連携のもと、一体的に支援を行っている。

図表5-1 設置・概要
法人名 社会福祉法人若竹会
事業所名 自立生活支援センター・ウイリー
自立訓練(生活訓練)宿泊型(通所型併設)
所在地 岩手県宮古市崎鍬ヶ崎第4地割1-11
法人内関連事業所 障害者支援施設わかたけ学園(施設入所支援、生活介護、自立訓練、短期入所)、自立生活支援センター・ウイリー(自立訓練、就労移行支援、短期入所)、共同生活援助(グループホーム)2事業所 10か所、共同生活介護(ケアホーム)1事業所 7か所、就労継続支援B型事業所 2か所、はあとふるセンターみやこ(就労移行支援、生活介護、就業・生活支援センター、協力型ジョブコーチ事業、特定労働者派遣事業) その他、介護保険・高齢者関連事業
地域の関連社会資源 宮古圏域障がい者福祉推進ネット(レインボーネット)
  • 利用者本位の障がい者福祉の充実と社会参加の促進を目的として設立当事者団体、事業者、関係機関、住民等との連携により、障がい者の誰もが安心して生活しやすい地域づくりを目指す組織
  • 圏域の障がい者自立支援協議会の運営、地域移行、退院促進支援事業に関してもこのネットワークが大きな役割を果たしている。
  • 障害者自立支援法実務担当者会議、地域生活支援調整会議、5つの専門部会(相談支援、権利擁護、就労支援、精神保健、発達支援)が、具体的な協議を行う場として機能している。

(3)利用者と職員の状況

今回の調査対象となっている自立訓練(生活訓練)宿泊型事業の定員は20名であり、それに対応する職員は兼務、非常勤も含めて6名となっている。ただし、自立訓練(生活訓練)通所型、日中活動支援やその他の支援と一体的に支援を行っているため、自立訓練(生活訓練)宿泊型事業に係る職員はこれより多い。なお、法人全体では261名の職員がいる。

図表5-2 実施事業利用者の状況
実施事業 利用者定員
自立訓練(生活訓練)宿泊型
20人
自立訓練(生活訓練)通所型
14人
生活介護
6人
短期入所
2人

※当事業所の利用者のうち、精神障害者は22人、知的障害者は5人、その他が1人となっている。

(4)自立訓練(生活訓練)事業の位置づけ

当法人の各種事業所は、レインボーネットにおける支援体制の一部としてサービス提供を担っている。したがって、当事業所もレインボーネットの中の一つとして、宿泊型と通所型の自立訓練を組み合わせた「一体型」の自立訓練(生活訓練)事業により、病院から地域へ移行する前の「短期滞在型(通過型)自立訓練20」として、中間型あるいは援護寮型の通過施設として機能すべき組織として位置付けられている。

(5)支援の特徴

①事業所が目指す支援のあり方(支援のゴール)

豊かな地域生活を実現していけるよう、レインボーネットに所属するさまざまな事業所の「すまいの場」や「日中活動の場」を活用して、本人の希望や状態にあわせた生活を送ることをめざしている。具体的には、生活訓練の期限が終了に近づいてきた利用者に対しては、利用者の希望や状態に合わせて、レインボーネットを通じてグループホームやケアホームを選び、さらに就労系の事業所や地域活動支援センター等を活用して日中活動を行う生活へとつなげていくことが、当事業所の目指す支援である。

②支援の方針

当事業所の利用は、病院から地域へ移行する前に通過利用する中間型の「短期滞在型自立訓練」として、スムーズな地域移行を実現するための場としての支援をしている。

宿泊型・通所型の両方の自立訓練事業を1棟の建物の1階と2階に有し、生活面や作業面の両側面からの指導、相談支援等を行いながら地域移行を進めることが特徴である。宿泊型自立訓練を基盤とした生活面での指導と、同敷地内(階下)の通所型自立訓練あるいは、他法人の事業を利用した日中活動の指導で生活全体の訓練の機会を得ると同時に、そこで生活を送る上での課題を発見することができる。その課題に対し、利用者の力をいかした対処方法を考え、実際の対処方法を身につけるだけでなく、相談する相手とつながることが、地域生活に出たときに役立つ。相談支援を同時に行う時期を経ることが、実際の地域生活に移行したときの成功につながっており、病院から直接グループホーム等の地域へ移行した場合と比べて、失敗が少ない。

また、4市町の圏域全体の障害福祉サービスを一体的に支援する「特定非営利活動法人レインボーネット」を中心とする支援ネットワークによって、圏域の広さに対して社会資源が乏しい当地域において、さまざまな関係者が法人、職種の別を問わず、当事者にとって適正な時期に必要な支援、サービスを提供することを実現している。

さらには、支援関係者が皆レインボーネットでつながっていることで、普段から一体的な情報共有を行い、必要時には、関わっている関係者が迅速に集まってケア会議を実施できる連携関係がとれており、地域全体としての個別の地域移行支援が可能となっている。


19 正式名称:特定非営利活動法人宮古圏域障がい者福祉推進ネット

20 当事業所ウイリーが便宜上、使用している用語