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質疑応答

コーディネーター:藤井克徳(JDF幹事長・議長)

藤井:それではお待たせしました。これ以降、小一時間、今のブランク博士のお話を受けて、質疑応答といきましょう。実は最初に、今日JDFでは3名の指定発言者を準備したのですが、先ほど松井先生からありましたように、今日はリーズ大学の障害学の教授であるサイモン・プリドー先生がお見えになっています。4時半にはここを出ることもありますので、DDAとの比較も含めて最初に質問及びコメントをお願いしてあります。それではプリドー先生、よろしくお願いします。

プリドー:今回このような機会をいただきまして誠にありがとうございます。そしてブランク教授にはすばらしいレクチャーを感謝いたします。私の中では、ADAとADA改正法とDDA、それぞれがどういうふうに分かれているのか、どう特徴があるのかというのがまだちょっと混乱している状況です。
 私は先ほどのブランク教授の発言に心から共感いたします。ADAは社会モデルが前提と認められていること、とてもうれしく思います。ただやはり私が思うのは、アメリカで使われている言葉の幾つかはまだ従来の医学モデルを引きずっているものがあるかと思います。
 例えば、with disabilityという言葉ですが、責任が社会というより個人に投げかけられているような気がします。またretardationという言葉の使用法、これは遅延という意味ですが、これはイギリスの方ではちょっと屈辱的な、見下した意味合いが含まれているかと思います。イギリスにおきましてはdisabled peopleまたはpeople with mental health difficultiesという言い方を使います。
どういう言葉を選ぶかということはとても重要だと思います。といいますのは、どの言葉を使うかによって、偏見を生み出したりする可能性もありますので、そういった意味では正しい言葉を使いたいと思います。
 このADAがどのように機能しているかということについてはとてもわかりやすかったので、とても感謝したいと思います。けれども中には幾つか、白か黒かあまりはっきりしていない点もありましたので、それに関しまして3つ、ご質問させていただきたいと思います。
 一点目の質問は、これは世界各地でも取り上げられていることですけれども、例えば合理的な調整とか合理的な配慮、不当な困難、そうした言葉に関しましてそれはどこまで適用されるのか、どう解釈されるべきなのか。それが物理的な環境をさらによりよくアクセシブルにするためには、どのように考えていけばいいのかについてお聞かせください。

そして二点目の質問ですけれども、例えば「合理的」という言葉を、雇用主の方が逆手にするということはありませんでしょうか。例えばそれを使うことによって何か変更することに制限を加えたり、ここまででいいというふうに判断したり、あとは例えばADAでも触れられていますように、不当な困難、特に財政的な面に関してですけれども、そうしたことに当てはまるからやらずに済むということにはならないのでしょうか。

三点目としましては、施設をもっとアクセスよくするためには、経済的な利益が生まれるからだといった議論以外の、それ以上に何か発展させる必要があるのでしょうか。例えばそうすることによって、何かかしら財政的な支援がされることによって改善されていくとか、何かしら他の点も含めて、ありましたらお教えください。

藤井:それでは三点のご質問がありましたので、ブランク先生からお答えいただきましょう。

ブランク:とてもすばらしい質問をいただいたと思います。先生、ありがとうございます。
まず一点目の質問に対するお答えですけれども、これはとても興味深いものだと思います。このように他の言葉を使うにしましても、これに関してはやはり長期的にはすべての人のために、それこそユニバーサルになるためにということも目指すべきだと思います。

 二点目の質問ですが、おっしゃったことでそのとおりだと思いましたのは、例えば企業側が階段のところにスロープをつけたら、一応この問題に対処しているというふうにみなされるということ、それだけでいいのかということがあります。
 先ほど申し上げましたグローバル・ユニバーサルデザイン協会におきましては、こうした問題に関してもやはり取り組んでいます。
シラキュースにはとても大きなショッピングモール、日本の基準で考えるとそれほど大きくないのかもしれませんけれども、億万長者が所有しているショッピングモールがあります。彼は40店舗もこうしたショッピングモールを所有していますけれども、彼はシラキュースのモールを世界一大きいものにしたいと言っています。それがいいか悪いかは横に置いておきます。
 そこで彼はウォール街に行きまして何十億ドルにわたる融資を持ちかけにいきました。そこで彼はウォール街で、彼のプランの中で二つの重要な点について説明しました。
 一つは、持続可能で環境にやさしいということです。そのため今ではこのアメリカにおきましても最大規模のソーラーパネルを屋根に取り付けてあります。
 そして二点目としましては、彼も私たちとも関わっていますので、このモールはユニバーサルデザイン、すべての人のためのものだと言っています。
 彼はもちろん環境問題とか障害問題について意識のある人ですけれども、彼は当然ビジネスマンですので、これを経済的な観点から言っています。
彼はこの提案をすることによってウォール街に対して貸し付けの利息の利率を下げるようにと提案しました。なぜなら、彼のモールは持続可能ですし、また環境にもやさしく、そして多種多様な人を呼び込むことができるからだと言いました。
 彼の財政モデルが成功するためには、毎日そのモールに5万人が訪れなければなりません。
 とても興味深い点は、ここで初めてユニバーサルデザインにすることをどのように金銭的な価値をつけるか、評価するかということをやっているわけです。つまり、先ほどあなたがおっしゃいましたように、ただアクセスでスロープをつけるということだけではなく、ユニバーサルデザインにすることでどれだけ多くの人たちを呼び込んで経済効果があるかを計算しているのです。
 それはまさに、ADAやDDAでただ単にアクセシブルにすればいいとだけ書いたものに対して、それこそハンマーを振り落としたと言えるでしょう。 それこそ馬の前に砂糖やニンジンをぶら下げて、そちらの方に経済界が進むように、そういったことをなし遂げたというふうに思っています。

 それと先ほどおっしゃった言葉の問題もとても興味深く思っていました。ヨーロッパでも同じかもしれませんが、特にアメリカでは、people first language、人を中心に置く言語にフォーカスをしてまいりました。私が知っているほとんどの障害を持った人たちが心配していることというのは、言語そのものではあまりないわけです。もちろん言語というのは、言語自身がスティグマをもたらすという側面があるかと思いますけれども、それよりも、実際に権利をどのように高めるかということに実際的に興味を持っているわけです。
 先ほど私が申し上げたストーリーについてもコメントをしてくださいました。このストーリーというのは私が何千時間も費やした、実際に行った結果のストーリーなんですけれども、こういったことをお話ししてしまうと、一般的に考えられてしまうというような傾向もあるかもしれません。

 二番目の質問についてなのですが、アメリカにおきまして不当な困難ということを理由に、企業が勝訴した理由というのは一つもないと思います。その理由の一部としては、ほとんどの合理的な配慮というのは本当に安く済むわけです。
一つの理由といたしまして、雇用主と雇用される側の訴訟においては、ほとんどの場合問題となるのが、仕事の質についてです。または、職場での健康とか安全性にポイントが置かれます。
 非常に有名なエコノミスト、ウォルター・オルソンという一般的な大衆を対象にしたような本を書く人なんですけれど、彼が書いた本に、ADAが企業を破産に追い込むという内容の本があります。彼の本を読んでみますと、数ある中で一つだけ、もしかしたらそういった可能性があると思われるケースはありましたけれど、他の場合にはほとんどそういった訴訟が企業を破綻にまで追い込むということはあり得ないと思いました。

 三番目の質問についてです。最近アイルランドにまいりまして、非常に著名な教授、ジェラルド・クイン氏とお話をしました。非常に興味深い内容をお話ししてくださったんですけれども、それはイギリスやアイルランドでの予測できる合理的配慮という観点でした。 アメリカで本当に適用できるかどうかはわかりませんけれど、ここでの論点というのは、会社側で合理的な配慮の必要がありそうだということはわかっているべきだということです。
 そして先ほどの質問を延長させまして、配慮を行うための資金ですね、例えば政府がそういった資金のプールを持つべきかどうかということだと思います。 数年前に実はビル・ゲイツ氏に提案したことがあります。ビル・ゲイツ氏に10億ドルをそういった配慮に対するプールとして資金をいただければ、何年間も多くの会社が助かるんだというお話をしました。
 まだ回答待ちの状態です。この1年間で多分彼の資金も何十億ドルも減ってしまったと思うので答えもしづらくなっているのかもしれません。 そしてもっとまじめなお話をしますと、専門的な分野で見てみますと、幾つかの国、日本やドイツ、オーストリア、フランスでは、法定雇用率という方式をとっています。そういった配慮をしない企業からある一定の額を徴収して、雇用サポートに回すということなんですが、アメリカはそのような方向には向かって行かないと思います。
 もしかして間違っているかもしれません。間違っていたら修正していただきたいんですけれど、スペインでは宝くじを使ってその資金を障害者の支援に充てているということを聞きました。
 アメリカでは、減税措置というのがあります。こういった配慮をすることによって減税対象になるということがありますので、他の国で行われていることも含めてもっと積極的な対応をこれから考えていけるかと思います。
 アメリカに帰りましたら、もうアメリカでは1兆ドルを超える赤字を抱えていますので、そこにあと10億ドルの赤字を追加してくれませんかって、オバマ大統領に頼みたいと思っています。
どうも質問していただきましてありがとうございます。

藤井:それではプリドー先生のお話はこれで終わらせていただきます。少なくとも3人の障害分野のリーダーの方々から質問をしたいということで届け出があります。質問は誠に申し訳ないんですが、少し端的に持っていただいて、またブランク先生に少し短い時間でお答えいただくように努力をしていただくと。これも全体的な合理的配慮なのかわかりませんけれども、お考えいただきたいと思います。では全日本ろうあ連盟の松本正志さんから、まずはお話をお願いいたします。

松本:全日本ろうあ連盟の理事の松本と申します。二つ質問したいんですが、時間を手短にと言われましたので減らしますが、聴覚障害者の労働問題ですが、先生のお話の中で解雇の関係で、合理的配慮のことがありましたけれども、聴覚障害者の労働問題の場合、どちらかというと解雇という話はないんですが、入る過程の中にも問題がありますけれども、就労後、職場定着の問題で、辞める方が多いんです。それは聴覚障害者に対しての合理的配慮が足りないためにいろいろな問題が起きて、自分から辞めていくというケースがたくさんあります。アメリカの場合はその辺がどうなっているかを知りたいです。

ブランク:非常にいい質問だと思います。先ほどおっしゃっていた、停職率の問題というだけではなくて、昇進とか昇給といった問題も職場ではあります。 一つケースをご紹介したいと思います。社会保険の業務に関わることです。
 この問題ですが、社会保険庁で雇用されている人たちというのが何人も辞めていっているのです。そういったケースを何百名の人から聞いたんですけれど、それは合理的な配慮がされていないからという理由だったり、十分に昇進ができないという理由で辞めていっています。
 もっと長い話を聞きたいということでしたら、ぜひEメールでも送っていただければ、非常に長いお答えをさせていただきたいと思います。
 定着率とか停職率とか昇進について具体的に調査された多くの資料というのはないのですね、実は。先ほどの「インダストリアル・リレーション」というジャーナルに対して発表した大型の調査というのは、本当に限られた調査の一つでした。
 私が行った調査の報告というのはすべて無料でアクセシブルなんですけれども、英語でしかありませんが、入手可能ですのでどうぞよろしければお受け取りください。

藤井:では二番手の日本人の発言者ですけれども、太田修平さん。日本障害者協議会の企画委員長です。太田さん、よろしくどうぞ。

太田:こんにちは。日本障害者協議会、JDFでは差別禁止法を進めるための委員会の委員長をしている太田修平と言います。先ほどの話、とても確信にあふれ、とても心満たされる、非常にありがとうございました。日本においても差別禁止法を絶対に作るという決意を持っています。合理的な配慮と障害の定義ということが言われていたと思いました。それで合理的配慮を会社がすることによって会社は損をすることはない、会社はかえってスムーズにいくというような話はありました。果たして本当にそうなんでしょうか。やはり合理的配慮にはそれなりのコストが必要だと考えます。
実は私もアメリカに行って障害者たちに会いましたが、成功している障害者と、成功していない不遇の障害者の2つの障害者がいたと感じました。私は、障害者の権利は人間の生命の尊厳のためにあるのであって、成功している障害者を養護するものであってはならないと私は思います。以上、2点です。

ブランク:とてもいいご質問といい点を指摘してくださいました。ありがとうございます。
 それでは後の方に述べられました、成功している障害者と成功していない障害者ということについてですけれども。それはとても重要な観察だと思いますのは、歴史的に見ても、例えば何か受けるにふさわしい障害者とふさわしくない障害者というような議論が常にされてきました。
そして私、幾つかの事例を調査しましたけれども、そうした中でとても貧しい障害を持つ方々にも会ったことがあります。それはコネチカット州に住む方だったんですけれども、何かしらの理由で福祉の給付金を受けなかったか、もしくはアクセシブルではなかったかということがありました。 そしてまたその他にも、例えば施設の解体だとか、作業所から出ていくということ、そうしたことにも関わったことがあります。 もう一つここで申し上げたいのは、雇用に関して私が見た幾つかの事例ですけれども、同様の問題を抱える数多くの人々の代表例として申し上げたのではないということです。
 それに関して、ちょっと時間が許せば先月起こった二つのことについてお話しさせていただきたいと思います。
 一つはロシアの人で、その方は重い障害を持ってアメリカで暮らしています。彼はアメリカにおきまして政治的亡命申請をしていました。それはなぜかというと、今の状況でロシアに戻ったら、十分な設備や施設がないから自分は死んでしまうという理由でした。そこで一つの大きな問題となりましたのが、私たちの政治的亡命に関する政策の中に障害という項目を入れるべきかどうかという問題が生じました。
 二つ目のケースとしましては、筋ジストロフィーの9歳の少女に関することです。バス会社はそうしたときに、彼女がバスに間に合うように、そして学校が終わってもまたバスに乗って帰ってこれるように、そのためにスケジュールを調整するのを拒みました。そして実際にこのバスのドライバーは、とても急いでいる状況だったので、その女の子が時間が欲しいから待ってくれと言ったときに、そのドライバーは女の子に、「下着をつけたままおもらしすればいいじゃないか」というようなことを言いました。
 先ほど私が言った例、例えばチャッキーチーズにもう何十年も働いていたとか、そういったことばかりではなく、日々、こうした場において人々は差別的な態度に直面しているわけです。ですから今、太田さんからご指摘された点というのは、やはり常に忘れてはいけないものだと思います。
合理的配慮に関しましてですが、それはそれだけで単独のセミナーを行えるんじゃないかと思っています。そして日本の、また世界の将来のためにも、日本の方が、私たちがやったことよりよりよい成果を出せるのではないかと思います。
 ですので、できれば日本におきまして配慮をするためのコストに対する調査・研究をされましたら、ぜひそれを拝見させていただいて、アメリカと比較してみたいと思っています。
 次に私が訪問したときには、その点に関してもっと議論できる時間があればと思っています。ありがとうございます。

藤井:太田さんも懸命にお話をしたので、少しあえて突っ込むんだけれども、合理的な配慮は結果的に企業も得をするとおっしゃった。しかし正直に言うとこれはお金がかかるんじゃないか。正直な答えは、お金がかかるんだということを前提にした方がいいのでは。もちろん今後、統計上のことは検討してみるんだけれども、とりあえず理念的にぼやっと得をするのではなくて、金はかかるんですということを、むしろ明言できるのでは。この辺のブランク先生の見解、もう一言いかがでしょうか?

ブランク:非常にいい質問で、何ページも使って答えをするんですけど、簡単に答えたいと思います。
 政治的、社会的態度のレベルで、私たちがしようとしているのは、人々の意識を変えるということなんです。こういった合理的配慮と言うとすぐにコストのことを考えるということを変えようと思っています。
 そして、経済的なお話をしますと、専門家がこの中にいらっしゃるかもしれませんけれど、私たちが見ている観点というのは、こういった利益の中のというか、ベネフィットの中の間接費と直接費のところです。ということですべてネット化すると、純利益はある筋は出てくるわけです。
 私たちの複数の調査結果でわかったんですけれど、雇用主の方はどうも直接費の方を提示してくる可能性がある。経済的に言えば固定費という部分ですね。
そしてあまり報告されないのが間接費の部分です。例えば従業員の研修費といったようなものです。そしてまた、直接的な利益、例えば生産性の向上といった部分もあまりレポートされません。
 そして間接的な利益、例えば事故の予防措置をとることによっていろいろな職場での事故が減ったというようなことです。ここで例を挙げて、短い例を挙げてもよろしいでしょうか。簡単に申し上げたいと思います。
 ウォルマートの社長とご一緒したことがあります。ウォルマートは世界中で展開をしていまして、従業員の数は120万人です。そして離職する人たちの数というのは毎年30万人です。これは算数の試験です。1人離職するにつけ、そして新しく誰かを採用する際に2,000ドル以上がかかるということです。もしちゃんと計算できれば、大きな損失であるということがわかりますよね。
 そして今はウォルマートの会長になってらっしゃるマイケル・デュークさんとお会いしまして、デュークさんが私におっしゃっていたのは、離職率を10%減らすことができたら、合理的な配慮をして、それがローコストだと示すことができて、10%離職率を下げられたら、何ドルくらいが削減できるか。
 こういった全体像を見られるようなお話をさせていただきました。こういった方法で私は企業のトップに話しております。大きな全体像を見せる。そして配慮に対して柔軟性を持たせることによって、障害者の助けにもなるし、プラス、障害者ではない人たちの利益にもなるということをお話ししています。これで短いストーリーは終わりです。

藤井:こういうチャンスはめったにないのでね。十数分ばかり延長させてください。ではお待たせしました。日本DPI会議の事務局長の尾上さん、どうぞお願いします。

尾上:とてもすばらしいお話をいただき、ありがとうございました。JDFの中では権利条約の小委員会を担当しております。DPI日本会議の尾上と申します。
 お話をお聞きしまして、ジャスティン・ダートさんのことや、あと1988年に日本にジャスティン・ダートやジュディ・ヒューマン、あるいはマイケル・ウィンターといった人たちが日本に来て、一緒にデモをしたり交通機関に乗り込んだりしたことを思い出していました。そのときに初めてアメリカでADAのような法律を作ろうとしているんだということを、障害者運動のリーダーから聞いたのが、私たち日本の障害者にとって一番の情報だったかなと思っています。
 それから20年近くたつ中で、まだ残念ながら日本では障害者差別禁止法が日の目を見ていないわけなんです。でも、私たち、その障害者権利条約を日本で批准をさせていくということで、今こそ日本で障害者差別禁止法を制定しなければならない。あるいは制定につながるようなことがなければ、何のための権利条約の批准なのかという認識で今、取り組んでいます。
 その中で、特に障害者差別禁止法の議論を日本で作っていくというときに、議論の論点になるものが幾つかあるわけですが、特に三点。一つは今日の話にあった障害の定義の問題。社会モデルに基づく障害の定義というのを日本でどういうふうに入れ込んでいくのかという問題です。そして二つ目は、合理的配慮の問題も含めた障害に基づく差別とは何かという議論。そしてもう一つは救済機関についてです。
 こういったことが議論になっていて、実はこの三つについてそれぞれお聞きしたい点を考えていたんですけれども、時間が過ぎていますので、むしろまとめる形で、私たちADAにインパクトを受ける形で日本でも差別禁止法を作りたいと思いながら、これから作っていく。そういう日本の状況を前にして、いわば今日集まっている私たちに対して、教授の方から、私たちをエンパワメントしていただけるような激励のメッセージをいただければということに絞りたいと思います。

ブランク:皆さんよくご存じのように、前大統領のもとでは権利条約の批准ということに関して抵抗がありました。オバマ大統領は、アメリカを代表して国連障害者の権利条約には調印をするというふうにおっしゃってくださっています。そしてこの約束を守ってくれるというふうに信じています。また、オバマ大統領はその他にも、障害者権利の分野で非常に前向きに取り組んでくださるという傾向があります。
 松井先生やここにいらっしゃる皆さんの多くは、日本における障害者基本法をよくご存じだと思います。私としましては、それが政治的にどのように改正されなければいけないかというほど、それに関してはよくわかっておりませんし、そのこととADAが制定されたことについて関連してお話しすることもできません。
ただ私が言えるのは、ADAもADA改正法もどちらも政治的な妥協案であったということです。この配慮に関しまして、障害者団体との歩み寄りの点は次のことでした。
 まず、障害があるとみなされる人々であるということ。これはやはり態度と差別というものを含めたものですので、これはADAの中でも大きなことだと思います。
 けれどもADA改正法の中では、障害があるとみなされる人に対して配慮を提供しなければいけないということを、この法律では要求されていません。
 私は今ここでこれを言いますのは、アメリカでも合理的配慮のコンセプトというのはまだ変化しつつあるからです。
ですので皆さんにおきましては、私たちがしたように、定義にまつわる長い戦いというのをしていただきたくないと思います。そうではなく、今された質問に直接的に入っていくようなことをしていただきたいと思います。
 興味深いことに、法律とか規制というのは、うまく整合性がつかないというようなときもあります。
 例えばADAが制定されたときに、誰もその後15年間、私たちは障害の定義について争わなければいけないとは思っていませんでした。
ご質問に十分答えられたかどうかわかりませんけれども、私がここで申し上げたいのは、政治的、政策的、そして権利擁護的な観点から、私たちがした誤ったやり方を繰り返さないでほしいということを申し上げたいと思います。
 なぜさらにこんなに複雑かと言いますと、裁判所とか判事、裁判官は私たちがこのように意図して作った法律とはまた違う解釈を裁判の段階でするから。だから余計に複雑になってきてしまうのです。

藤井:できれば女性の方で、一言誰かご発言をいかがでしょうか。いかがでしょうか? 男性で手が挙がった。女性はいませんか? では、順番にマイクを回しますので、端的に一言ずつお願いします。

会場:ネパールから来て東京大学で研究をしています。
 質問の一点目としましては、例えば先ほどは中途で解雇された人について出てきましたけれども、就職を探していて働きたいと申請したけれども配慮ができないからということで採用が断られるとか、そういった場合はどうなんでしょうか?
 また二点目としましては、例えば正規雇用ではない人たち、例えばパートタイムとかそういった人たちは、従業員としてみなされないのではないでしょうか。そうしたことについてはどうでしょう。
 三点目は、1999年の勤労奨励促進法(Ticket To Work Incentives Improvement Act : TWWIIA)に関してですけれども、それはやはりADAの一部のことだったんでしょうか。違いは何でしょうか?

ブランク:それではまず一点目です。ちょうど私、新幹線の中でまさに新規雇用に関する読んでいました。もちろん解雇というのは本当に氷山の一角です。実際、新規雇用における差別というものがもっと多く、それを明らかにするのは難しいものです。また、人種差別や女性差別に関しましては政府から、おとりといいましょうか、テスターを差し向けまして、実際本当にそういう場で差別が行われていないかどうかを確認するということがされています。ですので障害者差別でもそのような調査がされることを期待しています。
 二点目です。実際、確かに障害のある人たちがパートとか非正規雇用で働いている場合が多いです。これはある問題が原因だと思います。それは、インカムクリフ(income cliff)と呼ばれているものです。例えばある一定金額以上の収入を得た場合には、政府からの給付金補助が得られないということです。これはやはり障害のある人たちが仕事に就こうとしない一番の理由になっていると思われています。
 三点目です。就労チケットということですけれども、これはとてもいい例だと思います。それはまさに障害のある人たちが政府からの給付金を得ながら、さらに収入を拡大しようとするための法律です。そこで文字通りチケットが提供されます。
 例えば、作業療法や理学療法とかさまざまなサービスを購入できるわけです、そのチケットを使って。そこで得られるサービスに関してはとても大きな選択肢があります。そうすることによって社会へのインクルージョンを促進するということが狙いとなっています。
けれども現在ではこのチケットプログラムの成果というものは、結構混乱しています。実際に本当に就業率を増加させる影響があったかどうかというのは明らかではありません。

藤井:では次の方、どうぞ。

会場:弁護士をしておりまして、全盲の視覚障害者です。アメリカのADA法ができる前は、差別禁止ですとか合理的配慮の義務づけは裁判規範性はなかったんでしょうか? 法律ができて裁判規範という意味ではどう変わったのでしょうか?

ブランク:非常にいい質問だと思います。
 短くお答えしたいと思います。ADAが制定される前は州ごとに差別禁止法がありました。ただ、パッチワークのように整合性がとられていなくて、州によっては非常に厳しいルールがあったり、そうでないところもありました。そして連邦レベルでの法律もパッチワークで、1973年に制定されたリハビリテーション法というものでした。この法律も非常に限定的でした。連邦政府の請負業者が対象だったわけです。
 興味深いことに、ADAで使われている障害の定義は、リハビリテーション法から来ています。他の法律についてもまだいろいろとお話ができるんですけれども、ここで申し上げたいのは、いろいろな法律を一挙にまとめたものがADAです。
 ADAよりも非常に強い保護機能があるという州法もあります。カリフォルニアがそのいい例です。ということで、先ほどからお話しするときにはカリフォルニアのケースを州法としては多く取り上げておりますし、連邦法としては他の分野で取り上げております。ありがとうございました。

藤井:はい、それでは次の方にまいります。どうぞ。

会場:雇用の問題が中心になりましたけれども、それはADAだからしようがないのかもしれませんけれども、国際権利条約を考えたときには教育条項にもリーズナブル・アコモデーションというのが出てくるわけですよね。そういう意味で今日いろんな雇用の問題だけでなく、少し広げるという意味で、教育といったときに、リーズナブル・アコモデーションというものがどう考えられているのか、少しコメントをいただきたい。

ブランク:Individuals with Disabilities Education Act (IDEA)と呼ばれる法律がADAとは別にあります。もちろんこの話題だけで一つのコースが作れるくらいなんですけれど、ここでは非常に重要な教育面での保護法があります。
 今日はADAの中の第2章についてはほとんどお話ができませんでした。エルシー対オームステッド裁決と呼ばれるものがあります。ここでは、私が取り上げる本の中でも非常に重要視されているんですけれど、今日はお話しできませんでした。
 この最高裁の判決は、ADAのもと、障害者は最もインテグレーションの進んだ環境の中で住まなくてはいけないという判断でした。
いろいろな限定要因もあります。その裁判はアトランタのジョージアの2人の女性が、知的障害と他の障害を抱えながらも、地域で暮らせるだろうとみなされていました。しかしながら施設の中で住んでいました。ここで裁判所の判決ですけれど、不必要な施設での生活は、ADAのインテグレーションに反するということでした。

 国連権利条約の中でも同じようなケースがあります。ヨーロッパのルーマニアの子どものケースというのが国連の権利条約の中でうたわれているのをご存じかと思います。ルーマニアでは知的障害を持った子どもたちというのは、隔離されたところの学校に送られるというのが一般的です。そしてヨーロッパの裁判所で、これが差別なのかどうかという判決が迫られました。もちろんもう少し詳細に見ていかなくてはいけないんですけれど、欧州法廷で裁定した内容というのは、これはあくまでも隔離であって差別ではない、他の子どもたちと同じような平等な立場での隔離であるということでした。
 こういったこともありますので、国連障害者の権利条約は、日常の住宅や教育にまでもインテグレーションを広げる必要があります。ありがとうございました。

会場:ろうあ者です。一流の会社、3万人か4万人が働いている会社で、聴覚障害者がわかるように帽子で識別をするということがあります。一般の場合は紺色の帽子をかぶり、専門の分野、例えば検査の場合は赤、他に機械を直す専門の場合は黄色、聴覚障害者だけは緑色の帽子をかぶる。会社ができてもう60年ほど経っていますけれども、自動車の部品を作る会社です。その帽子で識別するというのを制定したのはもう30年前のことです。私が会社に入る前からそのことは決まっていました。それに対して差別に当たるかどうか。
 私の考えとしては、帽子の色で分けるというのはいろいろな差別の問題が逆に起きている。会社からは、聞こえない人たちは、危険を避けるためろう者だとわかるように色を分けてあるというような考え方を示されました。でも、他の差別とかいじめとかという問題がそれによって起きています。例えば聞こえないということをわかっていて、聞こえる人がイライラしたときに、大きな声で罵声を飛ばす。でも聞こえない人はわからないから、聞こえない人に向かって大声を出してすっきりするというようなことがあるとか、聴覚障害者の場合は弱い立場で、はっきり言い返せない。ろう学校は口話教育等いろいろな関係があって、考える力が弱い方もたくさんいらっしゃるために反論できない。そういうことがあって、いじめの相手にろうあ者がなる。
 私が入社した頃、帽子のそういう決まりがあるのを初めて知って、心理的な負担があり、非常に気持ちがよくなかったんです。そして、働いているうちにいじめを受けるようになりました。私だけでなく他の聴覚障害者もたくさんいじめられて鬱病がたくさん発生しています。そのために会社を辞めたりとか、我慢してやっているとか、いろいろなケースがあります。そのことについて、会社の中の被害を受けてみないとわからない、心理的な面というのは、皆さんがわからないと思うんです。 こういう聴覚障害者の立場になった場合、どう思われますか? もし先生が聴覚障害者でこういう立場になったらどう思われますか?

ブランク:どうもありがとうございます。今おっしゃったことは、まさに私が言ったような、ネガティブなマイナスな会社の文化とか態度を象徴しているものと思います。HIVを持っている人に対してスカーレットの文字入っているものを身につけさせているのでしょうか。アメリカにおきましては雇用主の方は、おっしゃられたように安全性を盾に弁解します。けれどもそれは本当にそうなのか、本当に必要なのかということは証明されなければなりません。けれども、それを本当に証明するのはとても難しいことです。
 今のが私の短い答えなんですけれども、やはり大きな驚きと悲しみがあります。
時間がありませんので、もしご希望であれば、よろしければこの件に関しまして、Eメールでもっといろいろ状況を教えていただきましたら、それに対してどうしたらいいかを考えていけるかもしれません。
 また、先ほどご質問してくださったとてもすばらしい弁護士がこの室内におりますので、この件に関しまして私と共同で弁護をしてくれるかもしれません。これは私が今までに聞いたことのないケースでしたので、本当にもっと知りたいと思っていますので、本当にぜひ教えてください。 今、この時代におきましてそういった態度がまだ残っているというのは本当に驚きだと思います。

藤井:よろしいですか? 英語だけれどもメールでというお話もありました。ろうあ唖連盟もぜひサポートして、よろしくお願いします。
 それではこれで終わりますけれども、非常にグッドタイミングでブランク先生を招請でき、お話しいただきました。ADAが先行し、DDAが先行して、今ようやく権利条約の追い風を受けながら、この国はちょうど周回遅れのように、この国で差別禁止法を打ち立てようとしています。その前哨戦として障害者基本法を変えましょうということに今、なっています。大変多くの示唆を受けました。「学んで動かざるをいよいよ危うし」。勉強して動かなかったら危ういということになってきます。今日得たことを私たちはJDFを中心としてどう行動に移すか。真似っこ、模倣というのは決して悪いとは思っていません。いいものというのはどんどん真似をする。ただ、この国にふさわしい一味加える、二味加える。模倣は創造の第一歩ということわざもあります。ぜひこんなことを真似していきたい。今日のお話の中で、障害の定義、合理的配慮、そしてもう一つの政策と意識の関係という点なんかも今日は言われたようです。私は太田先生も言われたけれども、この障害問題というのはようやく人類が振り向いた、今、大きな時期ですよね。もしかしたらこの中に企業文化の変革や世直しのヒントがいっぱいあるんだけれども、なかなか証明できない。これは私たちも力で、やっぱりアメリカでも証明してほしいし。なるほどADAかうまくいったらこんなに得をするんだ、その証明が難しい。これを経済学者も含めて頑張っていきたい。

 ブランク先生、通訳のお二人、フロアから非常に適切なお話をいただいた方々、要約筆記の方々、みんなで拍手をし合って今日の場を閉じましょう。
どうもありがとうございました。