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第8章 自立訓練(生活訓練)事業のあり方

第5節 社会リハビリテーションの各種プログラム

(1)社会リハビリテーションのプログラム

社会リハビリテーションは社会福祉援助技術等を使って、障害者の社会生活力を高めるために、訓練、指導、援助、支援を実施する。社会リハビリテーションのプログラムは、障害者関係施設や地域において実施されることが期待され、プログラムは次のようなプロセスを通して実施される。このようなプロセスは、リハビリテーション計画を進めるときのプロセスやケアマネジメントのプロセスと共通している。

  • ア ニーズの把握
  • イ 事前評価(アセスメント)の実施
  • ウ 目標設定
  • エ プログラムの企画
  • オ 訓練・指導・援助・支援の実施
  • カ 事後評価

社会リハビリテーションのプログラムとして、わが国の総合リハビリテーションセンター等で実施されてきたプログラムの名称としては、以下のようなものがある。

[プログラムの具体的名称例]

  • a 生活訓練プログラム(TDL)
  • b 社会生活技術プログラム
  • c 社会適応訓練プログラム
  • d 生活技能訓練プログラム(SST)
  • e 社会生活力プログラム(SFA)など

また、身体障害者を主対象とする総合リハビリテーションセンターなどでは、従来から社会生活力を高める実践に取り組んでおり、具体的には以下のような機関で実施されてきた。(『実践から学ぶ「社会生活力」支援』、中央法規、2007)

[社会生活力プログラムの実践状況]

  • (1)神奈川県総合リハビリテーションセンター
  • (2)横浜市総合リハビリテーションセンター
  • (3)名古屋市総合リハビリテーションセンター
  • (4)兵庫県総合リハビリテーションセンター
  • (5)千葉県千葉リハビリテーションセンター
  • (6)中伊豆リハビリテーションセンター
  • (7)伊豆リハビリテーションセンター
  • (8)鳥取県厚生事業団の障害者諸施設
  • (9)横浜国立大学附属特別支援学校
  • (10)鳥取大学附属特別支援学校専攻科
  • (11)その他

従来からわが国において実施されている社会リハビリテーションのプログラムに相当すると思われる代表的なものを簡潔に紹介すると、以下のとおりである。

(2)視覚障害者のための生活訓練プログラム

視覚障害者の生活訓練は、視覚障害者の残存諸感覚を活用し、歩行、コミュニケーション技能、日常生活技術などの修得により、失明により喪失した機能を補償し、社会的自立をめざす訓練である。

生活訓練プログラムは、①基本的生活習慣、②個人生活、③家庭生活、④社会生活、⑤職業生活、の5つの生活の場面を想定して訓練プログラムを作成し、訓練を実施してきた。以下のような訓練内容は、中途失明者の生活上のニーズから作られている。

これらは、精神障害、知的障害、発達障害のある人のニーズを十分に捉えプログラム化する際に参考になるものである。

図表8-2 視覚に障害のある人の生活訓練プログラムの項目例
1 歩行 ①屋内歩行、②介護歩行、③白杖操作技能、④屋外歩行の導入、⑤住宅街の歩行、⑥商店街の歩行、⑦都市内の歩行
2 日常生活 技能訓練 (1)身辺管理
①食事、②トイレ、③衣服、④入浴、⑤衛生、⑥身だしなみ、⑦化粧、⑧金銭、⑨電話、⑩時計、⑪礼儀作法、⑫姿勢、⑬熱源操作
(2)家事管理
①清掃、②整理、③洗濯、④縫製、⑤調理、⑥買い物、⑦家計、⑧育児、⑨包装、⑩書類の整理と保管、⑪家庭用器具の使用法と手入れ、⑫器具の修理
3 弱視訓練 ①近見視訓練、②中間視訓練、③遠方視訓練
4 コミュニケーション訓練 ①点字、②ハンドライティング(手書き)、③ワープロ、④パソコン、⑤テープレコーダー、⑥ジェスチャー(身振り)、⑦話し方
5 レクリエーション スポーツ ①オーディオ機器、②ラジオ、③テレビ、④ドラマ、⑤テープライブラリー、⑥ゲーム、⑦野外活動、⑧音楽、⑨美術、⑩手工芸、⑪スポーツ、⑫趣味、⑬ダンス、⑭散歩
6 教養 ①視覚障害、②社会福祉制度、③時事問題、④家庭生活、⑤社会生活、⑥職業生活

(3)生活技能訓練(SST)

生活技能訓練(Social Skills Training, SST)は主に精神障害者を対象に実施されてきたが、「自立生活技能訓練」と「社会生活技能訓練」から構成される。自立生活技能訓練は食事、入浴、衣服、身だしなみ等の日常生活行動に関する訓練であり、社会生活技能訓練は、社会的ないし対人関係的な場面で求められる技能の獲得・維持を促進するための訓練といえる。

これらの訓練は、実際の日常生活の場を活用して実施することが効果的である。生活技能訓練実施上の特徴は、以下のとおりである。

  • ア 段階的に繰り返し訓練する。
  • イ 安心して訓練に参加できるように配慮する。
  • ウ 宿題を設定し、実際に応用できるようにする。
  • エ 対象者の長所、よい面を強調する「エンパワメント」の理念を大事にする。
  • オ ロールプレイ(実際に演じる)やモデリング(手本を実演する)などの方法を活用する。

生活技能訓練は行動療法に準拠し、行動上の問題を具体的に説明し、ロールプレイで練習し、適切な行動を演じられた場合にこれを十分にほめ(正のフィードバック)、不適切な場合は修正し(矯正的なフィードバック)、訓練の最後に実生活の場で実行する宿題を設定すること等が、基本訓練の流れとなっている。

なお、わが国では現在、SSTプログラムは精神障害者ばかりでなく、知的障害児や発達障害児を対象にも実施されている。

(4)その他のプログラム

その他、海外からわが国に紹介され、様々なプログラムが実施されている。知的障害や発達障害のある方を対象に「TEACCH」を活用している事業所もある。また、障害のある方の主体的な生き方を支援し、障害とともに充実した生き方を実現するためのプログラムとしては、主に精神障害のある方を対象とする素晴らしいプログラムとして「WRAP」などがある。これらのプログラムは海外から輸入されたものであるが、これらを活用していくことも効果的であろう。

①TEACCH

TEACCHとはアメリカのノースカロライナ大学のショプラー博士によって創案され、「自閉症及び関連するコミュニケーション障害の子どものための治療と教育(Treatment and Education of Austistic and related Communication Handicapped Children)」の略称であり、自閉症や発達障害をもつ子ども・成人等に対する生涯にわたる総合的な援助システムである。

自分を取り巻く環境の意味を捉えるのが苦手な人のために、環境を当事者にとって意味あるものに組み立て分けて、物理的構造化(場所と活動を一対一に整理することによって、ここは何をするところかを明確にする)と視覚的構造化(目で分かる情報を提供する)を行う。

行動の順番として、①自分はどこにいればよいのか、②何をすればよいのか、③どれだけの時間、どれだけのことをすればよいのか、④今起こっていることが、どの過程まで進んでいるのか、⑤それはいつ終わるのか、⑥次に何が起こるのか、などが分かるようにする。

着替えや入浴などセルフケアから、学習、作業、余暇活動などについて、教育的な援助をし、社会的な適応を高めることをめざし、本人の苦手な面を補うように環境を整える。具体的には以下のような取り組みをする。

  • ア コミュニケーション:カードや身振りで意思表示する方法を覚える。
  • イ 時間:スケジュールや時計の見方、所要時間を理解する。時間の感覚を身につける。
  • ウ 日常生活:着替え、トイレ、入浴など、セルフケアが一人でできるように練習する。
  • エ 学習・作業:将来の仕事に結びつくような作業を覚えたり、言葉や計算を学習する。
  • オ 余暇:自由時間を上手に過ごす。余暇活動の楽しみを見つける。
  • カ 社会性:場面に応じた行動を可能にする。外出先での不適応をなくすようにする。

②WRAP

WRAPはWellness RecoveIy Action Planの略称であり、アメリカのコープランド氏を中心に精神症状を経験した当事者によって考案されたプログラムである。「リカバリー」の概念に基づいており、「リカバリーとは精神障害を含む生活上の困難さを抱えている人自身が納得する生き方を実現する主観的なプロセスである」とされている。

WRAPの構成要素は次のとおりである。

  • ア リカバリーのキー概念
    • 希望、責任を持つこと、学ぶこと、自分のために権利擁護すること、サポートの5つのキー概念があり、いい医療を受けることと、服薬管理も重要視されている。
  • イ 元気に役立つ道具箱
    • 元気でいるために、気分が優れないときに元気になるために、これまでやってきたこと、又はできたかもしれないことをリストアップする。これらの内容を「道具(ツール)」として使って自分のWRAPをつくる。
  • ウ 元気回復行動プラン
    • 日常生活管理プラン、引き金に気づき対応するための行動プラン、調子が悪いときのサインに気づき対応するためのプラン、クライシスプラン、クライシスを脱したときのプランの6つのプランによって構成されている。
  • エ リカバリートピック
    • リカバリーに役立ちそうな事柄で、WRAPクラスで実施する内容は参加者の意見によって決められる。トピックとしては、自尊感情、肯定的な捉え方、ピアサポート、仕事、トラウマからの回復、自殺予防、生活空間、暮らし方、やる気を出すことなどである。

現在、精神障害のある当事者を中心に全国各地でWRAPクラスが開催されているが、精神障害のある方を対象としている自立訓練(生活訓練)事業所において、WRAPクラスが開催されるようになることを期待したい。

③ACT

ACTはAssertive Community Treatmentの略称であり、重い精神障害のある方々を対象とし、集中型・包括型のケアマネジメントのプログラムとして、アメリカにおいて開発されたアウトリーチ(訪問)型の地域生活支援プログラムである。

ACTは疾患や障害をもっていても、一人ひとりが希望する充実した生き方を地域社会でできるようになることを目標にしている。ACTの特徴は、①看護師、作業療法士、精神保健福祉士、精神科医などの多職種で構成されるチームアプローチである、②ケースマネジャーと利用者の対数比は1:10以下であること、③24時間対応で危機介入にも対応できる、④実際に生活している揚でのサービス、⑤柔軟な支援をする、⑥利用期限は定めない、などである。

このように、ACTは地域で生活している重い精神障害のある方を支援するために、医療サービス、リハビリテーション、生活支援、就労支援などの包括的なサービスを提供できる構造となっている。