第7章 取り組み事例「ノンラベル」
第3節 考察
(1)ケースに見る支援の流れ
ここまで示した5ケースにもとづき、当事業所の支援フローを第1章の支援フレームに合わせて整理すると次のようになる。
枠組み | 内容 | |
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利用の契機 |
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生活訓練 | 個別支援計画 |
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カンファレンス |
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モニタリング |
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地域資源との接点 |
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支援・訓練内容 |
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地域生活開始に向けた支援 |
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利用終了後のフォロー |
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地域生活のための相談サポート |
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(2)まとめ
①発達障害の普及啓発
アスペルガー障害等の広汎性発達障害に関しては、知的障害や精神障害と比べてもまだ、認知度が低いのが現状であるといえる。今回調査したケースの中でも自治体側の姿勢の問題から、はじめ障害福祉サービスを利用できないと判断していた例もあった。
また、一般市民の理解もまだまだ十分ではないのが現状である。そのため、当事業所では、研修会や書籍の出版等を通じて、関係機関や保護者等への発達障害に関する啓発事業も並行して実施している。その背景には、発達障害の理解促進が発達障害者にとっても有益であるとの判断がある。
②当事業所の自立訓練(生活訓練)事業
当事業所が最も重要視しているのは、第一に「利用者」との信頼関係構築である。信頼関係が構築されなければ、当事業所への通所自体もできなくなり、さらなる事態の悪化を招きかねないといえる。この信頼関係構築のために必要な期間はケースにより違い、また、プロセスも違う。利用者の現状を踏まえながら、一歩一歩進まなければいけないといえる。今回のケースにもあったが、はじめは1人の職員としか会話ができなかったが、それが複数の職員と会話ができるようになるといった信頼関係の広がりのようなものがあるといえる。支援者はその点を踏まえ、信頼関係の構築状況を鑑み、どのタイミングでどのようにコミュニケーションに広がりを持たせていくかがポイントとなっているといえる。
もうひとつのポイントとして、他の利用者との関係がある。今回調査対象となったケースの中にも、職員との信頼関係は構築されたものの、他の利用者との会話はまだできていないといったことがあった。当事業所では、マージャンやゲームなどの「ツール」を活用し、相互のコミュニケーションを促進する支援を行っている。このような環境を支援者はその場に常駐し、様子を観察して、適度にサポートすることで、その場の雰囲気を調整し、コミュニケーションが構築しやすい環境を作っているといえる。つまり、職員は利用者の状態を積極的に変容させる「カンフル剤」的な位置づけではなく、相互の関係性を高めるための「円滑油」的役割を果たすことになる。
加えて、自身の障害に関する理解をしていくことも重要なテーマであるといえる。今回調査をしたケース全てに関して、「障害特性を学び、感情のコントロール、人間関係構築の仕方を、『居場所』を通じて学ぶ」という実践がされてきた。「居場所」という空間を通じて、職員との会話や面談を通じて、自身の障害を知ることが、社会生活を送る上でのポイントとなっている。
③家族による理解の促進
当事業所として、もうひとつ重視しているのが、利用者の最も近くにいる家族の発達障害に関する理解促進である。身近な人の利用者本人への関わり方で、利用者の感情や障害の受容の仕方などが変わってくるといえる。そのため、家族の障害理解のために、月例の研修会を実施している。
発達障害者を支援するためには、利用者だけではなく、その家族といった周辺環境の調整も重要なテーマだといえる。ただし、現時点の自立訓練(生活訓練)に関しては、訪問による支援が実践できるものの、人手の問題や家族だけへの支援が難しいことなどがあり、報酬面で難しい側面があるのも実態である。