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第8章 自立訓練(生活訓練)事業のあり方

第3節 わが国における「生活訓練」に関する歴史的経緯

国連の「障害者権利条約」の第26条に規定されている「リハビリテーション」を確認した上で、わが国における「生活訓練」の歴史的な原点を確認したい。

わが国における障害者福祉と障害者のリハビリテーションは、1949年(昭和24年)の「身体障害者福祉法」、1960年(昭和35)年の「知的障害者福祉法(制定当時、精神薄弱者福祉法)」、1995年(平成7年)の「精神保健と精神障害者の福祉に関する法律(精神保健福祉法)」等に基づいて様々な事業が実施されてきた。さらに、これらの法改正や事業の改変は障害関係審議会による答申や、障害者基本計画等によって推進されてきた。

本研究事業は知的障害、精神障害、発達障害を対象としているが、「生活訓練」の原点に遡り、3障害の中で最も古くから様々な取り組みが行われてきた「身体障害」に焦点を当てて調べてみた。身体障害者福祉審議会では、生活訓練について、どのような言及がなされてきたかを振り返り、自立訓練(生活訓練)事業の在り方の参考としたい。

(1)身体障害者福祉審議会における言及

①1966年(昭和41年)の身体障害者福祉審議会答申

自立訓練(生活訓練)の原点を歴史的に見ると、今から45年前の1966年(昭和41年)の身体障害者福祉審議会答申「身体障害者福祉法の改正その他身体障害者福祉行政推進のための総合的方策」に見ることができる。

1966年(昭和41年)に身体障害者福祉審議会会長から厚生大臣宛に「身体障害者福祉法の改正その他身体障害者福祉行政のための総合的方策」の答申がなされ、同答申第1部「総論」第1章「身体障害者対策の目的と必要性」において、以下のように言及されていた(身体障害者福祉審議会、1966)。

「医学的リハビリテーション技術の進歩は、これらの人々が身体障害者となることを防止し、又は軽度の障害で回復することを可能とするようになった。また障害が残った人々に対する社会的リハビリテーションや職業的リハビリテーションの技術の発達は、それらの人々を社会復帰させることに大きな期待を持たせるようになった。」

さらに、同第3章「身体障害者対策の体系」において、「『リハビリテーション』という用語は、身体障害者の社会復帰、援護の措置のすべてを指す場合もあるが、本答申においては、理学療法、作業療法、外科的手術、社会適応訓練、職業訓練等その人の障害を軽減し残存能力を向上させるための技術的措置を意味することにする」と、リハビリテーションの意味する範囲を限定し、障害を軽減し残存能力を向上するための具体的な方法として使用されていた。ここにそれらの一つとして列挙された「社会適応訓練」は社会リハビリテーションの対象範囲としての具体的な訓練を意味し、「社会適応訓練」は日常動作や社会生活を可能とするための訓練であるとしていた。

同答申第2部「各論」第3章は「社会的リハビリテーション」を表題とし、その第1節に「社会的リハビリテーションの意義」が以下のように記述されていた。

「従来のリハビリテーションにおいては、医学的リハビリテーションと職業的リハビリテーションが重視され、不十分ながらも一応の成果をあげていた。しかしながら、医学的、身体的に機能が改善され、適当な職業訓練を受けて、適当な職場に就職できたとしても、なおかつ更生に成功しない数多くの例が見受けられる。これは、社会的リハビリテーションという第三の重要な要素に欠けていたからである」と、リハビリテーション全体における「社会リハビリテーション」の重要性とその欠落を指摘していた。

さらに、「リハビリテーションの本質は残存機能の回復や職業能力の向上に限られるものではなく、身体障害がもたらす個人生活、社会生活におけるあらゆるハンディキャップを対象とし、そのハンディキャップを除去したり、軽減することにある」とし、身体機能や職業能力の向上ばかりでなく、社会生活に復帰するために社会リハビリテーションが必須であることが記述されていた。

同答申では、「社会的リハビリテーション」の内容として、「心理的更生指導」と「生活適応訓練」があげられていた。さらに、社会的リハビリテーションを実施する機関や専門職として、身体障害者更生援護施設、身体障害者更生相談所、福祉事務所、それら施設や機関における生活指導員、心理判定員、身体障害者福祉司、社会福祉主事をあげているが、そのいずれについても十分行われているとは言いがたい現状にある、と当時の問題状況が指摘されている。

さらに同答申第3章第3節「生活適応訓練」においては、その目的、方法、内容等が、以下のようにまとめられていた。

「生活適応訓練の目的と方法は、障害の種類、障害程度、障害を受けた時期等によって異なるが、大別すれば、基礎訓練と応用訓練の二つに分類することができる。基礎訓練とは、例えば視覚障害者に対する聴覚訓練や触覚訓練のような感覚訓練、右腕を失った者に対する左腕の代償機能訓練等、日常生活の基礎訓練である。応用訓練とは、視覚障害又は肢体不自由を有する主婦に対する家事訓練、視覚障害者又は聴覚障害者に対する会食作法指導、バス電車等の乗車指導、集団生活指導等、二つ以上の基礎訓練を組み合わせて、日常生活又は社会生活に適応させることを目的とする訓練である。」

以上のように詳述されていた「生活適応訓練」はリハビリテーションにおける新たな分野であるとし、今後の課題として、専門職員の充足と資質の向上、生活適応訓練の体系化とその具体的な内容の確立、生活適応訓練に関する研究の必要性が指摘されていた。

②1970年(昭和45年)の身体障害者福祉審議会答申

前述①の答申が出された4年後の1970年(昭和45年)に、身体障害者福祉審議会会長から厚生大臣宛に提出された答申「昭和41年の本審議会答申以後の諸情勢の変動に対応する身体障害者福祉施策」の第2章「身体障害者のリハビリテーション推進のための諸方策」において、「リハビリテーションの範囲」が以下のように記述されていた(身体障害者福祉審議会、1970)。

「身体障害者のリハビリテーションを大きく分けると身体的残存能力を回復させ、かつ身体障害者の職業的、教育的、心理的、社会的能力を回復させ、または新たな能力を獲得させるための技術的措置を意味する狭義のリハビリテーションの分野と、それに加えてリハビリテーション期間中の、または障害が存するために起こる経済上、生活のハンディキャップを補うための援護の分野も包含する場合があるが、この答申においては『リハビリテーション』とは、前者の狭義のリハビリテーションをさすことにする。さらに、狭義のリハビリテーションは、手術、理学療法、作業療法、言語治療、日常動作訓練等、医学的手段を用いて、身体的機能障害の進行を可能な限り防止し、残存能力を向上させるための医学的リハビリテーションと、その前後に行われる社会適応訓練、職業能力の回復、開発を目的とする職能訓練及び職業訓練等の社会的、職業的リハビリテーションに分けることができる」としている。

本答申において、狭義のリハビリテーションとして機能回復訓練や社会適応訓練、職能訓練、職業訓練をあげ、これらを医学的リハビリテーション、社会的リハビリテーション、職業的リハビリテーションとし、もう一方の、広義のリハビリテーションの概念に、障害者福祉サービスの提供や所得保障を入れている。このような答申の記述によると、狭義のリハビリテーションは、障害当事者の能力を上方向に伸ばす教育的な取り組みであると理解でき、一方、「リハビリテーションの期間中の、または障害が存するために起こる経済上、生活のハンディキャップを補うための援護の分野も包含する」と記述された広義のリハビリテーションは、いわゆる「障害者福祉」であるというように、リハビリテーションの概念が狭義と広義に分けて整理されていた。

また、同章の3「身体障害者更生援護施設におけるリハビリテーションの充実」において、「施設における心理的、社会的、職業的リハビリテーションの拡充強化」が必要であるとし、「心理、社会的リハビリテーションには、動機づけ、カウンセリング、心理療法、ケースワーク、生活指導、自治的活動指導、クラブ活動、行事、後保護指導があるが、生活指導の中には、家事、育児の仕方や、家庭における応急手当の仕方等の訓練も当然含めるべきであろう。また、作業療法、日常生活動作訓練(ADL)、肢体不自由者の歩行訓練は、主として医学的リハビリテーションの一環として実施されるものであるが、施設の特性に応じ、心理、社会的、職業的リハビリテーションと併せて、これらの訓練を行う場合の実施体系を確立する必要がある」と指摘している。これらの記述は、リハビリテーションを構成する諸分野を確認する意味で、現在も重要な記述である。

以上のように、1970年(昭和45年)に出された身体障害者福祉審議会答申において、「社会リハビリテーション」の具体的な内容としてケースワーク、生活指導があげられ、さらに「生活指導」の具体的な内容として家事、育児に関する指導などが言及されている。従って、生活指導員(ソーシャルワーカー)によって実施される「生活指導」には、社会リハビリテーションとしての取り組みが既に含まれていた。

③1982年(昭和57年)の身体障害者福祉審議会答申

さらにその12年後の1982年(昭和57年)に、身体障害者福祉審議会答申「今後における身体障害者福祉を進めるための総合的方策」が出された(身体障害者福祉審議会、1982)。

同答申第1章「身体障害者福祉の基本理念」において、「リハビリテーションの理念」について、「リハビリテーションの理念の根底にあるものは、障害者も一人の人間として、その人格の尊厳性をもつ存在であり、その自立は社会全体の発展に寄与するものであるという立場に立つものである。リハビリテーションは第三の医学といわれることもあるが、それは単に運動障害の機能回復訓練の分野をいうのではなく、障害をもつ故に人間的生活条件から阻害されている者の全人間的復権をめざす技術及び社会的、政策的対応の総合的体系であると理解すべきである」とし、さらに「リハビリテーションは、中途障害者の社会復帰のように理解されがちであるが、生まれながらの障害者が能力や体験、社会関係などを新たに獲得していくハビリテーションをも含むものである。つまり、リハビリテーションの基調は、主体性、自立性、自由といった人間本来の生き方であって、その目標は、必ずしも職業復帰や経済的自立のみではないことを理解しなければならない」と、リハビリテーションの一分野である「社会リハビリテーション」の内容を記述し、障害当事者の主体性、自立性、自由の保障の重要性あげて、リハビリテーションの理念を解説している。

さらに、同答申第4章「身体障害者福祉対策改善のための方策」において、「在宅福祉対策の方向」の一つとして「基礎的生活訓練について」の項目があり、「身体障害者の自立生活を促進するためには、物的整備だけでなく、むしろ家庭や地域で自立して生きていける人作りに向けてのリハビリテーションが重要である。それには、家庭における日常生活の訓練、コミュニケーション訓練、自立心と社会常識の育成、健康の自己管理、社会資源を使いこなす知識と自己責任の果たし方に関する教育等が、自立生活に向かう訓練の内容として要求される。具体的には、盲人の歩行訓練や家庭生活訓練、聴覚・言語障害の職能訓練、言語治療及び喉頭摘出者の発声訓練等は特に強化される必要があろう。今後の身体障害者更生援護施設においては、特に中途障害者の増加等に着目し、身体障害者の自立生活のための基礎的生活能力の訓練の場としての内容充実が望まれる」と、今から30年も前に、まさに現在ニーズが高くなっている地域生活への移行の準備課題や、地域社会の中で生きる力である「社会生活力」を高める取り組みの重要性が、具体的に記述されていたのである。

以上のように「基礎的生活訓練」の内容としてあげられている諸訓練や指導の内容が、まさに「自立訓練事業」として取り組むべき課題であろう。

(2)障害者関係法や障害者施策における言及

これまでは、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神障害者保健福祉法というように、障害別の法律により、障害者福祉サービスが提供されてきた。また、1980年代以降は様々な障害者施策が積極的に取り組まれてきた。これらの主要な取り組みにおいて、「自立訓練事業」に関係すると想定される言及を以下にまとめてみたい。

①身体障害者福祉法

身体障害者のリハビリテーションを行う施設として同法第29条に「身体障害者更生施設は、身体障害者を入所させて、その更生に必要な治療又は指導を行い、及びその更生に必要な訓練を行う施設とする」と規定されていた。「更生」は英語の「リハビリテーション」を日本語に翻訳した用語である。

身体障害者更生施設における「リハビリテーション」に関わる規定は以下の通りであった。

更生訓練
更生訓練
入所者が自ら進んでその障害を克服し、その有する能力を活用することにより、社会経済活動に参加することができるようにするため、施設の特性に応じ必要な医学的訓練、心理的訓練又は職能的訓練を行うこと

②知的障害者福祉法

同法第21条の6「知的障害者更生施設」においては、「18歳以上の知的障害者を入所させて、これを保護するとともに、その更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする施設とする」と規定されていた。

さらに、「知的障害者援護施設の設備及び運営に関する基準」(厚生省令57、改正2000年(平成12年))において知的障害者更生施設が規定され、第11条に規定されている職員のうち社会リハビリテーションに関わりの深い職種は「生活指導員」である。第14条の「生活指導等」において「更生施設は、入所者が日常生活における良い習慣を確立するとともに、社会生活への適応性を高めるようあらゆる機会を通じて生活指導を行わなければならない。更生施設は、教養娯楽設備等を備えるほか、適宜レクリエーション行事を行わなければならない」と規定していた。

③精神保健福祉法

精神保健福祉法第50条の2「精神障害者社会復帰施設の種類」として、①精神障害者生活訓練施設、②精神障害者授産施設、③精神障害者福祉ホーム、④精神障害者福祉工場、⑤精神障害者地域生活支援センター、が規定されていた。これらのうち、精神障害者生活訓練施設は、「精神障害のため家庭において日常生活を営むのに支障がある精神障害者が日常生活に適応することができるように、低額な料金で居室その他の設備を利用させ、必要な訓練及び指導を行うことにより、その者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設とする」と規定されていた。以上の規定により、精神障害者生活訓練施設は精神障害者のための社会リハビリテーション施設であったといえるが、同施設において実施される社会リハビリテーションの内容としては、「日常生活への適応」と「必要な訓練及び指導を行う」と漠然と規定されているのみである。

さらに同法第50条の4に「精神障害者社会適応訓練事業」が規定されていた。「都道府県は、精神障害者の社会復帰の促進及び社会経済活動への参加の促進を図るため、精神障害者社会適応訓練事業(通常の事業所に雇用されることが困難な精神障害者を精神障害者の社会経済活動への参加の促進に熱意のある者に委託して、職業を与えるとともに、社会生活への適応のために必要な訓練をいう)を行うことができる」と規定している。「社会適応訓練」という用語は社会リハビリテーションの範疇にある用語であることを想定させるが、実際にはこの規定によって明らかなように、「精神障害者社会適応訓練事業」は実質的には就職をめざした事業であるので、社会リハビリテーションの事業というよりは、職業リハビリテーションの事業である。

精神障害者が地域で生活し、社会参加していくためには、精神障害者の「社会生活力」を高める視点から、社会リハビリテーションとして支援すべき内容が多々あるはずである。しかし、精神保健福祉法に規定されている「精神障害者生活訓練施設」と「精神障害者地域生活支援センター」において、精神障害者の「社会生活力」を高めるために、どのような取り組みが具体的に行われるかについては全く規定されていなかった。精神障害者が地域の中での生活に移行し、社会参加を可能とするためには、精神障害者の「社会生活力」を高めるための具体的な方法とプログラムが示されなければならないはずである。

④障害者プラン

1995年(平成7年)12月に策定された「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」は、「障害者対策に関する新長期計画」を具体的に推進していくための重点施策実施計画であった(総理府障害者対策推進本部、1995)。1996年度(平成8年度)から2002年度(平成14年度)までの7か年計画であった「障害者プラン」は、新長期計画が掲げる「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」の理念を踏まえ、①地域で共に生活するために、②社会的自立を促進するために、③バリアフリー化を促進するために、④生活の質(QOL)の向上をめざして、⑤安全な暮らしを確保するために、⑥心のバリアを取り除くために、⑦わが国にふさわしい国際協力・国際交流を、の7つの視点から施策の充実を図るものとされた。

第1の視点である「地域で共に生活するために」の第4項「介護等のサービスの充実」の(4)「重度化・高齢化への対応及びサービスの質的向上」において、「障害者が生活機能を回復・取得するために必要な医療、機能回復訓練、障害者の年齢等に応じた社会生活訓練等についての研究及び開発を推進する」と記述された。ここにおける「社会生活訓練等」が社会リハビリテーションのプログラムに該当するが、社会生活訓練の内容に関する具体的な記述は全くなかった。

2002年(平成14年)12月に「障害者基本計画」が閣議決定され、同時に障害者施策推進本部においてその具体的目標を定める「重点施策実施5か年計画」(障害者プラン)も決定された(内閣府障害者施策推進本部、2002)。障害者基本計画の計画期間は2003年(平成15年)から2012年度(平成24年度)の10年間であり、現在もその期間内にある。その理念は、①ノーマライゼーション、②リハビリテーション、③共生社会の実現、3つであり、これまでの「障害者基本計画」の2つの理念であった「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」に「共生社会の実現」が追加された。これにより、地域において障害のある者もない者も、お互いに協力し共助の社会を築く必要性が誕われた。

この中で、「地域での自立生活を支援するため、情報提供、訓練プログラムの作成、当事者による相談活動等の推進を図る。特に、当事者による相談活動は、障害者同士が行う援助として有効かつ重要な手段であることから、更なる拡充を図る。障害者が社会の構成員として地域で共に生活することができるようにするとともに、その生活の質的向上が図られるよう、生活訓練、コミュニケーション手段の確保、外出のための移動支援など社会参加促進のためのサービスを充実する」と、地域での自立生活を支援するために、訓練プログラムの作成や障害当事者による相談活動の必要性があげられていた。これらは、地域で生活できるように支援すること、生活の質を高めること、社会参加を促進すること等を目的としており、まさに社会リハビリテーションの取り組みを意味しているのである。

さらに、「④施設サービスの再構築」における「ア.施設等から地域生活への移行の促進」の下位項目において、「障害者本人の意向を尊重し、入所(院)者の地域生活への移行を促進するため、地域での生活を念頭においた社会生活技能を高めるための援助技術の確立などを検討する」と記述し、社会リハビリテーションのプログラムに該当する「社会生活技能を高める」ための援助技術の確立等を検討するというように、「社会リハビリテーション」について重要な記述があった。

⑤障害者相談支援事業

1996年度(平成8年度)からの障害者プランにおいてその数値目標が設定され、概ね人口30万人を想定した障害保健福祉圏域に身体障害、知的障害、精神障害に対応する事業をそれぞれ2か所ずつ設置することが目標とされた障害者相談支援事業は、身体障害は「市町村障害者生活支援事業」、知的障害は「障害児(者)地域療育等支援事業」、精神障害は「精神障害者地域生活支援事業」という名称により、障害別に3つの事業があった。

これらの事業の一例として身体障害者を対象とする「市町村障害者生活支援事業」の内容をあげると、次のとおりであった。

  • ア ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイ等在宅福祉サービスの利用援助
    • サービス情報の提供、サービス利用の助言、介護相談、利用申請の援助、その他必要な保健福祉サービスの利用援助
  • イ 社会資源を活用するための支援
    • 授産施設・作業所の紹介、福祉機器の利用援助、情報機器の使用援助、料理、縫裁等の指導、代筆・代読等コミュニケーションの支援、外出の支援、移動の支援、住宅改修の助言、住宅の紹介、生活情報の提供(交通、ホテル、買物、映画、音楽等)
  • ウ 社会生活力を高めるための支援
    • 社会生活力を高めるために、社会リハビリテーションの各種プログラム等を実施する。
  • エ 当事者相談(ピアカウンセリング)
    • 障害者自身がカウンセラーとなって、実際に社会生活上必要とされる心構えや生活能力の習得に対する個別的援助・支援であり、ピアカウンセリングとは同じような問題、悩みを抱えている者に対しては、同じ立場にある者、同じような経験をした者が相談に当たることが効果的であるとの視点に立ったカウンセリングである。
  • オ 専門機関の紹介
    • 身体障害者更生相談所、職業安定所、医療機関・保健所等専門機関、他の障害の生活支援事業等の紹介

上記のような5つの必須事業項目は、地域における生活を支える相談支援事業の内容であり、これらは在宅サービスに関する相談や、地域生活をするための「社会生活力」を高めるための取り組みである。専任のソーシャルワーカー(コーディネーター)が1名置かれるとともに、必要に応じ、作業療法士、理学療法士、保健師等の専門職を雇いあげ、地域で生活する身体障害者、特に重度・重複障害のために地域での生活が困難とされてきた障害者に対し、自らサービスを選択し、主体的に生活できるよう、社会リハビリテーションの目的である「社会生活力」を高めるための訓練、指導、援助、支援を行うことを目的としていた。

市町村がこれらの事業の重要性を認識するとともに、これらの事業を具体的に実施可能とする必要があったが、「社会生活力」を高めるための相談支援のあり方や、「社会生活力」を高めるための具体的なプログラムが示され、それを促進するための研修会等が全国的に実施されなければならなかった。

以上のように、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法においても、「生活訓練」の必要性が指摘され、また、2つの「障害者プラン」においても地域生活を実現するために、障害のある方々の社会的な能力を高めるための「生活訓練」の重要性が指摘されてはいるが、具体的にどのように支援したらいいかについては、何も示されてこなかった。

(3)「障害者自立支援法」における自立訓練(生活訓練)事業

2006年(平成18年)に施行された「障害者自立支援法」は、障害者自立支援法において、訓練等給付の一つとして「自立訓練」が位置づけられた。

「障害者自立支援法」における自立支援給付の中に、①介護給付、②訓練等給付、③自立支援医療等、④補装具がある。②の訓練等給付の中に、自立訓練(機能訓練・生活訓練)、就労移行支援、共同生活援助などがある。

「自立訓練」は、「自立した日常生活を営むことを目的とした、身体機能や生活能力の向上のための有期な訓練など」と書かれているが、具体的な実施方法や内容については示されていない。利用者一人ひとりのニーズに対応する個別支援計画を立てて、さまざまな障害のある方一人ひとりの力を高めることにより、それぞれの自立度を高め、地域生活への移行を支援していくために、「自立訓練」は非常に重要であり、「自立訓練事業」はまさにリハビリテーションのサービスでなければならない。

わが国においては、「リハビリテーション」は、例えば、脳卒中者の機能訓練であるというように狭く理解されることが多く、本来の総合的なリハビリテーションが理解されていない。また、「社会リハビリテーション」は「障害者福祉」と同じであるというような誤解もある。しかし、「社会リハビリテーション」と「障害者福祉」は異なるものであり、社会リハビリテーションの主要目的は「社会生活力」を高める支援である。

ここで、わが国において誤解されがちである「社会リハビリテーション」「障害者福祉」「障害者施策」の3つの違いを整理すると、以下の通りである。

①社会リハビリテーション

社会リハビリテーションは、障害のある人が社会の中で活用できる諸サービスを自ら活用して社会参加し、自らの人生を主体的に生きていくための「社会生活力」を高めることをめざす援助技術の体系と方法である。社会生活力を身につけることが目的であるが、そのために、社会生活力を高めるための支援プログラムを実施するとともに、福祉サービスの活用支援、対象者と環境との調整、サービス問の調整等も行う。対象者の「社会生活力」を高める視点から支援することが重要である。

②障害者福祉

リハビリテーションの様々な分野の取り組みによって障害者の身体的、精神的、職業的、社会的な能力が高められるが、それでもなお残された活動制限と社会参加制約をカバーするための社会福祉の一分野としてのアプローチが「障害者福祉」であり、各種の福祉立法を基底に、障害者の様々なニーズを充足するための各種福祉サービス(医療、保健、補装具、日常生活用具、施設福祉、在宅福祉、所得保障など)を提供する制度・施策である。

③障害者施策

「障害者施策」は、行政上の概念から見れば障害者福祉より広い概念である。障害者福祉だけでは障害者の「完全参加と平等」を可能とする「機会均等」な社会を実現することはできない。障害者施策には、障害の原因の予防、リハビリテーションや、さらに「完全参加と平等」および「機会均等化」を実現するための一般市民による障害者への理解の促進、建築物・住宅・交通機関のバリアフリー化、コミュニケーション・情報保障、雇用の促進、就労の場の確保、教育の保障等が含まれる。すなわち「障害者施策」は、障害のある者の権利を保障する全省庁にわたる取り組みである。

以上のように、「社会リハビリテーション」は「障害者福祉」や「障害者施策」とは対象とする範囲、目的、活動内容に違いがある。障害者施策が最も大きな概念であり、わが国においては内閣府を中心とするあらゆる省庁等によって取り組まれている。一方、障害者福祉は厚生労働省を中心とした取り組みであり、障害の予防、医学的リハビリテーション、社会リハビリテーション、職業リハビリテーション、在宅福祉サービス、施設福祉サービス、所得保障などを対象とする。

従って、社会リハビリテーションは、リハビリテーションの中の一分野であるとともに、障害者福祉における一つの自立支援実践活動としての「社会生活力」を高めるための取り組みである。

現在の「障害者自立支援法」における「社会生活力」支援に関わる事業をまとめてみると、以下のとおりである。

「社会生活力」支援に関わる事業
(1)自立支援給付
  • 1)介護給付
  • 2)訓練等給付(自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助)
    [自立訓練]
    • ①機能訓練(身体障害者)
    • 生活訓練(知的障害者・精神障害者)
  • 3)自立支援医療
  • 4)補装具
(2)地域生活支援事業
  • 1)相談支援事業
    • ①福祉サービスの利用援助
    • ②社会資源を活用する支援
    • 社会生活力を高めるための支援
    • ④ピアカウンセリング
    • ⑤権利擁護のために必要な援助
    • ⑥専門機関の紹介
    • ⑦地域自立支援協議会の運営
  • 2)コミュニケーション支援事業
  • 3)日常生活用具給付事業
  • 4)移動支援事業
  • 5)地域活動支援センター機能強化事業
  • 6)福祉ホーム事業

本研究事業の課題である「自立訓練(生活訓練)事業」について、国から示されている内容は本報告書第1章にまとめられている通りであるが、知的障害、精神障害、発達障害のある方々を対象に効果的な自立訓練(生活訓練)事業を普及するためには、具体的な支援方法、支援プログラム、アセスメント方法、モニタリング方法などを明らかに示すとともに、これらを実践するための研修会の開催が必須であろう。