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第8章 自立訓練(生活訓練)事業のあり方

本研究事業「知的障害者・精神障害者の地域生活を目指した日常生活のスキルアップのための支援の標準化に関する調査と事例集作成」を通して明らかになった自立訓練(生活訓練)事業の実態と課題をまとめたい。

また、今後の本事業のあり方を検討するために、そもそも「生活訓練」とは何かを明らかにするために、わが国における生活訓練に関わる歴史的な経緯を振り返るとともに、活用することができる様々なプログラムの概要を紹介したい。

さらに、今後、自立訓練(生活訓練)事業が本来の目的を達成でき、本事業を効果的に実施できるようになるための提言等をまとめたい。

第1節 自立訓練(生活訓練)事業の実態と課題

(1)自立訓練(生活訓練)事業の取り組みと実践プログラムに関するアンケート調査

今回の調査にご協力いただいた5事業所に対して、それぞれの事業所において「生活訓練」についての捉え方、自立訓練(生活訓練)事業実施上で直面している困難なこと、また、本事業を今後、全国的に推進していくためには、どのような改善が必要か等について伺う調査を実施したので、それらの結果を以下にまとめたい。

主な質問項目は、以下の通りであった29(巻末資料2参照)

主な質問項目
  1. 障害者自立支援法における「自立訓練(生活訓練)事業について、①宿泊型、②通所型、③訪問による生活訓練(「訪問型」とする)の3種類のうち、それらを選択した理由、実施上で困っていること、今後、制度として改善してほしいこと
  2. 生活訓練を実施する際に参考にしているプログラムの名称と、事業所で生活訓練として取り組んでいる内容について、「社会生活力プログラム」モジュール項目を参考に、①実施している項目、②事業所独自の文章化・様式化したプログラムの有無、③社会生活力プログラム・マニュアルの活用、④個別支援として実施、について
  3. 自立訓練(生活訓練)事業を実施するに当たり、また、本事業の推進を図るために、今後必要なこと

(2)実施している自立訓練(生活訓練)事業の種類とそれを選択した理由

どのような種類の自立訓練(生活訓練)事業を実施しているかについては、以下の通りであった。

  • ①宿泊型 1事業所
  • ②宿泊型と通所型 1事業所
  • ③通所型 1事業所
  • ④通所型と訪問型 2事業所

その種類を選択した理由は、以下の通りであった。

①宿泊型

  • 社会的入院者の社会復帰のための中間事業所の役割を果たすため
  • 退院促進のため
  • 圏域における社会資源として必要なため
  • 通勤寮として培った就労と地域生活のノウハウをいかすために、旧法知的障害者通勤寮より移行した。

②通所型

  • 地域生活を営んでいる方の生活能力の維持・向上を目的として、訓練を希望する方に対応するため
  • 地域活動支援センターを利用したい方のステップアップを図るため
  • 当事業所は3障害を対象としているが、生活訓練は精神障害者に特化しており、生活のリズムを整える(服薬や睡眠・排泄を含め)ことに焦点を当てる等、精神障害者の継続的な地域生活支援にこのサービスを充てているため
  • 当事業所は地方自治体(市)によって設置、運営されていた通所事業所の統廃合に伴って開設された。事業者は公募されたが、その実施にあたって、事業の組み合わせは市が指定したものであり、そのなかに自立訓練事業が含まれていた。
  • それまで「居場所」として安心の場を提供してきた経緯があり、その環境を継続しつつ、提供するサービスを充実させていきたかったため

③通所型・訪問型

  • 3障害を対象としているが、本事業所では自立訓練(生活訓練)事業は精神障害者に特化しており、生活のリズムを整える(服薬や睡眠・排泄を含め)ことに焦点を当てる等、精神障害者の継続的な地域生活支援にこのサービスを充てているため

④訪問型

  • 通所が精神状態等の理由で困難になられた方、お一人で生活されていて買い物・片づけが苦手で困っておられる方、通所一歩手前の方等への様々な訪問による支援が必要な方がおられたため

(3)実施上で困っていること、改善してほしいこと

各事業所が実施上困っていること、改善してほしいことについて、以下のような項目があげられた。

①宿泊型

  • 利用者の確保
  • 有期限であること(30年入院した者も5年入院した者も同じ期間が適切か)
  • 日中活動と比べ、報酬が安い
  • 高齢者(化)の問題
  • 3年目からの報酬削減
    • ア 18歳以上で利用開始する利用者は必ずしも2年間で障害基礎年金を受給できるわけではない。本人の「給料+年金」で経済的自立ができる人も多く、利用期限が3年になる見込みの人が多い。
    • イ 社会的問題を抱えるケースについては、2年間の利用で地域生活移行可能な人は少ないため、困難ケースの受け入れを控える傾向になってしまう。

②通所型

  • 利用者の確保
  • 利用修了後の日中活動の場がない。(生活介護、就労継続支援B型、または地域活動支援センターに適応しない方)
  • サービス提供の期限が2年間と限定されていることは大きな問題である。現状では、特別支援学校の段階から先を見通した生活スキルトレーニングが十分に行われているとは言い難く、特別支援学校卒業後から自立訓練を実施したとしても、2年間という限られた期間で到達できる目標には限りがある。
  • 職員の最低配置基準が低い。当事業所は多機能型で運営しているため、他の事業と職員を共有する形で配置し、一定程度の数のスタッフを確保しているが、十分であるとはいえない。最低配置人数を増加させるのであれば、それに伴って報酬単価が見直されるべきである。
  • 原則2年間の期限では、高機能の自閉症スペクトラムの特性をお持ちの方にとっては、「人と場所に慣れる」期間でしかないケースが多く、3年目の延長申請を多くの方に行ってもらっている。期限の撤廃を求める。
  • その場、その時の相談で、心的ストレスが解消できることが多く、個別の「相談支援面接」を利用時間内で受けられるようにするため、支援員体制充実等のための報酬単価の見直しや、新たなサービスの体系化が必要である。

③通所型・訪問型

  • 精神障害者を対象としているため、サービスの利用期限があることに困っている。

④訪問型

  • 事業所から居宅まで距離がある場合、支援員の体制に困難があり、また交通費等本人の負担が生じてしまう。
  • 訪問による「相談支援面接」のニーズがある方は多く、その実態を把握してほしい。

(4)参考にしているプログラム、各事業所で作成されたプログラム

各事業所において、「生活訓練」を実施するに当たり、参考にしているプログラムとして、以下のようなプログラムがあげられた。

ア 社会生活力プログラム
時間、人的資源などの制約により、プログラム内容をそのまま取り入れることは困難なので、「社会生活力プログラム」を参考にしてプログラムを開発した。
イ Life Skills Training(生活スキル訓練)
オーストラリア・ビクトリア州政府人間サービス部(Dept. of Human Services)が開発した社会生活スキルに関する訓練マニュアルを参考にしている。マニュアルは英文のため、直接使用するのではなく、基本的な概念などを参考にした。
ウ ACT
プログラムの実施は施設をベースに行うのではなく、地域ベースを主としてサービスの提供を個人に焦点を当てて行っている。
エ TEACCH
法人全体で導入しており、TEACCHを参考に、施設内を「視覚的構造化」している。
その他
企業就労と地域生活維持支援を支え続けてきた旧通勤療としての支援のノウハウの中から、必要なもの(基礎的)をピックアップしてプログラム化し、「暮らしの基本帳」や「チャレンジCooking Book」等を作成し、使用している。
高機能の自閉症スペクトラムの特性のある方(成人)へのサポートに特化しているため、参考とするプログラム、援助技法等がほとんどなく、利用者さんのニーズに応じる形で、すべてオリジナルで展開してきている。

(5)生活訓練として取り組んでいる内容

各事業所においてどのような内容の訓練・支援を実施しているかを把握するために、精神障害のある方を対象とする「地域生活を支援する社会生活力プログラム」と、知的障害・発達障害等のある方を対象とする「自立を支援する社会生活力プログラム」におけるモジュール項目を参考に、支援している項目に○をつけていただいた。また、独自の文章化・様式化したプログラムの有無、「社会生活カプログラム」の活用の有無、プログラム等はなく個別支援として実施しているか等について回答を求めた結果、以下(図表8-1-1)のような状況が明らかになった。

図表8-1-1 回答結果【精神障害関係】(回答事業所数2)
項目番号 項目名(モジュール) 実施している 独自の文章化・様式化したプログラムあり 社会生活力プログラムを活用 個別支援として実施
1 精神科医療        
2 健康管理 2     2
3 食生活 1     1
4 セルフケア 1     1
5 生活リズム 2     2
6 安全・危機管理 1     1
7 金銭管理 2     2
8 すまい 1     1
9 掃除・整理 2     2
10 買い物 2     2
11 服装 2     2
12 自分と病気・障害の理解 1     1
13 コミュニケーション 1     1
14 家族関係 1     1
15 友人関係 1     1
16 支援者との関係 1     1
17 教育と学習 1     1
18 就労生活 1     1
19 恋愛・結婚・育児 1     1
20 外出・余暇活動 1     1
21 地域生活・社会参加 2     2
22 生涯福祉制度 1     1
23 日中活動 2     2
24 地域生活サービス 2     2
25 権利擁護        
項目の累計 32 (2事業所の内訳:9項目、23項目) 32

以上の通り、2つの事業所が精神障害を対象とする社会生活力プログラムのモジュール項目を使って回答してくれたが、1つの事業者は25項目のうち9項目を実施しており、もう一つの事業所は23項目を実施していた。

2事業所とも、事業所独自で文章化・様式化したプログラムはなく、また、既存の社会生活力プログラムも活用しておらず、支援者が個別支援として実施していることが明らかになった。また、2事業所とも「精神科医療」と「権利擁護」については取り組んでいないと回答された。精神科医療につては、服薬指導であるとか、精神科医療についての支援をしていると想定されるが、事業所は医療機関ではないので取り組んでいないという回答になったと考えられる。

次に、知的障害・発達障害のある方を対象とする社会生活カプログラムの項目に準じて回答してくれた事情所は4事業所であった。全体的な結果は図表8-1-2の通りであった。

図表8-1-2 回答結果【知的・発達神障害関係】(回答事業所数4)
項目番号 項目名
(モジュール)
実施している 独自の文章化・様式化したプログラムあり 社会生活力プログラムを活用 個別支援として実施
1 健康管理 3 1   2
2 食生活 3 2 (1) 1
3 セルフケア 3 2 (1) 1
4 時間管理 3 1   2
5 安全・危機管理 2 1   2
6 金銭管理 3 2 (1) 1
7 すまい 2 1   1
8 掃除・整理 4 2 (1) 2
9 買い物 3 1   2
10 衣類管理 2 1   1
11 自分と障害の理解 2     2
12 コミュニケーションと人間関係 3     3
13 男女交際と性 1     1
14 結婚 1     1
15 育児 1     1
16 情報 2 1   1
17 外出 3 1 (1) 1
18 働く 3 1   2
19 余暇 3 1 (1) 2
20 社会参加 1     1
21 障害者福祉制度 2     2
22 施設サービス 1 1    
23 地域サービス 2 1   1
24 権利擁護 1     1
25 サポート 1     1
取組項目の累計 55 20 注1) (6) 35 注2)

注1) 2事業所の内訳:14項目、6項目

注2) 4事業所の内訳:6項目、12項目、4項目、15項目

以上の通り、4つの事業所が知的障害・発達障害を対象とする社会生活カプログラムのモジュール項目を使って回答した25の項目すべてが実施されていることが分かった。そのうち、すべての事業所が取り組んでいる項目は「掃除・整理」であった、3事業所が取り組んでいる項目は「健康管理」「食生活」「セルフケア」「時間管理」「金銭管理」「買い物」「コニュニケーションと人間関係」「外出」「働く」「余暇」の9項目であった。

2事業所は独自に文章化・様式化したプログラムをもっており、1つの事業者は25項目のうち14項目を、もう一つの事業所は6項目を作成し、実施していた。そのうちの1事業所は「社会生活力プログラム」を基にしてその事業所の職員体制等を考えて使いやすい内容にしたプログラムを作成していたので、社会生活力プログラムの欄に( )で再掲した。

プログラムやマニュアルはなく、支援者が個別支援として実施している項目(合計35)を挙げた事業所は4つの事業所であった。4事業所が個別支援として取り組んでいる項目は、それぞれ6項目、10項目、4項目、15項目であった。

(6)自立訓練(生活訓練)事業を推進するために必要なこと

自立訓練(生活訓練)事業がまだ全国的に普及していない現状から、本事業を今後普及するためには、どのようなことが必要かについては、以下の通りであった。

①自立訓練(生活訓練)事業についての研修会

  • 長期入院者(特に精神障害者)や入退院を繰り返している方(10回以上)については、有期限は短い。何回か利用できる仕組みが必要で、そのためには医師や医療従事者を中心とした研修会や定期的な事業所との会議が望ましい。
  • 生活訓練の事例(成功例・活用例)を知る機会とする研修会が必要
  • 全国組織として日本知的障害福祉協会の中に「通勤療分科会」があり、現在は宿泊型に移行した事業所も一緒に活動している。昨年より、全国大会は「通勤療・宿泊型自立訓練事業所等研究大会」として研修会を実施している。その他、地区毎にも研修会がある。
  • 自立訓練事業の目的、期待される役割などが明確ではないので、それを明確化した上で、実施方法、内容の基本となる情報を手に入れる機会が必要である。当事業所の場合は、たまたま開設準備中に「社会生活力プログラム」の存在を知って、参考にさせていただいたが、自分達の事業所内で実施できるプログラムを作るのに多大な時間と労力を必要とした。
  • 本人にとって、生活面での多様なサポートに対応できるサービスであり、自己肯定感や意欲を高める上で、「就労」というハードルの前に利用してほしいトレーニングでもある。各地域で、本事業に取り組む事業所が増えることを望む。

②担当する職員の確保

  • 現行事業所の配置基準は6:1であるが、個人の訓練目的に対応するためには、もっと手厚く職員配置をする必要がある。
  • その障害に合ったプログラムの構築ができるように、特性を理解した者(専門性をもった者)の確保が必至である。
  • 当事業所においては、職員の確保は現在のところあまり苦労はしていないが、福祉施設全般に職業として不安定要素の多い職種となっていることから、若い人材の応募が少なくなっている傾向がある。また、人に関わる仕事やきれいごとではすまない仕事を敬遠する傾向が増えているのではないか。人間(ひと)が生きることに深く関わる仕事なので、職員として成長するには時間がかかる。
  • 当事業所の場合は、多機能型であることから、作業療法士、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師など、多職種が関わりながら支援しているが、これらの専門性を持った職員を確保するのは一般的には困難が伴うと思われる。また、当事業所においても、他事業と並行しながら自立訓練を実施することで、職員への負担が生じている。
  • 現行の「精神」区分では、通所が不安定であること等から、事業収入の不安定さ、少なさから、必要な支援員等の確保が困難である。また、事務職員を置くことが、上記理由からも極めて困難であり、様々な面で支障をきたしている。

③自立訓練(生活訓練)の報酬単価の改善

  • 上記「②担当する職員の確保」に見合う報酬単価を望む。
  • 休日、夜間等、電話相談や訪問等についても、報酬単価を設定してほしい。
  • 他の通所系のサービスと棲み分けるために生活訓練で「丸め」るのではなく、サービスを細分化する、訪問回数の上限を増やす。
  • 日中活動と同じ程度の報酬単価が必要。1事業所に7人程度の職員が確保できるようにしてほしい。障害が軽いということが、支援量が少ないということではない。
  • 報酬単価の改善は望まれるが、単価そのものの問題とは別に、支払方法が日払いとなっていることのほうがより大きな問題であると考える。一時的に利用率が下がったとしても、職員を出勤停止にするわけにはいかず、また、日々の利用の有無に関わりなく、事務処理、事業所のハードウェアの維持管理などの費用は一定程度発生するので、事業経費をすべて日払いで計算するという考え方自体がナンセンスではないか。
  • 人材(支援員、サービス管理責任者、事務職員等)確保や安定的な活動展開のためにも、大幅な増額が求められる。

④その他

  • デイケアとのすみわけをどのように考えているか明らかにしてほしい。
  • 地域支援の一部に「宿泊型自立訓練」があり、他事業所と連携することによって、地域移行、地域生活の維持、一般就労の継続が可能になると考える。「自立支援法」の「日中と夜間と分離する概念」を否定するものではないが、生活の基盤と企業就労の安定は一体的支援に支えられ、維持されていると考える。旧通勤療が核となり、地域生活を展開してきた事業所については、宿泊型事業所が地域支援センターとして活動していくことが重要と考える。
  • サービス利用中の個別の「相談支援面接」やカウンセリングが必要な方が多いが、「面接」に対応するスタッフを人的・体制的に保障できるように、新たなサービス体系を作るか、現行の生活訓練等の中に「加算」等を加える等、現場や訪問での「相談支援面接」が利用できるようにしてほしい。

29 資料編参照